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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  Archive/原典



今までのあらすじ

思わぬ増援。
現れた仮面ライダーたちに後押しされ、窮地を脱することに成功する蒔風。

しかし、これはその場凌ぎ。いずれはセルトマンの勝利に終わるだろう。
彼の、力の源を解かぬ限りは。



そのころ、消えたはずのショウたちが目を覚ました。
飛ばされた先は、どこまでも白い空間。

そこに並ぶ本棚には、さまざまな形式で保存される原典。

「ここはアーカイヴだ」
そう告げ、探索を始める。ここに、いったい何があるのか。

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参考

アーカイヴ図(「|」これで棚一つ。長いのは二つ並びです)

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   ↑
   ショウたちはこっちからやってきた

・=パソコン(点の左側の棚に入って並んでいる(通路にポツン、ではない))


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「にしても、なんでこんなとこ来たんですかね?」

「へぇー」と、感心気味に棚に並ぶ原典を眺めながら、翼刀が呟く。


「セルトマンは大聖杯に繋ぐだけじゃなく、自身もここにアクセスしていた。俺の対処とおまえの攻撃で空間に穴が開いて、あいつの魔力からたどって辿り着いた、ってところかな」

翼刀の質問に、棚の向こうにいるショウが応える。
ちらちらと見える向こう側のそのショウに、なるほどーと後ろからついてくる唯子が感想を漏らした。


「で、ここに何があるんです?あ、リトルバスターズだ」

「へー、鈴ちゃんとかがいた世界のだよね?どんなの?」

「あ、おい勝手に・・・」

「・・・・ねえ」

「なんだ」

「主人公なのに、理樹くんがパッケージに描かれてないよ?」

「・・・・そういうゲームなんだろ」

まるで商品のようにこちら側に正面を向けて並べられている箱から目をそらし、先に進む三人。



「DVD、DVD、小説、漫画、漫画、DVD、小説、ゲーム・・・・」

「パソコンがありましたよ、ショウさん」

「ま、そういうゲームもおいてあるからな、ここには」

「いえ、そうじゃなくて・・・・」

「ん?」


翼刀の声に、ショウが回り込んでくる。

アーカイヴのど真ん中に当たる位置。翼刀は、そこにあったパソコンを指差している。
ショウが隣に来るとパソコンをの前をあけ、ディスプレイを見せ

「これは・・・・メモ帳?」

「はい。で、これが入ってたファイル名が・・・・・」

「・・・なるほど」

ずらりと並んだデータ。
ナンバリングされて並んでいるそれは、総数500を超える数のメモ帳だ。


「なんでワードじゃないんだ」

「さあ?」

そして、そのファイル名は「世界をめぐる、銀白の翼」

ショウには聞き覚えのある単語。
なにせ、結合直後の蒔風との最後の戦い。その時のWORLD LINKで流れた単語なのだから。

すなわち、それが世界名だ。


「セルトマンはこれを読んでいたのか」

「たぶん。でも、おかしいんですよ」

「なにが」

「ここにあるのは、確かに俺たちの世界です。でも、未来の情報なんてどこにも載ってないんです」

「・・・・・・は?」

画面をスクロールし、最後の項目を表示させる。
だが、行きついた先は現時点でのショウたちの足取りだけ。

未来の情報など、乗っているはずもなかった。


「・・・・」

「あの、これっていったい・・・・」

黙って眺めるショウに、不安そうな声で問う翼刀。
だが何かを思いついたのか、マウスを操作して別の画面を開く。

表示オプションを開き、いくつかの項目にチェックを入れ、そして先ほどのフォルダへと戻ると


「あ」

「隠しファイル、か」

半透明の形となって表示されたメモ帳。
並び順からして、おそらくこれが未来の情報だ。

だが、クリックしても開けない。
代わりに表れる警告文には「現在のユーザーには閲覧権限がありません」と出るだけであった。


「ユーザー権限?」

「たぶん、パソコンっていう形式に合わせて言ってるだけだ。要は俺らじゃ見れない、ってことだよ」

パソコンを操作する人間で識別しているらしいそのファイルを眺めながら、ショウがため息をつく。


「これを見ることができるってことは、セルトマンは権限があるってことですよね?」

「まあな・・・・」


だが、その権限とは何だ?
自分も翼刀も、この世界では主要人物と言える。

まさか最主要である蒔風でしか開けない?
いやいや。じゃあなんでセルトマンが開けるんだ。

未来の情報・・・・


「オレ達がこれを見れないのは、あくまでもおれたちはこの時間の人間だから、か?」

そう。
自分たちが今の情報までしか見れないのは、自分たちがあくまでもその時間までの人間だから。

そうつぶやくショウに、ちょっと待ってくれと翼刀が口をはさんだ。


「いやいやちょっと待ってくださいよ。じゃあなんですか。セルトマンは未来人だったってことですか!?」

「だけどさ、それならもっと確実な情報が手に入ってもおかしくない?」

「そうなんだ。だからわからない」


これの閲覧権限。
セルトマンの正体。

わからないことがさらに深まってしまった気がする。

パソコンの前を離れて考え出すショウと変わって、翼刀が過去のデータを開いては流し読みしていく。
いろいろと聞いた話の内容だが、こうして読むとまたおもしろいものがる。

