| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

最強無双の腹ぺこ吸血姫~ボク♂はもふもふに愛される~

作者:百合飯
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

第一話・冴えない少年は異世界で永久の女王となる

 
 前世(と、いっていいのか、わからないが)、ボクはいわゆるデブだった。
 ぶよぶよに肥えた脂肪、張り付いた服……。
 とにかく、太っていた。

『おい豚! はよ動けや!』
『うわー! マジその鏡餅みたいな脂肪が気持ち悪いんですけど~』

 そのせいで、いじめられた。自業自得とはいえ、かなり辛い。小中と、続けてこうだった結果、引きこもりになり、鬱々とした日々を送っていた。
 だが……。
 ある日、ボクに転機が訪れる。
 まさか、ボクが『異世界』に行くなんて……。
 しかも、吸血鬼の美少女の姿で。



 ある日。
 いつものように目が覚めると、ふわふわの、柔らかい天使の羽根のようなベッドの上だった。
「……ん?」
 不思議な感触に、ゆっくりと瞼を開ける。なんというか、いかにも金持ちの家風な室内だった。
 ネットやテレビでしかみたことないような、天蓋付きの黒のベッドにボクは寝ていた。西洋の貴族が寝ているような、セレブな天蓋付きベッドである。黒い布がこれでもかと使われ、薔薇の彫刻が施されていた。なんつーか、いわゆるゴスロリ。とにかく、ゴシックロリータ風。しかし、当然ボクにそんな趣味はない。

 ボクの家は普通の一戸建てだった筈だが……。

 起き上がる。室内は黒の色彩で装飾されていた。所々、赤も使われている。派手だなぁ。

 ……ここはどこだ?

 ボクは頭を撫でる。どうやら、寝ている間に知らない人のお金持ちの家に来てしまったようだ。ボクはいじめのストレスで、過食症なだけではなく、夢遊病にもなってしまったらしい。困った。しかし、ボクは違和感に気づく。

 ん……?

 髪が、いつもよりかなり長い。それに、さらさらしている。脂ぎっていない。シルクのような、ふわりとした肌触りだった。
 みると、指先に黄金の毛束が纏わりついていた。金髪のロングヘアだ。どこまでも川のように流れる、黄金色の髪だった。
「のわわ!?」
 ボクは驚く。
 慌てて、ベッドから起き上がる。壁にかけられていた、宝石のように綺麗に磨かれた鏡をみる。
「え……」
 そこにいたのは、見事な金髪のロングヘアに黒いネグリジェの、美しい少女。

「な、なんだこれは……」

 ボクは、絶句する。
 ボクは豪奢な部屋の中を歩き回った。悩む。そして、慌てる。
 よくわからないが、どうやらボクはかなりの美少女になってしまったらしい。
 しかも、金髪の外人美少女に。
「うー、うー」
 しかし、悩んでも答えがでない。
「と、とりあえず、落ち着こう」
 ボクは自分自身に言い聞かせた。
「えっと、ボクの名前は鈴木拓人、14歳、中学二年生」
 ……だった筈だ。
 ボクは、半分確認のため、半分下心から服を捲る。
 「のわわ!」
 控えめではあるが、女性特有の胸がある!
 『彼女』の年齢は、12~13歳くらいだろうと思われた。それにしても、さすが外国人。雪のような白い肌をしている。目は、ルビーのように赤い。
 か、かなりかわいい。
 ボクは、自分の姿? に惚れ惚れした。ボクの年齢は14歳だし、ロリコンって訳ではないんだろうけど……多分、一目惚れって奴だろう。

 ……はっっ!

 ……自分にかよ。ちょっと引いた。

 すると、扉が開いた。
「アリスさま、おはようございます」
 黒髪の双子のメイドさん達だった。猫耳風の萌え萌えなメイドカチューシャをつけている。彼女らも、かなり整った容姿をしている。
「あ、おはよう……」
 ボクは、一応挨拶した。
「アリスさま、身支度をいたしましょう」
 メイドさんが提案する。
「はい」
 ボクは頷いた。
 ボクはドレッサーの前でメイドさんに髪を梳いてもらった。黄金色の髪を、細めのツインテールにする。なんか、好きなラブコメアニメのツンデレな萌えキャラに似ているな、と思った。彼女……『ToLOVEる』のヤミも、たしか黒いゴスロリっぽい格好をしていた。
 服も着替えた。真紅と漆黒のドレスだ。いわゆる、ゴスロリという奴である。しかし、この白人美少女な外見に本当にゴスロリはよく似合う。『ToLOVEる』のヤミもゴスロリがよく似合っていたが、黒には金髪が合うというか……さらに、ヤミにはない赤薔薇のあしらわれたヘッドドレスもかなり可愛い。

