衛宮士郎の新たなる道
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第8話 負けられない戦い
板垣家から戻った士郎は道中で事前に作って所持していたお結びを食していたので、登校直前のシーマ達に何とか間に合った。
「こうして4人で登校すると言うのは新鮮な気分ですね」
「それはそうだろう。新鮮以前に一緒に登校する事が初めてなんだからな」
相変わらず笑顔を崩さないレオに士郎がすかさずツッコミを入れる。
「まあまあそう言うなって、レオナルド様の和やかな空気のまま登校したいと言う気遣いなんだぜ?」
「気遣いは受けるが・・・・・なにさらっと俺の腕を絡めとって抱き付いて来てるんだ。必要ないだろ?」
「役得でしょうに拒むなんて、この数日間で士郎さんの事を少しづつ分かってきていますが、生真面目と言うかなんというか」
「単純にシロウがムッツリなだけでは無いのか?」
シーマの口からまさかの発言に、自分のこと故先ほどよりもなお早いツッコミを入れる士郎。
「誰がムッツリだ!?と言うか、誰から聞いたそんな言葉!師匠か?藤姉か!?」
「両方から聞いた」
「やっぱり2人か・・・・」
予想通りだったようで士郎は嘆息する。
「士郎さんはムッツリなのでは無くて、枯れてるだけでは?」
「そんな!?士郎、お前はもうほんとに枯れてるのか!?ナイスバディで色気溢れるお姉さんたる俺に興味が無いって言うのか!」
「俺本人に聞くな!」
あまりのストレートな質問に対して、戸籍内での年齢に対して大人びすぎている士郎にしては珍しく、羞恥か照れか、頬を朱に染め乍ら言い返した。
「ところでシロウは既にリザの告白を受け入れるか拒むか、決めたのか?」
「う゛」
「もうそれで分かった。まだなのか」
シーマが士郎の優柔不断ぶりに呆れるように見る。
それをリザが庇う。
「俺はいいよ。遅くても正式な社会人になるまでは待つつもりさ」
「おや、気長ですね?その間に士郎さんが他の女性とくっ付いてしまうかもしれませんよ?」
「良くはありませんけど、士郎を好きになった時から“ある覚悟”をしてますので大丈夫です」
「「ある覚悟?」」
「例えどれだけ多くの俺以外の女を娶っても、平等に愛してくれるなら形式上側室でもいいって覚悟です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?・・・・・・・・・・・・・・・」
あまりに斜め上過ぎたリザの言葉に士郎の頭の中は真っ白になる。
しかしレオとシーマは妙に納得していた。
「現在の日本の抱えている大きな社会問題の一つである、少子高齢化への苦肉の策として打ち出した一夫多妻制でしたか。あれには色々と問題が有るので、もしそれをする夫婦が出来た場合、その後の定期的な監査が入りますが、士郎さんには適したものですね」
「確かにシロウは既に多くの女性から好意を集めているし、その覚悟と決意は納得だな」
「・・・・・・――――ちょっと待て!何で納得してるんだ2人共!?」
復帰した士郎が2人に抗議する。
だが2人は、
「何を怒っているんだ?」
「何を怒っているんですか?」
「何をって・・・・・・」
「士郎さんなら当然では?」
「シロウなら当然であろう?」
何故か確信を以て言われる士郎は今だ納得していない様子。
「俺が多数の女性を娶る・・・・・・かは万歩譲って置いとくとしても、アレは如何考えても世間体の観点から見ても決して良いものなんかじゃない!そもそも、藤姉や雷画の爺さんが反対する筈だろ!?」
「確かにタイガは反対するであろうが、シロウを実の孫同然に見ているライガは『ひ孫の顔が多く見れそうで何よりじゃ』と寧ろ喜んでいたぞ?」
「・・・・・・・・・」
雷画の口にしていた言葉に何とも言えない顔をするようになる士郎を放って、レオはリザに発破をかける。
「後見人である雷画殿が寧ろ期待しているのであれば、最早怖いもの無しですね」
「はい!ですが――――俺は士郎に今すぐ(婚約&子作りを)強制する気は無いからな。そこのところは安心してくれ」
「理解ある女だなリザは。一夫多妻を許容してくれる伴侶がこの国にどれだけいるか――――シロウは恵まれておるな」
シーマは言葉とは裏腹に、マスターであるにも拘らず士郎を白目で見ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
