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砂かけ婆

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第一章

                砂かけ婆 
 椎葉和は八条大学文学部を卒業してその大学の鉄道博物館に学芸員として就職した、これは彼が鉄道好きでありまた丁度博物館の学芸員が人手不足だったので彼にとっては渡りに船という形で就職したのだ。
 和は就職すると同時に幼馴染みでそれこそ幼稚園の頃から一緒で中学から付き合っている涌井綾奈と結婚した、綾奈も八条大学出身で保母に就職していたが二人は就職してその六月に結婚式も挙げてだった。何とローンまで組んで大阪市の東淀川区に家も買った。ここまではいささか暴挙もあれど幸せな新婚生活だった。
 だが和は浮気も博打もしなかったがまだまだ学生気分が抜けずよく職場の先輩や大学時代の同期で八条大学のある神戸や近い大阪に就職した面々と一緒に飲んだりゲームセンターで遊んだ、それで時々帰るのが遅くなり妻の綾奈に注意されていた。
「今日も帰るの遅かったけれど」
「御免御免、八条駅前のゲーセン行っててさ」
 和は頬を膨らませて言う妻に遅くなった理由を話した。
「それでなんだ」
「また?大学の時みたいに」
「そうなんだよ、それでさ」
「そこで遊んでついついっていうの」
「遅かっただよ、昔懐かし怒があってさ」
 和も綾奈も生まれる前のゲームだ。
「クリアーして帰ってきたんだよ」
「それはいいけれど九時回ってるのよ」
 家のリビングの壁にかけてある時計で時間を見て言う綾奈だった。
「もう少し早く帰ってきてよ、おかず冷めるから」
「折角作ったのに」
「そうよ、だからね」
 綾奈は頬を膨らませて目を少し怒らせたまま幼馴染みでもある夫に言った、背は一五四程で大きな穏やかな目をしている、童顔で眉は細く腰の辺りまで伸ばした黒髪は耳のところが幾分かはねている。胸がかなり大きく赤紫のエプロンの上からでもはっきりとその形がわかる。エプロンの左のところには黄緑の葉っぱのブローチがある。白い上着と緑のロングスカートも実によく似あっている。背は一七〇位で穏やかでまだ幼さの残る顔立ちに清潔な黒髪の和とは結構お似合いな感じである。
「もっと早く帰ってきてね」
「九時までには?」
「出来れば八時までにね」
 自分の要望を言う綾奈だった。
「私もお仕事行って帰りにスーパー寄って食材買ってお料理してるけれど」
「それで八時にはお料理が出来て」
「それでだから。和君の職場って遅くても六時よね」
「五時閉館でね」
 大抵それと同時に帰られる。
「そこから電車でここまでだから」
「だったら八時までには絶対に帰られるから」 
 八条大学とその中にある鉄道博物館がある神戸の長田区からだ。
「だったらね」
「寄り道せずに」
「帰ってきてね」
「たまにはいいんじゃないかな」
「たまにならいいけれど」
 ここは譲歩した綾奈だった、夫婦で時にはこれも必要と思ってのことだ。
「けれど基本はね」
「八時にはだね」
「帰って来てね、お家でお酒飲んでゲームしてもいいから」
「わかったよ、じゃあ明日は早く帰るよ」
「基本はそうしてね」 
 綾奈は和に注意した、そうして二人で御飯を食べて互いに入浴をしてから夜の時間を楽しんだ。次の日和は確かに早く帰ったが暫くしてだった。
 駅前のゲームセンターで面白いレトロゲームを見付けて職場の先輩に仕事の合間に笑ってこんなことを言った。
「電車を運転するゲームがありまして」
「ああ、昔そんなゲームがあったな」
 先輩も和に応えた、二人で博物館の展示品をチェックし終えた後で休憩している時に話をしていた。展示品は古今東西の鉄道にまつわるものやそのもので新幹線の中やSLの実物まで展示されている。 
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