魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica6-Aその日、王は少女になる~Freedom~
†††Sideイリス†††
「シャマルお姉ちゃん、アインスお姉ちゃん、ザフィーラ!」
「コロナ!」
「「フォルセティ!」」
「ヴィヴィオ!」
無事に任務を終えて、イクスヴェリア陛下が眠っておられた遺跡から脱出した私たちは、地上の駐車場エリアで待ってたシャマル(浅い場所とはいえ落ちたことでちょっと服が汚れてる)達と、ここまで頑張ってたヴィヴィオ達の再会シーンを微笑ましく見守った。ヴィヴィオ達の新しい友達だって言うリオって元気っ娘も、「お母さん、お父さん!」ってご両親と再会を喜び合ってる。ご両親からの「本当にありがとうございました!」ってお礼を受けてるアイリとスバルも嬉しそうに微笑んでる。
「良かったです。ヴィヴィオ達を無事にご家族の元へ帰すことが出来て・・・」
そう言って胸を撫で下ろしてるのは、古代ベルカ諸王の内の1人で冥府の炎王と畏怖されていたガレアの王、イクスヴェリア陛下。正直な話、おっさんだと思ってた。でも蓋を開けたらビックリ。10歳くらいの小さな女の子だった。
「ヴィヴィオとリオちゃんの処置は、フォルセティが・・・?」
「う、うん。アイリお姉ちゃんも、よく出来たね、って褒めてくれたけど・・・。ダメ?」
「いいえ! 本当によく処置してあるわ! えらい、えらい!」
「だよね~♪」
フォルセティがシャマルにハグされて、頭を撫でてもらってる。フォルセティってばいつか医者を目指しそうだよね。というよりは医務官かな。どっちにしても、たとえそれ以外の目標を決めても、すくすくと元気に育って行ってくれたらそれで好いって思う。
「あ、コロナ。新しい友達が出来たんだよ~♪」
ヴィヴィオがコロナにそう言いながら、あの子たちの元へと駆け寄って来たリオを見た。リオはおどけた風に敬礼をしつつ、「リオ・ウェズリー! よろしくね~!」自己紹介をすると、コロナも「うんっ、よろしく! コロナ・ティミルです!」って名乗り返した。
「男の子1人で女の子3人か~。将来的にフォルセティも苦労しそうだよね~」
「とは言っても、フォルセティは今のところヴィヴィオ最優先と言った感じだからな。しかも妹的な感じだし」
ヴィヴィオとコロナとリオの美少女3人と一緒に居るフォルセティに、かつてのチーム海鳴の姿を重ねた。ルシルの場合は美少女&美女が十数人だったけど。ユーノも司書務めじゃなくて武装隊とかに行っていれば、ルシル単独ハーレム?を阻止できていたものを。
「イリス~。特騎隊全騎、揃ったよ」
「あいよ~。はーい、せいれ~つ!」
ルミナから報告を受けたわたしは手をパンパン叩いて、前に特騎隊メンバーを整列させる。左端から順に前線組のルシル、ルミナ、セレス、クラリス、ミヤビ、後衛組のティファレト、アイリ、クララ先輩、セラティナ。ミヤビと先輩とセラティナはベルカや教会とは関わり合いがそんな無いし、陛下護送は教会騎士として仕事なんだけど・・・
「これよりイクスヴェリア陛下を聖王教会本部へと護送しま~す。マリアージュは、本件首謀者のルネッサ・マグナスが機能停止するように最終指令を下したようだから、おそらく襲撃は無い、と思う。仮面持ちについては不明だから、厳戒態勢で陛下をお護りする。セラティナは護送車内に結界を、ミヤビは念のために雷鬼モードで陛下の側に付いて。あと先輩の転移スキルで、教会本部まで一気に飛んで移動。これで仮面持ち連中も手出しは出来ないはず」
「「「了解!」」」
