世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
Thirteen/死数
今までのあらすじ
「EARTH」全滅
セルトマンの何気ない動作。
ただそれだけで、皆が消えた。
なのはも、一刀も、ショウも、翼刀も、唯子も
目の前ですべてを失い、放心するも立ち上がる蒔風。
その瞳には怒りの炎。その翼からは、滲む殺意が。
達成する者
戦う者
駆ける者
眺める者
涙はない。
ただ、魂の底から吹き出すそれは
涙よりも重く
涙とは逆に濁った感情だった
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「し―――」
「あ、やば」
「――――ね」
ゾゥッ!!
空間を抉る。
蒔風が大振りしてくる手を、セルトマンが腰を落として回避する。
まるでひっかくような手の形だが、おそらくそれで間違ってはいないのだろう。
そこから二度三度と回避するセルトマンだが、ついに右腕をかすめてしまう。
ゾリッ!という音とともに、触れられた右手首が抉り取られた。
消滅ではない。
無理やり毟り取られたかのように、蒔風の手にはセルトマンの手首部分が握られていた。
それを握りつぶすと、しかしそれがザラリと崩壊して彼の手首へと戻っていく。
その粒子の流れに乗って地面に落ちていた右手ももどり、何事もなかったかのように彼の右手は再生する。
とはいえ、痛覚はあるらしく痛みに顔をにじませながら舌打ちをして蒔風から距離をとる。
「はは、それだけの力があっても何もできないのか!!」
痛みのせいか、笑い声は乾いている。
だがそれでも、セルトマンは己の優位を微塵も疑わない。
「恐ろしい男だよ、蒔風舜。お前はかつて歪みを抱え、それ故に“no Name”を外れて世界を旅した」
そう。
彼が“no Name”の人間にもかかわらず世界に飛び出せたのは、当時すでにある断りを外れていたからだ。
「滑稽なことだ。お前は歪んでいたがゆえに世界を救う役目を背負い、「奴」は純粋だったがゆえに世界を破壊した」
蒔風の蹴りがセルトマンの腹部をとらえ、さらに耳を掴んで引き込み顔面に肘を入れる。
「だがどうだ。それだけのことをしても、お前は何も救えない。誰一人救えない。目の前の仲間すら――――」
「黙れよ」
ザクッ、と、セルトマンの身体の真ん中に四本の日本刀が突き刺さる。
それを開き、左右のわき腹と肩から、一本ずつ振り抜き、X字に切り裂いた。
「あっぶなぁ!?」
胸を抑え、さがるセルトマン。
逃がさない、と蒔風が駆け、その切れ込みから心臓めがけて手を伸ばして突っ込んだ。
「グッ!?」
掴む。
元気よくのたうつそれは、生きている証拠そのものだ。
その命をなでるように握り、そしてひねりながら一気に引き抜いた。
「ゲゥッ!!!」
「・・・・・・・」
べちゃ、と地面に心臓が落ちる。
即座に乾燥してセルトマン体内に戻っていく返り血を浴びながら、蒔風はさらにセルトマンの全身を漁っていく。
触れる肉の感触。
その一つ一つの器官を握ってはつぶし、投げ捨てる。
激痛に顔をゆがめるセルトマン。
だが、ある程度まで行くとそれもマヒしたのか、蒔風の顔面に蹴りを叩き込んで後退させる。
ブチリと腸が千切れたが、痛覚はマヒしている。
今のうちに治せば問題はない。
「いてぇな、おい」
「俺の怒りにはまだ足りないくらいだ―――――」
すでに治りかけ、あと数秒もすれば後も残らず治る腹をさすりながら、セルトマンが薄ら笑いを浮かべて蒔風を眺める。
「俺は貴様を殺す。絶対に殺す。たとえこの世界が破壊されようとも、俺はお前を追い続ける。俺が、お前を殺す。お前を殺すのは、俺だ」
すでに蒔風の目はそれしか映っていない。
かつて、彼自身も暴走することはあった。
彼自身が持つ歪みや狂気が蓄積していく結果、暴れだすことはままあった。
だが、それは「蓋」があったころの話。
