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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第135話「京での戦い・後」

 
前書き
妖の強さには上限と下限があります。妖によっては一般人が相手でも化け物のように強かったり(例:酒呑童子)、いくら陰陽師として強くても弱かったり(例:唐傘など)します。 

 






       =帝side=





「ふっ!」

 手を振りかざし、武器を射出する。
 次々と湧いてくる妖はその武器であっさりと貫かれ、傍から消滅していく。

「やっぱり、俺は殲滅戦の方が向いているな」

〈能力の都合上、活かしきれない場合はそうなりますからね〉

 俺じゃなくギルガメッシュやエミヤ本人であれば、もっと上手く立ち回るだろう。
 だけど、未だに練度が足りない俺だとただ単に飛ばして殲滅するぐらいしかできん。
 ……あーいや、ギルガメッシュなら慢心してて俺と同じ感じかもしれんな。

〈マスター!〉

「っ……!」

     ギィイイン!!

 しかし、いくら雑魚ばかりとはいえ、例外もいる。
 咄嗟に剣を二つ投影して、両サイドからの攻撃を防ぐ。
 ……が、

「ぐっ…!」

 しかし、片方の力があっさりと俺の防御を上回り、俺は弾き出されるように吹き飛ばされる。

「こいつら……!」

〈他の妖よりも強敵です。……おまけに、連携も取るようです〉

「…鬼って所か…?」

 どちらも角があり、あの力の強さ。
 なのは達が請け負っている酒呑童子程ではないとしても、相当な強さだ。

「二体の鬼…おまけに男女か…」

〈……伝承としてあるとすれば、前鬼・後鬼ですね〉

「また有名どころな…!」

 剣を構えなおし、再び襲ってくる赤い方の鬼と対峙する。

「(霊力を扱えない俺がまともに受けるのは愚策。なら、ここは…!)」

 振るわれる斧を剣で受け、すぐに横へと逸らす。
 体ごと持って行かれるが、その勢いを利用して間合いを取る。
 そしてすぐさま剣を射出する。

     ギギギギィイン!!

「ちっ!」

 しかし、その剣は青い方の鬼の障壁に防がれる。

〈マスター!後ろです!〉

 エアに言われるがままに横に飛ぶ。
 寸前までいた場所には、妖が爪を振り下ろしていた。
 …雑魚と鬼の両方を相手にするのか…!

「くそっ…!」

〈…どうします?〉

「…飛べる利点を生かす。雑魚はこれで何とかなる…!」

 空を飛んで武器を飛ばすだけで地上の雑魚は何とかなる。
 しかし、空を飛ぶ妖やあの二体の鬼は例外だ。

「っ!」

     ギィイイン!

 跳躍して斧が振り下ろされる。
 予想以上の速度に回避が間に合わず、地面へ向けて吹き飛ばされる。
 すぐさま体勢を立て直して着地。間髪入れずバックステップする。
 そこへ青鬼の霊術が飛んできたのでさらに飛び退いて回避。
 同時に剣を投影して周囲に射出。雑魚を牽制する。

「はっ!」

 隙を見て赤鬼に斬りかかる。しかし、斧に防がれる。
 しかも、即座に青鬼が援護に入ってきて間合いを取らざるを得ない。
 振り回される斧と援護で飛んでくる術に、俺は中々攻勢に出れない。

「(くそっ…!あいつの特訓を受けていなかったら、死んでいたぞ俺!)」

 今なお斧と術を避け、雑魚を殲滅しつつ立ち回れるのは、偏に特訓のおかげだ。
 強くなると決め、実際に強くなれたからこそ、ここまで戦えるのだろう。

「雑魚が鬱陶しい!こいつらさえいなければ…!」

〈霊力を使っていないのに凄く群がってきますね…〉

「ロストロギアで起きた異変だ!例外くらいあるだろう!」

 学校の時はあまり見向きもされなかったのに、ここでは滅茶苦茶狙われる。
 …もしかすると、ロストロギアの影響で魔力にも反応しているのかもしれない。

「(くそ、手数が足りない…!)」

 武器の射出は雑魚妖に割り振っている。
 最大数展開すれば鬼二体も相手取れる量を射出できるが、その際は注意力が散漫になる。…あの鬼二体がその隙を逃すとは限らない。

「ここで時間を食ってる訳にはいかないってのに…!」

 負ける事はないだろう。実際、実力は拮抗している。
 相手の攻撃を俺は避け続けれるし、雑魚の心配はほぼ無用だ。
 俺も攻撃に転じれないが、まだ空を飛べるアドバンテージがある。
 …だけど、問題はそこじゃない。

「このままだと、一般人が…!」

 俺は元々雑魚を殲滅して被害を減らすために行動していた。
 それなのに、ここで足止めを食っていたら…!

