最強無双の腹ぺこ吸血姫~ボク♂はもふもふに愛される~
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第一話・冴えない少年は異世界で永久の女王となる
前世(と、いっていいのか、わからないが)、ボクはいわゆるデブだった。
ぶよぶよに肥えた脂肪、張り付いた服……。
とにかく、太っていた。
『おい豚! はよ動けや!』
『うわー! マジその鏡餅みたいな脂肪が気持ち悪いんですけど~』
そのせいで、いじめられた。自業自得とはいえ、かなり辛い。小中と、続けてこうだった結果、引きこもりになり、鬱々とした日々を送っていた。
だが……。
ある日、ボクに転機が訪れる。
まさか、ボクが『異世界』に行くなんて……。
しかも、吸血鬼の美少女の姿で。
□
ある日。
いつものように目が覚めると、ふわふわの、柔らかい天使の羽根のようなベッドの上だった。
「……ん?」
不思議な感触に、ゆっくりと瞼を開ける。なんというか、いかにも金持ちの家風な室内だった。
ネットやテレビでしかみたことないような、天蓋付きの黒のベッドにボクは寝ていた。西洋の貴族が寝ているような、セレブな天蓋付きベッドである。黒い布がこれでもかと使われ、薔薇の彫刻が施されていた。なんつーか、いわゆるゴスロリ。とにかく、ゴシックロリータ風。しかし、当然ボクにそんな趣味はない。
ボクの家は普通の一戸建てだった筈だが……。
起き上がる。室内は黒の色彩で装飾されていた。所々、赤も使われている。派手だなぁ。
……ここはどこだ?
ボクは頭を撫でる。どうやら、寝ている間に知らない人のお金持ちの家に来てしまったようだ。ボクはいじめのストレスで、過食症なだけではなく、夢遊病にもなってしまったらしい。困った。しかし、ボクは違和感に気づく。
ん……?
髪が、いつもよりかなり長い。それに、さらさらしている。脂ぎっていない。シルクのような、ふわりとした肌触りだった。
みると、指先に黄金の毛束が纏わりついていた。金髪のロングヘアだ。どこまでも川のように流れる、黄金色の髪だった。
「のわわ!?」
ボクは驚く。
慌てて、ベッドから起き上がる。壁にかけられていた、宝石のように綺麗に磨かれた鏡をみる。
「え……」
そこにいたのは、見事な金髪のロングヘアに黒いネグリジェの、美しい少女。
「な、なんだこれは……」
ボクは、絶句する。
ボクは豪奢な部屋の中を歩き回った。悩む。そして、慌てる。
よくわからないが、どうやらボクはかなりの美少女になってしまったらしい。
しかも、金髪の外人美少女に。
「うー、うー」
しかし、悩んでも答えがでない。
「と、とりあえず、落ち着こう」
ボクは自分自身に言い聞かせた。
「えっと、ボクの名前は鈴木拓人、14歳、中学二年生」
……だった筈だ。
ボクは、半分確認のため、半分下心から服を捲る。
「のわわ!」
控えめではあるが、女性特有の胸がある!
『彼女』の年齢は、12~13歳くらいだろうと思われた。それにしても、さすが外国人。雪のような白い肌をしている。目は、ルビーのように赤い。
か、かなりかわいい。
ボクは、自分の姿? に惚れ惚れした。ボクの年齢は14歳だし、ロリコンって訳ではないんだろうけど……多分、一目惚れって奴だろう。
……はっっ!
