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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第131話「協力体制」

 
前書き
魔力は霊力と相性悪いと散々本編で言っていますが、上手い事運用すれば魔力でも普通にやり合えます。ただ、油断するとあっさり負けるってだけです。

色んなキャラに色んな見せ場をやりたいがために、展開をどうしようか随時考えてます……。4章や閑話で出たキャラも活躍させるつもりなので、見せ方がとんでもなく難しい……。
 

 




       =優輝side=





「―――これが、僕らの知っている事だ」

『そうか……』

 今までの経緯を説明し終わり、クロノは考え込む。

『……その“幽世の門”は、陰陽師…いや、霊術を扱えないと閉じられないのか?』

「そうね。少なくとも霊力が扱えないと閉じれないわ。……でも、魔法でも抑え込むことは可能よ。尤も、日本全土でそれをしてる余裕もないけど」

 餅は餅屋とでも言わんばかりに、霊力が必須となってくる。
 しかも、その霊力が強ければ強い程、妖も強くなる。
 それが日本全土だ。……状況は思っている以上に深刻だ。

「な、何とかならないの……?」

『海鳴市のみであれば、僕らでカバーする事ができた。……でも、今回は日本全土だ。いくら霊術を扱えなければ妖も弱いと言っても、解決しないのでは意味がない』

「加えて、ここは管理外世界。……ロストロギアが現在進行形で関わっていても、そこまで人員を割く事ができない」

「そんな……!」

 おかしいとは思うだろう。……だが、それが管理局と言う組織だ。
 人手不足な事もあり、管理外の世界まで見ていられないという訳だ。
 ロストロギアとしての被害も今の所日本だけなのも拍車を掛けている。

「妖自体には物理攻撃も通じる。警察や自衛隊が動いてくれれば、防衛だけなら日本の戦力だけでも何とかなる」

「でも、だからと言って任せっきりにはできないわ。……かつて幽世の門が開かれていた時は、一つの土地に住んでいた人間が全滅したもの」

「駿河……だったよね」

 強い霊力を持たなければ襲われない……だが、例外も存在する。
 駿河であった出来事とは、そういったものだったのだろう。

『元凶がいるのは……京都なのか?』

「かつて幽世の大門が開かれた時はそうだったわ」

「それと、緊急要請の反応は京都だ。……ほぼ確実にそこにあるだろうな」

 場所は既に判明している。
 でも、すぐそこに行かないのは……。

『……アースラから転移すれば、すぐにでも行けるが…』

「っ………」

「………」

 椿と葵の様子がおかしい。
 ……いや、その原因は分かっている。
 二人はかつて同じような事を経験している。……そして、当時の主を失った。
 ただ死んだという訳でなく、行方不明になっただけなのだが……。
 問題なのは失った事ではなく、自分たちが途中で戦線を離脱した事。
 ………つまり……。

「(……怯えているのか。敵の強大さに)」

 戦線を離脱した訳は、一朝一夕では治らない怪我を負ったから。
 負った原因は単純に力不足。
 ……故に、その時より数段強いであろう幽世の大門の守護者に、怯えていた。

「……椿、葵」

「……わかってる。わかってるわ」

「他の守護者や富士の龍神相手なら大丈夫だったけど……」

 いつもの二人らしくない。
 さっきまで堂々としていたのにこの怯えようだ。
 最近はよく一緒にいたアリシア達も、その様子に驚いている。

「……ふー……大丈夫。この程度で戦えなくなったら、式姫の名が廃るわ」

「うん。劣勢なんて逆境、いつも味わってた。……これぐらいの恐怖、なんとでもなるよ」

 だが、そこは経験豊富な式姫二人。
 気持ちを切り替え、体の震えを抑え込んだ。

『……二人がこんなになる程なのか……?』

「直接戦った事はないわ……でも、その時同行していた式姫が、全員満身創痍に追い込まれる程だったわ。決着の後、強制帰還を行ったけど……私達の主だけ、戻ってこなかった」