「(“俺”の力が競り負けるのなら……別の所から力を持ってきてやる…!)」

 赤鬼の攻撃は確かに苛烈だ。
 雑魚も鬱陶しいぐらいやってくるから、中々攻撃に転じれない。
 …だけど、それは飽くまで安全性を重視した場合だ。

 …少しぐらい無茶すれば、戦況は変えれる。

     ドドドドドド!

「はぁっ!」

 大量の剣を投影して雑魚を一掃するついでに防壁を築く。
 さらに砲撃魔法を放って青鬼に牽制。赤鬼にも間合いを取らせる。
 ……よし、間に合う…!

「…技を借りるぞ、エミヤ、ヘラクレス…!」

 それは、俺の持つ特典の元ネタである、エミヤ…いや、衛宮士郎が使った技。
 正しくは、大英雄ヘラクレスが手に入れた“武技”の再現。
 “元ネタ”にて放たれたソレは、大英雄の腕力ごと、その身に宿した…!

「“投影、開始(トレース、オン)”…!」

 赤鬼が迫りくる。それに対し俺は武器を射出し続ける。
 青鬼にも武器を飛ばし、牽制とする。
 雑魚は一度一掃した上、剣による防壁があるからしばらく無視でいい。

「“投影、装填(トリガー、オフ)”っ……!」

 “ズシリ”と、俺の手に握られたモノが重さを主張する。
 まるで岩を削りだしたような大きな斧剣。
 それを俺は構える。

「……まだ未熟で、これを扱うレベルですらないかもしれないが…」

   ―――全行程投影完了(セット)

 いくらあいつに鍛えられたとはいえ、まだまだ付け焼刃。
 そんな俺が、振るうに値するとは思えない。
 だけど、この技はそれでも目の前に迫る鬼を屠り切る…!!

「この絶技、耐えきれるか!?」

   ―――“是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 一息で放たれた九つの斬撃が、鬼を切り裂いた。









       =アリシアside=





「……そろそろ、行ってくるね」

「はい。…ご武運を」

 蓮さんに付きっ切りだった私は、急いでクロノ達の場所へと戻る。
 蓮さんについていた頃、私はずっと浄化系の霊術を使っていた。
 おかげで、蓮さんは喋れる程にまでしっかりと回復できた。
 それでも、まだ動くには休息が必要みたい。
 …もう少し浄化系の術を練習しておくべきだったかな…。

「(状況は結構まずい。…と言うよりは、人手が足りない)」

 医務室にも現場の映像は映っていた。
 …多分、クロノ辺りが気を利かせてくれたんだと思う。
 おかげで大体の状況は把握している。
 …しているからこそ、人手が足りていないと確信していた。



「クロノ!状況は大丈夫!?」

「アリシア!…もういいのか?」

「うん。後は自然に回復を待つだけだから」

 管制室に行くと、クロノやアリサ、すずかが現場の映像を見続けていた。

「(この場に残っているのは私達霊術組とクロノだけ…後は一部の戦闘部隊か…)」

 やっぱり、人手不足だろう。
 待機している戦闘部隊は動かせるけど、それでは不測の事態に対応できない。
 ママも普段は待機している所だけど、現在は他の任務に同行中。
 任務自体は終わっているけど、到着まで時間が掛かっているみたい。
 そこら辺はユーノや優輝の両親と同じだね。

「クロノ。私達にできる事、ない?」

「……あるにはある。…が、それは管理局員として許可し難い事だ」

 クロノは私達を見ながらそういう。
 …クロノは許可し難いと言ったけど、打開できるのも私達だけだ。

「でも、それだと住民の被害が増えるばかりだよ?」

「……分かっている。わかってはいるが…」

「…きっと、優輝はこの時のために私達を鍛えてきたんだと思う。せっかく力を手に入れたのに、活用しない手はないよクロノ!」

 クロノは、多分管理局員として魔法を使えない私達に戦闘をさせたくないのだろう。
 でも、同時に霊術を扱える私達の方が向いている事にも気づいている。
 だけど、それを踏まえても私達は実戦経験不足。
 理由や事情が積み重なり、判断に悩む所なのだろう。