……自分にかよ。ちょっと引いた。
すると、扉が開いた。
「アリスさま、おはようございます」
黒髪の双子のメイドさん達だった。猫耳風の萌え萌えなメイドカチューシャをつけている。彼女らも、かなり整った容姿をしている。
「あ、おはよう……」
ボクは、一応挨拶した。
「アリスさま、身支度をいたしましょう」
メイドさんが提案する。
「はい」
ボクは頷いた。
ボクはドレッサーの前でメイドさんに髪を梳いてもらった。黄金色の髪を、細めのツインテールにする。なんか、好きなラブコメアニメのツンデレな萌えキャラに似ているな、と思った。彼女……『ToLOVEる』のヤミも、たしか黒いゴスロリっぽい格好をしていた。
服も着替えた。真紅と漆黒のドレスだ。いわゆる、ゴスロリという奴である。しかし、この白人美少女な外見に本当にゴスロリはよく似合う。『ToLOVEる』のヤミもゴスロリがよく似合っていたが、黒には金髪が合うというか……さらに、ヤミにはない赤薔薇のあしらわれたヘッドドレスもかなり可愛い。
ぐ~
すると、ボクのお腹が鳴った。
「アリスさま、朝ごはんにしましょうか」
双子メイドさんらが、くすくす笑う。
やばい。この外見でお腹の虫はかなり恥ずかしい。デブの頃なら平気だったが。
「そうだね」
ボクは頷いた。すこし、照れた。
やはり姿形は変わっても、ボクの精神はデブのままだった。
□
しかし……。
案内され、進んでいった廊下も階段も、どこもかしこも優雅な漆黒で覆われている。
まさに、この美少女のためだけの城といった風情である。
「アリスさま、どうかなさいましたか?」
きょろきょろ辺りを不思議そうに見回すボクをみて、双子メイド達が怪訝な顔をする。
「な、なんでもない」
ボクは誤魔化した。
「し、しかし、ここは綺麗だな」
「そうですね。魔界中の芸術品が集められてますから」
双子の片割れがいう。おかっぱでなく、ロングヘアの方だ。
どうやら、ロングヘアの方が姉で、おかっぱの方が妹らしい。
ま……魔界?
ボクは首を傾げた。
ここは、もしかして……いわゆる、ラノベでいうところの異世界って奴なのか?
いや、最近そういう話が業界では流行ってるとは知っていたが、まさか、現実に起きるとは……。しかも、美少女に変身!?
それで、しばらくボクは双子メイドさんらと喋って情報収集した。
それによると、どうやらボクは魔界という異世界の住人で、その魔界の一大勢力である王国「ルナ」の王……いわゆる、魔王らしかった。しかも、女魔王である。その上、種族は吸血鬼の真祖。
年齢は、12~13歳かと思っていたけど、実は200歳。驚いた。ロリババアって奴じゃん。『化物語』かよ。
広間に入る。
ずらっとメイドと執事が並んでいた。全員が一斉にお辞儀する。
すごい景観だ。しかも、全員美少女&美少年。まじで二次元に出てきそう。ボクはここが異世界であるのを痛感した……。
「さ。お席にどうぞ」
ロングヘアのメイド……アメリというらしい…が、ボクを座らせる。
ボクは、これからどんな豪勢な料理がでるのかと、期待して待っていた。
しかし……。
「な、なぬ!?」
ボクは突拍子もない声をあげる。
「どうかしましたか?」
不思議がる双子メイドさん。(おかっぱの方)。
なんと、料理は見た目、かなり粗末だった。
いかにも硬そうなライ麦パンに、真紅のスープ。そして、何かわからないが、肉の塊。それに野菜が少し添えられているだけ。
ボクは恐る恐る、それを口に運んだ。
……まずい。
一瞬でわかった。まず、美味しい料理には定番の、良い匂いがしない。そして、パンは案の定外見通り硬い。パサパサしている。ガサガサもしている。
こんな料理、はじめて食べた……。
そして、よくわからない真紅のスープを飲んだ。まず。トマトかと思ったけど、トマトの味はせず、鉄のような味しかしなかった。
そして、肉。
これは、かなりマシな方だったが、かなりマシなだけで、たいしたことない。まず、塩コショウもろくにされていない。しかも、かなり血が滴っている。殆ど生肉か?
そして、なんかよくわからない見たこともない野菜。これ、やっぱり塩コショウしてない。
当然、これもまずい。枝豆に似た食べ物だが、かなり、歯ごたえが悪い。
「うわっ……」
ボクは、吐きそうになった。なんだこれ。ここまで不味く料理されたら、食材に対する侮辱だ。
「だ、大丈夫ですか?」
メイドのおかっぱの方が狼狽える。
「ちょ……この料理は、なに?」
ボクは悲鳴をあげた。
「なにって……ライ麦パンと、コカトリスの血のスープと、レッドドラゴンのステーキとHP回復薬の添え物ですが……」
その異世界らしいメニューに、ボクはため息を零す。
っていうか、血のスープって……。
あ、そういえばボク、吸血鬼だったな。
だから生肉だったのか……。
ボクはげんなりした。
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