「……簡潔に言えば、文字通り神に匹敵…もしくはそれ以上の強さだよ。二年前の司ちゃんの力……あれが凝縮されたものだと思ってもいい」

 葵の言葉に、一瞬全員が言葉を失った。
 あの時の司の強さは、それほどまでに凄まじかった。
 それは負の感情に呑まれている時も、天巫女として覚醒した時のどちらもだ。
 それが、凝縮されたもの……どれほどの相手なのか、想像に難くない。

『そんな存在が地球に……』

「そ、そうや……そんなバケモンみたいな強さの存在がいたんやって言うんなら、少しぐらいなんかの話で残ってるはずなんじゃ……」

「……二度と“門”を開かれないようにするためにも、その存在を隠したのよ。残った陰陽師が情報を操作してね……」

「結果、あたし達も正体を隠しながら生きる事になったよ」

 だけど、それでも隠し通せる訳ではないだろう。
 沖縄で会ったシーサーさんが良い例だ。あの人は守り人として語られたのだから。

「……今重要なのは大門の守護者がいたかどうかじゃないわ」

『……そうだな。今は如何に状況を打破するかだ』

 原因はほぼ確実に幽世の大門が開かれた事だ。
 だが、それだとどうロストロギアが関わっていたのか分からない。
 第一に、幽世の大門は魔法では開けない。……いや、そこはロストロギアの特殊効果で何とかなるんだろうが……。
 ……あれ?それってつまり、ロストロギアは特殊効果持ち…?

『規模が日本全土となれば、助けて回るよりもさっさと原因を潰した方がいい。……幸い、元凶の場所も分かっているみたいだし…な』

「同感だ。悠長に助けて回っている方が、時間が掛かって被害も大きくなる。何より、霊力を持っている僕らはむしろ助けに動かない方がいい」

「そうね。江戸の時は相当な人数が霊力を持っていたから助けに動くべきだったけど、今はその判断で合っているわ」

 警察だって無能じゃない。ちゃんと武力を用いれば、そこらの弱い妖程度なら一般人を守りながらでもやり合えるだろう。

『何はともあれ、まずは合流しよう。少し待っていてくれ』

「分かった」

 クロノが何か指示を出し、少しすると僕らの足元に魔法陣が現れる。

「あぁ!シャマル達置いていくけどどないしよ……」

「そういえばアルフも……」

「そこは念話で何とかなるから大丈夫でしょ」

 はやてとフェイトが遅まきながらに気づいてそういう。
 即座に返されたアリシアの言葉にそれもそうかと納得したようだが。







「おい、ちょっと来てくれないか?」

「ん?」

「私達?」

「……俺もか」

 アースラに転移し、そこで織崎が僕ら転生者組を呼び止める。
 椿と葵も何故か呼ばれたが…なんだ?

「どうした?」

「少し気になった事があって、悪いけどクロノ達には話せない事なんだ」

「……そうか。なら、先に行っておく。あまり時間は掛けるなよ。」

 織崎の言葉に、クロノは僕を一度見てからそういった。
 ……おそらく、僕がいるから何かあっても大丈夫と判断したんだろう。

「……で、なんだ?手っ取り早く済ませたいんだが」

「じゃあ単刀直入に聞く。特に椿と葵にはな。……“かくりよの門”についてどこまで知っている?」

「は?知っているも何もさっき話してた……」

「待て帝。そういうつもりで言った訳じゃないようだ」

 いきなり何を言い出すかと思えば、これは多分……。

「……存在していたのか。“かくりよの門”と言う創作物が」

「なっ……!?」

「それってゲームとかの事?特にあたしとかやちゃんに聞くって事は……その創作物にあたし達が登場してるって事かな?」

 まさか何かしらの創作物として存在していたとはな……。
 って、今は“かくりよの門”についてじゃなくて……。

「お前は……未だに“原作知識”に頼っているのか……」

「質問に答えてくれ。どこまで知っているんだ!?」

 僕の言葉を無視するように椿と葵に問う織崎。
 ……お前、椿と葵を転生者だと思っていたのか…。

「どこまで知っているも何も、物語の登場人物がその物語の全容を知れる訳がないでしょう。勘違いも甚だしいわ」

「まさかとは思うけど、あたし達を転生者だと思っていたの?歴とした式姫なのに」

 椿と葵に転生者や“原作知識”……つまり創作物としてその事象などを知っている場合があるなどの事を話してある。
 だから、転生者関連の話になってもついて行けるが……滑稽だな。これ。