「うわ、ショウさんマジで昔ロクでもない奴だったんすね・・・・」

「いや、舜さんのも・・・ちょっと引くところあるけどね」

「まああのころは二人ともイカれてたらしいから」

「そっか!!じゃあ翼刀のファイルオープン!!」

「うぁめ!?や、やめろ。ヤメロォ!!」

ギャイギャイとモニター前で騒ぎ出す二人。
とりあえず拳骨をくらわせてから黙らせるショウ。


「うぅ・・・痛い・・・」

「お前のせいだかんな・・・・」

「だ、だって翼刀も」


「あぁ?」


「「ごめんなさい」」


ショウの一睨みで黙る二人。
怒らせたら、この人はヤバい。

とにもかくにも、立ち上がって本棚に手を伸ばす唯子。


その中にあった「とある魔術の禁書目録」と書かれた本に目がついた。
先ほどのゲームとは違い、背表紙を向けてずらりと並んでいる。


「とある魔術の・・・・インデックス?」

「あ、じゃあこれ上条さんのかもね」

「主人公でもタイトルに名前でないのか・・・・」

「ほら、でも表紙には載ってるかもよ?」

そう言って手を伸ばす。
掴み、引き抜こうとして


「あれ?抜けない」

本を掴んでも、引き抜けないことに気付く。
いくら引っ張っても、最後には本から手が離れてしまうのだ。


「なにこれ?」

「さあ・・・さっきのパソコンは見れたんだから、これが見れないなんてことは・・・・」

やってみる、と翼刀が腕をまくる。
そして本を掴んで引っ張り、動かないから踏ん張り、そして半分キレ気味に強引に引いた。


「おらぁ!!」



「いぢっ!?」

抜けない。それどころか、電撃のようなものが走って翼刀の手に鋭い痛みを走らせた

いてー、と手を振って抑える翼刀だが、すぐに目の前の異常に目がいった。


「なにこれ」

本棚を、赤い色をした網が覆っていた。

網の形は、多角形に広がっている。
つまるところ、蜘蛛の巣のような形で縛りつけていたのだ。

「これのせいで?」

「でも、これじゃまるで」

封印、という感じだ。
そして、それは正しい。強引に引き抜こうとしたために、それが視覚化されたのだ。


「じゃあ、みんなが消えたのはこれのせい!?」

「だったら吹っ飛ばせば」

「原典ごとやったらどうなるかわからないじゃん!?」

「そうか・・・・」

とりあえずショウに言うべきだ。
そうして振り返る二人。

と、そこで少し視線を上にしたところで言葉が詰まってしまった。



「あ、あの、ショウさん」

「なんだよ?」


今彼らの立ち位置を説明すると、三人はアーカイヴの真ん中にあるパソコンの前だ。

翼刀はパソコンの棚に背を向け、ショウはパソコンの棚の方向を向いている。

向き合う二人だが、翼刀と唯子の視線は上に。
ショウが背にしている棚の上だ。


なんだよおまえら、とあきれるショウの肩に、ペトリと何かが垂れてきた。
それを手に取ってみるショウは、即座に嫌な顔をして気味悪がり

「うえー・・・なんだよこr」

上を向いて、それをみた。


ギラギラと光る、赤い八目。
頭しかのぞかせていないが、全長を見るのはもっといやだ。

顎から除く鋏のような牙がカチカチと鳴らされていて、人ひとりムシャムシャと食べられるサイズだからだ。
