虎と鯉のクリスマス
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第二章
「毎年何かやってるし阪神の勝負の試合でもね」
「試合前には儀式やってるのよね」
「勝利祈願で」
「甲子園で応援する時も」
「もう生粋の虎キチだから」
呆れつつも認めて言う千佳だった。
「ある意味凄いわ、それで毎年ね」
「元旦は西宮ね」
「そっちに参拝するのね」
「それで千佳ちゃんは厳島」
「そっちに行くのね」
「そうよ、来年こそはよ」
その目を燃え上がらせてだ、千佳はクラスメイト達に語った。
「カープ日本一よ」
「去年はシリーズで負けたしね」
「今年はクライマックスでだったし」
「来年こそはっていうのね」
「そうよ、皆は阪神ファンだから悪いけれど」
神戸在住なのでまさに周りは阪神ファンばかりだ、そうした意味では寿の方が主流である。ただその熱意が異常の域に達しているだけで。
「来年もやってやるわよ」
「まあ応援はしてあげるわ」
「その熱意はね」
「巨人じゃないしね」
「来年またいい勝負しようね」
友人達は今から意気込みを見せる千佳に暖かい笑顔を向けて応えた、千佳もそんな彼女達に笑顔で応える。
だが家ではだ、十二月に入ってすぐにクリスマスツリーを飾る根室家の習慣通りにツリーを出しt絵飾る中でだ。千佳は一緒にツリーに飾りものを付ける兄を睨んでいた。
そのうえでだ、こう兄に言ったのだった。
「ねえ、ちょっといい?」
「ちょっとって何だよ」
「タイガースのエンブレムだけれど」
兄が飾ろうとしていたそれについての言葉だった。
「今年はカープが優勝したから」
「一番上に飾るなっていうんだな」
「お星様のすぐ下にはね」
ツリーの一番上にあるそれにだ、見ればツリーは一メートル半はある大きなもので千佳は台まで出して飾っている。寿は一七〇あるので平気だ。もうツリーには実に様々なものが飾られて奇麗になっている。
「飾らないでね」
「仕方ないな、こっちは二位だしな」
「こっちは優勝したから」
「そうしろよ」
兄は妹にこう返した。
「千佳の好きにな」
「それじゃあね」
「来年はこっちが飾るんだからな」
星のすぐ下にというのだ。
「楽しみにしてろよ」
「来年もうちが優勝するから」
「どうだか、阪神だって負けてないからな」
「そう言って毎年うちには負け越してるじゃない」
「来年こそはなんだよ」
兄も負けていない、妹に面と向かって反論する。
「阪神が優勝するからな」
「カープを破ってっていうの」
「何といっても巨人をな」
このチームのことも忘れていなかった、球界いや全日本をその悪徳で蝕む邪悪を極めている球団のことを。
「叩きのめしてな」
「それはこっちもやるわよ」
「来年は巨人に二十勝してやる」
「こっちもよ、負けないから」
ムキになって言い合う二人だった。
「二十一勝してやるわよ、巨人には」
「じゃあこっちは二十二勝だ」
「そこまで勝てたらいいわね」
「ああ、勝ってやるからな」
「それで優勝っていうのね」
「カープにも勝ち越してな」
「だからそれは毎年駄目じゃない」
阪神は広島に負け越し続けているというのだ。
「巨人に勝ててる年でも」
「それはたまたまなんだよ」
「たまたま毎年負け越してるっていうの」
「それは来年から変わるからな」
「どうだか、その来年も叩きのめしてあげるからね」
「それは僕の台詞だからな」
兄妹で言い合いつつツリーを飾っていく、寿はタイガースのエンブレムは千佳が飾ったカープのそれのすぐ下に置いた。
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