「は……?で、でも江戸時代から生きてられる訳……」

「はぁ……あんた、私達の種族を忘れたのかしら?」

「神の分霊に吸血鬼。式姫な事を踏まえても人間より寿命は遥かに長いよ」

 性格を更生する前の帝ですら気づいていたって言うのに、こいつは……。

「……横から言うが、何時まで当てにならない“原作知識”に頼り続ける…いや、依存しているつもりだ?」

「っ、なんだと!?」

「……事情を知っている者しかいないから言うけど、もう“リリカルなのは”の知識なんてあまり当てにならないけどね。多分、そっちの知っている椿ちゃん達の事でも、相違点はあるんじゃない?」

 信じられないと、織崎は椿と葵を見る。

「……聞いた所、その“かくりよの門”と言う創作物は、今の状況よりも江戸の時の事を舞台としているみたいね」

「以前大門が開かれた時の事だろうね」

「……じゃあ言うけど、その“かくりよの門”の主人公の名前は?」

「っ……」

 言葉を詰まらせる織崎。
 知っているなら言えるはずだが……もしかして、ゲームの主人公だから名前がないのか?

「確か……“とこよ”だったはずだ」

「っ、苗字は?」

 “とこよ”と言う名に、椿は僅かに反応するが、すぐに聞き返す。
 多分、前の主と同じ名前だったからだろう。

「え……?」

「苗字はと聞いているのよ」

「それは……」

 おそらく、存在していたであろうデフォルト名を言ったようだが、苗字は設定されていなかったらしい。

「……言えないなら、こっちが言うわね。私達の前の主は“有城とこよ”。おそらくあんたの言う“主人公”と同じ立ち位置の存在であり、最終的に最強の陰陽師となり……幽世の大門を閉じると同時に、行方不明になった者よ」

「…………」

「君の言う“かくりよの門”のとこよちゃんがどんな結末を迎えたのかは知らないけど……創作物として知っているだけの知識を、押し付けないでくれる?」

 椿と葵の気迫に、織崎は黙っている。
 ……二人は、緋雪の事を言われた僕のように怒っていたからだ。

「……実の所、私達はなぜとこよが帰ってこなかったのか、わかっているわ。……分かっている上で、納得したくなかった……!」

「“原作知識”だか何だかで知っているのは構わないけど……その出来事を実際に味わったあたし達の事も、少しぐらい考えなよ!」

「それ、は……」

 完全に言い負かされている織崎。自業自得だからフォローはしない。

「ここは現実。いくら似ているとはいえ、アニメやゲームの通りにはいかないよ。……いや、第一に私達の存在、ひいては所謂“別作品”の世界観が混ざっている時点で、そんな知識はむしろ邪魔にさえなると分かるでしょ?」

「っ………」

 というか、それどころか司が追い打ちを掛けていた。
 確かに、ここは“リリカルなのは”の世界だろう。厳密には、それに似た世界だが。
 だけど、織崎の言う通りなら“かくりよの門”の世界観も混じっている。
 そうじゃなかったとしても、司の言う通り転生者がいる時点で色々違う。
 ……その時点で、“原作知識”など邪魔になるだけだ。

「……時間の無駄ね。行きましょう」

「そうね」

 椿の言葉に、黙っていた奏も呆れたように溜め息を吐いて移動を始めた。
 織崎は呼び止めようとするが、時間もかけられないのでスルーする。

「……お前もさっさと来いよ。今は“原作”だとか言っている状況じゃないんだ」

「っ……くそ…!」

 帝すら、もう“原作”など言ってられないと理解しているというのに……。
 一体、こいつは現実をどこまで見ているんだ……?







