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真田十勇士

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巻ノ百十四 島津忠恒その一

           巻ノ百十四  島津忠恒
 幸村主従は熊本城から今度は薩摩に向かっていた。この時十勇士達は幸村に問うことがあた。
「今の島津家ですが」
「どうもかつてとは違っているそうですな」
「加藤殿が言われていましたし」
「我等も天下のことを調べて聞いておりました」
「うむ、拙者もじゃ」
 幸村も応える、一行は一路真田の忍道を通りつつ薩摩を目指している。
「島津家のことはな」
「もう四兄弟の頃ではなく」
「代替わりしてですな」
「今の島津公けが治めている」
「そうなっておられますな」
「随分と色々あったらしいな」
 今の主である忠恒が万全に治める様になるまで、というのだ。
「実の叔父上や父君とも争われ」
「そうしてとのことですな」
「今の地位を固められた」
「それが今の島津家」
「そう言われていますな」
「うむ」
 その通りだとだ、幸村はまた答えた。
「拙者達が赴いた時とは違う」
「ですな、ではです」
「今からその薩摩に入りです」
「そして今の島津家の主殿と御会いしましょう」
「是非」
「そうしようぞ」
 こう話してだ、一行は島津家の領地である薩摩に入った。幸村は薩摩に入ると十勇士達にあらためて言った。
「さて、薩摩じゃが」
「はい、迂闊なことをすれば」
「怪しまれますな」
「些細なことで」
「それこそ喋り方一つで」
「我等は何度か入っておるが」
 関ケ原の後も天下の動静を探る中でだ、そうしてきたのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「油断はならぬ」
「それは決してですな」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「我等の目的は文を届けること」
「今の島津公に」
「それが為にですな」
「迂闊なことは注意し」
「怪しまれぬ様にして」
「そうしてですな」
「先に進んでいきましょうぞ」
 十勇士達も頷く、そうして薩摩を進むが彼等の見事な変装と薩摩の言葉によって。
 誰も彼等を怪しまなかった、主に忍道を通っていたからでもあるがそれと共に夜に多く歩いていたにも功を奏した。
 それでだ、島津家の城である鹿児島城またの名を鶴丸城が見える場所まで来た。
 そしてその城を見てだ、十勇士達はこんなことを言った。
「いや、何度観てもです」
「天守がなく然程大きくなく」
「目立たぬ城ですな」
「どうにも」
「うむ、小さな城じゃ」
 実にとだ、幸村も言う。
「七十何万石の城としてはな」
「全くですな」
「いや、どうにも」
「見れば見る程小さい」
「大坂や江戸の城とは比べものになりませぬ」
「安土や小田原とも」
 そうした巨大な城達と比べれば驚く程小さいというのだ。
「いや、実に」
「小さくです」
「驚く程です」
「最初に観た時はまことかと思いました」
「あれが七十七万石の城かと」
「まことに」
「武田家を思い出すのう」
 幸村はまだ元服するかしないかの幼い頃も思い出した、その時に仕えていた真田家のことを。
「武田家は大きな城を持っていなかった」
「はい、城は築かれていましたが」
「それでもですな」
「本城はなく館で」
「実に小さき場所だったとか」
「そうであった、人は城であり石垣であり堀でな」
 国にいる者達こそがというのだ。 
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