これに、またしても何とも言えない顔をする士郎。
そんなこんなで途中に、冬馬達と合流して自己紹介やらなんやらしながら学園に登校するのだった。
-Interlude-
3-Sの教室では昨夕の葉桜清楚の歓迎会での話で盛り上がっていた。
「う~ん、昨夕の歓迎会は受験勉強疲れを一気に癒してくれた一時だったわね」
「確かに確かに!衛宮君の手料理は何時食べても至高ね」
「もう、家の専属シェフとして雇いたいくらいだったわ!」
「「「確かに!」」」
と、女子生徒たち数人で盛り上がっている箇所。
もう一か所は男子生徒達が集まっていた。
「衛宮君の料理は確かに美味だったけど、清楚ちゃんが美味しそうに食べてる時に見せた笑顔だけでも癒されたな~」
「ああ、彼女の笑顔は受験勉強で身も心も疲れ果てている俺達にとって、最近では一番の清涼剤だよな~」
「「「いや、まったく」」」
そこに朝から変に気疲れしている士郎が登校して来て席に着いた。
それに反応して読書で時間を潰していた隣の京極が、本を閉じて挨拶を省略して士郎に話しかける。
「如何した衛宮、疲れたような顔をして。また女性関連か?」
「だから何で判るんだ!?」
「衛宮が疲れてそうな顔をするのは、大抵お前自身の“女難の相”から来るトラブルやらイベントやらだけだろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「まあ、もういい加減慣れる事だな。衛宮の場合は恐ら、いや確実にこの先はさらにエスカレートしていくぞ」
勘弁してくれと心の中で嘆く士郎。
そこへ清楚が登校して来て、一瞬で教室にいる生徒達の話題の中心は彼女となり、着席するなり男女関係なく皆が彼女を取り囲む。
清楚はそれに明るく挨拶して対応。
それを士郎と京極は席を離れなずに見守っている。
「暫くの間は葉桜君は引っ張りだこだろう」
「そうだな。けどすぐ打ち解けられて何よりじゃいか」
「それもこれも昨夕の歓迎会のおかげかしら?」
そこへいつの間にかに教室にもどっ来ていた旭が話しかける。
「それもあるだろうが、彼女からは人を惹きつける力――――俗に言うカリスマ性を感じるな」
「流石は英雄――――あの大英雄のクローンって事かしら?」
「かもしれないし、違うかもしれないぞ?」
「なんだ衛宮も最上君も、葉桜君がどの英雄のクローンか当たりが付いたのか?」
「一応な。けど今は如何でもいい事だろ?」
「フッ、確かに。ただ見守るだけだな」
その2人の反応に旭は一歩下がって思う。
もし自分の正体が公になっても、こんな何でもないような態度のままなのかしら――――と。
そこに朝の職員会議を終えた担任が来たので、朝の一時は収束した。
-Interlude-
昼休み。
シーマは今日登校して来てからずっと居心地が悪かった。
理由は昨日の放課後に、百代と互角以上の戦いを見せた事で彼のファンが急増した事により、好奇の目に晒されたり、ラブレターを受けたり告白されたり(まずは互いを知ってからとやんわりと断った)と朝から今まで大忙しだった。注:上記には男もいた。
「・・・・・・・・・(気疲れしている)」
「大変でしたね?」
「ね~?」
そこに昼食をともに取る約束をしていた冬馬と小雪が近づいて来た。
如何やらシーマが自力で復活できるまで、律儀に待ってくれていた様だ。
「う、うむ。だがこれも、そもそもはシロウが原因だ。おのれ、我がマスターめ・・・・・・?」
そこでもう1人居ない事に気付く。
「む?ジュンは?」
「ああ・・・」
「ジュンなら・・・」
そこで扉が開くと、噂の準が九鬼紋白を迎える様に引き連れて来た。ついでに武蔵小杉も。
「あー」
その光景だけでシーマは2人から事情を聴く事なく理解した。
準が犯罪者予備軍並みのロリコンだと危惧されている事を思い出したからだ。
当の本人は空気も読まずに少々危険そうな目で九鬼の兄弟の会話に混ざっていく。
「安心してくださいお義兄さん!俺が公私ともにサポートして行きますから」
「図々しい!危険指定の軟体海生生物を弟に持った覚えはないわ!あずみ!」
「お任せください英雄様ぁ!」
と、一瞬で準の背後に回り込んで両腕を無理矢理後ろに引っ張り、関節を決めながらドスの効いた声で脅しかける。
「オイこらハゲ、何血迷って紋様に手ぇ、出してやがるっ・・・!」