腹部がどれだけの大きさかなんて、見たくもない。

落ちないように掴んでいる爪が頭の左右からちょこんと見えているが、実際にはチョコンどころじゃないはずだ。

しかも、見える爪の数は左右に二個ずつ、合わせ四つ。
あれが思い当たる生物の形をしているのなら、きっと向こう側にもう四つの足があるのだろう。


お分かりだと思うが、その大きな大きな生物は、八つの目と足で獲物を食らう、あのお馴染みの節足動物だった。


「「「蜘蛛ーーーーー!?」」」

うわぁーーー!!と叫ぶと同時に動き出す蜘蛛と三人。

ガチャガチャと本棚をよじ登り、そして落ちてきてその前脚が翼刀と唯子を、尻に当たる部分がショウをつぶそうと襲い掛かってきのだ。
ショウは叫ぶだけで動けない二人に駆け寄り抱え、叫びながらもその場からダッシュで逃げだした。


「うぉぉおおお!?お、お、お前らもう自分で走れ!!」

「は、はいぃ!!」

「なんなんすかあれ、なんなんすかあれ!?」

「でかい蜘蛛!!」

「ンなこと聞いてんじゃねーよ!!」

「たぶんここの防衛プログラムみたいなのだろ!?」

「あだっ!?」

走りながら叫ぶ彼らだが、唯子がおでこを何かにぶつけて弾かれたように後ろに倒れた。
立ち止まり大丈夫かと立たせる翼刀と、何かあるのかと警戒するショウ。

と、唯子がぶつかった地点で手を前に出すと、コンコンと何か壁のようなものに手が当たったのを感じる。


「壁があるぞ」

「うそ!?だって俺らもっと向こうから来ましたよね!?」

「ここにいる人間と、アーカイブの大きさに合わせているのかもな」

「じゃあ今の範囲は本棚分とちょっとですか!?」

「ギッチギチっていうほどの空間じゃなさそうだけどな」

「って蜘蛛きてるよ翼刀!!!」


のんきに話し出す二人だが、蜘蛛の接近は止まっていない。
向かってきたその巨大蜘蛛に向かって、唯子がレヴィンを発動させて手刀を振り上げた。

距離はまだ十メートルほど離れていたが、手刀を包んだ大太刀の形態をとったレヴィンの刃の切っ先は蜘蛛に届いたようだ。
だが蜘蛛の硬度も高かったらしく、顎の鋏と火花を散らして衝突し、斬られることなく打ち上げられる。


と、三人の上空へと上がっていく蜘蛛が、ベタッ!と何かに張り付いた。
先ほど唯子がぶつかった「見えない壁」は高さの制限がないようだ。

お、と見上げる三人に向かって、蜘蛛が口を開き、そこから赤い糸を吐き出してくる。

それをとっさに避ける三人。
地面にべちゃりと張り付いたそれを見て、翼刀が本棚の網を思い出した。


「そうか!!封印はこいつのせいだ!!」

「あぁ!?じゃあこいつはアーカイヴのプログラムじゃなくて」

「セルトマンのウイルス、ってことですかね!!」

ブァッ!と飛び降りてきた蜘蛛を避け、分散する三人。
翼刀と唯子がさっき走ってきた道を戻っていき、ショウが蜘蛛の右側に向かって走り出した。


「引き付けるぞ、唯子!!」

「おっけい!!」

ヴァルクヴェインを取り出し、ステップを踏んで回転しながら後方へと刃幕を走らせる翼刀。
だがその刃は蜘蛛の吐き出した網に絡め取られてしまい、さらに吐き出された糸で球体へと固められていく。

