世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
Oneself/抑止力
今までのあらすじ
侵攻する怪獣王。
「EARTH」面々の攻撃も、一時凌ぎがいいところ。
その巨獣の前に、最もそれとの戦いを望んだ男が立っていた。
アーヴ・セルトマン
彼は、自身の求める通りに勝つことが出来るのだろうか?
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「よしよし」
見上げるほどの巨体。
近づくにつれ放射能濃度が上がっていくがはずだが、この男はそれを気にするわけでもなく、まるで観光客がもの珍しそうに高層ビルを見上げるように感心していた。
「思い描いていた通りだな。こういうのは少しばかり違う形が来ることもあるんだが・・・キチンと「ゴジラ」してるじゃないか」
地響きが大きくなり、最後の方の言葉は振動と轟音で自分ですら聞き取れていない。
だが、それをも楽しんでいるかのように笑い、セルトマンが腕を上げた。
「いい感じに闘争心も高まってるみたいだし、じゃあはじめ」
ゴッ!!!
言葉が、消える。
余裕をかまして突っ立っていたセルトマンに向かって、ゴジラの放射熱線がぶち込まれたのだ。
だが、爆発の煙の中からセルトマンが飛び出して回避していた。
その手に溜まった魔力が回転し、開戦の雄叫びとともに
「始めようぜェ!!」
放たれた。
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「で、これで最後」
「おぉ、ついに」
「ワクワク」
「コジラファイナルウォーズ。50年の歴史の集大成だ。っていってもな、この作品かなり残念で」
「出来が?」
「いや、興行収入が」
「あちゃー」
ついには蒔風の話も最後の作品になった。
途中から仕方なく話していた蒔風も、やはり趣味のことだからか、どんどん勢いがついていき今に至る。
それよりも唯子に翼刀は、本来の目的を忘れているのではないか?と疑いたくなるのだが。
「考えてますって!!」
「当然ですよ!!」
「・・・そういやそうだった」
「「をい!?」」
お前が忘れてどうする。
この世界、本当に大丈夫なのだろうか?
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「オオォォオオラぁ!!」
ゴジラの目をピンポイントで狙って砲撃を放ち、怯んだ隙に鼻先に着地、同時に踵落としをぶち込んでいくセルトマン。
セルトマンの蹴り技の威力は、今更ながら語るべくもないだろう。
だが、やはり覆しようのない圧倒的な体重差。
ガクンとゴジラの頭部が下がりはするも、重心を崩す程の威力はない。
バン!!
「おっと!!」
目が回復したのか、鼻先に乗るセルトマンを狙ってゴジラの手が叩き付けられた。
頭を垂らし、腕を叩き付けるゴジラ。
そのまま乗っていれば、両方の勢いに挟まれてしまうだろう。
だがそんなことは重々承知。
セルトマンはそこから飛び降りて、太もも付け根を蹴り飛ばし、真横に跳ねてビルの屋上へと飛び降りる。
そして着地と同時に砲撃を発射。
両腕から連続で放たれる全力砲撃。その連弾に、蹴り付けられたゴジラの足がさらに押し戻される。
「チッ」
だというのに、セルトマンは舌打ちを撃つ。
砲撃をやめ、ビルから飛び降りた。
(関節部に一撃。その後に一気に攻めればよろけるくらいはするかと思ったが)
セルトマンの狙いは、どうやらゴジラの転倒だったらしい。
しかし、結果は見ての通り。押し戻していくだけだった。
ゴジラの表皮は堅く、関節を押し曲げるには至らなかったということだ。
ちなみにゴジラの骨と筋肉は、その巨大な身体を支えるために凄まじい発達を果たしている。
骨は合金ほどの硬度を誇り、それを動かす筋肉は骨に巻き付くように存在している。
ゴジラの足をつぶす、というのは、相当無茶な作戦だということだ。
「ダァッっ!!」
着地したセルトマンの砲撃が、今度は飛び降りたビルを貫通した。
だがそれはゴジラを狙ったものではなく、あくまでもビルのみへのもの。
一階部分を破壊しつくし、そしてそのビル全体に魔力をまとわせていく。
そうして、セルトマンの魔力で浮遊していくビル。
そしてセルトマンは、ゴジラの顎に向かって腕を思い切り振り上げた。
「体重差が問題なら、これでどうだ?」
唸りをあげて飛来するビル。
ハンマーのように突撃していくそれが顎下に命中し、ゴジラの身体が大きく仰け反った。
バラバラに砕けるビル。
その一撃に、さすがのゴジラもムカついたのかギラリとセルトマンを睨みつける。
口内と背鰭が蒼く光り、周囲の大気を吸い込み一気にバーストさせる。
「ヤベッ!!」
ゴォッッ!!