「現在、日本各地にサーチャーを飛ばしている。最優先となるのは元凶である幽世の大門だが、あまりにも住民が危険な状態なら介入する形となる。……椿、葵。そういった所は以前あったのか?」

「そうね……まず真っ先に挙がるのは……」

 会議室に集まり、クロノが椿と葵に色々聞き出している。
 京都に転移するのは変わりないのだが、それでも事前情報は必要だ。
 よって、サーチャーで下見を行っている。
 武装隊も出ており、もしすぐに介入が必要であればすぐに出るようになっている。

『クロノ執務官!』

「なんだ?何か起きたか!?」

『いえ……ただ、現地で戦闘を行っている者がいます!』

『こちらもです!なんというか...紙のようなものを投げていて……』

「何……?」

 各地から気になる情報がやってくる。
 紙のようなものを投げている。……それはまるで…。

「……霊術か?」

『おそらくは……。魔力ではない力を扱っているので……』

「……現在の日本でも、霊術を扱う家系はあるわ。那美だって退魔士だもの」

「現地の陰陽師が応戦しているのか……」

 それを聞いて、少し猶予があるのだと思った。
 ……が、同時に一つ懸念が浮かぶ。

「猶予ができたとは思えないね。妖は陰陽師たちの強さで強化される。下手に実力を持った退魔士とかがいると、それだけ危険度も増すよ」

 そう。霊力が強ければその分妖も強化される。
 中途半端な実力は身を滅ぼすだけだ。

「っ……だけど、焦る訳にはいかない。調査は続けてくれ。変化があれば報告を頼む」

『了解です』

 通信を切り、再び椿たちから色々聞くクロノ。
 聞いているのは、先程も言っていた危険な状況にある場所について。
 他にも、かつての時との相違点や共通点、知っておくべき事を聞く。

「少し時間が掛かっているな……」

「だけど、焦る訳にはいかないよね……」

「そうだな」

 司の言葉に、僕は頷く。
 なのはやフェイトなど、正義感がありまだ子供でもある者達は焦っている。
 だけど、こういう時こそ冷静に、落ち着いていなければならない。
 そうでなければ事を仕損じる。……判断を間違う訳にはいかない。