「……大丈夫。覚悟の上だよ」

「っ……仕方ない…。だが、行うのは住民の避難や手助けを重点に置いてくれ」

「了解!アリサ、すずか!」

 許可がもらえた事なので、早速アリサとすずかを転送ポートに連れていく。

「なるべく三人行動を心掛けてくれ。…頼んだぞ」

「任せて!」

 転送が始まる。
 学校で実戦がどんなものかは大体わかっている。
 正直、まだ不安だけど……こういう時のために鍛えてきたんだから…!







「京都…校外学習で来たきりね」

「地名は有名どころ以外は分からないかな…」

 転移先はクロノ曰く、人手が足りない場所のすぐ近くとの事。
 詳しい地理は分からないけど、とりあえず件の場所へ向かおう。

「…っと、早速来た…!」

「すずか、後ろの警戒と援護をお願い!アリシア!」

「オッケー!行くよアリサ!」

 ポジションは主に私とアリサが前衛。すずかが後衛とする。
 すずかは連携する場合は状況を広く見れるようにした方がいいからね。
 状況に応じてすずかが中衛で私が後衛になったりもするけど。

「っ、遅い!」

「はっ!」

 二度目の戦闘と言うのもあってか、学校の時より上手く動ける。
 始めに襲ってきた妖の攻撃を躱し、アリサが横から斬りつける。

「っ!アリサ!」

「任せなさい!」

 躱した際に弓矢に武器を変え、霊力を込めて連続で射る。
 次々と妖を貫き、アリサも炎の斬撃を飛ばして切り裂く。
 すずかもすずかで私達が相手にしていない妖を倒しておいてくれたみたい。

「ふっ…!…やっぱり多いね」

「元より覚悟の上よ。すずか!」

「こっちは大丈夫!」

 お互いフォローしながら、迫りくる妖を倒しまくる。
 私達の霊力に引き寄せられてるのもあるだろうけど、それでも多いなぁ…。

「アリサちゃん、アリシアちゃん!向こうから人の声が!」

「よし、急ごう!」

「ええ!」

 しかし、今回は倒すだけが目的じゃない。
 逃げ遅れている人達を助けて回らなければならない。

「っ、アリシアちゃん!」

「分かってる!」

 少し遠い場所で何人かが襲われている。
 すぐさま私は弓矢を出し、狙い撃つ。

「すずか!フォロー任せたわ!」

「いつでもいいよ!」

 同時に、アリサが足に霊力を込め、一気に駆け出す。
 ただし、この加速は隙も大きい。だからすずかにフォローしてもらうのだ。
 そんなすずかは、アリサが攻撃を喰らわないように、いつでもアリサの周りに障壁を張れるように構えていた。

「ふっ!…はぁっ!」

 私もアリサに追従し、アリサが一般人を助けた所で私が御札で障壁を張る。
 これで安全をある程度確保できたので、心置きなく妖を倒せる。
 障壁の前に来た私は同時に弓を構えて、一気に妖を貫く矢を射た。

「アリサ、ここらの妖を一掃するよ!」

「分かったわ!」

 私は弓を、アリサは刀を構えて矢と斬撃を放つ。
 逃げ遅れた人を庇うように立ち回る必要があるが、そこまで不便はない。
 …でも、問題なのは…。

「(どこに避難させるべきなの…?)」

 そう。学校と違って安全な場所がない。
 だから守り続けないといつ危険に晒されるか分からない。

「っ、アリシア!」

「…!っと…!」

 少し思考してしまったのか、妖に接近を許してしまう。
 けど、そこは優輝達の特訓の賜物。即座に武器を刀に変え、攻撃を受け止めた。

「くっ……!はっ!」

   ―――“氷柱”

 するとそこへ、すずかが後退しながらこっちへとやってきた。
 すずかも妖に襲われていたみたいで、ここまで来たらしい。今術で仕留めたけど。

「…二人共、気づいたかしら…?…あたしたち、護り続ける必要があるわ」

「……安全な場所がないのは辛いね…」

 アリサとすずかも私が考えていた事に気づいていたらしい。

「…でも、その事だけど…街の中心部は比較的安全だよ」

「そうなの?」

「うん。さっき屋根に上った時に妖が少ないのを確認したよ」

 どうやら、すずか曰く街の中心なら比較的安全との事。
 …そっか。中心地となれば警察や陰陽師も集まってるもんね。

「よし、そうと決まれば…!」

「まずは妖を一掃してから…ねっ!」

   ―――“火焔地獄”