放射熱線が吐き出される。
その場からダッシュで駆けだすセルトマンの後を、放射熱線が地面を溶かしながら追い回していく。
「おおおおおぉぉおお!!」
大声をあげながら逃げ惑うセルトマン。
そのセルトマンを、熱戦を吐きながら追って行くゴジラ。
だがちょこまかと逃げるセルトマンに、なかなかそれは命中しない。
それを理解し、ゴジラはいったん熱線を止める。
諦めたわけではなく、さらに強烈な一撃のため。
一旦ひっこめることで再チャージし、今度はセルトマンをではなく、セルトマンのいる一帯を狙って攻撃したのだ。
ブォッっ!!
「ゲッ!魔力障壁――――!!」
ズォァッッ!!
左から右へ、ゴジラの頭が振られていく。
それに伴い、熱線も町を横断し、一瞬遅れてそこにあった一切の物をバラバラに吹き飛ばした。
その爆発の中から、魔力障壁のカプセルに包まれたセルトマンが飛び出してくる。
体を丸め、窮屈そうにしているそれを、バリアを解いて開放するセルトマン。
宙に立ち、フワリと体勢を整える。
(表皮の堅さはかなりの物だな。打撃、砲撃は効かないか?)
推察とともに、試してみるかとゴジラに向かって砲撃を数発はなってみるセルトマン。
そのバリエーションも、単純な砲撃から爆発系、貫通系と様々だ。
だが爆発系は爆発するだけ、貫通系も少し抉るだけでダメージとは言い難い。
そんなことを試しているうちに、鬱陶しく感じたのだろう。
ゴジラが頭を振って、空を仰ぎ、大咆哮を上げていく。
周囲のビルのガラスが砕け、バラバラと地上へと降っていく。
「ハハッ!すげぇ咆哮!!」
咆哮が風となって街を駆け巡り、起こる砂埃を防ぎながらセルトマンが笑う。
だがそうしているうちにもセルトマンの真上にゴジラは接近し、その片足を上げて、落とす。
「打撃、砲撃が効かないなら」
ドンッッッ!!!
セルトマンの身体が、ゴジラの足の裏に消える。
しかし、それは徐々に押し返されていき
「ならば投げだ」
ヴォン、とセルトマンの手から張られる魔力障壁が、ゴジラの足の裏をカバーしていた。
そして表面を滑らかにし、流動させる。
すると、体重をかけていた足が滑ったゴジラは当然転がる。
だがセルトマンはさらにそこに、加速を加える。
「ダァッっつ!!」
砲撃が、浮き上るゴジラの下半身を直撃する。
打ち上げられていく身体は上下が反転していき、ゴジラの頭が地面へと向かっていく。
しかし、ゴジラの身体はそれだけではない。
ゴジラの背面部に回るセルトマン。魔力か、それとも純粋な脚力か。
セルトマンはゴジラの尻尾を掴みとり、それを思い切りひねりあげたのだ。
さらに加速し、そしてついに地面に落ちるゴジラ。
側頭部から落下し、しかもその威力は自分の体重によって左右される。
首がゴキリと不自然に曲がりながら、地面に陥没していくゴジラ。
それを見て、満足そうに頷くセルトマン。
「後は内部に入って爆破させて、それから心臓を入念に破壊か」
ある作品で、ゴジラは体内からの攻撃で体に穴が開き、そこから放射熱線が漏れ出して大爆発した。
結局、心臓だけが残ってそれが活動を始める、というラストだったため、ゴジラの不死性がプラスされただけだったが。
しかし、逆を言えば同じ方法で爆破させてから、心臓を見つけ出して潰せばいい。
とはいえ、この大怪獣の体内に入ろうというものはそもそもいない。
セルトマンからすれば、この怪獣を使って世界を破壊しるつもりだし、方法がわかっている以上もはや倒したも同然だ。
一方、「EARTH」側にそれをやれる人間がいない。
体内に飛び込んだところで、核エネルギーに飲まれて死ぬだけだ。爆破することなど到底かなわない。
つまりあの中に飛び混んで、なおも活動できる人間でなければ、こいつは倒せない。