「……優輝、もしかして……こういった時を想定して、私達に霊術を?」

「アリシア……まぁ、多分な。僕が感じ取っていた“嫌な予感”は、こういった事を予期していたのかもしれん。だけど、焦るなよアリシア」

「分かってる。私とアリサとすずかは実戦経験が薄い。いくら実力が高くても、実戦だとあっさりやられるかもしれないから……」

 アリシア達は椿たちから様々なノウハウを叩き込まれていたから落ち着いている方だ。……それでも、初の実戦だから緊張しているが。

「……ん?」

「どうしたの優輝?」

「いや、ちょっと……」

 懐から一枚の御札を取り出す。……これは……。

「『……シーサーさん?』」

『っと、通じたか。少しいいか?』

 その御札は、所謂通信機のようなもの。
 そして、繋がった先は沖縄で会ったシーサーさんだ。
 あの時渡しておいた通信符から念話が来ていた。

「『……もしかして、今起きている事態についてですか?』」

『話が早い。その通りだ。何か知っているか?』

「『椿と葵曰く、“幽世の大門”が開かれた可能性が高いです。……かつての江戸の、再現だとも』」

『――――』

 その言葉の後、少し念話が途切れる。
 ……予想はしていても、驚愕が大きくて信じられなかったのだろう。

『……それは本当か?……いや、本当なんだろうな』

「『そちらの状況はどうなっていますか?』」

『こっちにも妖は出ている。……一応、島にある“門”は閉じておいた。……あまり強くなくて助かったが……』

「『こちらでも三つの門を既に閉じています。……沖縄は安全と言う事ですか?』」

 沖縄に霊術を扱える人はいなかったのだろう。
 だから、契約をしていないシーサーさんでも倒せた。

『……いや、まだ妖は残っている。……すまないが、そちらへはいけない』

「『わかりました。シーサーさんはそのまま沖縄で一般人を守っていてください。……安全が確保できたら、もう一度連絡をお願いします』」

『わかった』

 そういって念話を切る。
 ……沖縄には米軍基地もある。戦力的には問題ないだろう。

「……優輝、今のは…」

「沖縄で会った式姫だ。沖縄を守るためしばらくはこっちへ来れない」

「シーサーさん……だったっけ?」

「ああ」

 アリシア、司が念話をしていて黙り込んでいたからか尋ねてきた。
 さて、シーサーさんの助力はしばらく見込めないとして……。

「……あ、そうだ。アリシア、蓮さんに連絡を取ってくれ」

「あっ!そっか、蓮さんも式姫だったね!」

 そういうや否や、アリシアは御札に霊力を込めて念話を試みる。
 彼女は剣の腕では僕や恭也さんを上回る。毛色が違うから一概には言えないが。
 だから、協力できたら相当な戦力となってくれるはずだ。
 ……いや、もう既にどこかで戦っているかもな…。













       =out side=





「シッ!」

 京都にて、蓮が繰り出した一閃に、妖が倒れる。
 大門があり、霊術を扱う家系もいるからか、京都は他の県よりも妖の数が多い。
 逃げ惑う悲鳴もそこらかしこから聞こえていた。

「道を通っていたら時間の無駄ですね。失礼……!」

 そういって蓮は跳躍し、家などの屋根を走る。
 妖に襲われている人を見つけたらすぐに駆け付ける算段だ。

   ―――きゃぁあああ!?
   ―――うわぁあああ!?

「っ!あそこですか……!」

 逃げ惑う人々も、逃げている内に追い詰められて一か所に固まってしまう。
 そうなれば余計に困惑と悲鳴が大きくなる。
 それを聞きつけた蓮はすぐさまそちらへと向かった。

「これは……!」

 駆け付けた先では、逃げ惑う人々とそれを襲う妖が入り混じっていた。
 蓮はすぐに駆けだし、鞘から刀を引き抜く。

「っ………!!」

 霊力で身体強化し、凄まじいスピードで人々の間に入り込む。

「はっ!」

 一太刀、二太刀と妖を切り裂き、目の前の一般人を飛び越え、背後の妖を斬る。
 人の間を抜け、襲い掛かる妖のみを上手く切り裂く。
 蓮の刀は脇差なため、上手く間合いを計らなければ一般人に当たる。
 だが、蓮は上手く使いこなし、適格に人々の間を縫いながら妖のみ切った。

「……ふぅ……」

 刀を鞘に戻し、息を吐く蓮。
 目につく限りの妖は全て斬り、人々は妖が消えた事にしばし呆然としていた。

「な、なにが……?」

「早く警察の方がいる場所へ!急いでください!」

 説明している暇も、守り切れる自信もない。
 そのため、蓮は声を張り上げて人々にそういった。

「っ!」

     ギィイン!!

「きゃぁっ!?」

 再び現れた妖に、蓮は咄嗟に刀を抜いて攻撃を防ぐ。
 そのいきなりな出来事に、短い悲鳴が上がる。

「早く!」

 攻撃を受け流し、返す刀で切り裂きながら蓮は催促する。
 その瞬間、誰かが怯えたようにその場から逃げ出す。
 それにつられるように次々と逃げていった。
 蓮の見た目は少女。傍から見ればその様子は薄情な者達にしか見えない。
 しかし、その判断が今の状況に最も適していた。