一応は特騎隊のメンバーってことで護送を手伝ってもらうことに。教会騎士団に手配した護送車が到着するまでの間、事務所でお世話になろうかって話してた時、「私たちはどうします?」ってトリシュとアンジェが聞いてきた。
「ティアナの元に付いてなくて大丈夫?」
「ギンガ捜査官とスバル防災士長、エリオ・キャロ両保護官が、ルネッサ・マグナスの護送に付くとのことだから」
「そっか。う~ん・・・陛下の護送には戦力足りてるからな~」
まぁどの道、トリシュ達もザンクト・オルフェンに帰るんだから、「じゃあ一緒に護送をお願い」って応援をお願いしてるところで、「お父さ~ん! アイリお姉ちゃ~ん! 僕たち、先に帰ってるね~!」って、フォルセティが大手を振った。
「ああ! 気を付けて帰ってくれ~!」
「バイバーイ!」
「バイバ~イ!」
ルシルとアイリも手を振って応えた。ホント家族してるな~、いいな~、羨ましいな~。んでヴィヴィオとコロナとリオ、それにフォルセティも「またね~、イクス~!」って、陛下にかなり馴れ馴れしく挨拶した。教会所属のわたしやルミナ、セレス、クラリス、それにトリシュとアンジェは内心ハラハラだったけど・・・。
「はい! ではまたいずれ!」
陛下も笑顔で手を振って挨拶を返したからホッと一安心。そんなわたし達の心情を察していただいたのか、「私はもう王ではありませんから」ってわたし達にも微笑んで下さった。
「すでにベルカもガレアも無く、王としての役目も終わっている私は、外見の幼い無駄に歳を取った、もう役に立たない失敗作の兵器ですので・・・」
「イクスヴェリア陛下。そこまでご自分を卑下になさならない方が良いかと。あなたは王という責務から解放され、ようやく1人の少女?・・・女性?として、現代を生きていけばよろしいのですよ。ヴィヴィオもまた、聖王という役割から解放されて、学生として家族や友人と過ごしているのですから」
陛下がしゅんとしているところで、ルシルが陛下の頭を撫でるという暴挙に出た。陛下も目を丸くしてルシルを見上げてるし。ルシルも「しまった、つい」って慌てて手を離そうとした。
「あ、待ってください! もう少しこのまま頭を撫でて頂けますか?」
頭から離れた手を取って、また自分の頭の上にルシルの手を乗せた陛下は、「懐かしいです」って本当に気持ち良さそうに目を伏せた。アイリが若干ヤキモチ妬いてそうな感じだけど、相手が陛下だってことでか耐えてるね~。
「あの、オーディン様は亡くなったのですよね? それでフォルセティは、オーディン様の遺伝子を基に生み出されたクローンであると・・・」
それは家族やあの子たち自身が告げた友人以外、局や聖王教会でも一部の幹部クラスしか知らない秘密。けどヴィヴィオとフォルセティは自分で陛下に伝えていたし、ここに居るメンバーも全員が知ってるから、ポロっと喋っても良いんだけど・・・。
「まぁいいか。そうですよ。魔神オーディンのクローンがフォルセティです」
「そうですか・・・。オーディン様にそっくりなのはフォルセティではなく、あなたのような・・・」
陛下は何か考えてるようで、少しばかり小首を傾げてブツブツと呟いていられたかと思えば、「うん」と頷かれた。そして「ありがとうございました、もう結構ですよ」とルシルに微笑みを浮かべられた。ルシルは「はい」って優しい声色へ返事して、陛下の頭から手を離した。
「えっと・・・。ルシルとアイリは今日はもう上がってもらっていいよ。護送車にそんなに入んないし。先輩に頼んで、マクティーラを持って来てもらうし」
「マクティーラって、シャーリーンのハンガーに置いたままだったっけ? なら護送車が来るまでにダッシュで取りに行ってくるけど・・・?」