「な~んか大怪獣も大したことねぇのな」
上半身を瓦礫に埋め、倒れ伏しているゴジラをポンポンと叩いてセルトマンがぼやく。
だが、それこそ自身の完全性の証明だとして頷いてから、令呪をかざして命令しようとする。
「セルトマンを止めろ!!!」
「もう遅いぜ」
ゴジラが倒れたのを確認し、「EARTH」メンバーが一斉にセルトマンへと向かっていく。
だが、令呪の施行は一瞬だ。到底誰も間に合うわけがない。
「令呪をもって命じる。怪獣王よ、この世界を―――――」
「ゴォァアアアアアアア!!!!」
「はか、何っ!?」
令呪が輝き、しかし、セルトマンは最後まで言うことができなかった。
首の骨が砕けていたというのにもかかわらず、ゴジラはガバリと起き上がり、全身から熱を噴出して、さらに稲妻まで巻き起こし始めたのだ。
そして天空高く咆哮し、その背鰭が再び発光し始めた。
「全員さがれ!!」
ゴジラのそれを見て、メンバーが一斉に退がる。
だがセルトマンだけは、その光景を見て笑っていた。
「はっはは!!そうだよな!!そうでなくっちゃぁ、面白くねぇ!!」
ゴジラに向かって叫び、そして大地に向かって手をかざす。
魔力が大地を侵食し、そこに存在する一切の者を撃破する最強術式――――
「大地――――咆k」
「グゥゥルァアアアガぁアアア!!!」
カッッ!!という音がした、と錯覚するほどの光が起こった。
セルトマンの大地咆哮ではない。
ゴジラが放射熱線のエネルギーを飲み込み、全身から発散させて周囲を焼き尽くす体内放射を実行したのだ。
全身から放たれる、全方位に向けられたその放射は、街を焼き、大地を焦がし、空を染めた。
至近距離にいたセルトマンなど、ひとたまりもないだろう。
だが、これでは死ねないセルトマンの身体は、「EARTH」ビルのほうへと吹き飛んでいくのだった。
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「―――ってことで、ゴジラの話は終わりな」
「わー」
「すげぇー」
「・・・で、なにか思いついたか?」
「「・・・・・・どうやって勝つの?」」
「おい」
一方、そんな激戦をはかけ離れた空気で蒔風の話は終わった。
翼刀と唯子に感想を求めるが、二人からの答えはそれだけだった。
「だって、聞けば聞くほど無敵じゃないですか!!」
「そっすよ!!だって勝ったって言っても撃退じゃ今回は意味ないんですよね!?」
「だから悩んでんだろうが!!」
あれだけ話して、得られたのはこれだけである。
はぁ、と三人がそろってため息をつき、肩を落とす。
見ると、もうゴジラは「EARTH」まで数百メートルしかない地点にまで接近していた。
「あれは・・・」
「体内放射だ。敵にしがみつかれたり、逃げられなくなった時の切り札」
「あれが―――――」
恐ろしい。
デカくて、黒い。ただそれだけの巨大な塊が、ゆっくりと街を破壊して進んでくる。
あれだけの力を持つ「EARTH」ですら、もはや時間稼ぎ以上の効果を得てはいない。
見上げると、いくつもの戦闘機が飛んでいくのを確認できた。
おそらくは、国所有の軍だろう。
だがその兵器の大本が“no Name”だろうと“ライクル”だろうと“フォルス”のものだろうと、ゴジラには一定以上のダメージを与えられずに撃墜されていく。
段々と「EARTH」メンバーの仕事が、彼らの救出へと移り行く中、ぽつりと唯子が漏らす。
「でも、ゴジラってやさしいとこあるんですよね?」
「え?」
「あー、昭和作品のこと?」
「はい」
確かに、昭和後期作品ではゴジラは人類の味方だった。
宇宙からやってくる未知の怪獣や宇宙人から、地球を守るために戦う、というストーリーだ。
「だがあのゴジラは「人類の敵対者」として召喚されているから・・・」
