八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百二十六話 神戸の残暑その十三
「紅茶が嫌いなんだ」
「そういう人ですね」
「それでワインはね」
僕は千歳さんにあらためて僕達が今飲んでいるこのお酒の話をした。
「イギリスでは造られなかったんだ」
「土地の関係で」
「そうだったんだ」
「欧州でもですね」
「北欧もだけれど」
「北欧は仕方ないですね」
「寒いからね」
もうこれに尽きる、北欧の気温で葡萄は無理だ。
「だからないよ」
「そうですね」
「ドイツでもね」
モーゼルワインのこの国もだ。
「本当は造られなかったんだ」
「ドイツも寒いからですね」
「そこは努力してなんだ」
品種改良というそれをだ。
「それでワイン地方で造られる様になって」
「そうしてですか」
「飲んでいるんだ」
ドイツでもだ。
「白ワインが主でね」
「そういえばモーゼルは」
「白だね」
赤もあると思うけれど僕は聞いていない。
「あちらだね」
「そうですよね」
「けれどワインは造られるから」
「ドイツでも」
「そうなってるから」
何でもベートーベンがモーゼルワインを好きだったらしい。偉大な音楽家であったけれどその人生は寂しいものだった。
「よかったらね」
「そちらのワインもですね」
「飲んだらいいよ」
「では」
「そうね、あとね」
僕は千歳さんにさらに言った。
「足ふらついてない?」
「まだ」
大丈夫だとだ、千歳さんは微笑んで僕に答えてくれた。
「いけます」
「ならいいけれどね」
「はい、まだです」
「ワイン二本開けても」
「そうです、ですがこれ位で止めておくべきですね」
「うん、二本飲んだからね」
僕達だけでなく美沙さんもだ。一人辺りボトル二本だ。合わせて六本のボトルが空かそれになろうとしている。
「そろそろね」
「止めておいて」
「休もうね」
「それがいいわね、いやもうね」
すっかりお顔を真っ赤にさせてだ、美沙さんは言った。
「あたしは結構お酒回ったわ」
「二本でだね」
「もう一本いけるかなって思ってたけれど」
それがというのだ。
「今日はもうね」
「その二本で」
「もうかなりだから」
それでというのだ。
「これでえ止めておくわ」
「それがいいね、じゃあね」
「ええ、お酒はね」
「これで終わりにして」
「休むべきかしら」
そんなやり取りになった、ここで僕達は全てのワインを空けた。それと同時にティーセットも奇麗になくなっていた。神戸の残暑の夜はティーセットで楽しんでいた。
第百二十六話 完
2017・2・1
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