銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百二十五話 ヴァルハラ星系会戦
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第百二十五話 ヴァルハラ星系会戦
帝国暦483年8月5日 午前11時20分
■ヴァルハラ星系 ウォルフ・デア・シュトルム分艦隊旗艦イェータランド
ミッターマイヤーが四方八方に派遣した偵察艦とオーディンを守るために配置された戦闘衛星及び偵察衛星がワープアウト特有の空間歪曲を観測したのは、標準時午前11時20分の事であった。
「α−6.9、β3.7、γ7.2の空域に空間歪曲の兆候が出ました!」
「メルカッツ艦隊では無いのだな?」
「メルカッツ艦隊の到着位置とは完全に反対方面です」
オペレータの返答にミッターマイヤーとスクリーンを繋いでいた、ビッテンフェルトが同時に叫ぶ。
「全艦合戦用意!」
『全艦ぶっ飛ばずぞ!』
手ぐすね引いて待ち構えていた、ビッテンフェルトがミッターマイヤーに宣言する。
『おう、ミッターマイヤー、先鋒は俺に任せて貰ぞ、こういう時は先輩に先鋒を譲るのが習わしだ』
「おいおい、こんな時だけ先輩面かよ」
普段先輩風など吹かさないのに、こんな時だけ冗談交じりに言ってくる姿にミッターマイヤーは苦笑した。
『兵は拙速を尊ぶと言うだろ』
「判った、まず敵味方を確認しろよ、万が一味方だったら目も充てられん」
『何の連絡もなく、帝都へ土足で来る連中が、味方とは思えんが』
「確かにそうだが、一応警告ぐらいは送らねば成らないぞ」
『ああ、判った』
「艦隊ワープアウトしてきました、距離15光秒、数凡そ1万!」
「直ちに警告を送れ」
「はっ」
「接近中の艦隊、此方銀河帝国軍帝都防衛艦隊、直ちに停船し所属を明らかにせよ。呵らずんば攻撃する」
「反応ありません」
ミッターマイヤー艦隊からの警告を無視して艦隊が接近してくる。
『ミッターマイヤー、敵は警告を無視した、攻撃するぞ』
「判った。敵艦をオーディンへ降ろすなよ」
『わかっているさ』
シュワルツ・ランツェンレイター分艦隊旗艦シュワルツ・ティーゲルでは、ビッテンフェルトが口笛を吹きながら、命令を出す。
「全艦突撃攻撃開始!」
漆黒に塗装された、シュワルツ・ランツェンレイター3,000隻が解き放たれた猟犬のように、クロプシュトック侯艦隊へ向かって突撃を敢行する。あっという間に射程距離11光秒へと詰め寄ると、敵艦隊が慌てて攻撃をしてきたのである。
クロプシュトック艦隊は30年間実戦経験が全く無く、艦砲の最大射程で砲撃を開始してしまったのである。また僅か3,000隻の艦隊など鎧袖一触で蹴散らせると、考えたのも要因である。
10,000隻の艦艇から発射された5万本を超えるビームの群れは、シュワルツ・ランツェンレイターのシールドに弾かれ全く損傷を与えられない。
「撃ってきたな。此で大手を振って攻撃できるというものだ!」
「閣下どうなさいますか?」
「ミサイルを撃ちつつ、全艦突撃!敵の中央を突破し背面展開後ミッターマイヤーと挟み撃ちにする!」
ビッテンフェルトの怒声に反応するようにシュワルツ・ランツェンレイター各艦から一斉にレーザー水爆が発射され、クロプシュトック艦隊へ向かっていく。