「ルシルとアイリって、1ヵ月くらい家に帰ってないでしょ。帰さなかったわたしが言うのもなんだけど、そろそろ八神邸が恋しいだろうし、いいよ」
部下のプライベートもしっかりフォロー出来ないような奴が上に、部隊長を務める資格は無いってね。ルシルとアイリが顔を見合わせた後、「ありがとう!」ってお礼を言ってくれた。ルシルからの感謝で、今日1日の苦労は一瞬で消えちゃうよ~。
「ん。じゃあ先輩。ちょちょっとお願いです!」
「了解!」
先輩がスッと音もなく消えた。戻って来るまでの間に、わたしはルシルの側に寄り沿って「エグリゴリ、見逃して良かったの?」って聞く。遺跡内で“エグリゴリ”の1機であるフィヨルツェンとかいうのと遭遇したけど、アイツは狙っていた陛下を強引に拉致することなく、わたしやルシルと戦おうとすることなく・・・
――これはわたくし達の負けなようですね。ここは大人しく退きましょう――
そう言って踵を返して、また通路の奥へと消えて行った。ルシルは声を掛けることなく、魔術をスタンバイすることなく、あっさりフィヨルツェンを見送った。そこから今の今まで、フィヨルツェンについては何も言ってないからさ・・・。
「あの時の俺たちの最優先目標は、フォルセティ達の救出とイクスヴェリア陛下の保護だ。エグリゴリは俺個人の目的だからな。それにあんな場所で戦っては、全員揃って崩落する遺跡に押し潰されて人生終了だ。なに。再戦の機会できた。仮面持ちを追えば否応にもフィヨルツェンと闘うことになる。今はそれで十分だよ」
「そうだね、うん、そうだ」
本当は戦って、勝って救いたかったんだろうけど、自分を優先しないで他を優先するそんなルシルが本当に大好きだよ。最大のライバルなはやての元に帰すのは、ちょこっと悔しい気持ちもあるけど・・・。今日ばかりは譲ろうじゃないの。
「マクティーラ一丁お待たせ~!」
先輩がルシルの愛車である“マクティーラ”と一緒に戻って来た。ルシルとアイリが先輩に感謝した後、陛下へと振り返った。
「ではイクスヴェリア陛下。自分とアイリは一足お先に帰宅させて頂きます」
「あ、はい。お気を付けてお帰りください。あの、他の皆さんにもお願いしますが、私はもう王ではないので陛下という敬称と丁寧語は無用です」
「はい。イクスヴェリア」
「じゃあ今日はバイバイ、イクスヴェリア!」
ルシルが“マクティーラ”のシートに跨って、アイリがサイドカーに乗り込んだ。そんな2人の乗る“マクティーラ”にわたし達は手を振って見送った。それからしばらくして教会本部から中型バスタイプの護送車が来てくれた。
「えっと、じゃあ・・・その・・・イクスヴェリア」
「はい」
「護送車へ乗ってくだ・・・くれる、かな?」
「「「「イリスぎこちない」」」」
ルミナとセレスとトリシュと先輩がポツリと呟いた。わたしは「じゃあルミナ達もタメ口使って見せてよ!」って反撃。いくら元王様だって陛下自らが仰っても、生ける伝説でもあるのだ。緊張しない方がおかしい。あとで、やっぱり不敬とみなします、なんて言われたら・・・。考えるだけでも恐ろしい。ルミナ達は「あ~」なんて明後日の方を見て誤魔化すし。こんちくしょー。
「コホン。さっき伝えた通り、護送車にみんな乗って一気に教会本部へ移動しま~す。ミヤビは先に乗って」
「あ、はい!」
――鬼神形態顕現――
額からクリスタルみたいな角を2本と生やしたミヤビ。さらに「雷鬼降臨」と告げると角がイエロートルマリンみたいな色彩に変化した。角の色でミヤビの変換資質が変わるんだよね。赤は火、蒼は水、翠は風、黄は雷、茶は土、って具合に。黄の雷鬼モードの時のミヤビは思考力や体の機動力も格段に上がって、転移能力者でも十分捉えられることは先輩との模擬戦で実証済みだ。
