お祖父ちゃんの蒲鉾
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第四章
「そうなっていまして」
「そうか、じゃあな」
「はい、それじゃあお祖父さんは」
「ああ、ここでな」
「お一人で、ですか」
「住む、何かあったらここに来てくれ」
それでいいとだ、源太郎は笑って話した。そしてだった。
幹子は結婚して夫の実家に入った、糖尿病の舅は自分で健康に気をつけていることも多く姑は怒ることがない穏やかな性格で上手くやっていた。それでも祖父が心配でよく彼の家に行きながら結婚生活を送っていたが。
源太郎は九十の時にぽっくりと心臓麻痺で世を去った、幹子が家に行って世話をしている時にふと部屋を出て戻るとだった。
そうして葬式が行われたが大往生で幹子と夫との間の子供達も大きくなっていたので誰も悲しまなかった、それで身内同士の話も和気藹々としたものだったが。
その話の中でだ、幹子は笑ってこんなことを言った。
「お祖父ちゃんっていつも蒲鉾出してくれたの」
「蒲鉾?」
「それを?」
「ええ、そうなの」
こう自分の方の親戚に話した、祖父の兄弟姉妹の血筋である。源太郎は子供も孫も一人ずつだったが親戚自体は結構いるのだ。その親戚達に話すのだった。
「お祖父ちゃんが食事を作る時はね」
「そうだったんだ」
「大叔父さんそうしていたの」
「お祖父ちゃんって蒲鉾好きだったのかしら」
幹子は笑ってこう言った。
「そうだったのかしら」
「あれっ、そんな話は聞いてないけれど」
「そうよね」
「叔父さんが蒲鉾好きとか」
「ちょっとね」
「あっ、それね」
ここで源太郎の末の妹幹子から見て大叔母になる湯浅聡子が言ってきた、結婚して苗字は変っている。
「実は兄さん私に言ったことがあるの」
「大叔母さんに?」
「幹子ちゃんを引き取った時にね」
「その時になの」
「幹子ちゃんがどうしたら喜ぶかって」
「そのことをなの」
「私に相談してきたの」
そうしたことがあったというのだ。
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