「やぁべ」

「ちょっと翼刀!?」

翼刀が正面を向いて走り出すと同時、翼刀の踵ギリギリの場所にその球が叩き込まれた。
刃が飛び出しているそれはまるでモーニングスターであり、ほんの少し走るのを緩めていたら下半身が拭き取んでいたところだ。


「あっぶな、あっぶな!!」

「ちょっともう何やってんのよ!!」

蜘蛛はブチリと糸を切ってその武器を放棄し、なおも前脚を振り上げて鋏を鳴らして二人を追う。
ブンブンと振られていくそれを回避しながら走り続けていくと、先ほどのパソコンの前を通過し、短いその本棚が切れて横の通路が開ける。


「おぉらあああ!!!」

と、そこで回り込んできたショウが横合いから蜘蛛を思い切りなぐりつけた。
ドフン!!という重い一撃に(そんな感情があるかわからないが)蜘蛛が驚き、90度方向を変えて、それ以上の速度で吹っ飛んだ。

だがガチガチと動き続ける八本の足は本棚や床を掴もうと暴れ、後ろ四本を壁に、残りを本棚と床につける形で停止する。


さっきまで走ってきた床は陥没し、ところによっては割れたりもしているが、時間経過とともにうっすらと直っていく。
まるでゲームでオブジェを壊してから、時間経過で直っていくのをリアルで眺めているかのようだ。

そして、本棚のほうは無傷である。
吹き飛んだ蜘蛛が足をひっかけても倒れず、中のものは傷一つつかないのだから、さすがはアーカイヴといったところか。


「あいつ重ぇ・・・・」

ショウが蜘蛛を振り上げ切りつけたのは、いうまでもなく魔導八天だ。
だが八本すべて合わせた、本当の意味での「魔導八天」での一撃だったというのに、蜘蛛の風船のような腹部は大きく窪み弾かれただけで大した外傷はない。

まるでその弾力が衝撃を受け止めてしまったかのようだ。


「鋏は堅い、腹は重い。なんだあいつ。重機かよ」

「蜘蛛があのサイズになったらそんなもんじゃないですかね?」

「でかい虫キモイ!!ヤバい!!」

われわれが見ているサイズでは可愛らしい(こともある)かもしれない虫も、人間以上のサイズになるとひたすらにグロいものだ。
ゾワゾワと鳥肌を立てる唯子に、落ち着けって、とあきれる翼刀。


「ま、ゴキブリじゃなくてよかったな」

「ひぅっ!?」

「カブトムシとかなら、体毛とかないからよかったんだけどなぁ・・・・でもカマキリだったらヤバい」

「うぅ・・・」

「あー、あいつら目とかヤバいしな。ゲジゲジだったら動きもやばいし」

「うひぁ!!」

「スズメバチだったら俺ら肉団子っすよ?」

「あぁぁああああ・・・・バカぁ!!!」


「「ウブィッ!?」」



二人の昆虫談義に鳥肌を立てる唯子が、衝動のあまり手を出してしまう。
きっと唯子は悪くない。


「おまえ虫とか大丈夫だったじゃん・・・・」

「あんなデカいの見せられながらじゃなきゃね!!!」


猛スピードで駆けてくる巨大蜘蛛。
三人がバラバラに逃げ出し、今度はショウを追って左へと曲がる。

腕を後方にふるって、小さな波動弾をバラバラと放ち攻撃していくショウだが、周囲や体に起こる爆発をものともせずに、蜘蛛は一直線に突っ込んできた。


そしてやはり壁にまで行き当たり、そこで少し立ち止まってから左へと飛び退く。
止まり切れなかったのか、後方からドォン!という激突する音がしたが、半ば寄りかかりながら強引にショウを追ってくる蜘蛛。