「それじゃあイクスヴェリア。足元に気を付けて乗ってね」
「はい、ありがとうございます」
イクスヴェリアの手を取って、彼女が段差で転ばないようにエスコートしながら護送車に乗り込む。ルミナ達も続いて乗り込んで、「それじゃ聖王教会本部に向けて・・・しゅっぱ~つ!」と拳を振り上げる。そうしてわたし達は、先輩のスキルで教会本部へと発った。
†††Sideイリス⇒ルシリオン†††
シャルのお言葉に甘えて俺とアイリは一足先にマリンガーデンを発った。シャマル達には、はやてに夕飯は要らない、と伝言をお願いしたんだが、このまま寄り道無く帰れば午後7時には着いてしまうな。
「今日はシグナムとヴィータとアギトは仕事だったか?」
「あ、うん。シグナムとアギトお姉ちゃんは夜勤で、ヴィータは教導隊としてヴァイゼンに出張中。だから今日はヴィヴィオを家で預かることになってるんだよね」
「あぁ、そうだったか。コロナをまず家に送るだろうから、俺たちが先に着くか・・・。はやてに連絡して――」
「ちょいと待ったマイスター!」
信号で止まったところではやてに、今から帰るよ、って連絡を入れるために通信しようとしたら、アイリが制止してきた。だから通信することが出来ず信号も青になってしまい、仕方なく“マクティーラ”を再び走らせる。
「何でだ?」
「1ヵ月ぶりの帰宅なんだよ? サプライズ~、サ~プラ~イズ~・・・ドッキリ♪」
「・・・夕飯はどうする? サプライズで家に帰っても、俺とアイリの分の夕飯は用意されていないぞ。それは正直嫌だ。はやての料理が食べたい、これかなり本気で」
特騎隊の本部の艦船・シャーリーンには専属のシェフが居るし、本局のレストラン街でも食事を摂ってはいたが、はやての優しい味付けの料理が心底食べたい。金を払ってでも食べたい。
「あー、そっか~。う~ん・・・。じゃあ材料だけ買って、ダッシュで帰ればはやてと一緒にご飯作れるかも?」
「悪くはない提案だが、はやてもはやてですでに材料を買っているだろうから、明後日の方の材料を買って行ったら無駄になるし。ここは可能な限り高速で帰る!」
サプライズというのは反対しない。はやての反応がちょっと楽しみということもあってさ。まぁ彼女のことだからいつも通りに、おかえりなさい!って普段のように挨拶してくれると思う。それでいいと思う。
それから俺は混んでいないルートを検索しつつ帰路を走り、「やっと帰って来られた」と見えてきた八神邸を見て呟く。道中でのアイリからの提案に乗って、少し離れたところでエンジンを切って、音を立てないように敷地内へと入る。
「シャマル達はまだ帰って来てないみたいだね」
「そのようだな」
ガレージに“マクティーラ”を停めて、足音を立てずに忍び足でそ~っと玄関へ向かう。可能な限り音が出ないようにドアを開けては閉め、靴を脱いでスリッパに履き替えて家に上がる。アイリと2人でそっとリビングとダイニングを覗き込んで、はやての姿を捜すが見当たらない。
「トイレかな?」
「2階に居るかもしれないな」
アイリのサプライズどっきりは不発に終わりそうだ。アイリも「失敗か~」と肩を落とした。2人でリビングに入って、アイリは「喉渇いた~」と、明かりの点いていないキッチンへと向かう。俺もキッチンで手を洗おうと続こうとした時・・・
「わっ!!!!」
「わっひゃあああああっ!?」
はやてがキッチンの陰から飛び出し、アイリを割と本気で驚かせた。アイリは尻もちをついて「無かった、気配なんて無かった!」って叫んだ。