 アリサが炎の霊術で妖を一掃する。
 ただし、火事にならないように火力を抑えたため、討ち漏らしは私達で仕留める。

「早く街の中心の方へ!そちらの方が比較的安全です!」

「ぇ、あ、ああ……」

 助けた人達は、恐怖と驚愕と疑問を織り交ぜたような表情をしていた。
 …まぁ、目の前で信じられない事が立て続けに起こってればね…。

「アリサ!」

「ええ!」

     ギィイイン!

「ひっ!?」

 混乱しているのか未だ逃げない人達を庇うように襲ってきた妖の攻撃を防ぐ。

「う、うわぁあああああっ!?」

「………」

 再び襲ってきた化け物(あやかし)に恐れ戦き、形振り構わず逃げていった。

「ちょ、逃げるように言ったのはあたし達だけど、助けられておいて見捨てるように逃げるなんて…!」

「…人は大抵ああいうものだって椿も言ってたね…」

 特に、平和ともなった今なら尚更との事。
 …否定できない現実を見ちゃったなぁ…。

「(…まぁ、それはともかく)」

 一応、これで誰かを守る必要はなくなった。
 それと、気づいた事もあった。

「人手が足りなかった方角。こっちから妖が来てない?」

「……言われれば、そうだね」

「どういうことかしら?」

 そう。クロノが言っていた人手が足りていない方面から妖は来ている傾向があった。
 ……そして、これが意味するのは、多分…。

「…こっちに、幽世の門があるのかもね」

「葵さんが言っていた、京都の…?」

「多分だけどね」

 優輝達が戦っている三体の内二体の妖は、強力故に別々の“祠”を持っているらしい。
 橋姫も守護者の一体ではあるけど、それとは別にもう一つ存在しているとの事。
 だから、例え倒して幽世の門を閉じた所で、京都の妖はいなくならない。
 京都にはもう一つ幽世の門が別に存在していると、転移した後に葵からの念話でそう伝えられた。…と言っても、その門を閉じた所で大門がある限りあまり意味はないけどね。

「どうする?閉じに行く?」

「一応、封印の術も教わってるから可能だけど…」

 アリサもすずかも、“自分たちにできるのか”と言う不安があるようだ。
 かく言う私もできるのかわからないけどね。守護者がどれほどか分からないし。

「どの道、ここら一帯は散策するよ。逃げ遅れてる人が他にもいるんだから」

「……そうね」

「…言ってる傍から妖が来たよ」

「とにかく妖を倒しながら進むよ!体力はなるべく温存しておいて!」

 いざと言う時はクロノとかが助けに来るだろう。
 でも、そうなると状況把握が追いつかなくなる。
 …ここは、何とか私達だけでやり切らないとね。











       =優輝side=





「ォオオオオオン!!」

   ―――“九重(ここのえ)

「っ………!!」

 硬化した尻尾から繰り出される連撃を躱し続ける。
 総合的に見れば玉藻前は僕の力を大きく上回っているだろう。
 だけど、二つの点においては僕に大きく劣っている。
 その二つの点は、戦闘技術と臨機応変さ。
 …それらだけで、僕は玉藻前を一人でも倒す事は可能だ。

   ―――“九十九雨(つくもあめ)
   ―――“黒天矢(こくてんや)

「甘い」

 霊力の矢による雨が僕に襲い掛かる。しかし、僕相手にそれは悪手だ。
 防ぎきれないのをリヒトで弾きつつ、一気に玉藻前に肉迫する。

「はっ!!」

「ッゥウ!?」

 咄嗟に振るわれた尻尾は、リヒトを滑らせるように添え、その際の反動で体を浮かせて乗り越えるように躱す。
 そのまま掌底を放ち、玉藻前にさらにダメージを与える。

「ッ、ォオオオオオオオオン!!」

「っと…!」

 接近すれば、いつもこれだ。必ず霊力で吹き飛ばしてくる。
 さすがに、この衝撃波に穴を開けて密着する程の労力は割けない。
 よって、素直に間合いを離す事にする。

「グォオオオオオオオオオン!!」

「っ…さすがは玉藻前。曲りなりにも大妖狐の名を名乗るだけある…!」

 明らかに相殺しきれない程の質と量の霊術。
 それらが一斉に放たれる。…それだけじゃない、呪詛まで込められている。
 僕が凌ぐ事に集中すればどうという事はないが、今回の術に込められた呪詛は大地に接触するだけで危ない。自然を枯らし、大地を穢すからだ。