バシュバシュバシュゥ!!という音がして、何が起きたかとショウが振り返ると、一直線に吐き出された糸が脇腹を掠めて突っ込んできたではないか。

「う・・・おっ!?」

掠めた、と聞けば回避できたかのように聞こえるが、これは粘着性のある蜘蛛の糸だ。
服が引っ張られ、そのまま壁まで引き摺られてしまうショウ。


「クソッ・・・・」

服を引きちぎろうと手をかけるショウだが、逆に糸が絡んできて手まで粘ついてしまう。
完全に逃げ場を失い、ショウが最終手段に出ようとしたとき――――

「パニッシャァーーー、キィック!!!」

唯子の跳び蹴りが、蜘蛛を真上から押しつぶした。


「プギゥ・・・ギュエェ!!!」

飛び降りた一撃に加え、後から叩き込まれた不動脚が効いたのか、そんな声を上げて止まる蜘蛛。
だが余計に怒らせただけらしく、わきに着地した唯子を追い、そのまま角を曲がって行ってしまう。


「平気ですか!!」

「なんとかな」

と、蜘蛛のいなくなった後に翼刀が来て、糸を切って焼いてショウを開放する。




その頃、追われている唯子は


「ちょっと待ってぇぇええええええええ!!」

蜘蛛に追われて、涙目だった。

全力でダッシュする彼女は、蜘蛛の勢いに決して負けていない。
だが八本ある蜘蛛の動きは、思った以上に激しい。

しかもそれは、回避に直結して

「破ッ、破ァッ!!」

レヴィンを固めて飛ばした刃を、左右の壁などに飛びついて回避する蜘蛛。
それで速度が落ちないのだから、驚異の瞬発力だといえる。


アーカイヴを縦に駆け抜けてきたが、そろそろ壁のはず。
ここらで曲がっていかないとな、と唯子が確認がてらに振り向くと、飛んでくるのは蜘蛛の糸。

「ベトベトは嫌だ!!」

ショウの捕まっていたのを思い出し、顔を青くして回避する。
だが糸の先端はそのまま壁に張り付き、一直線に張り詰める。


「え・・・ちょっと待ってねえ。そんなことしないでよぉッ!!!?」

蜘蛛の思惑に気づき、唯子がラストスパートを切って角を曲がる。
直後、壁に向かって蜘蛛が糸の伸縮性を利用しての突進をぶちかましていた。

もし曲がるのが遅ければ、あの巨体でミンチになっていたことだろう。

ズボォ、と土煙の中から顔を出して頭を振る蜘蛛。
そして唯子を見つけると、再び糸を吐き出して


「もういやぁ!!」

唯子の背後の先にある壁へと糸を飛ばし、一気に飛び出して突進していく。
それを横に跳び、通路に入り込んで回避する唯子。

「横でよかった、横でよかった!!!」

先ほどと違い、すぐに通路のある場所だったので回避に成功する唯子。
アーカイヴの本棚の並び方に喜びながら、また走り出す。

だが蜘蛛のほうも、唯子が回避したと見るや否や糸を切り離して、本棚にしがみついて急ブレーキをかけていた。

結果的に蜘蛛は唯子よりも一列向こう側の通路に入り、本棚をよじ登ってその上を爆走、糸を弾丸のように打ち出しながら唯子の後を追い始める。


唯子はというと、背後上部から吐き出される糸の弾丸が床を穿ち、先回りして打たれたそれによって足を取られてしまった。
勢いが勢いだったために宙へと浮く唯子の体だが、彼女はあわてながらも即座に対策を講じていた。


「レヴィン、モード・フィールド、ブレードブーツ!!!」

薄く膜状に張ったレヴィンを、足元に展開する。
唯子が走る一列の通路の床のみをレヴィンで覆い、さらにスケートシューズのように、足の裏に刃を装着してその上を滑っていく。

