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シークレットガーデン~小さな箱庭~

作者:猫丸
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遺体のない葬儀編-3-

カラカランと鳴るのは錆びた鈴の音。ドアを開け客が入って来たことを知らせる為だろう。

「…………」

呆然と立ち尽くしている少女が一人。

朽ち果てた外観の本屋はやはりなかも物悲しい気持ちにさせるものだった。
きれかかった電球は点滅を繰り返し薄暗く、本屋なのに置かれている棚には本が一つもない。
代わりにあるのは

「ニャー」

何故か沢山いる猫たちだ。
おそらく勝手に住みついている野良猫だろう。本屋のあっちこっち好き勝手に糞尿を垂らし、中は獣臭やら糞尿の臭いで吐き気がする。

「ここ……本当に本屋なのかな?」

ドアの前で茫然自失しているシレーナに声をかけたが返事はなかった。

「まだやってんのかなー」

ぐるりと本屋の中を見まわしてみるが人がいる気配が感じられない。

「ニャーニャニャ?」

とある黒猫に目を付け猫語で話しかけてみる。
その猫は他の猫とは違いしっかりとした艶やか毛で首には大きな鈴の付いた首輪をしていることから誰かの飼い猫だろう。
飼い猫なら何か知っているかも?

「ニャニャニャ!」

適当な猫語で適当に話し続ける。
だって猫と意思疎通など出来るわけもな……

「あらそんなに猫語で喋らなくても大丈夫よ。ワタシ人の言葉話せるから」

あっそうなんですね。と、黒猫と目が合う。

「ってええええ!?」

他の猫たちとは飼い猫か野良猫くらいの違いしかないと思っていた黒猫が突然人の言葉を話し、二本足で立ったのだ。
これは驚く、いや驚かない人がいるわけない。シレーナも驚愕した表情で固まっている。

思わず周りにいる、白・茶・三毛の猫たちと目の前に仁王立ちしている身長五十㎝前後の黒猫を見比べてみるが、毛色以外の違いなんて見つからない。

もしかして狐や狸ならぬ、猫につままれているのか?

「うふふ」

器用に前足で口を押さえクスクスと笑う黒猫。

「驚かせてしまったようね」

まるでおばさんのような口調で喋べりだした黒猫。

「ケットシーを見るのは初めてだったかしら?」
「けっとしー?」

ケットシーとは魔女の使い魔と呼ばれる猫のことであり、魔女の使いとして悪い事をしている。と昔読んだ辞書にはそう書かれていたが、それはあくまでも昔の話。
元が使い魔で誰かに使える存在であることには変わりないが、主は魔女とか関係なく気に入った相手だったら誰にでも使えるし、出来る事といったら家事や身の回りのお世話くらいらしい。


「ワタシはレオ。ごめんなさいね。みんなワタシの事をただの猫だと勘違いするから、立った時の顔が面白くってついね」

おほほとまるで井戸端会議しているおばさんのように笑う黒猫、違和感しかない。

「ねーねーレオさーん。ここの本屋しゃんってまだやってるの?」

ランファが聞いてみると

「ええまだまだ現役よ……見た目はあれだけど」

自覚はあったのか。

「でも……本がない」

楽しみにして来たお目当ての本がなくしょんぼりとした口調で言うシレーナにレオは

「うちは万引き防止の為に店に本をおかないようにしているのよ」

と、さも当然のように答えた。
そうゆう手もありなのか? いや本を置いていない本屋なんて本屋といえるのだろうか。それは本屋として機能していると果たしていえるのだろうか。