「……さて……」

 周囲の安全を確認してから、蓮は目を瞑る。
 辺りに漂う瘴気から、どこが発生源か探るためだ。

「……幽世の門が開いたと考えるのが、妥当ですね…。非常に、信じがたい事ですが。……それに、瘴気は複数の箇所から来ている。……最も濃いのは…」

 一つの方向に目標を定めた所で、懐に仕舞ってある御札が反応する。

「これは……」

 その御札に蓮は見覚えがあり、反応に応えるように霊力を込めた。





『アリシアですか?』

「『良かった、繋がった!蓮さん、今どこにいるの?』」

『京都です。……今、妖らしき存在が街中に出現しているのですが…』

 通信符から返ってきた言葉に、アリシアはやはり既に交戦していたのだと察する。

「アリシア、デバイスを介してくれ。そうすれば通信符での念話も皆に聞こえるようにできる」

「そうなの?……よし、これで…」

 アリシアは通信符をデバイスに押し付ける。すると……。

『アリシア?どうかしましたか?』

「いや、大丈夫。それよりも、今の状況なんだけど……」

「僕が簡単に説明する」

 アリシアに代わり、優輝が簡潔に説明する。
 説明したのは幽世の大門が再び開かれた事を中心に一通りである。

『……なるほど…』

「……待って、蓮さん今京都にいるって言ったよね!?」

『……今向かっている場所。それがおそらく大門の場所でしょう』

 アリシアの言葉と、その返事の内容にクロノと会話していた椿と葵も反応する。

「待ちなさい!一人で行くのは危険すぎるわ!」

『わかっています。……戦う訳ではありません。様子を見て情報を集めるのもまた重要な事です』

「それは……そうだけど……」

 どの道、危険すぎると優輝は思った。
 そして、気になる事をクロノに尋ねた。

「クロノ、サーチャーは京都にも飛ばしているよな?」

「あ、ああ。しかし、先程報告に上がったのだが……京都の、おそらく大門がある場所に送ったサーチャーは壊れた」

「壊れた?」

「破壊された訳じゃない。……自壊したんだ。おそらく、大門の力…瘴気と言ったか?それにやられてな。遠くにもう一つあったが、結局瘴気に阻まれている」

 それはつまり、サーチャーで様子見は不可能だという事。

『……やはり、私が行くべきです』

「だけど……!」

『初見でいきなり勝てる程、甘い相手でもないでしょう?』

 理解はできる。だが、納得はできない。
 蓮の言葉は、まさにそういったものだった。
 他に様子見の手段がない今、そうするしかないのも問題である。

「……いえ、それ以前に…京都の住民は無事なの?」

『……全員、とは言えませんが……警察と陰陽師が対応しているため、惨劇は回避できています。ですが、このままでは……』

「……一刻を争う……か」

 どう動くべきなのか、考えあぐねている暇はない。優輝達はそう判断した。
 だからこそ、蓮の行動を止める理由はなくなった。

「……分かった。それなら僕から言う事はない」

「優輝!?」

「……でも、それしかないよかやちゃん」

「っ……そう、ね……」

 渋々とだが、椿と葵も蓮の行動を了承する。

「会話にすら入り込めなかった私が言う事じゃないけど……絶対、無茶はしないで。様子を見たらすぐにその場を離脱。……できれば、私達と合流して」

『わかりました。ところで、アリシア』

 アリシアの言葉にしっかりと返した蓮。
 そして、アリシア達が今どうしているか聞き返そうとした時……。

『貴女達は、今―――』





 “ブツリ”と、突然念話が途切れた。

「え……!?蓮さん!?」

「切れた……!?」

 あまりに唐突。その事態に、優輝達も驚いた。
 それはまるで、突然念話ができなくなったようだった。





















 
 

 
後書き
駿河の出来事…基本的に一般人を狙わない妖だったが、これは例外。蜘蛛系の妖が跋扈し、“門”の周辺は蜘蛛の糸に塗れ、そこの人達は全滅していた。その場所にいる先遣隊のNPCが“もう誰もいない”のような事を言うが、ゲーム上では普通に子供や神主のNPCがいる。それはつまり、そこの人たちの…。……かくりよの門プレイ時、状況を理解して血の気が引きました。(by作者)


実は未だに椿(ついでに葵も)を転生者だと思っていたオリ主君。
滑稽すぎて哀れに……。まぁ、自業自得ですが。
ちなみにこのオリ主君、“かくりよの門”は途中までしか進んでいない設定です。
作者自身、途中までしか進んでいないので仕方ないですけど。 
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