「あー、ごめんなぁアイリ。まさかここまで驚くとは思わへんかったから」
「あぅ~」
エプロン姿のはやてから差し伸ばされた手を取って立ち上がったアイリが、「なんでアイリ達のこと気付いたの?」と尋ねる。俺とアイリもかなり気を使って気配を断っていたはず。それでも気付かれたとなると、はやての感知能力の凄まじいレベルに成長したと驚かざるを得ない。
「ん? シャルちゃんから連絡を貰ったんよ。ルシル君とアイリを今日帰すから、美味しいご飯でも作ってあげて~ってな」
「あはは。端からネタばれがされていたか~」
「そうや。そやからルシル君とアイリが帰って来るんを心待ちにして待ってたら、どうも私を驚かそうとしてるみたいやん? それやったらこっちも受けて立とうって思うたんよ。結果は大成功やな♪」
これもシャルなりの気遣いだったんだろう。はやてが楽しそうに笑う姿に、帰って来た、って思いが胸に広がる。そんな俺の元へと駆け寄って来たはやて。キュッと俺の制服の上着を掴むと、「おかえり!」って挨拶をしてくれた。
「ただいま、はやて」
「ただいま~。今度は必ずアイリがはやてを驚かせて見せるからね!」
「ふふふ~、やってみ~♪」
それから俺とアイリは自室で部屋着へと着替え、俺は変身魔法を解いた上ではやてと一緒に夕飯つくりをし、アイリはリビングのソファに寝転がって、ファッション雑誌に目を通しながらテレビをつけた。放映されていたのは、俺たちがついさっきまで関わっていたマリンガーデンでのマリアージュ事件。リポーターの後ろでは、災害担当の局員が事後処理に追われている姿がある。
「それにしても大変やったな~2人とも。アインスからフォルセティとヴィヴィオが行方不明って連絡が来た時は、ホンマに血の気が引いて卒倒しかけたわ~」
「アイリもだよ~。しかも遺跡にはマリアージュが居て、もう怖くて怖くて。2人の身に何かあったらと思うと・・・」
はやてとアイリが同じタイミングでうんうんと頷いた。手際良くエビの皮を剥いているはやてが「そやけど・・・」と前置き。
「ルシル君とアイリ、それにシャルちゃんが救出に向かったって聞いて、それはもう安心したもんやよ。安心した通りちゃ~んとフォルセティ達を救い出してくれた。2人とも流石やよ~♪ 偉い偉い❤」
そう言ってはやてが俺の頭を撫でてきた。確かに今の俺ははやてと似たような身長(2~3cmばかり上だが)で、撫でやすいだろうが・・・。ちょっとばかり照れくさい。こうやって頭を撫でられるなんて本当に久しぶりだな~。
「はやて~! アイリも、アイリも~♪」
「はいはい♪ アイリも偉い偉い♪」
ソファからキッチンまでトテトテと駆けて来たアイリも、はやてに撫でてもらって「えっへへ~♪」とご満悦のようだ。スキップでソファに戻っていくアイリを見送る。
「そう言えばルシル君、それとアイリ。明日の予定とかは何か決まってるん?」
「今のところは未定かな。プライソン一派と関わりのあるとされる新しい組織が見つかったんだが、本部が何者かに襲撃されて殲滅を食らってた」
先日の第53管理世界アンバーで遭遇したテロリストの属していたマフィア、アウロラファミリーの本部は地獄絵図と化していた、という連絡をトレディア・グラーゼの調査中にシャーリーンから受けた。
「おそらく仮面持ちだろうな。連中はどうやら悪を成して悪を滅すを念頭に置いて動いているらしくてな。犯罪者を殺して回って、力尽くで平和を作ろうとしている。ああいう手合いは言葉では止まらない。こちらも力尽くで止めに行くしかない。フィヨルツェンも関わっていることだしな」