しかし今の準は普段よりも攻守共に上がっており、あずみの制裁も聞かず怯まない。
「不純な気持ちは微塵も無い!俺は紋様に御仕えし、許されるなら浴槽や手洗い場、それに寝床にも御伴して見守りたいと心から願ってるだけだ!!」
力強く言い切る準に対して、
「やれやれ、此処までのロリコンぶりじゃ手の施しようがないな」
「それ以前に昨日の今日で、何時の間に取り入ったのです?」
「昨夕のホームルーム終了直後に1-Sに駆けだしたんですよ」
「それで到着してから紋白の眼前で膝を付くと同時に忠誠を誓ったんだよね~」
これらの言葉を聞いたあずみがさらに締め上げる。
「おいハゲ!手前ぇ、2-Fの甘粕委員長が本命だった筈だろうが・・・!」
対して準は依然動じずに浅はかだと嗤う。
「委員長は勿論本命だが、紋様は仕えたい対象なんだ!理想は委員長と将来結ばれて。仕事場は紋様の部下。あー・・・でも、葵紋病院があるんだった。どっちも片手間で出来る仕事じゃない。チクショウ!俺はどうすりゃいい!?どうやって両立できる?」
「おや準、そこまで言うとは本気ですか?」
「紋白がジュンの好みなのは今だけであろうぞ?」
「そうそう、遺伝を鑑みれば紋白は将来確実に大きくなるよ?」
「オイ止めろ!」
小雪とシーマの現実論に、本気でキレた時の顔で抗議する準。
さらには悲しそうに感慨に浸る準に、周囲は呆れ果てる。
「漸く落ち着いてお弁当を頂けますね?」
「まったく、疲れるハゲなのだ~」
「ふむ。今日のおかずのメインは鳥の竜田揚げか」
それをたまたま見ていた弁慶が喰いつく。
「シーマのそれ、美味そうだな」
「欲しいなら一つやろう」
「ラッキー・・・・・・・・・これは!鳥の素材を十分生かしきった旨み、さらに衣はその旨みを邪魔せず濃すぎないくらいの絶妙さ。その上このタレが何かは分からないが旨さのグレードを引き上げている!これほどの美味、まさかシーマが作っているのか!?」
「ううん、作ってるのはシロ兄だよ~」
答えたのは質問されたシーマでは無く、何故か誇らしげな小雪だった。
「シロ兄とは?」
「3-Sに在籍されている衛宮士郎先輩です。私とユキと準にとって、誰よりも頼れるお兄さん分のような方なんです」
「そして余が暮らしている家主でもある」
「フーン、衛宮士郎先輩か。帰ったらその先輩にもお礼言っておいてよ」
「任された。あと、この程度でお返しを要求するのは何だが、聞きたい事が有るのだが良いか?」
「んん?」
川神水を一杯飲みほしてからシーマの言葉を聞く。
「ぷはっ!やっぱり川神水によく合う!――――で、何だ?」
「朝来てからナスノヨイチがよく見て来るんだが、何か知ってるか?」
「与一が~?」
(アイツも誰かに見られているとか昔からよく言ってたが、まさかシーマも中二病か?)
だが弁慶の杞憂は幸い無駄に終わる。
「そう言えば確かに与一君、シーマ君の事を何度か見てましたね」
「うんうん、授業中休み時間関係なく見てたよね~」
「そうなのか。私は気付かなかったし、理由は知らないが、不愉快なら私が締め上げておこうか?」
「いや構わぬ。少し気になったと言うだけだ。それともう一つ。与一ほど露骨では無いが、ヨシツネも何度かチラ見してたんだが、心当たりはないか」
「ああ、それなら簡単。昨日の川神先輩との戦いを見て、ちょっとした憧」
「うわぁああああああ!!?なななな、何言ってるんだ弁慶ぇええ!!」
頬を朱に染めて両者の間に入る様にして、弁慶の言おうとした言葉を遮りに入ってきた義経。
彼女らしくなく、如何やら聞き耳を立てていた様だ。
「ハァハァハァ」
「悪い。如何やらラブリー主はご不満だったらしい。理由は義経本人から聞いてくれ」
言い捨てる様に4人から離れて行く弁慶。
しかし、それだけの反応で冬馬と小雪には少なくとも察せられた。
だがシーマは士郎と同類だったらしく、幸か不幸か義経が何故あんなにも慌てていたのか気付いていない様子だ。
それを呼吸を整えてから、まだ頬が朱に染めている義経がシーマへと向き直る。
「まずはごめん、シーマ君。昨日の百代先輩との戦いを見て、尊敬の念を覚えてしまって義経としたことが授業中にも目で追っていた様だ」
「成程。それなら仕方ないが、授業中は授業に集中すべきだと思うが・・・」
「うん。以後気を付ける。あとすまない、本当はこんな事言える筋合いは無いんだが・・・」
