非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第三章 波乱の肝試し
第64話『奇妙な行事』
前書き
話が早いけど、気にしない気にしない。
「なぁ見たか? 今週の学校新聞」
ある日の教室での出来事だった。
半袖をさらに捲り上げ、肩まで露出している大地が嬉しそうに晴登に訊いた。
「いや、見てないけど…」
「なんでも今日から夏休みまでの間、『肝試し期間』らしい」
「何だその奇妙な期間」
若干楽しそうにしている大地に、晴登は訝しげな目線を送る。そんな期間、どう考えても普通の学校には存在しない。この学校特有の行事だろう。それにしても、謎である。
「期間中はこの学校の敷地内にある心霊スポットに、肝試しに行くことができるらしい」
「へー」
「興味無さそうだな」
「だって俺らには関係無い話だろ?」
「違うんだな・・・これは全員参加みたいだ」
「なん…だと…!?」
大きく目を見開く晴登に、大地はしたり顔。どうやら、この反応を期待していたらしい。なんと趣味の悪い。
だがしかし、全員参加となると無視する訳にはいかなくなる。どうやって参加を把握するのか疑問ではあるが、参加しなかった時がどうなるか、想像するのは気が引けた。
「まぁ、困った時は部長に相談するか・・・」
*
「・・・で、俺に意見を仰ぎたいと。ちなみに、肝試しについての話はそれしか聞いてないのか?」
「はい」
「そうか…。なら、全容を説明しといた方が良さそうだ」
晴登は部活が始まって早々、終夜にその話題を振った。去年もあった行事のはずだから、きっと詳しいだろうと思っていたら、当たりだ。
ちなみに部活と言っても、特に何の活動もしていない。二年生達は駄弁り、伸太郎は読書をし、結月と緋翼に至ってはトランプを始める始末だ。
「とりあえず、ざっくりと説明するとだな・・・」
そんな部員達を他所に、終夜は晴登に肝試し期間の全容を説明し始めた。それらをまとめると、次のようになる。
・全員参加
・舞台は学校の敷地内にある森
・肝試し期間中は、必ず一回以上は肝試しに行く
・肝試し期間外では、逆に行ってはいけない
・人数に制限は無し
・時間は19:00~24:00の間
・先生の許可を得てから森に入る
「・・・聞いている限り、結構真面目な行事なんですね…」
「そうだ。お遊びと思ったら大間違いだぞ。『肝試し期間外に行ってはいけない』っていうのは、実はその時だけは、"お化けの国"に連れて行かれると云われてるからなんだ」
「へぇ……って、え? どこに連れて行かれるって言いましたか?」
予想外のワードに、思わず聞き返す。晴登が難聴でなければ、間違いなく終夜は「お化けの国」と言ったはずだ。肝試しだからお化けが関係有るのは理解できるが、お化けの国に連れて行かれるというのは、さすがに子供騙しにしか聞こえない。
「お化けの国だよ。その名の通り、お化け達がいっぱいいる場所だ」
「は、はぁ…」
「信じてない顔だな。ホントにあるんだぞ?」
「見たことは有るんですか…?」
「もちろん無い」
「えぇ……」
これには、さすがの晴登も露骨にため息。根も葉もない噂話を信じている終夜が、とても憐れに思える。
しかし、そんな様子の晴登を見た終夜が、黙っている訳が無かった。
「そりゃ、期間外に行くことは禁止されてるんだから、当然見たことがある奴はいないだろうな」
「そうですよね」
「でも実際、去年は1人連れて行かれたって噂よ」
「え!?」
口を挟んできたのは緋翼だった。見ると、彼女の表情は真剣そのものであり、ホラを吹いている様にはとても見えない。
「誰かが足りない、かつていた気がするけど思い出せない、そんな人がいるって噂。まるで皆の記憶でも操られているかのように、その存在は曖昧になっているの…」ガクガク
緋翼が本気で震え始めて、晴登の背筋に悪寒が走った。終夜の方を見ると、彼は腕を組みながらうんうんと頷いている。
「いやいや、シャレになってませんって!?」
「よーし、じゃあ話を戻すが・・・いつ肝試しに行くか、だ」
「スルーしちゃダメでしょ!?」
終夜は声のトーンを少し下げ、怪談を語るかの様に喋り始めた。人の話を無視しておいて、よくここまで真面目な表情ができるとは。逆にすごい。
