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砂かけ婆

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第四章

「あれっ、和君服と頭に砂ついてるよ」
「ちょっとかけられたんだよ」
「妖怪に?」
「ああ、知ってるんだ」
「大学に出るって聞いたから」
 その八条大学にだ。
「砂かけ婆よね」
「かけられて早く帰れって言われたんだよ」
「最近また帰るの遅かったしね」 
 このことはむすっとした顔になって言った綾奈だった。
「だからよね」
「そうだろうな、けれどな」
「うん、今日は早く帰って来てくれたのね」
「これからもそうするよ、それにな」
「それに?」
「いや、家に帰ったら」
 中に入った瞬間に感じたことだ、妻の出迎えも受けて。
「やっぱりいいな、あったかいよ」
「うふふそうでしょ、やっぱりお家っていいわよね」
 綾奈は和の服や頭の砂を払いながら彼にこうも言った。
「あったかくて落ち着いて」
「だよな、じゃあやっぱりな」
「お仕事が終わったらお家に帰ってね」
「ゆっくりするのがいいよな」
「そうよね、御飯出来てるわよ」
「今日のおかずは何かな」
「お魚を焼いたの」
 このこともにこりとして言った綾奈だった。90
「鰯ね」
「ああ、鰯か」
「鰯とあとお野菜を炒めたから」
「その二つか」
「その二つを食べてね」
 そのうえでというのだ。
「デザートは桃よ」
「桃か、いいよな」
「和君好きだし安かったから買ってきたの」
「じゃあ桃まで食ってな」
「お風呂も入って」
「今夜もな」
「楽しくね、今日の下着はね」
 自分から夜の話をした妻だった。
「黒だから」
「あっ、いいよな」
「この前和君がプレゼントしてくれたでしょ」
「あの下着か」
「あれ着けるからね」
 お風呂から出たらというのだ。
「今夜もね」
「ああ、楽しくな」
「一緒に過ごそうね」 
 二人きりの時間のことを今から明るく楽しく言う綾奈だった、和もそんな妻の笑顔を見て思うのだった。
 家にはまっすぐに帰る方がいい、それで和は以降出来るだけ仕事が終わるとすぐに家に帰る様にした、付き合いがある時は別にしてそうしていった。それはやがて彼の自然となり綾奈との間に子供が出来るとよりそれが顕著になりよき父親にもなった。あの砂をかけられた時がきっかけとなって。


砂かけ婆   完


                 2017・11・27 
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