それに内蔵された、死の理解という思想が彼をそうさせていた。
しかし、これは違う。
その「蓋」はもうすでにない。
この怒りは、彼自身のもの。
この感情の暴走は、まぎれもなく彼の本性を現している。
「俺がたとえどうなろうと・・・・テメェだけは絶対に」
「調子に乗るなよその程度の人間が」
ドチュッ!!と
打たれた衝撃音と、自分の肉がつぶれる音を蒔風は聞いた。
放たれた魔力弾が左肩に命中し、貫通はなくとも骨を砕いて肉をすりつぶす。
その痛みだけで動けなくなりそうなものだが、今の蒔風の脳はその痛みを認識するだけの機能はない。
それを見て、なおも放たれる魔力弾。今度は右腿に命中する。
今度はさすがに激痛が走ったのか、蒔風の歯がくいしばられる。
それでも右手で「天地」を握り、セルトマンを狙って突撃を放つ。
飛来する「突き」だが、それを魔力壁でガードしてなおも放つセルトマン。
「ぐぅっ・・・・」
「なんだ?それぐらいしかできないのか?」
「お前は・・俺が・・・・!!」
「はは!!自己満足なのはいいけどな、それで突き進み君は何を残した!?」
「・・・・・・!!!」
見てみろよ、と言わんばかりに両腕を広げるセルトマン。
「何もない。そうだろう?自己満足で動くのが悪いとは言わないさ。だが、蒔風の場合はそれでこの結果じゃないか!!」
「ぐぅ・・・ぅぅぅうううああああああああああああ!!!」
叫ぶ。
その足取りは重く、辛い。
だが進まねばならない。
この男にはまだまだ味合わせねばならない。
たとえその結果がどうなろうとも、残ったのは自分一人だ。
自分がやらねば、この男に皆の無念を叩き付ける者がいなくなってしまうのだ――――
「ぅぅぅうううううううううッッ!!!」
涙は流れない。
代わりに、食いしばった歯の隙間から唸り声が漏れ出てくる。
「・・・・ふむ。ま、じゃあ適当にやっておこうかな」
そう言って、今度はセルトマンから蒔風へと進む。
重々しい弾撃は止めずに、セルトマンの足が進んでいく。
一歩一歩を踏みしめるように進んでいた蒔風は、踏ん張って意地でも前に進もうとする。
だが額に当たり、腹に当たり、足に当たり、身体が突き飛ばされるように一歩一歩下げられて行き、ついには膝を着いて地面に倒れてしまう。
「う~ん・・・ここで終わりってわけじゃないんだけどなぁ・・・・」
そんなことを呟きながら、倒れた蒔風を見下ろしてセルトマンが手の平を向ける。
「ま、ここで終わるなら安泰だ。運命を超えたのはおれだってことで」
回転していく魔力。
その高音が耳につき、慣れたころに、準備が整う。
「んじゃ、これで」
ドゥッッ!!!
爆ぜる地面。
放たれた魔力弾は地面を吹き飛ばし、そこに軽いくぼみを生んで破裂する。
だが、そこに蒔風の死体はなく。
「あ、間に合った?」
外したにもかかわらず、そうであることが当然のごとくセルトマンが彼女に声をかけた。
「舜!!大丈夫ですか、返事をしなさい!!!」
「あ・・・・リス・・・?」
少し離れたところで、アリスが蒔風を肩に担いでその頬をペシペシと叩いていた。
痛い痛いとその手を払い、下ろしてもらうと蒔風の身体が揺れる。
「お前・・・いたのか」
「いなくなるわけないでしょう!!かかわっているとはいえ、私は管理者ですよ!!」
フンスと鼻息荒く、腰に手を当ててエッヘンと言いのけるアリス。
いつもならツッコミ交じりに頭の一つでもはたくところだが、彼女の存在が今は何よりもうれしい。
「よかった・・・お前は無事・・・だったんだな」
「そりゃそうでしょう。ほかの皆さんも、ね」
「は?」
アリスの言葉に、蒔風の目が真ん丸に開かれる。
自分を支える腕を振りほどいてセルトマンに向かおうとしていた殻から、力が抜けていく。
その蒔風にため息をつき、まったくあなたという人は、とあきれ顔のアリス。
「あなた、気づかなかったんですか?・・・と言っても、しょうがないか。冷静でいられなかったんでしょう?」