色々疑問点はあったが

「奥に着てちょうだい。この本屋の店主を紹介するわ」

二息歩行で行くのかとちょっと期待もしたのだが、残念ながら四足歩行でレオは店の奥へと入って行った。
仕方ないか猫だし。
諦めて足元を歩くレオを追いかけ歩いていると

「…………」

一応レジと思われる机の腕で頬杖をつき真剣な表情で読書を楽しんでいる一人の青年の姿が見えてきた。

「あの人は?」

しゃがみ込み足元にいるレオに聞いてみる。

「あの子はワタシの可愛い息子のリオン。この店の店主でもあるわね、一応」

一応なんだ……とツッコミを入れたくなるがそこは我慢。

リオンと呼ばれた青年。

背はルシアよりもずっと高く、金色のやや長め前髪が目に入って痛くないのかと思うくらいには長い、黒真珠のような瞳で肌の色は白くまるで病人のように生気を感じない。

「お客さんが来たわよ」

ひょいと軽々と飛び上がり、本を読んでいたリオン手の甲にじゃれつく……が、読書家というのは誰もかれも読んでいる時は本の世界に浸り全然外の世界が見えていないようだ。

「なんか朝のシレーナさんみたい」

ぼそっとランファが呟いた。
そう? と首を傾げるシレーナにそうだよ! とルシアも一緒になって頷いた。

「本読んでる時のシレーナさんみたいだねっ」
「そうだね。読書家はみんなあんな感じなのかな」
皆に聞こえないようにひそひそと二人だけで話している。

「……もうこの子ったら、ごめんなさいね不愛想で」
「いえ」

本当にリオンの母親のようにレオは頭を下げる。
うちの息子がすみませんっ、的な感じで何度も頭を下げている。

「……本……欲しい」

すすっとリオンに近づき要点を言う。
本という単語に反応したのかやっとリオンがルシア達を顔を動かさず一瞬だけ見た。

「ジャンルは?」

視線は読んでいた本へと戻された。

欲しい本は特にない。
本屋に来て見てから決めようと思っていたから。好きなジャンルとかも特にないから。

黙り込んでいると

「チッ」

中々帰ってこない返事に苛立ち募らせ、リオンは皆に聞こえるようにわざと大きな音が出るように舌打ちをした。
さすがにそれはやりすぎじゃないですか、と、ルシアがリオンに一言物申そうと一歩踏み出したその時だった

「あっらー駄目よリオンちゃん、女の子にはもっと優しくしなきゃっ」

のんびりまったりとしていてそれでいて妖艶的で色っぽく感じる声がリオンの背後から聞こえてきた。
声の後からが高いハイヒールの足音も聞こえる。

「チッ……出たか」

そうリオンが吐き捨てたの同時に倉庫と書かれた通路から出て来たのはルシアよりも少し高め、でもリオンよりかはやや低めだが、女性としては高いモデルのようなすらっとした女の人だった。

歩くたびに揺れる銀色の髪をなびかせ、黒色のコートを纏い赤色のリボンがついた白いブラウスを中に来て下には赤色のフレアミニスカートと黒色のロングブーツをはいた見惚れるほどの美しい女性。

「え…?」

女性は一緒ルシアの方を見ると、そのくりっとした可愛いらしい赤い瞳を閉じウィンク。
こんな美しい女の人がどうして自分に……? ポワーと顔が熱くなり頭の中が真っ白になる。

「来てたのね、リアちゃん」

リアと呼ばれた美しい女性はニコリとほほ笑んだ。

「何しに来やがった」

不機嫌そうに舌打ちをするリオンの

「もうっ。リオンちゃんたらツンデレなんだから! ツンツン」

頬をツンツンと人差し指の先で突いて遊んでいる。

「ッ!? 触るなっ!! つーかその気持ちの悪い喋り方どうにかしろっ!!」

突いてくる指を跳ね除けながらリオンはリアに訴える。だがその顔は耳まで真っ赤に染まっているが。

呆然と二人のやり取り見つめているルシアの前にランファが顔を覗かせ

「もしかして、うらやましいのぉー?」

ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべ聞いてきた。
すぐにそんなことはないと否定したルシアだったのだが、

「本当にー?」

全然信じていないランファの視線が痛かった。
だってしょうがないじゃないか。ルシアも健全な男の子。あんな綺麗で美しいお姉さんにからかわれたいという願望も……あったりなかったりするのだ。


 
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