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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第十章 夜中の告白者《4》

 
前書き
 マラソンが始まりました。
 片腕だけでよく走れるというもの。
 では始まります。 

 
 「あー走るのダルい」
 その言葉とは反対に、体を全力で動かす。
 風を切り、地を蹴り飛ばす。
 彼の後ろからは長銃を持った隊員が、自身の足を狙ってくる。
 走っている間も回避行動を行うが、避けきれなかった弾が三発程当たった。
 だが立ち止まっている暇は無い。
 目指す青の戦闘艦にたどり着けば、後はそれに乗り込めばあちらは銃撃を行えない。
 だからと、足を休めることなく疾走と回避のステップを刻む。
『こちら輝光三番艦、花火を打ち上げていた学勢確保!!』
 花火を打ち上げていた日来から少し離れた広場、そこにいた監視艦から聞こえた。
 それに続くように、
『こちら輝光五番艦、巨大映画面|《モニター》の調節を行っていた学勢確保!』
 その言葉の後、空に表示されていた映画面の内一つが消えた。
 調節用の装置の電源を切られたのだろう。
 それを確認し、残った映画面から女性の声が聞こえた。
『日来長、お前以外のこの暴動に協力していた学勢は全て取り押さえた。今その進行を止めるならば取り調べだけで済ませよう』
「取り調べだけじゃ物足りないから進んで行こうか!」
 その言葉通り、セーランはさらにコンクリートを強く踏み、身体を前に行かせる。
 それと同じに、後ろからは来る弾丸の数が増した。
 七人の隊員に、更に艦から降りてきた隊員が加わった。
 今走っているのは停泊場だ。それゆえ艦の着陸に邪魔になるコンテナは、全て端に寄せるように置いてあり平面が広がっている。
 自分を狙う弾丸からは逃れられないが、だからこそ走るのに全力を掛けることが出来る。
 体が熱を持ち、足が更に加速する。
「すばしっこい奴だ。足を狙える奴はそのまま足を狙え、狙えない奴は体を狙うんだ。狙い通りに行けば――」
 黄森の中年の男性が、仲間に指示を飛ばす。
 各隊員は自身が狙える部分へ標準を合わせ、撃つ。
 引き金を引き、一発の打撃弾が射出される。それが群れとなり、前を行く日来の長を狩る。
「ぐっ……、くそが!」
 セーランは背後に受けた衝撃に姿勢を崩すも、前に倒れ掛かった体を支えるように右足を前に出す。そしてその右足を軸に、左の足を前に行かせ右足を飛ばす。
 態勢を立て直したセーランは、痛みに似た感覚を覚えながらも足を運ぶ。
 ただ一直線に。
「死ぬこと認めてそれではい、終わりましたなんてなんねえんだぞ!」
 青の戦闘艦に向かい叫ぶ。
 ここからでは甲板にまだいるかも分からないが、叫び言葉を返すのを待つ。
 返ってきたらまた言葉を掛け、返ってこなかったらまた呼びかければいい。
 何の責任を取るため死ぬのは分からない。が、好きになってしまったのだからしょうがない。
 だから今、こうして走り続けているのだ。
 その彼に声が届いた。
 待っていた声とは違う、宇天学勢院の長の横にいた少女の声だ。
「救える術があるなら、それはすでに私達がやったものと知りなさい!」
「世間体気にしてるお前達のやったことなんてたかが知れてんだよ! どうせ救おうとしたがその後がどうにもならないって分かって、それで救えなかったんだって言うんだろ!」
 荒く呼吸をし、叫んだ。
 それが他人事だと思いながら、それが答えだとも思う。
 だが、どんなことを思いながらも、それを振り払うように風を受けながら走った。