 ぐ~

 すると、ボクのお腹が鳴った。
「アリスさま、朝ごはんにしましょうか」
 双子メイドさんらが、くすくす笑う。
 やばい。この外見でお腹の虫はかなり恥ずかしい。デブの頃なら平気だったが。
「そうだね」
 ボクは頷いた。すこし、照れた。
 やはり姿形は変わっても、ボクの精神はデブのままだった。



 しかし……。
 案内され、進んでいった廊下も階段も、どこもかしこも優雅な漆黒で覆われている。
 まさに、この美少女のためだけの城といった風情である。
「アリスさま、どうかなさいましたか?」
 きょろきょろ辺りを不思議そうに見回すボクをみて、双子メイド達が怪訝な顔をする。

「な、なんでもない」

 ボクは誤魔化した。
「し、しかし、ここは綺麗だな」
「そうですね。魔界中の芸術品が集められてますから」
 双子の片割れがいう。おかっぱでなく、ロングヘアの方だ。
 どうやら、ロングヘアの方が姉で、おかっぱの方が妹らしい。
 ま……魔界?
 ボクは首を傾げた。
 ここは、もしかして……いわゆる、ラノベでいうところの異世界って奴なのか?
 いや、最近そういう話が業界では流行ってるとは知っていたが、まさか、現実に起きるとは……。しかも、美少女に変身!?

 それで、しばらくボクは双子メイドさんらと喋って情報収集した。

 それによると、どうやらボクは魔界という異世界の住人で、その魔界の一大勢力である王国「ルナ」の王……いわゆる、魔王らしかった。しかも、女魔王である。その上、種族は吸血鬼の真祖。
 年齢は、12~13歳かと思っていたけど、実は200歳。驚いた。ロリババアって奴じゃん。『化物語』かよ。

 広間に入る。
 ずらっとメイドと執事が並んでいた。全員が一斉にお辞儀する。
 すごい景観だ。しかも、全員美少女&美少年。まじで二次元に出てきそう。ボクはここが異世界であるのを痛感した……。
「さ。お席にどうぞ」
 ロングヘアのメイド……アメリというらしい…が、ボクを座らせる。
 ボクは、これからどんな豪勢な料理がでるのかと、期待して待っていた。
 しかし……。
「な、なぬ!?」
 ボクは突拍子もない声をあげる。
「どうかしましたか?」
不思議がる双子メイドさん。(おかっぱの方)。
 
 なんと、料理は見た目、かなり粗末だった。
 いかにも硬そうなライ麦パンに、真紅のスープ。そして、何かわからないが、肉の塊。それに野菜が少し添えられているだけ。

 ボクは恐る恐る、それを口に運んだ。

 ……まずい。
 一瞬でわかった。まず、美味しい料理には定番の、良い匂いがしない。そして、パンは案の定外見通り硬い。パサパサしている。ガサガサもしている。
 こんな料理、はじめて食べた……。
 そして、よくわからない真紅のスープを飲んだ。まず。トマトかと思ったけど、トマトの味はせず、鉄のような味しかしなかった。
 そして、肉。
 これは、かなりマシな方だったが、かなりマシなだけで、たいしたことない。まず、塩コショウもろくにされていない。しかも、かなり血が滴っている。殆ど生肉か?
 そして、なんかよくわからない見たこともない野菜。これ、やっぱり塩コショウしてない。  
 当然、これもまずい。枝豆に似た食べ物だが、かなり、歯ごたえが悪い。

「うわっ……」
 
 ボクは、吐きそうになった。なんだこれ。ここまで不味く料理されたら、食材に対する侮辱だ。

「だ、大丈夫ですか?」
 メイドのおかっぱの(メアリ)が狼狽える。
「ちょ……この料理は、なに?」
 ボクは悲鳴をあげた。
「なにって……ライ麦パンと、コカトリスの血のスープと、レッドドラゴンのステーキとHP回復薬の添え物ですが……」
 その異世界らしいメニューに、ボクはため息を零す。
 っていうか、血のスープって……。
 あ、そういえばボク、吸血鬼だったな。
 だから生肉だったのか……。
 ボクはげんなりした。 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