便利屋
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第五章
「御前はジープを運転しろ、いいな」
「そうしますね」
こうハーディングに応えて実際にジープを動かした。彼は戦争が終わった時もそうだった。そしてアメリカに帰りタクシーの運転手に戻ってだった。
結婚して子供が出来て孫も生まれた、その孫にこう聞かれた。
「お祖父ちゃんドイツ軍と戦ってたんだよな」
「ああ、そうだ」
事実なのでだ、彼は孫のルイスに答えた。見れば自分よりも息子とその嫁に半分ずつ似ている顔である。
「御前が生まれるずっと前にな」
「戦闘機に乗っていたのかい?」
ルイスはまずはこれではないかと聞いてきた。
「それじゃあ」
「いや、乗ってない」
はっきりとだ、マッキントッシュは孫に答えた。
「祖父ちゃんは飛行機は動かせないからな」
「じゃあ戦車かい?」
今度はこれではないかと聞いてきた。
「それに乗って戦ってたのかい?」
「戦車は動かせたんだけれどな」
「乗ってないのか」
「ああ、戦場じゃな」
それこそ一度もだった。
「乗ってない」
「じゃあ何をして戦ってたんだよ」
「ジープに乗っていたんだよ」
自分からこのことを話した。
「それでずっとジープばかり乗っていたさ」
「ジープに?」
「ああ、あれにな」
「ジープに乗って戦えるのかい?」
「それも戦いさ、祖父ちゃんは本当にジープに乗ってばかりだった」
その頃のことを思いだしつつ孫に話した。
「そればかりだったな」
「よくそれで戦えたな」
「だからそれも戦いだ、ジープみたいに役に立つものもなかったからな」
「けれど敵をやっつけられないだろ」
ジープでは戦闘機や戦車みたいにとだ、ルイスは祖父に問うた。
「それで戦えるんだ」
「ああ、色々な戦い方があってな」
「俺そう言われてもわからないよ」
「ははは、そのうちわかるかもな」
マッキントッシュは首を傾げさせた孫に笑って返した。
「御前も」
「そうかな」
「そうかもな、とにかく祖父ちゃんはな」
「ジープに乗って」
「そうして戦っていたんだ」
まさにそうだったというのだ。
「あの戦争の時はな」
「そうだったんだね」
「本当にジープはよかった」
今になって思うことだった。
「輸送機も役に立ったみたいだがな」
「ジープもそうだったんだ」
「ああ、じゃあ今から買いものに行くが」
孫に軽い口調で言った。
「一緒に行くか?」
「お買いものに?」
「そうするがどうだ?」
「俺も連れて行ってくれるんだ」
「そうするがどうだ」
「それじゃあ」
「よし、じゃあ今から行くか」
その軽い口調での言葉だ。
「そうするか」
「俺と祖父ちゃんの二人で」
「車でな」
孫に笑顔で言ってからその車のキーを出した、それは彼の愛車のジープのものだった。彼は今もジープに乗っていた。頑丈でしかも便利なそれに。彼も今ではアイゼンハワーの言う通りジープ程役に立つものはないと思っていた。便利なものであると。
便利屋 完
2017・3・16
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