初速こそは先程よりも劣るが、加速していくうちにどんどん速度を上げていくことができる。
これなら、ぶっちぎりだ。

それに気づいた蜘蛛はというと、そうなる前に手を打った。
とはいっても、先ほどと手段は変わらない。


糸を先の壁に打ち込み、それを引くことでの高速直線移動。
今回も同じようにそうした。

本棚の上から跳び、壁に向かって糸を吐く。


そして、唯子の上空から襲い掛かるように突っ込んでいき―――――


「そう来ると、思ってたわよ!!」

唯子が反転して振り返り、ザギッ!!と急停止した。
そして足元のフィールドとブレードブーツを消し、手甲の形状でレヴィンを纏う。

さらに気力が手から吹き出し、伸び、刀の形をとってからレヴィンで固定される。



一瞬の交差。
その時がやってくる。

唯子が、突っ込んでくる蜘蛛に向かって刀を突きだす。
蜘蛛の口へと侵入していく刃は、その瞬間に一気に刀身を伸ばして蜘蛛の体内を串刺しにする。


同時、噛みついて来ようとした牙や鋏を、肘を張って手甲でガード。
一気にしゃがみこんで振り下ろし、体内を通過していった刃を蜘蛛の腹から引き出した。


「ゴァ―――――!!!」

そのままの勢いで、壁へと激突する蜘蛛。

だが顔がひしゃげて体液をぼたぼたとたらしながらも、そいつの眼はギラギラと光っていた。
貫通し、まるで開きのように切り裂かれた蜘蛛だが、それでもこいつは死なないらしい。


「ギュゥゥゥウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

怒り狂ったかのような雄叫びを上げながら、再び唯子へと襲い掛かる蜘蛛。



吐き出される糸を固めた弾丸を弾き飛ばしながら、唯子がレヴィンでの幕を張って防ぐ。
そしてそこに蜘蛛が到達、圧し掛かるように上体ごと前脚を振り落してきた。

受け止める唯子。
接触部分は蜘蛛の顎と前脚だ。

蜘蛛との圧倒的なウェイト差に押し込まれ、床を削りながら押し込まれ後退する唯子。
だがガクンッ!とそれを押し止め、化け物のこれ以上の進行を停止させた。



蜘蛛の牙と爪が衝突している点から、激しい火花が散っていく。
まるで丸ノコで金属を切っているかのような火花が周囲を照らし、そしてその火花に乗じて、翼刀とショウは左右に回り込んでいた。



