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第一章
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山下茉祐は高校で演劇部に所属している。背は一五九位で黒髪を胸の先位までウェーブをかけて伸ばしている、少し膨らんだ頬と白い肌、和風の感じの鼻に大き目の口、色がやや濃い眉に少し垂れ目という顔だ。
部活では色々な役を演じている、しかし脚本も書いているがその評価は。
「またなの?」
「またって何よ」
自分のクラスでクラスメイトであり同じ演劇部員である高木愛理に応える、愛理は背は茉祐より六センチ位低く額は前髪でかなり隠している、黒いストレートヘアが胸のところまであり少し離れた感じのやや垂れている小さい目とピンクの奇麗な唇、しっかりした眉が印象的だ。何気に首が長めである。二人共濃い青のブレザーとスカート、白いブラウスに制服と同じ色のリボンと言う学校指定の服装だ。
「何か嫌な感じだけれど」
「だって茉祐ちゃんって」
愛理が言うには。
「脚本恋愛系ばっかりだから」
「またって言ったの」
「前はロミオとジュリエットだったでしょ」
言うまでもなくシェークスピアの代表作だ。
「そうだったわね」
「ええ」
茉祐もそうだとだ、否定せずに答えた。
「高評価だったじゃない」
「いや、だから評価の問題じゃなくて」
「私が書く脚本の傾向がなの」
「恋愛ものばっかりってね」
そうしたイメージだというのだ。
「ロミオの前はローエングリンだったじゃない」
「ワーグナーね」
ワーグナーの楽劇を舞台用に書いたのだ、歌劇の要素を抜いて。
「素敵な作品よね」
「素敵でもよ」
「恋愛だっていうのね」
「こっちもガチガチのじゃない」
まさにというのだ。
「白鳥の騎士と窮地に陥っているお姫様の」
「だからっていうのね」
「こっちも恋愛で」
それでというのだ。
「その前もだったでしょ」
「その前はあれね」
茉祐は自分から言った。
「天守物語で」
「泉鏡花ね」
この文豪の代表作を学生の舞台用にアレンジしたものだ。
「あれは姫路城の天守閣のね」
「妖怪のお姫様と若侍のだったわね」
「よかったでしょ」
「よかったけれどやっぱりじゃない」
「私の脚本は恋愛ものばっかりっていうのね」
「それで今回は、よね」
「ええ、今度は中国ものでね」
この国の、というのだ。
「あのスーパー歌舞伎のね」
「三国志の劉備が女性で」
「危ういところで関羽が助けに来る」
「それでいくのね」
「猿之助、今の猿翁さんのあれを考えてるの」
「それもじゃない」
愛理は自分の前の席にいて身体ごと振り向いてきて話をしている茉祐に返した。
「恋愛ものじゃない」
「ワンパターン?」
「恋愛といっても色々だけれど」
それでもというのだ。
「ジャンルで言うとね」
「私の脚本は恋愛」
「そのイメージ出来てるから」
「ううん、じゃあ」
「そこ変えてみるとか」
愛理はこう茉祐に言った。
「そういうのは」
「じゃあどんなのがいいのよ」
具体的にはとだ、茉祐は愛理に代案を問うた。
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