「なにを・・・・」
「この世界からみんなが消えたのは、消失ではないですよ。そうですね?アーヴ・セルトマン」
アリスの言葉に、蒔風はまだ混乱している。
対し、聞かれたセルトマンはパチパチと拍手をして笑っていた。
「その通り。何も彼女たちはこの世から消えたわけじゃあない」
「いうなれば封印、といったところですか」
「どういうことだ・・・・」
「・・・この男は、最後の最後に大聖杯を使って何かをしようとしています。それこそ、これまで以上に大変なことを」
「まあ、そりゃそうだろうな」
「その「大変なこと」を実行するために、彼はアーカイヴを封じてその分の出力をすべて封じたのですよ」
「・・・・パソコンのメモリをあける感じか」
やっと納得する蒔風。
なるほど。それならば、確かになのはたちはまだ生きていることになる。
一通りのアリスの言葉を聞いて、その推論にセルトマンは簡単に成否を告げた。
「その通り。さすがは管理者」
「うれしくないです」
「そういうなよ。ま、実際にはメモリを開けるっている目的以上に、俺が呼び出そうとしているそいつはこの世界には存在しないものでな。この基盤世界以外の接合世界を封じさせてもらった、って理由のほうが大きいか」
うんうんと腕を組んで感心するセルトマン。
少しだけ、心が軽くなる。
だが、それを差し置いても―――――
「ところで、ショウはどこです?翼刀さんや唯子さんも結合世界だから消えていたとして、彼はこの世界が封じられても存在しているはずですが」
「あいつは―――――」
「死んだよ」
「な!?」
「みんなが消えて腑抜けたそいつを守ろうと、三人は跡形もなく消し飛んだぜ?」
「そんな―――――」
「本当だ」
「!!」
セルトマンの言葉を、蒔風が肯定する。
息が荒くなってくる。やはり、彼らはもう・・・・
「だが、まだ救えるものがいるのなら俺は行かねばならない。だろ?」
「・・・・そうですね」
意地でも行くからな、と告げる蒔風に、アリスはあきれたように同意する。
そのあっさりとした態度に、蒔風はやはり驚いた。
「止めないんだ」
「止めたって無駄でしょう。あなたの場合。それに、世界はいつだって残酷だて、あなた言ってたじゃないですか」
「・・・・はは。確かに、どこまで戦わせるんだよ、この野郎」
「ですので、私も一緒にです」
そういって、蒔風に貸していないほうの拳を握って構えるアリス。
思っていた以上に乗り気なアリスに呆気にとられる蒔風だが、目を閉じ、そして開いて
「そうだな!!」
そういって、彼も拳を握る。
とはいえ、蒔風はすでに満身創痍。
一人で立ったとして、強風が吹けばよろけて転んでしまうほど。
対して、セルトマンは蒔風のえげつない攻撃でも再生して身体に不備はない。
「あらまあ仲のいいことで」
「どうしますか?今のあなたなら、勝てるでしょう?」
「安い挑発どーも。だけどここまで来たんだ。せっかくだから、アーカイヴに則らせてもらうよ」
腕を振るう。
蒔風たちを囲うように、マジュウや魔化魍が出現してきた。
「俺の魔力を浸透させ、それをもとに生み出した化け物どもだ。そんじょそこらの寄りは厄介だぜ?」
「上等だ」
「こっちだって負けませんからね!!」
「楽しみだ。行け」
襲い掛かる化け物。
マジュウが五体、魔化魍が八体。
合わせて13体の異形が、二人に襲い掛かっていった。
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さて、ここからはしばらく観戦だな。
とはいえ、気は抜けない。
先のショウの戦いもそうだったが、このアーカイヴは描写が少ないというか穴だらけだ。
それに―――――
≪アリスが来た≫
≪二人は立つが、13体の化け物が襲い掛かった≫
ここまではいいけど
≪そして が た≫
≪彼らが――― がやってきた≫
ここの空白は――――いったい何だ?
なにが、抜けている?