「唯子、よくやった!!」

「いきますよ!!」


ショウの来るタイミングに合わせ、翼刀がジャンプして蜘蛛の腹部へと跳び上がった。

反対側からの一撃。
その一撃が身体を抜けていく瞬間に、反対側からの一撃を叩き込めば――――

だが、翼刀の身体はいとも簡単に蜘蛛の脚に弾かれた。
ベチッ!!と軽く振られた脚だが、このサイズ差では翼刀にとっては鉄骨のフルスイングに近い。


ガードはしたが、その重さに吹き飛ばされて距離を離されてしまう。
だが、吹き飛ばされながらも翼刀はヴァルクヴェインを取出し、床が近づいてくるとそれを突き刺した。

角度をつけて刺さったヴァルクヴェインに足を駆ける翼刀。
瞬間、吹き飛んだその勢いを反転させ、刃を射出する反動で一気に飛び出していく。



「合わせます!!ショウさん!!!」

「食らえデカ物!!」

再び、蜘蛛への一撃を放つショウ。
今度は腹部の左側へ。

翼刀の時と同じように振られる脚だが、身体をひねってそれを回避するショウ。
そしてそのまま魔導八天で切り落とし、蜘蛛の甲高い悲鳴とともに叩き込む。


「斬れろやゴラァ!!!」

先ほどよりも力を込めた一撃。
だが叫びとは裏腹に、結局蜘蛛に切れ込みは入らなかった。脚と腹とでは違うらしい。

だがグボンと窪んだ腹は波打ち、巨大なクモの身体は、吹き取んで行こうとグラリと浮き出す。


「不ッ――――動、拳ッッ!!」

が、その蜘蛛に向かって、反転してきた翼刀が到達した。
拳を突き出したままの体勢でヴァルクヴェインに乗り、ショウの反対側からめり込んでいった。

そして、そのまま不動拳。
丸々勢いを乗せたままでのその一撃は、揺れる腹部に別の波紋を生み出した。


「お?偶然だけど、これ動不動じゃね!?」

完全に偶然の産物だが、結果的に成功したその一撃に喜ぶ翼刀。

そして反対側から打ち込まれたその一撃のせいで吹き飛ぶこともできず、蜘蛛の腹部がグマグマと揺れ動き、それがついに蜘蛛の腹部をパチン、とぶち破った。



「やべっ!?」

「ゆ、唯子ーーー!!」

「ま、間に合ってレヴィン!!」


弾けた蜘蛛の腹からあふれ出たドロドロとした液体が、三人に向かって降りかかる。
どんな液体かもわからない以上、不用意に触れるわけにもいかないため、唯子が即座に幕を張って三人をドーム状に覆って液体から身を守った。


「ぅええ・・・・」

「さ、サンキュ・・・唯子」

「助かったな」

溶けていくように消えていく毒液。
蒸発ではなく、どうやら完全に消滅のようだ。


「倒したってことすかね?」

「だろうな。ほら」

周囲に視線を古翼刀に、ショウが本棚を指さした。

ハラハラと散っていく蜘蛛の巣。
それと同時に、アーカイヴが息を吹き返したかのように光りだした。


「さて、問題はどうやって帰るかだけど」

「勝手に追い出されるだろ」


「ギィィイイイイイイ!!!」


談笑する翼刀とショウ。
その背後から、頭部だけになった蜘蛛がとびかかってきた。

あごの鋏が飛び出して、二人を上下に切断しようと開く。
その叫びを聞いて振り返り、とっさに身構える二人だが


「ギ――――ギュシュァ・・・・」

一気に減速し、床に落ちる蜘蛛。
ザリザリザリと床をこすりながら接近し、二人の眼前で止まる。

もはやその目に光はなく、どろりと濁った色をしていた。
そしてそのまま、どろりと溶けて消滅してしまう。


「もぅ、油断しすぎっしょー」

そう言うのは、蜘蛛の向こう側にいた唯子。
レヴィンを纏った手でトントンと肩をたたきながら、ニコッと笑う彼女に言葉も出ない二人。




こうして、アーカイヴの解放に成功する三人。
いずれ穴が開き、ここから追い出されるように外に出るのだろう。

封印は解けたが、皆が帰るのはまだ少しかかる。
ここの封印はそれほどのことなのだ。


そしてその頃、元の世界では―――――



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「解けたぜ、セルトマン。お前の正体」

十五天帝のうち「火」を握り、その切っ先を撫でる蒔風。
そこに付着した、血の染み込んだ土塊を摘み取る。



「だがわかった以上、打破することはできる」

「・・・・・・」

胸元を抑え、無言で蒔風の言葉を聞くセルトマン。
それに対して、蒔風が切っ先を向けてセルトマンへと宣言した。


「長かったな――――これで終わりだ、セルトマン!!!」





to be continued
 
 

 
後書き

アーカイヴ戦での敵は蜘蛛でした。
モンハンじゃねーか!!と思った方もいるかな


ショウ
「部位破壊どころじゃねーけどな」

翼刀
「腹部、バラバラですもんね」

糸吐いて突進とかまんまだし、鋏で挟み込むのとかも

唯子
「マジで怖かったんだからね!!?」


レヴィンマジ万能。
所有者の持つ力を媒体にして、刃を生成するとか・・・・


唯子
「ちなみに翼刀が持ってたら?」

渡航力で生成される刃になるね。
・・・それはそれでえげつねぇな



あの蜘蛛はセルトマンが打ち込んだウイルスですね。
ちなみに、あれはセルトマンがアーカイヴのぞき見できることとは全く関係ありません。

あれの役割は「アーカイヴの封印」と、万が一に備えての「侵入者の撃破」でした。



翼刀
「でもなんであいつ未来のが読めたんだ?」

それは、次回あたりで言えたらいいなぁ・・・・
蒔風もセルトマンの謎を解いたみたいですし!!


蒔風
「次回、セルトマンの秘密」

ではまた次回 
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