オーディン近接でレーザー水爆を撃つなど狂気の沙汰もいいところであるが、事前にテレーゼからの許可も受け、細心の注意を計りオーディンにEMP効果が無いように計算して発射しているのであるが、クロプシュトック艦隊からすれば、ヴァルハラ星系でレーザー水爆を使うとは青天の霹靂で有ったために、混乱が発生する。
其処を狙い、シュワルツ・ランツェンレイターが鋭い切っ先をねじ込み始める。
「敵有効射程距離に入りました」
「全艦砲撃開始!」
3対1の劣勢にもかかわらず、シュワルツ・ランツェンレイターから発射された、2万本近いビームは寸分違わずに敵艦隊に突き刺さり、彼方此方で爆炎の華が咲き乱れる。
「進め進め!敵艦隊を食い破れ!」
シュワルツ・ランツェンレイターは獰猛な猛虎の如き勢いで混乱する敵艦隊を切り裂き、僅かな時間で艦隊を二分割にしてしまった。
混乱するクロプシュトック艦隊で有るが、更に追い打ちで、ミッターマイヤー艦隊が攻撃を開始した。
ウォルフ・デア・シュトルム分艦隊旗艦イェータランドでは、ミッターマイヤーが、シュワルツ・ランツェンレイターの攻撃を確認しながら支援攻撃を行っていたが、シュワルツ・ランツェンレイターが敵艦隊中央を突破したのを確認すると、全力攻撃を命令した。
「全艦、総攻撃、シュワルツ・ランツェンレイターと挟み撃ちにする」
「全艦、撃ちまくれ!ミッターマイヤーと挟み撃ちだ!」
同じ事だが、性格を出した命令が下る。
1万隻の艦隊が6,000隻に包囲され次々に撃破されるという、まるでダゴン星域会戦を見るようなフルボッコ状態が続く。しかし6,000隻である以上穴が生じて其処から、オーディンへ入り込もうとする艦艇が出始める。
「逃がすな!攻撃だ!」
「不味い」
刹那ワープアウトを終え、急進してきた、メルカッツ艦隊が到着したのである。
「敵艦隊は、ウォルフ・デア・シュトルム分艦隊、シュワルツ・ランツェンレイター分艦隊により包囲中、されど敵艦隊の一部が包囲網を抜け出した模様」
その報告を聞いたメルカッツ提督は、何時も眠そうに見える目を更に細めて、命令した。
「第3分艦隊は包囲殲滅に協力せよ、本艦隊と第4分艦隊は残敵を掃討、一隻とてオーディンへ向かわせるな。第2分艦隊はオーディンの防衛を行え」
メルカッツ艦隊の参加により、1万対1万3千500の戦いになり、しかも練度士気共に帝国でも一二を争う艦隊が参加したのであるから、味方艦隊の損害が殆どでない中で、敵艦隊の損耗は目も充てられない状態と成っていった。
帝国暦483年8月5日 午前11時20分
■ヴァルハラ星系 クロプシュトック侯爵領艦隊旗艦クヴェードリンブルク
クロプシュトック侯爵のクーデター計画に基づいて、ヴァルハラ星系侵入を計った艦隊はワープアウト直後、いきなりの誰何に戸惑いを隠せなかった。何故ならこの位置での遭遇など想定外だったからである。
「敵艦隊より入電『接近中の艦隊、此方銀河帝国軍帝都防衛艦隊、直ちに停船に所属を明らかにせよ。呵らずんば攻撃する』如何致しますか?」
「構わん、無視しろ」
「閣下、想定外位置に敵です。如何致しますか?」
「慌てるな、敵は6,000隻、此方は1万だ、ランチェスターの法則を考えても此方の勝ちは翻る事はない、しかも敵はオーディン近傍ではレーザー水爆は撃てない、しかし此方は気にせず撃てるのだからな」
その楽観論も、僅かな時間でEMP効果範囲を徹底的に計算し尽くした統帥本部の大型電算機により覆される事に成った。
「距離11光秒」
「ファイエル」