 ドレイク級戦闘艦・華空の甲板に立つ実之芽は、日来学勢院の長の言葉を聞いた。
 日来の長の言葉は真実の内の一つだ。
 怒りの炎は今は落ち着いているが、それは自分が抑えているからだ。
 日々の疲れのせいで、すぐ火がつき易くなっている。
 疲れのため息を吐いた。
「すまないな、苦労ばかりかけて……」
「気に為さらないで下さい。それよりも艦内へ、日来の長が取り押さえられるのも時間の問題かと」
「そうしよう、でもまさか黄森のあいつが入ってくるとはな」
 そう言い、横に立つ奏鳴が空に表示される映画面|《モニター》に顔を向ける。
 通信中、と表示されているだけの映画面だ。
 きっとその映画面の向こうでこちらの様子を確認し、監視しているのだろう。
 沈黙を保つその映画面は、不気味そのものだった。
「明子、奏鳴様を休ませてあげて」
「そうですね、ちょっと楽しかったのにな……」
「楽しければ良いってものでもないのよ、特に国を相手にして生きていくには」
 冷たい風が再び吹く。
 まるで自分達をあざ笑っているかのように、音が鳴り徐々に弱まっていく。
 そして、その風と共にある者が来た。
「来たわね介蔵」
「忍忍」
「そのニンニン止めてもらえる? ウザい」
「暗い雰囲気なのでついやってしまったで御座る」
「その気遣いだけは誉めてあげる」
 自分の眼前、艦の装甲の上に忍者が立っている。
 迷彩柄の忍者装飾を身につけた忍者が、量の腕を組みながら現れた。
 その忍者は明子を見た。
「では明子殿、奏鳴殿と共に行かれよ」
「了解。では行きましょうか」
「あまり無茶はするなよ二人とも」
 二人は頷き、彼女らを見送った。
 甲板にいる他の学勢も、軽く一礼して警護を続行した。
 実之芽は装甲の上に立つ忍者に近づき、それと同時にこちらに向かって走ってくる日来の長が見た。
 介蔵は、今必要だと思うことを伝える。
「距離にして後六百メートルぐらいで御座る。黄森の隊員が鉄製打撃弾を使用し、足止めをしてるで御座るがやはり長と言ったところ。思うように照準が定まらず時間が掛かってるで御座る」
「近接戦で取り押さえればいいものの」
「黄森としては日来を潰さなければ各国に被害が出た場合、責任を問われるのは神州瑞穂の代表である自分達で御座るからなあ」
 それを聞いて、実之芽は理解した。
 黄森が近接戦で取り押さえを行わないのは、日来の長を潰すためだ。打撃弾は当たったときの衝撃は大きく、それを何発も同じに場所に撃たれれば骨折を狙うことが出来る。つまり黄森は、日来の長を潰すことで早々に日来の降伏を狙っているのだ。
 その保険に打撃弾ってわけね。
 通常の弾では体に当たった瞬間、身体に穴を開けるように貫通する。それでは殺害の要因となり、他国からそれを追求されれば言い返すことは出来ず、それが招くものは必然と黄森にとっては不利なものだろう。
 だが打撃弾の場合は、当たったとしても貫通せずに衝撃を当たえるだけだ。頭を狙えば早いが、これでは先程と同じ殺害の要因となってしまう為行えない。
 ならば頭ではなく、もしもの場合が起きてもいいところ。手や足を狙い意図的に骨折を招く。そうすれば、取り押さえるために仕方なかったと言い訳が出来る。
 後は簡単だ。
 身体中骨折していまえば、入院せざる負えない。そこで黄森は日来の長がいない間で、物事を急速に進ませれば日来は終わるってわけね。
 やることが汚いと、実之芽は思った。
 自分達の代表がこんな者達で、それに下っている自分達は情けないと思う。
 しかし、だからこそ恐ろしいのだ。
 目的の為なら手段を選ばない、黄森に逆らえば何をされるか分からない。
「今は耐えるで御座るよ」
 介蔵が言う。考えても意味がない、と。
 だから考えるのを止めた。
 気持ちを変えるように、実之芽は話す。
「日来長の様子は?」
「奏鳴殿がいないのを自分達の様子を見て確認して御座った。しかし走るのを止めず、後ろからは弾丸を受けているで御座る」
「一体何をそこまでするのかしら」
「解らぬで御座るか」
 ええ、と実之芽は言う。
 気温が下がっているからなのか、動いていないからなのか、手足の先が寒さで麻痺に似たものを得ている。
 両の手を擦り、そこに息を送った。
 そして、
「ほんと馬鹿みたいだわ。そこまでやっても何もならないじゃない」
「日来の長は本当に救う気なのかもしれぬで御座るな。このご時世、あそこまで出来る御仁はなかなか見かけぬで御座るよ」
「彼がやらなくても、私達がやるわ。救うチャンスはまだ……」
「そうで御座るな。ならば今自分達がすることは長の進行を止めることに御座る」
「行くのね?」
「黄森の思い通りには行かせぬで御座る。少しは抗わねば後輩達にも示しがつかぬで御座るので」
 では、と言い介蔵は装甲を蹴り飛ばした。
 彼は上に飛んだ。
 上を向くと、そこにはさっきまでここにいた介蔵が宙に浮いていた。
 曲線を描きながら、落ちていく。
 その落下地点に近づくのは、日来の長だ。