「ああ。一因にはなってても、その部分はないだろうなぁ」
翼刀、蒔風と、どうしようもないと悔しそうに言葉を漏らす。
だが
「いえ、そうじゃなくて」
「ん?」
唯子はそうじゃなくて、と言葉を続ける。
「ゴジラって、子供のために頑張れるいいお父さんなんだなって」
「・・・・あぁ」
ゴジラには息子がいる。
昭和、平成シリーズでその設定は変わったが。
「だって、子供が助けてってテレパシー送ると助けに行ったり」
「そういや、平成シリーズだとベビーのためにメカゴジラと戦ってたな」
「ベビーの後なんだっけ?」
「リトル、ジュニアだろ?さっき聞いたばっかなのにもう忘れたのかよ・・・」
「う、うっさい!!」
翼刀のからかいに、唯子が反論する。
その光景を見て、蒔風は軽く笑うが、そこで何かが引っかかった。
「・・・・・・ちょっといいか」
「はい?」
「いや、そっちじゃなくて」
話しかけられたのか、と振り返る翼刀だが、蒔風は通信機に向かって話していた。
それからまた少し考え始め、顎に手を当てる。
「まさか・・・だが、これなら―――――」
「舜さん?」
「何とかなるかもしれない!!」
「マジで!?」
「え、え?」
蒔風の表情はいまだ堅いものの、その先には何はビジョンが見えているようだ。
そして唯子に振り返り、抱き付いていった。
「へぇあ!?」
「サンキュー唯子!!お前ほんと最高だよ!!」
「ちょ、舜さん!!放しなさい・・・はな・・・放せ!!そして離れろぉ!!!」
その蒔風を翼刀が慌てて引きはがし、蒔風はごめんごめんと謝った。
「だが時間がない―――行けるか?」
即座に通信機を取出し、連絡を取る蒔風。
相手は
「凛か」
『なによ。そっちは大変みたいだけど』
「今どこだよ」
『冬木よ。こっちは体ごと消えたり大変だったんだから―――――』
「これるか?」
『ちょ、こっちの話聞いてた?こっちは』
「こっちも大変なんだ」
『・・・・行けるわ』
「サンキュ。アリスに頼んで扉つなげるから、「EARTH」で待っててくれ」
そう伝えてからアリスにも連絡し、遠坂邸と「EARTH」(仮)の扉をつなげるように頼む。
蒔風自身も「EARTH」(仮)へと向かい、その道中で七獣を取出し召喚。
白虎だけを残してそろった六人に、指令を出す。
「お前らが望みだ」
「理屈はわかるが・・・・」
「出来るのかの?」
「これしか現状手はない。やるんだ」
「ま、そうですね」
その場から消え、目標へと向かう六人。
そうしていると建物に到着し、アリスと凛が待っていた。
「連れてきましたが・・・・」
「来てくれてありがとな。冬木も大変だったろ?」
「こっちに比べれば大したことないわ」
「またまた・・・あとは長門だ。中に?」
「いますよ」
アリス、凛に加えて、長門も呼び出してよし、と頷く蒔風。
あまり接点のない長門をチラ見しながら、凛が口を開く。
「で、どうすんのよ」
「凛。令呪っていうのはマスターから奪うこともできるんだよな?」
蒔風の質問。
それに対し、バカにしてるの?と言わんばかりに凛が答えた。
「そうよ」
「相手の意思にかかわらず?」
「ええ。ま、その場合は激痛を伴うけど・・・って、んなことあんただって知ってるでしょ」
「――――まさか」
「ああ、アリス。そのまさかだ」
「え?」
「セルトマンの令呪を奪うぞ」
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「ガ・・・かっ!!カァー、ブェッ!!」
バタバタ、ドタン!と
地面に転がっていた何か黒いものが動き出して立ち上がった。
黒いものの正体は、炭化した人間だ。
だがその表面がボロボロと剥がれ落ちていって、その下からセルトマンの顔がのぞきでてきた。
