真田十勇士
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巻ノ百十 対面その六
「だからな」
「それで、ですな」
「どうしてもですな」
「右大臣様をお護り出来ぬ」
「いざという時は」
「それに他の者達はどうも迂闊なところもある」
彼等の資質もあるというのだ。
「特に市松はな」
「だから幕府に見付かってしまう」
「そうなるからですか」
「他の方にはお任せ出来ぬ」
「そうなのですか」
「そうじゃ、しかし心当たりはある」
確かにというのだ。
「わしの後はその者達に任せたい」
「と、いいますと」
「どなたでしょうか」
「殿の後にお拾様をお任せ出来る」
「その方は」
「その者達に文を送る、とはいっても」
ここでこうも言った加藤だった。
「そのうちの一人は義侠や忠義というよりもな」
「他の想いで、ですか」
「右大臣様を護られる」
「そうした方ですか」
「そうじゃ、しかし確かにな」
義侠や忠義ではなくとも、というのだ。
「あそこなら幕府の目も届かぬ」
「それではですな」
「その方々に後を託されますか」
「いざという時は」
「そうされますか」
「この度のこと、大きい筈じゃが」
しかしというのだ。
「茶々様のことを思うとじゃ」
「あの方は何もわかっておられない」
「今もですな」
「政のことも天下のことも」
「それこそ何一つ」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「わしが動いてこの場は収まるが」
「あくまでこの場で」
「また、ですか」
「あの方が動かれますか」
「何もわかっておられぬまま」
「ねね様ならばな」
苦い顔でだ、加藤は彼にとってはまさに母親とも言うべき秀吉の正妻北政所の名をここで言った。
「そうしたことはないが」
「ですな、決して」
「北政所様ならば」
「今の様なことになっておらず」
「先もですな」
「乱れませぬな」
「そうなっておった」
まさにというのだ。
「あの方なら、しかしな」
「茶々様なので」
「今の様になっており」
「これからもですな」
「危ういですな」
「市正達で止められるものか」
かつての同僚片桐のことは口惜しい顔で言った。
「あの方は」
「とかく勘気がお強く」
「そして言い出したら止まらぬとか」
「市正殿では、ですな」
「どうしてもですな」
「止められる筈もない」
到底という言葉だった。
「だからわしが出て収めるが」
「後は、ですな」
「いざという時に備えて」
「手を打っておきますか」
「お拾様に大事があっては太閤様に申し訳が立たぬ」
秀吉、彼にというのだ。
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