 セーランは走り続けていた。
 甲板にはすでに、宇天学勢院の長は見えない。
 背中に背後から螺旋に回る銃弾の衝撃を受けながらも、足を一歩ずつ確実に前に出す。
 黄森の隊員達は自分に近づかず、離れた距離からの銃撃に徹していた。
 理由は分かっている。
 俺を負傷させて覇王会から離して、その間で色々する気だろ。
 覇王会定則には、覇王会会長に穴が空いた場合、残りの覇王会の者か臨時で高等部学勢がその穴を埋めることとなっている。
 外交関係にめっぽう強い飛豊ならまだしも、他の者達では対応には無理があるだろう。
 社交院に所属している者に助けを求めれば手を貸してくれそうだが、覇王会と社交院の考えは別なのだから無理だと推測した。
 今自分が走るのを止め、取り押さえられれば一番いいのだがそれは止める。
 今この走りを止めれば、もう届かないと感じてるからだ。
 不安と共に、彼は走っていた。
 想い人の死を告げられ、それを黙って待っているわけにはいかなかった。
 だから求め、走った。
「これで――、っ!?」
 三百メートルを切ろうとしたときだ、突如上から何かに取り押さえられた。
 体が前に倒れ、コンクリートの地面が顔にぶつかる。
 衝撃と共に、重りが背中に加わった。
 左腕を掴まれ、背に押さえつけられる。
 誰なのか、セーランは首から上を後ろへ動か確かめる。
「お前は宇天覇王会の伝達者」
「悪く思わぬように、これが辰ノ大花の日来に対する答えに御座る」
「立ち止まれ、か」
 くそっ、と悔しみの言葉を吐いた。
 後方にいた黄森の隊員達は、それを見て一瞬止まっていたが動き出した。
「日来の長が取り押さえられた、直ちに拘束し連れていけ!」
「「了解」」
 そう言い、六人の隊員が近づいてきた。
 束縛系術を掛けられ両足は光の縄で、左の手は体ごと巻かれた。
 拘束が完了し、上に潰すように乗っていた忍者は離れた。
 セーランは体を無理に動かし、逃げ出そうとするが黄森の隊員により地に押されその動きを停止させられた。
 しかしそれでも動くセーランに、忍者の代わりに取り押さえている隊員の一人は背の上に乗っている腕を前に押し、関節を外そうとする。
 これ以上動くな、と警告している。
 引っ張られ、今にも外れそうな痛みが左の肩から伝わってくる。
「ご協力感謝する、黄森を代表しお礼申し上げる」
「同然のことをしたまで、後は黄森の方に任せるで御座る」
 そう言って、忍者は正面に停泊している辰ノ大花の戦闘艦に向かい走り出そうとする。
 それを見て、セーランは痛みを無視し声を上げる。
「宇天の伝達者、止まってくれ。言いたいことがある!」
「いくら覇王会会長だろうとこれ以上の行動は身を傷付けると知れ!」
「すまぬが黄森の隊員殿、その手を離されよ」
「何を言うか、こちらの警告を無視しているのはこの者であるぞ」
「その者を捕らえたのは自分で御座るよ。一つの頼みぐらいは神州瑞穂の代表ならば、四の五の言わず聞き入れる広い心を持たれている筈」
「……少しだけだぞ」
 ここで頼みを断れば、反抗心を抱かれるかもしれないと思い、腕を前に押していた隊員はそれを緩めた。
 忍者は頭を軽く下げ、感謝の意を表す。
 コンクリートの冷たさを感じながら、セーランは顔を上げる。
「あんがとな」
「少しの時間しかないゆえ、早々に申されよ」
 ああ、と頷き話す。
「お前達の長に伝えてくれ。愛を待ってろ、て」
「諦めていないので御座るな、ならばどうするで御座るか?」
「愛ゆえに距離を縮めたい」
「ならば伝えよう、それが届くことは本人次第で御座ろうが」
 伝えることは伝えた、だからセーランは顔を落とした。
 忍者の走る音が、地に伝わってくる耳から聞こえる。
 黄森の隊員はそれを見て、空にいる自分達の艦に光系術で合図を送る。
 大気を震わせ、騒音と共に艦が降りてくる。辰ノ大花の艦を隠すように前に。
 地に着き、地が少し震えた。
 黄と白の艦は燃料の補給と、日来の長を回収するため三艦が空から降りた。
 セーランは隊員により捕らえられた。
 午後七時十三分、この暴動は収まりこれを起こした学勢全員は捕らえられた。
 覇王会会長を除く、この暴動に協力したものは取り調べを、覇王会会長はこれを起こした張本人のため黄森の直接監視に置かれた。
 それから数分後、日来の監視のために呼ばれた増援艦が日来に到着。
 予定より到着が遅れたが、着々と日来の完全監視体制の準備が進む。
 日来に来たのは彼らだけではない。
 空から落ちてくるものがある。
 当たると冷たく、液体状のもの。
 雨だ。
 始めは弱く降っていたが、時間が経つにつれ徐々にその激しさを増す。
 汚れを洗い流すように、強く地面に打ち付ける。
 ただ黙々と、空から地に向かって落ちてくる。
 その雨は止むことなく、日が移り変わっても降り続けていた。 
 

 
後書き
 取っ捕まってしまいましたね。
 西二番貿易区域は、縦横2キロの正方形でできています。
 中央に停泊のためにスペースを確保するため、端にコンテナを積み上げている形を取っています。
 セーランが言った「愛を待て」の愛は、“会い”という意味も含まれています。
 介蔵君は以外と凄い奴なので、その言葉の意味を理解しています。
 ちゃっかり救出宣言したわけですが、普通に聞いてたら気が付きませんな。
 次回は、仲間達の話し合いみたいなものです。 
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