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「たかが十三体、ちゃっちゃと倒しますよ!!」
「そうしたいな・・・!!」
アリスの服がはじけ、上半身がノースリーブのインナーのような恰好になる。その割には、下はロングスカートだが。
「蹴ったら見えないか?」
「見えない加護をかけてます」
「うわなにそれ」
そう言って、アリスが駆けだした。
揺れながら襲い掛かるマジュウの三体を華麗に回避し、真ん中の一体の肩に手をかけて逆立ち。両サイドの頭を蹴り抜いて消滅させる。
そして乗っていた一体の頭をひねりながら着地し、一気に三体を片付けた。
蒔風のほうはというと、息は荒いながらも攻撃はできるらしい。
比較的無事な右腕に獄炎の力をまとわせて、近づいてきた魔化魍を二体ほど殴り飛ばす。
その場で粉砕できるものではないが、獄炎はその体に燃え移り、そして最終的に魔化魍が木端となって崩れていく。
「これで、なんとか・・・・」
「あなたは無茶しないでくださいね?」
「だがこいつら、硬いな」
「ええ。さすがは、と言っておきましょうか。手を抜いて倒せる相手ではないです」
簡単に撃破していたように見える化け物どもだが、アリスも相当な力を込めて攻撃しているらしい。
蒔風が倒せたのも、ひとえに獄炎が燃え移って結果として焼け死んだだけであり、獄炎自体の威力によるものではない。
「ふぅ・・・だが魔化魍なら燃やせば勝てるな・・・・」
「種族にもよりますけど・・・・って」
「あれは・・・・」
戦力を確認し、じゃあもう一回、といったところで言葉が詰まる。
見ると、倒された魔化魍やマジュウたちの穴を埋めるかのように、新たな怪物が生み出されていっていた。
「また十三か・・・・」
「その通り。これは一定の数に怪物を生み出し続ける術式だ」
怪物の後方で腕を組んで眺めているセルトマンが、答え合わせのように蒔風に答える。
「これは彼ら自身が術式になっていてね。一体でも残っていれば、即座に十三体揃えて見せよう」
「ってことはだ」
「全部一気に倒せば、終わりってことですね!」
ダッ!!と駆けだすアリス。
そのスピードを一気に押し上げ、十三体の頭を即座に砕いていく。
そして、終わったと地面を踏みしめて止まるが
「速さが足りないなぁ」
最初に倒した分が、すでに穴埋めされていた。
その一帯から再び残りの十二体が再生する。
「そんな」
「やり続けるか?無駄だ。残念だがアリスさんよ。あんたの速さじゃ、十三体は間に合わない」
(なにが残念だ。テメェ間に合いそうになったら全員ばらけさせたくせによ)
軽く舌打ちをしながら、蒔風が悪態をつく。
いくらアリスでも、散らばった十三体を一気に消すことは不可能だ。
仮に広範囲攻撃で一気に潰そうにも、その兆候があった瞬間に敵はばらけるか、一体を庇うに違いがいない。
そして今の蒔風には、散らばったこいつらをまとめて吹き飛ばす攻撃も、加速開翼もできそうにない。
つまり、これは事実上の
「詰みなんだよ。お前らは」
「畜生・・・・」
「あ、あきらめてはいけません!!こうやって行けばきっと・・・・」
「きっと?無理だな。いくらお前でも、いつまでもそんなハイペースで攻撃できるはずがない。そうしているうちに再生していけば、余計に泥沼。そんなことは蒔風だってわかっているはずだ」
「・・・・ちっ」
すでに蒔風は足で立っていない。
両膝をついて立ち、近づいてきた者から反撃して倒していくという消極法に出ていた。
「アリス、頼んだ」
「え?」
「悔しいけど、こうするしかないんだ。こうやって体力を温存して、少しでも回復させる」
だが二人そろってそんなことをすれば、一気に押しつぶされてしまう。
そのために、アリスには動き回っていてもらわねばならないのだ。
「わかりました!!」
「たの・・・むぞ・・・」
スゥッと軽く目を閉じる蒔風。
完全にではなく、薄目は空けておく。
そうして近づいてきた数体を投げ、獄炎で焼いていく。
今にも噴火しそうな怒りは、いまだにこの体に残っている。
アリスのおかげで落ち着いたが、それは決して消えない。
だから、そっと待つ。
それを爆発させるべき時まで、溜めて、溜めて、溜めて――――あの男に、後悔させてやるのだ。
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そのころ
世界は動き始めていた。
ほかを封じられ「the days」しか残らずとも、最大世界としての特色は残っているためほかの世界の要因も、わずかながらも残っている。
この世界で、何が動いていたのか。
海が
空が
渦巻いている
深い底で脅威が
高い天で突風が
アーカイヴすら巻き込んだ戦いに、この世界が身震いを起こしているかのようだった。
to be continued
後書き
わーい!!みんな死んだわけじゃないよ!!
蒔風
「でもショウたちは・・・・・」
アリス
「あの人がそう簡単に死ぬと思いますか?」
蒔風
「そりゃそうだけど」
セルトマン
「13は死の数!!蒔風、貴様に死を送ってやろう!!!」
蒔風
「どっかで聞いたぞそんなセリフ」
いったいこの世界で何が起ころうとしているのか。
いやぁ、ここからが楽しいですね!!
ぶっちゃけ、第六章はサーヴァント化した故人と戦わせてみたい、というのとここから先のストーリーが書きたいから作ったようなものですからね!!
蒔風
「なんかめぐ銀ってそんなんばっかだな」
まあねー
突発的にネタとかワンシーンが浮かんで、それを書くために適当な設定作って、あとは勢いで書いてくパターンだから。
第一章書いていたときは、まさか第六章でこう使うとは考えていなかったですし。
蒔風
「?」
アリス
「次回。風が吹いた」
ではまた次回
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