「普通に考えてわかると思うが、早い時間帯を勧める。うちの学校の森は広いからな。迷うことも十分考えられる。迷ってる内に24時を過ぎたりなんかしたら最悪だ」
「ていうか、このイベント必要ですか…? 噂だけど、被害が出ちゃってるんですよね…?」
「このイベントが必要な理由・・・それは知らん。たぶん何かしらの目的は有るんだろうけど、そんなの俺たちが知る由は無い。ただとりあえず、規則をしっかりと守りさえすれば、お化けに連れ去られないのは確かだ」
「…はい、わかりました」
やはり、相談したのは正解だった。実にとんでもない内容だったが、知らないよりは幾分マシである。後は、規則に従って肝試しをするだけ・・・
「──と、忠告したのは良いけれど、実は俺に考えが有ってだな。魔術部で肝試しに行くのはどうだ?」
その提案が出された途端、部員全員の目が一斉に終夜に向いた。彼はその様子を見て、話を続ける。
「ほら、俺らってあまり全員参加の行事が無いだろ? だから、こういう時くらいは部活単位で活動したいなって」
「確かに、GW以来かもしれないわね」
「俺は良いと思います。やっぱり、先輩と行く方が安心できますし」
「よく言った三浦! どうだ、全員決定で良いか?」
誰も反論することは無かった。終夜はその様子に満足し、大きく息を吸うと、高らかに叫んだ。
「じゃあ今日の20時、正門に集合! やると決めたら早速行くぞぉ!」
「「おぉー!?」」
計画の速さに驚きつつも、終夜のテンションに乗せられる部員達であった。
*
「よし、全員集まったな」
時刻はジャスト20時。夏ということで、辺りはようやく暗くなったというところ。魔術部部員は全員、学校の正門に集合した。
ちなみに集合場所が正門というのは、単に一年生が肝試しスポットである森の場所を知らないからである。
「んじゃ早速行くぞ。もう許可は取ってる。どうやら、俺達がトップバッターらしい」
終夜曰く、この行事を苦手とする人は多く、殆どの人は行くタイミングを合わせるらしい。しかも最終日付近に。おかげで、一日目に行く人口はいつも居ないに等しいのだと。
魔術部一行は森へ向けて歩き出した。辺りはひっそりとしており、灯りも少ないので懐中電灯が手放せない。
しかし、そんな中でも終夜はズンズンと進んで行くので、ついて行くのが大変であった。
「着いたぞ」
「おぉ…」
森に着くと、晴登は思わず声を洩らす。例えるなら、山奥に有るような森林が、目の前には広がっていたのだ。
そして異様な雰囲気を感じて確信した。これは"出る"と。
「それじゃ、早速行くぞ」
森を取り囲む柵の内、入口なのか、一箇所のみ空いている場所があった。終夜はそこから森へと入って行く。
部員も全員、終夜の後に続いた。
さすが、肝試しスポットと云われるだけはある。夏であるにも拘らず、森の中はヒンヤリとしていた。
「やっぱり、いつ来ても慣れないわ…」
緋翼がボソリと呟く。三年目の彼女でこの反応ということは、余程ここの肝試しはレベルが高いのだろう。メンバーは揃っているが、油断は禁物だ。
「何だか変だね、ハルト……」
「そうだな……」
不安げな結月を見て、なおさら気を引き締める。彼女の手前、情けない姿は見せられない。
一行は森の奥へと進む。先程聞いた話なのだが、この肝試しは『奥に有る祭壇から石を取ってくること』が目的らしい。ただし、その祭壇の在処は教えてくれないという鬼畜特典が付いてくる。
しかも、この森の風景は一年経つとガラッと変わるらしく、祭壇の場所を憶えるのが困難なのだと。なんと嫌らしい。
「……ん?」
そこまで文句を思っていた所で、晴登は足を止めた。急に止まったが故に結月が後ろからぶつかるが、それを気に留める余裕は晴登に無かった。
「何だよ…あれ…」
その物体は遠目でしか視認できなかったが、存在感はとても大きく、晴登の目を一瞬で奪った。
「どうした三浦──ん?」
止まった晴登に声を掛けると同時に、終夜も"それ"に気づいたようだ。
ゆらゆらと空中を踊る、青白い炎に。
「きゃあああぁぁ!!」
悲鳴をあげたのは緋翼だった。その声に、部員全員に緊張が走る。
「内心信じてなかったけど、マジだったのか…」