今回はフォルセティ達を最優先するため、仕方なく交戦には入らなかった。まぁたとえあの子たちが居なくても交戦しなかったが。遺跡などという閉所&崩落危機な場所を戦場にするなど自殺行為だ。
「だからアイリたち特騎隊はしばらく予定が未定なのだ~」
「そうなんや・・・。私、明日空いてるんよ。私とルシル君とアイリの3人でデートせえへん? 明日は平日でフォルセティ達は学校やし、シグナム達も仕事やし、アインスとリインは研修やし。3人で出かけられるんは明日だけやと思うんよ。・・・この1ヵ月、ルシル君とアイリとは遊んでへんかったやろ? たまには一緒したいな~って・・・どうやろ?」
期待と不安が半々な瞳を俺に向けるはやてに、「俺は構わないよ」と誘いに応じた。するとはやての目が爛々と輝きだす。これで仕事とか入ったりでもしたら、はやてだけじゃなくて俺もすごいショックを受けそうだ。
「アイリはいいや~。家でのんびりしとく~。ひっさびさの休みだしね~。だから~、ルシルとはやての2人きりのデートを楽しんで来て~」
まさかの拒否にはやてが「うえ!? ええの、アイリ・・・?」と驚いた。俺も、アイリが付いて来るのだとばかり思っていたが・・・。
「アイリとシャルでルシルを独占してたしね。いつまた召集が判らないし、1日くらいはやてが独り占めしても良いって思うよ~♪」
「お、おう・・・。それじゃあお言葉に甘えてっと。ルシル君。私とデートしてくれるか?」
「ああ、もちろん喜んで」
はやてからのお誘いを断るわけがない。ここ最近はずっと戦闘ばかりを行っていたから、こういうゆっくり出来る時間を過ごしたかった。満面の笑顔を浮かべたはやては「やった! わぁわぁ♪ どこ行こうかな~♪」と小躍りしながらエビチリソースを作り出した。それから数々の料理を作り終えて、はやてと調理器具の片付けをしつつ、どこへ行こうか?と話し合っているところに、通信が入ったことを知らせるコール音が鳴り響く。
「俺か?・・・シャルからだな・・・」
「嫌なよか~ん」
「俺もだ。・・・こちらルシル。何かあったのか?」
『何かあったなんてレベルじゃないよ。イクスヴェリアの事でちょっと助けてほしいんだけど!』
任務への招集かと思えば、イクスヴェリアに何かしらの問題が起こったのだと。ここで先の次元世界でのイクスヴェリアの事を思い起こした。俺はセレスから洗脳されていて実体験はしていないが、彼女が機能不全で眠りに着いた事、シャルが俺から伝わっていた魔術でイクスヴェリアの機能不全を修復して起こした事。おそらく今回もそれだろうとアタリを付ける。
『とにかく、迎えの先輩をやるから教会本部に来て! お願い!』
必死に懇願してくるシャルに、「ルシル君、行ったって」とはやてが俺の右手に手を添えた。だから俺は「すぐに帰って来るよ」とその手に左手を添えた。
『イチャイチャしてるのに水を差すのは気が引けるけど、こっちも出来るだけ急いで欲しいんだけど・・・』
「あはは、ごめんな~」
謝ってはいるが俺の腕に抱き付くはやて。シャルは口端をヒクつかせながらも『ありがと~(棒)』と笑顔で応じた。その瞬間、「お邪魔します~! 迎えに来たよ~!」と玄関からクララの声が。
『んじゃ待ってるから~』
シャルとの通信が切れ、俺は「いってきます」とはやてに挨拶すると、「そこまで送るよ」と玄関まで俺の腕に抱き付きながら、アイリと共に付いて来てくれた。
「お、久しぶり、はやて!」
「久しぶり、クララ先輩!」
特別技能捜査課の解散以降、はやてとクララが直接顔を合わせることはなかったからか、挨拶は自然と、久しぶり、だ。俺は靴を履き終え、「いってきます」と手を振り、はやてとアイリからの「いってらっしゃい!」と見送りの中、俺はクララの転移スキルで八神邸を後にした。