「強烈ゥ~・・・まさか全身炭化させられるとは思わなかった」
セルトマンがいるのは、「EARTH」の敷地内。
周囲には、内外を隔てる柵が転がっていた。
どうやらゴジラによって吹き飛ばされ、柵に当たってそれごとここまで吹き飛んで来たらしい。
だが彼自身はまだゴジラへの闘争心を失ったわけではないようで、立ち上がって首を鳴らす。
腕、足の筋を伸ばし、そして先へと進もうとして
「お前らだけで来るとはな」
背後に揃う、六人へと声をかけた。
「青龍、朱雀、玄武、天馬、獅子、麒麟・・・・あれ、白虎は?」
「彼は・・・・主のもとです・・・・」
「そうかい」
振り返って言葉を交わしたセルトマンだが、それだけ反してまた背を向けてしまった。
彼としては彼らよりもゴジラとの戦いのほうが重要ということだろう。
だが、駆けだそうとするその背に天馬が挑発的な声で語りかけた。
「ま、逃げんならそれでもいいけどよ」
ピタリ、とセルトマンの動きが止まる。
そして振り返り、背後の六人を睨みつけた。
「・・・・・ア?」
「肋骨の秘密暴かれてよ」
「しかも余裕ぶっていた割には」
「簡単に・・・・騙され・・・・」
「主に斬られてオロオロして」
「その当人に背を向けたくなるのもわかるというもの」
「まあ気持ちはわかりますよ、ええ」
「ンだと?」
ユラリと、セルトマンが振り返る。
だが彼らの言葉は止まらず
「アーカイヴアーカイヴ言っていたが」
「それが崩れると狼狽えてたのう」
「えーん、僕どうすればいいかわからないよー、ってか?」
「しかも、秘密を暴かれた敵に背を向け」
「勝てそうな相手に向かうとは」
「・・・・黙れ」
六人の言葉が、断続的にセルトマンの心を抉る。
アーカイヴ通りに進めてきたのは、、確かに堅実で確実だ。
セルトマンの余裕も強さも、そこにある。
だからこそ、それがコンプレックスだった。
完全なる肉体。
最新最古の人類として存在を得た彼だが、それがなかったらここまで来れたのか。
勝ち進んでくる自信はある。
だが、絶対かと言われれば――――
そう
だからこそ、そこを突かれたセルトマンは激昂するのだ。
安全パイしか切らない、チキン野郎だといわれるのは我慢ならない。
「そこか蒔風・・・・ですか・・・・プフッ」
「テメェ、ブチコロシだぞォ゛ラァ゛!!!」
そして、ついに青龍の言葉にキレた。
今のセルトマンにアーカイヴはない。
故に、このままでいいのかという不安は当然あった。
アーカイヴ頼り。
そこをこのような形で挑発されては、セルトマンは止まれなかった。
「行きますよ―――――!!」
朱雀による槍の一閃。
それを真正面から手のひらで受け止めるセルトマン。
上腕部まで貫く朱雀槍。
だがセルトマンはそのまま槍を掴み引き寄せ、朱雀に蹴りをぶち込んだ。
ゲハッ!!と空気を吐き出して転がる朱雀。
その朱雀に見下すように唾を吐き、腕を引き裂いて槍を強引に抜くセルトマン。
そしてその槍を、天馬へと思いっきり投げつけた。
轟音を上げて飛来するそれを弾く天馬だが、それと同等の速度で接近してきたセルトマンの頭突きで顔面から吹き飛び、さらにセルトマンの振るった左右の腕は玄武と麒麟の喉に命中して弾き飛ばした。
「もらった!!」
その隙に、背後に回っていた獅子がセルトマンの身体に糸を巻き付けその動きを止める。
ギチリと肉に食い込み、血を噴出させるほどの締め上げを見せる糸。
だが、それを気にすることもなく引き上げるセルトマン。
締め上げられているのは、両肩と両太ももの付け根。
セルトマンはそのうちの左半身を捨てて、獅子の顔面へと靴底をめり込ませた。
ボトリと落ちる左の腕と脚。
その瞬間からそれらは崩壊をはじめ、セルトマンは回復を始める。
