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真田十勇士

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巻ノ百十二 熊本その一

           巻ノ百十二  熊本
 秀頼の都までの供を務め彼を大坂まで戻してからだ。加藤は熊本まで帰った。だがその彼について。
 昌幸は幸村にだ、こう言った。
「どうもな」
「加藤殿はですな」
「病が日増しに重くなっておられてな」
「それでは」
「こうして我等が話しているうちにもじゃ」
 まさにというのだ。
「そんなご様子らしい」
「左様ですか」
「虎殺しの英傑であるが」
 しかしというのだ。
「その英傑もな」
「病には勝てませぬか」
「特にあの病にはな」
 花柳病にはというのだ。
「どうしてもな」
「勝てず」
「ぞうじゃ」
 それでというのだ。
「あと幾許もない」
「今こうして話している間にも」
「まさにな」
 倒れているかも知れないというのだ。
「そうなっておる、気掛かりであろう」
「右大臣様のことが」
「最後の最後までお守りしたいであろうが」
「その途中で」
「お亡くなりになられるわ」
「やはり」
「うむ、しかしな」
 こうも言った昌幸だった。
「加藤殿はそう思われているが」
「茶々殿はですな」
「お亡くなりになったことを悲しんでおられてもな」
「それは頼れる者を失った」
「そうお考えになられるであろう」
 茶々にしてみればというのだ。
「やはりな」
「見方が違いますな」
「加藤殿は豊臣家を考えておられる」 
 家を守ることをというのだ。
「そして茶々殿はん」
「天下ですな」
「それを考えておられる」
 そこに違いがあるというのだ。
「この違いは大きい、いや」
「天と地程に」
「大きいわ」
 そうだというのだ。
「もっと言えばな」
「思い違いですな」
「茶々殿のな」
「左様ですな」
「男だろうが女であろうがな」
「まだ天下は豊臣家にあると思われていますと」
 そうであればというのだ。
「この度のこともですな」
「過って考える」
「そうなのですな」
「加藤殿は豊臣家を護ろうとされておる」
「旧主を」
「その義理じゃ、しかしな」
 加藤はそう考えていても茶々はというのだ。
「茶々殿は天下人としてな」
「加藤殿を頼りにされている」
「そこがじゃ」
「大きな違いであり」
「その違いがじゃ」
 まさにというのだ。
「とてつもない」
「まさに天と地程の」
「そうしたものじゃ、だからな」
「茶々殿は加藤殿がお亡くなりになっても」
「頼れる家臣がおられなくなった」
「そう考えられるであろう」
「これまでの感謝よりもですか」
 そうした感情があるにはというのだ。 
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