「……だけど、一手遅かったな」

 僕だけじゃ呪詛付きの術を相殺しきれなかっただろう。
 でも、僕には心強い式姫が二人ついているからな。

   ―――“弓技・瞬矢”
   ―――“呪黒剣”

「はぁっ!」

 後ろからいくつもの矢が放たれ、地面から黒い剣が生える。
 それらが玉藻前の術を貫き、残りの術も創造した剣で切り裂いた。

「ォオオオオッ!!」

「ふっ…!」

 凌いだ直後に玉藻前が襲ってくるが、導王流であっさりと受け流す。
 それどころか…。

「はっ!」

「せいやぁっ!!」

 後方から矢が飛んできて、それを躱した所へレイピアが繰り出される。

「優ちゃん、無事?」

「ああ。…用は済んだのか?」

「うん。かやちゃんも後ろにいるよ」

 椿と葵が追いついてきた。もう負ける事はありえない。
 ……そろそろ終わらせようか。

「ォオオオオッ!!」

「フォロー任せた!」

「了解!」

 間合いを離した玉藻前から術が放たれる。
 さらに硬化した尻尾も繰り出され、形振り構ってられないのが分かった。
 だけど、それは導王流にとって格好の餌食だ。

「シッ………!!」

 尻尾をリヒトで滑らすように逸らし、術は創造した武器と霊術で相殺する。
 相殺しきれない分は葵が請け負い、最低限の体力消費で肉迫する。

「ッ……!」

「させないわ!」

   ―――“弓技・瞬矢”

 肉迫された時のための術式を用意していたようだが、それは放つ直前に椿が放った矢によって貫かれ、不発に終わる。

「仕上げだ」

 まずは一発、掌底を放つ。少し玉藻前の体が浮く。

「ッ、ォオオオオオオオオオン!!」

   ―――“九天(きゅうてん)

 咄嗟に、玉藻前は大技を繰り出す。

「―――掛かったな」

   ―――導王流壱ノ型奥義“刹那”

 九連撃の攻撃に対し、九連撃のカウンターを決めた。
 元々少しだけ浮いていた玉藻前を吹き飛ばす。ダメージも大きい。

「終わりね」

   ―――“弓奥義・朱雀落”

 そして、トドメの椿の矢が突き刺さり、玉藻前は焔によって燃やされる。

「……随分としぶとかったな」

「ええ。……以前もこれぐらいだったわ」

 ぐったりと倒れ込んだ玉藻前を確認して、そう呟く。
 ………いや、待てよ…。

「なんだこの妖気…!?」

「っ、優輝!玉藻前の所に石が…!」

   ―――殺生石を掲げ―――

「まずい!殺生石だよ!特大の呪いが来る!」

 最後の力を振り絞ってか、玉藻前がとんでもない妖気を放つ石を掲げた。
 …その瞬間、呪いの力が振り撒かれた。

   ―――“永世滅門(えいせめつもん)

「椿!」

「ええ!」

「二人共あたしの後ろに!」

   ―――“扇技・護法障壁”
   ―――“刀技・金剛の構え”