最後に何故かごにょごにょと言いよどむ義経に、言いたい事が有るなら早く言うが良いと促す。
本人から促された義経は意を決した顔で告げる。
「――――今日の放課後から受ける皆との決闘の時に、立ち会っててもらいたいんだ!」
「ふむ?」
-Interlude-
時は放課後。
現在シーマは義経との約定通り、義経が多くの生徒から受けた決闘に立ち会って――――というより、立ったままだと言う理由から審判役を引き受けていた。
「うむ。何所までも穢れの無い努力だな」
今もまさに義経は決闘中だ。
バッタバタと挑戦者を倒したので、今は彼女と決闘中だ。
「以前とは比べ物にもならない無駄のなさ。ス・・・アルバの教えも報われよう」
レプリカ同士とは言え、剣戟の音と火花が連続して当たりながら鳴り響いて行く。
「まだ一月だがいい成果だな――――カズコ」
そう、義経と対峙して互角の剣戟を魅せているのは、川神一子だった。
「ハッ!フッ!セイッ!」
「やっ!クッ!ハァアア!」
無駄が多かった今までとは違い、長物の一つである薙刀のリーチを生かした合理的な縦横無尽の技を繰り出して行く一子。
対するは長くも短くも無い刀で、自身の速さを生かした連撃で懐に入ろうとするも、見事な薙刀と体術により攻めあぐねている義経。
両者の攻防は一見すれば互角だが、実のところ一子有利であった。
別に今の一子の力量が義経を上回っている訳では無い。
理由は二つ。
一つは今まで決闘して来た故の疲労。義経自身は自覚は無いが、全快時よりも一太刀一太刀の冴えが鈍くなっておりキレが普段よりも低くなっている。
そしてもう一つが性格だ。
義経は自身の責務を理解している。気負いすぎても居るようだが、真面目なので挑戦者の力量が低かろうと手心を加えてわざと負けるような真似はしない――――のだが、その優しい部分の性格もあって本人は全力でも無意識的に力をセーブする面もあるのだ。
「ヤッ、セイ、ハァアア!!」
「クッ!」
この二つの理由により、徐々に義経が押され始めていた。
それを丁度仲良くなる切っ掛けが出来て一緒に降りて来た大和と弁慶が戦況に驚く。
「義経が押されてる?」
「凄いなワンコ・・・!」
これにギャラリーも大いに盛り上がる。
まさか一日目からあの源義経のクローンが敗れるとはと、予想外だったことも大きい。
だが当の本人である義経は、そうやすやすと負けるわけにはいかない。
理由は自身の責務、それに立ち合いを頼んだシーマへの憧「何言ってるんだ作者!断じて義経はそんなこと思っていない!!」――――尊敬と目標として定めたシーマの前で無様を曝す訳にはいかないからだ・・・・・・と言う事らしい。
しかし負けるわけにはいかないのは一子とて同じこと。
理由は純粋に勝ちたいからだ。
最近の勝率は決して高くない。それに昨日の百代対シーマの戦いを見て気分が高揚しているのもあるだろう。ある。あるんだ。だ・か・ら!
(負け=師匠から面目立たず説教を受けるのが怖い訳じゃ、わけじゃじゃじゃじゃじゃじじじじじ、なななな、いんだだだだだ、からねねねねね!!?)
如何やら必ず勝つことを条件に、今日義経への挑戦を許されたらしい。
つまり、負け=説教である。説教なのだ。南無。
そんな押してる一子だが、矢張り昨日の百代対シーマのアレは一子にとって良くも悪くも衝撃的だったのか、最近では決闘中に抑えることが出来ていた筈の感情が蘇る。
(私も、私も私も私も私も私も私も私も私も――――私も!憧れみたいに!)
勝つ!それがこの努力の天才と呼ばれる一子の理想の姿だろう。だが、
(ん?隙!?)
今まで一切の隙なく徐々に攻めて来ていた相手の一子から、僅かな大振りなれど確実な隙が出来た事を義経は見逃さない。
一瞬で懐に入り、振り上げた刀で一子の手から薙刀を弾き飛ばす。
「あっ!?」
「逃しはしない!」
さらには刀を投げて一子にそれを避けさせることによって強制的に体勢を崩し、
「源氏式――――脇固め!」
「あぐっ!」
直に密着して脇固めで動きを封じる。
これはもう外せないなと判断して、一子のこの後の末路を知りながら正当なれど無慈悲な判定を出すシーマ。
「勝負あり!この決闘はヨシツネの勝利である!」
後書き
少々早いですが風間ファミリーの次回予告です。次関わる事になるのはガクトです。予定では。
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