「アレって何だと思う、暁君?!」
「何ってそりゃ──"人魂"じゃねぇのか?」
少しだけ、伸太郎の声は震えていた。
人魂と云えば、読んで字のごとく"人の魂"。それが出現するということは、この地がそういうものと縁が有るということになる。
「部長、どうしたら…?!」
「落ち着け。あんなの、この肝試しじゃ日常茶飯事だ」
「え、そうなんですか…?」
「あぁ。コイツがビビり過ぎなだけだ」
そう言って、終夜は緋翼に視線を送る。彼女は頭を抱えて蹲っていたが、その視線を感じるとすぐに立ち上がり、何事も無かったかのようにすました顔をしていた。
「日常茶飯事なのか、アレ……」
晴登は釈然としないまま、歩みを再開した終夜達について行く。しかし、事はその直後だった。
『タス…ケテ…』
「…ん?」
『タス…ケテ…』
「え、えぇ??」
突如として頭に響く声。晴登は困惑し、思わず驚きを声に出す。
すると、何かあったかと終夜が振り返った。
「あの、声が頭に…」
「は、何言ってんだ? 誰かテレパシーでも使うのか?」
「いえ、知らないですけど……」
終夜は晴登の話を適当に流す。もしかすると、これも肝試しでは日常茶飯事なのかもしれない。
「じゃあ、無視していいのかな…?」
『タスケテ…』
「無視だ無視」
『タスケテータスケテー』
「…無視だ」
『タスケテタスケテタスケテー!!』
「いや、うるさっ!? 何これ!?」
SOSが大音量になった所で、我慢できずに再び叫ぶ。その様子に、さすがの終夜も気になったようで、歩みを止める。
「さっきからどうした? 呪われでもしたか?」
「縁起でもないこと言わないで下さい! 大体、呪われるって何に──」
そこまで言って、目線が背後へと戻った。そこでは、先程の人魂が未だにゆらゆらと宙を揺蕩っている。
「もしかして・・・アレのせいですか?」
「人魂が呪う・・・有り得ない話では無いな。ちょっと行ってみるか」
「え、アンタ正気?! 絶対ロクな目に遭わないって!」
「ビビリはお留守番でもしてて構わないが?」
「私も行くわ」
ささやかな茶番の後、こうして魔術部一行は進路を変更し、人魂の元へと向かう。やはり道中は草木で阻まれているので、そこは魔術でどうにかこうにか。
しかし、ようやく近づいたかと思うと、人魂はゆっくりと晴登たちから離れるように動いた。
「チッ、追いかけるぞ! 見失うな!」
目的が変わってしまったが、終夜はお構い無し。器用に道無き道を駆け、人魂を追いかける。晴登たちはついて行くのでやっとだった。
追いかけっこを始めてどれだけ経っただろうか、ようやく人魂が停止する。
「よし、あと少しだ!」
そして、人魂の姿をくっきりと視認できる程の距離まで近づいた所で、晴登たちは走るのを止めた。
近くで見ると、蒼い炎というのはとても幻想的で、見ているだけで吸い込まれそうな気分になる。
『タスケテ──!』
そして、人魂が一際大きく言葉を放つと、眩い光が晴登たちを包み込み、意識を奪っていった。
*
意識を失ってから経った時間は、もはやわからない。晴登たちは、目覚めた場所に困惑する他無かった。
この音、この風、この匂い・・・間違いなく、眼前に拡がるのは"海"である。つまり晴登たちは、砂浜の上で眠っていたようだった。
「何で海に?!」
「あの人魂の仕業か…?」
驚いているのは晴登だけではない。二年生も三年生も、この非常事態に焦りの色を隠せていなかった。
初めての肝試しにて、予想不可能な緊急事態発生。そしてこの先に待ち受ける壮絶な試練を、この時の晴登は知る由もなかった。
後書き
さて、中々に訳のわからない展開になって来ました。彼らの運命や如何に?!(←適当)
いやはや、やっぱり自分は書き始めると、どうも路線が外れるみたいで。今回は普通に──する予定だったのが~〜することになっちゃったし、今後の予定もホントに変なことになってます。
よって、ここから先の閲覧は自己責任ですよ(黒笑)
まぁ、それでも読んでやるぞという気概の方、どうかしばし新ストーリーにお付き合い下さいませ。具体的には次回をお楽しみに。では!
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