 椿と共に障壁を幾重にも張り、葵が僕らを庇うように前に立つ。

「ッ………!!づぅ………!!」

「くっ……!」

「ぁぁっ……!」

 そして、呪いを耐え切ろうと、その衝撃波を受け止めた。







「………二人共、無事…?」

「…なんとかな…」

「こっちも大丈夫よ…」

 咄嗟の防御とは言え、三人で協力したため何とか凌ぎきれた。

「玉藻前は……今ので完全に力尽きたか…」

「火事場の馬鹿力みたいなものだったね…」

 今度こそ力を使い果たしたらしく、玉藻前は動かなくなっていた。
 とりあえず、霊力を纏わせた剣群で突き刺して置き、完全にトドメを刺した。

「周辺は…よし、何とか大丈夫か」

「優ちゃんが山の上に誘導してくれたおかげで被害が少なく済んだね」

「流れ弾対策だったとはいえ、運が良かったわね」

 殺生石の呪いは周辺にも被害を出した。
 しかし、山の上に僕が押しやったおかげか、街に被害は出ていなかった。

「これで封印……っと」

「玉藻前はこれで何とかなった。他はどうなんだ?」

「ちょっと確かめてみるね」

 僕は司に、葵はクロノに念話を試みる。
 その結果……。

「どうやら、向こうもちょうど酒呑童子を倒したようだ」

「こっちも同じ情報。これで危険な妖三体は倒し切れたね」

 司と奏の方はともかく、なのは達はもっと時間がかかると思っていたけどな…。
 なのは達も、日々成長している訳か。

「後は……」

「あ、街の方だけど、そっちは……」

 クロノから受け取った情報を、葵は話す。

「なるほど。帝の奴、そんな事を…」

「あれ?アリシアちゃん達の心配は?」

「そんな軟に鍛えたつもりはないからな。何、油断しなければ大丈夫だろう。クロノも見ている事だからな」

「ええ。葵だってそこまで心配はしていないでしょう?」

「まぁね」

 アリシア達はしっかりと鍛えておいた。
 まだ不安な点はあるが、それは僕らから見た場合だ。
 陰陽師としてなら、三人が揃っていれば十分すぎる強さになる。

「……優輝。もしかして以前言っていた“予感”って…」

「…ああ。十中八九、これの事だろうな…。事実、この時点でアリシア達がいなければ被害が増えていただろう」

 でも、これはまだ些細とも言える程だ。
 日本中がこうなっている事に対し、予感が働いていたのなら…。

「…あまり、“予感”について考えない方がいいか」

「……ええ。無駄な推測は、その場での判断を鈍らせるわ」

 どの道、まだまだ事件は解決していない。

「それより、司が警察に対する説明から逃げたらしいが…」

「…変な誤解がされていなければいいのだけど…」

「さっきの退魔士の連中が警察に説明していれば助かるけどな…」

 しかし、そうだとしても情報が行き渡るのに時間がかかるだろう。
 何せ、日本中が同じ状況であるならば、情報も滞ってしまう。

「……士郎さん達からも情報を流している。何とかして連携が取れればいいんだけどな」

「戦闘は私達で、避難や誘導は警察という感じね」

「ああ」

 ただでさえ戦闘できる人数が足りない。
 それなのに、一般人を助けるのに戦力を割いていたら勝てる勝負も勝てない。

「……目下の問題は大門の守護者がどこに行ったか…だな」

「魔力を持ってないから、管理局だとサーチャーで地道に探すしかないんだよね…」

「私達もそれなりに近くないと察知できないわ。……いえ、蓮が気づけなかった時点で、私達も気づけるかどうか…」

 時間をあまりかけるべきではないのに、時間が掛かってしまっている。
 ……何とか、しないとな…。

「とにかく、京都は大門がある以上、他の門を閉じた所で安全にはならない。……できれば、住民には避難していてもらいたいが…」

「幸い、京都は狭い訳じゃないから、大門から離れた場所にいてもらいましょ」

「そうだな」

 とりあえずは、まず合流だな。











 
 

 
後書き
前鬼・後鬼…割とポピュラーな鬼。対として書かれる事から、夫婦に描かれる場合もある。かくりよの門では、前鬼が斧を持った赤い如何にもな鬼で、後鬼は青い妖艶な雰囲気の鬼。

九十九雨、黒天矢…霊力の矢を雨のようにして降らせる術。黒天矢は範囲が狭め。かくりよの門では九十九雨は全体、黒天矢はランダム1PT攻撃。黒天矢はHP50%以下から使用の代わり、即死毒付与付き。小説でも黒天矢は呪詛が込められているため、浄化しなければ危険。

九重、九天…尻尾による怒涛の九連撃。霊力が込められており、速度・威力共に非常に高い。かくりよの門ではどちらもランダム単体で、九天はHP50%以下から使用。

永世滅門…殺生石に込められた呪いを開放する。その呪いは生半可な力量程度では防ぎきれず、すぐに死んでしまう程。街に被害が出なかったとはいえ、残念ながら周囲の自然は死んでしまった。


京都編…まだ終わらなかった…。
一応、次回で終わるのは確定です。帝をちらっと、アリシア達をある程度描写すれば終わるので。 
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