「テメェらは砲撃だとかじゃ殺さねぇ。踏み潰して、捩じり切って、この素手でぶち殺さなきゃ気が済まねぇ」
たとえ活動不能になっても、七獣たちが本当の意味で「死ぬ」ということはあり得ない。
世界四剣は、そのどれもが不壊である。たとえその場は損壊しても、時間とともに再生する。
そのうち、天剣と神剣は完全不壊だ。
使役獣行動不能ということはあっても、剣そのものは壊れない。
だが、それが相手であるにもかかわらず、セルトマンは言う。
貴様らを殺す――――と
たとえ今この場で剣に戻り、蒔風のもとに戻ろうとも
たとえその先で蒔風が死に、新たな主を手に入れても
お前らが死にたいと思うだけ、何度も何度も殺してやる。
光の粒子を漏らしながら、消えていく天馬や獅子、玄武たちの身体を眺めながら、怒りの形相で振り返るセルトマン。
顔の周りには真っ赤な血管が浮き彫りになっており、とても人間とは思えない。
目はギラつき、歯は剥き出し、髪は逆立ってすらいるその姿は
「何が完全ですか・・・・本性は化け物・・・・じゃないですか・・・・」
ドスッ
率直な感想。
セルトマンのその姿を見て、青龍が漏らす。
だが、そういいながらも青龍は任務を果たす。
手にしているのは、白虎釵。
しかし、突き刺しているのはセルトマンの身体にではない。
「お前・・・・?」
「誹謗中傷・・・・失礼いたしました・・・・しかしこうでもしないと・・・・あなたは向ってこないでしょうし・・・・隙もつけませんでしたので・・・・」
突き刺しているのは、千切れたセルトマンの左腕と左脚。
地面に置き、白虎釵で二つまとめて突き刺していた。
「なにを・・・・」
セルトマンの表情が怪訝なものに変わっていく。
先ほどの形相がみるみる引っ込み、いつものセルトマンの表情へと変わっていく。
「白虎釵は・・・・我々の内で唯一の二本一対・・・・」
二つ合わせて白虎釵。
つまり、それぞれはつながっているのだ。
瞬間、突き刺していたセルトマンの腕と脚が消えた。
それと同時にセルトマンの砲撃が青龍の胴体に穴をあける。
しかし
「ゴブ・・・・ゲハ・・・・もう、遅い・・・・」
苦しそうに咳を漏らし、口から大量の血を吐き出して倒れていく青龍。
だがその顔は勝ち誇っており、ザラリと消えると同時にカランと白虎釵が落ち、それも消える。
「なにを・・・・まさか!?」
セルトマンが駆けだす。
先ほどの怒りはどこへやら。焦りを見せるセルトマンは、なんとなくわかっていた。
だが、だからと言って何ができるというのか――――
「蒔風!!」
「よう、セルトマン」
「EARTH」(仮)の前。
そこにたどり着いたセルトマンは、真っ先に見つけ出した人物の名を叫んだ。
蒔風。
そして、そのそばにいるのはアリスと凛だ。
その足元には魔法陣が展開しており、そしてその役割を終えたと言わんばかりに消えていく。
「まさか、貴様」
「ああ、もらったぜ。さすがだ凛。確かに三画、もらったぞ」
かざす手の甲。
そこには確かに、三画の令呪が。
見せつけるようにかざす蒔風に、しかしセルトマンは挑発的に笑う。
「何を召喚する気だ?」
令呪を手に入れて、それくらいしかすることなど思いつかない。
だが、何を召喚するというのか。
「ゴジラに対して有効な怪獣でも召喚するか?」
だがそれはできない。
聖杯の接続元はアーカイヴ。
そこにはない存在は召喚できないし、ゴジラはセルトマンのデータありきでの召喚だ。
「出来ないだろう?」
「ああ、できないな」
あざ笑うセルトマンに対して、蒔風も同意する。
しかし、蒔風の顔に敗北はなく。
「だけどよ、召喚できる奴が―――――一体だけいるだろ?」
「まさか――――!!!」
セルトマンの顔が引きつる。
確かに、それなら倒せるだろう。だが、まさかそんな。
そんなことを思いつくとは―――――!!!