「ただいま~。ルシルを連れて来たよ~」
クララの挨拶を耳にして目を開けると、そこは聖王教会本部の応接室だった。コ字状に並べられたロングソファの奥に、ティアードワンピースに着替え終えているイクスヴェリアが腰掛けており、特騎隊メンバーとトリシュとアンジェがソファの後ろに控えていた。彼女たちだけでなく、シャルの実母で現聖王教の教皇である「マリアンネ聖下」も居り、イクスヴェリアの隣に座っていた。
「お久しぶり、ルシル君。急にお呼び立てしてごめんなさいね」
「シャルではなく聖下が自分を・・・?」
「ええ。私から直接連絡を入れようとしても、娘があなたのアドレスを教えてくれないの・・・」
右手を頬に添えてほぅと溜息を吐く聖下にシャルが「絶対ヘンな事するもん・・・」って呆れた。これは話が長くなりそうだと判断した俺は、「自分は何をすれば?」と本題を切りだした。
「あ、そうそう。実は・・・――」
予定外の目覚めだったというイクスヴェリアの話から彼女を調べたところ、彼女の身体機能が不全を起こしていることが判明したとのこと。定期的に休眠と覚醒を繰り返す彼女だが、前回にダメージを負い、今回の予定外の覚醒が原因だろう、というのがティファレトの見解だそうだ。
(やはりそうだったか)
「――で、ティファレトの話では現代の医療技術では治療不可能ということなの。そこで娘たちから聞いていたあなたのコード・エイル。それを頼ろうと考えたの」
「次に眠りに着いたらいつ起きられるか判らないってことで・・・。ねえ、ルシル。お願い、イクスヴェリアを助けてあげて」
聖下とシャルからの懇願だから受けはしたいが、「イクスヴェリア。あなたの意思はどうだ?」と件の本人である彼女に問う。周囲がイクスヴェリアの治療を望み、本人が望んでいないのであれば、この治療は行えない。
「・・・私は休眠と覚醒を繰り返しながらも1000年以上と生きてきました。それは冥府の炎王、マリアージュの生成素体という兵器として。ですがもう・・・ベルカもガレアも無く、戦乱の時代もとうの昔に終わり、私の役目は完全に終わりました。ですから私も、冥府の炎王としてではなく、イクスヴェリア個人として現代の世界を生きようと思います」
「その答え、確かに聴き届けました」
魔力炉の稼働率を上げ、俺を魔導師から魔術師へと昇華させる。魔術としてのエイルなら、魔法としてのエイルより効果が格段に高い。イクスヴェリアの元へと歩み寄る中、「やっぱり・・・」と彼女が何か納得したかのように微笑んだ。
「どうかしたかい?」
「いいえ。・・・それではルシリオンさん。どうぞよろしくお願いします」
ソファより立ち上がったイクスヴェリアのすぐ目の前に立ち、彼女の頭に左手を乗せる。
「女神の祝福」
そしてエイルを発動。イクスヴェリアの全身が俺のサファイアブルーの魔力に覆われた。
「(手応えアリ)・・・イクスヴェリア、貴女自身から見て調子はどうかな?」
「あ、はい・・・。何と言いますか・・・スッキリしています。憑きモノが落ちたような、視界が開けて、体が軽くて・・・何かから解放されたみたいで・・・」
イクスヴェリアの瞳からポロポロと涙が溢れ出て来た。不安であるだろう、期待でもあるだろう。それまでの自分と別れ、新たな自分としての出発なのだから。マリアンネ聖下がその豊満な胸にイクスヴェリアを迎え入れ、「おめでとう」と一言。
「っ!・・・・はい」
こうしてイクスヴェリアは眠りに着くことなく、このまま生きていく事となった。
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