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第二章

 千佳は母にだ、こう言った。
「お母さん、私も行くから」
「気をつけてね」
「ええ、カープの優勝見て来るわ」
「そうしてね、ただね」
「優勝してもっていうのね」
「馬鹿騒ぎはしないでね」
 このことは忠告する母だった。
「いいわね」
「したら駄目なの?」
「幾ら嬉しくてもね」
 それでもというのだ。
「それはしないでね」
「球場でも?」
「出来る限りね、お家に帰ってもよ」
「駄目なの」
「静かに喜んでね」
「じゃあ優勝したらカツ丼?」
 千佳の大好物である、ついでに言えば兄もだ。
「それにしてくれる?」
「最初からカツ丼のつもりだから」
「そうなの」
「あんた達どっちがどうなってもいい様にね」
 広島が勝てば千佳が喜ぶ、阪神が勝てば寿が喜ぶからだ。
「そうしておいたの、あと薩摩芋のサラダも出すから」
「そっちもなのね」
「あんた達二人の大好物をね」
「今晩はなの」
「出すから楽しみに帰ってきてね」
 試合の後でというのだ。
「そうしなさいね」
「わかったわ、じゃあカープの優勝観て来るから」
「それじゃあね」 
 二人で話してだ、そしてだった。
 千佳も家を出てだ、そのうえで電車で甲子園に行きその一塁側に陣取った、すると周りの赤い男達が声をかけてきた。
「おう嬢ちゃん来たのう」
「今日も応援するんじゃな」
「今日勝ったら優勝じゃ」
「楽しみにして観るか」
「はい、優勝観に来ました」
 千佳はおじさん達に笑顔で応えた、よく甲子園や遠出でマツダスタジアムに来ているので彼等とも熱心な鯉女達とも知り合いになっているのだ。
「ここで優勝して欲しいですね」
「ほんまは本拠地で優勝したかったがのう」
「まあ優勝出来るだけええわ」
「今日勝って欲しいのう」
「いよいよじゃ」
「はよ試合はじまれ」
「それとな」
 おじさんの一人が三塁側を指差して千佳に聞いてきた。
「あそこにじゃな」
「はい、いつも通りです」
「兄さんおるんじゃな」
「そうなんです」
 こうおじさんに返した。
「いつも通り」
「兄さんも熱心じゃのう」
「阪神が人生ですから」
 千佳も三塁側を見た、流石に兄は視認出来ない。完全に黒と黄色の中に埋没している。
「お兄ちゃんは」
「見上げた兄さんじゃのう」
「完全に虎キチですから」
「ははは、そして嬢ちゃんはじゃな」
「鯉命です」 
 千佳も千佳でだった、今はこのことを認めていた。
「今日の日を待っていました」
「去年に続いてじゃな」
「はい、ここで阪神をやっつけて」
 赤く燃え上がる目で言った。
「そうしてです」
「優勝じゃな」
「今年も」
 こう言ってだ、千佳は試合がはじまるのを待った。そしてだった。
 実際に試合がはじまった。まずは阪神が攻めてだった。
 先制点を取った、だがカープファン達は誰も諦めていなかった。 
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