「下手をすればこの世界ごと吹き飛ぶぞ!!」
「このままだと消えるんだから、やらないほうが下手じゃねーかよ」
それに、ここまでしたのはお前だろと、しかしいたずらをする時のような顔で蒔風が笑う。
「なあ?」
「くっ・・・だ、だが無駄だ!!あの大聖杯は、令呪があろうとも召喚はできない!!こうなることを俺が想定できなかったとでも思うのか!!」
サーヴァントシステム上、令呪を奪われることは十分に予測がつく。
故に、仮に奪われても大聖杯に「召喚」は通じないのだ。
「どうする?大聖杯の中に入るか?させねえよ!!」
そう。セルトマンを除く存在は、召喚するためには最悪大聖杯内部に入らなければならない。
しかし、それをもはや許すセルトマンではないだろう。
「させるとでも」
「お前忘れてないか?」
蒔風が立ち上がる。
そして、後ろに下がりセルトマンを見る。
背後にある「それ」をバンと叩き、にやりと笑って号令を出した。
「長門。頼む」
「情報の連結を解除する」
その単語とともに、蒔風の背後の「EARTH」(仮)が消滅していく――――!!!
「な・・・しま」
そうだった。
この建物はどこから来たのか。
一体誰が、何を使って作り出したものだったか。
思い出せ。
確かこの建物は、アリスが「大聖杯の魔力をかすめ取って実体化させた」建物だったはず――――!!!
「ヤバい・・・・」
「構成を解かれたこいつは魔力となって散っていく。その大本は大聖杯の魔力なんだから、戻っていくのは至極当然!!」
そして、その戻っていく魔力のラインを伝って、蒔風の令呪が強い輝きを放ち始める。
「ゴジラってよー、仲間思いなんだよな」
輝く令呪は、次第に銀箔の魔力を帯びてその準備を終える。
「息子のために全力を尽くし、自分の細胞が利用されればそいつを粉砕する。同族の骨なんか使ったら襲い掛かる」
しかし、そうして生まれたものもまたゴジラ。
その最大の例として、そうして生まれながらもゴジラ以上の力を得たスペースゴジラを、ゴジラは見事に撃破している。
「全く・・・核を抑止する兵器は核兵器だとはよく言ったもんだ」
皮肉ったらしく蒔風が呟く。
そう、この水爆大怪獣を倒しうる生物もまた、同族の怪獣王――――
「来い、ゴジラ」
起死回生の一手。
これが本当に
「最後の一手だ―――――!!!」
to be continued
後書き
なんということでしょう。
ゴジラ対抗策には、やはりゴジラだったという。
核抑止のために核を持つというジレンマと、こうして繋がってしまうとはやはり因果なものですね・・・・
そしてやはり七獣は重要だった。
蒔風も休んでいたから、きっとあれだけはできたんですね。
それにしても煽りまくりでしたね。
セルトマンって案外豆腐メンタル。
きっとアーカイヴに頼りきりにならなければ、あんな簡単にキレたりしなかったでしょうね。
ギル様は戦わせようと思ったんですが、どうやらそういう世界ではなかったようです。
ヴィマーナに乗って打ちまくるギル。
ゴジラ、放射熱線で跳び上がって真上のギル叩き落とすとか考えたんですけどね。
さて、戦いももう最後。
出来れば次回、伸びれば次々回で完結する勢いかも?
蒔風
「次回。怪獣王相殺」
では、また次回
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