自信満々に放ったビームはシールドにはじかれたはしたが、元々敵艦隊を数で押すための威嚇に過ぎないと考えて居たが、相手が悪すぎた。そんな威嚇などでびびるような、シュワルツ・ランツェンレイターではなく、そんな事よりよほどビッテンフェルトが怒る方が怖いのである。
更に、敬愛する皇帝陛下とテレーゼ殿下を害し奉るような輩に対しての怒りが恐怖などより遙かに勝ち、士気が上がりに上がって居たのであるから、反撃の凄まじさは空前絶後と言えたのである。
そして、クロプシュトック艦隊がレーザー水爆を発射するより早くシュワルツ・ランツェンレイターからレーザー水爆が放たれ、次々に炸裂したのであるから堪らない。一気に混乱に陥り始めるクロプシュトック艦隊、其処を逃すビッテンフェルトではなく、第二次ティアマト会戦で同盟軍第4艦隊司令官マーチジャスパーの行ったように、バターをナイフで切り裂くような急進撃で艦隊を真っ二つにしたのであった。
「いったいどう言う事だ!敵艦隊がレーザー水爆を発射するとは!」
「閣下、味方は大混乱です!」
「此方も、ミサイルを撃て!」
「ダメです。敵艦隊の進撃が早すぎて今撃てば、本艦隊も被害を受けます!」
それでも、恐怖に駆られた艦隊からミサイルが撃たれるが、発射寸前のミサイル発射口やミサイルランチャーに命中弾を食らい、誘爆が次々に発生する。
「撃つな!!」
10,000隻が烏合の衆のように右往左往を始める。
「敵艦隊、中央突破背面展開をして我が艦隊の後方に廻りました!」
「不味い、第4分艦隊を回頭させ応戦せよ」
「閣下、敵第二陣が襲来してきます!」
正規軍のしかも練度で言えばトップクラスの2個分艦で有る、阿吽の呼吸でクロプシュトック艦隊を包囲し始める。
「敵艦隊、我が艦隊を包囲しつつあり」
「馬鹿な、僅か6,000隻で包囲できるか!」
その余裕も、直ぐさま消えるのであった。
「後方の第4分艦隊、回頭中に敵艦隊の攻撃を受け、2,500隻から800隻にまで撃ち減らされ艦隊としての形を為していません!」
「何だと、僅か10分でか!」
「閣下、此処は網の目を突破しオーディンの攻撃を行いましょう」
「勝てないというのか!」
「現実をお考えください」
参謀長の言葉にヨハン・フォン・クロプシュトックは遂に決した。
「判った。敵艦隊の隙間を抜け、オーディンへ攻撃を行え!」
その言葉に、比較的損傷の低い艦が集団で紡錘陣形を取り突破を計る。
殆ど艦が撃破される中、数十隻が突破完了し、オーディンへと迫るが、その時現れたメルカッツ艦隊により悉く撃破されたのであった。
帝国暦483年8月5日 午後0時30分
■ヴァルハラ星系 クロプシュトック侯爵領艦隊旗艦クヴェードリンブルク
「閣下、艦載機は全滅、当艦隊は十数隻を残すのみです」
「ふ、1万隻が僅か1時間か、以外にもろいな」
「閣下、敵艦隊より、降伏せよと入電してきます」
「ふっ、敵艦隊に繋げろ」
「はっ」
『帝都警備艦隊ミッターマイヤー准将です。貴官に降伏を勧告する』
「降伏、降伏だと、巫山戯るな!」
その言葉にミッターマイヤーが些か怒りに震えるのが判る。
シュワルツ・ティーゲルで聞いていたビッテンフェルトが、『今直ぐあの野郎を宇宙の藻屑に変えてやる』と怒鳴っていた。
『降伏しないと』
「ハハハハハ、今頃はクレメンス陛下と父上が、皇帝と皇太子を屠っていよう、決して犬死にではない、此でフリードリヒの血統は途絶えるのだからな」
『クレメンス陛下?』
「そうよ、フリードリヒに謀殺されかけた正当なる皇帝陛下クレメンス陛下の凱旋だ。卿等は謀反人となるのだ!」
『世迷い言を』
「ハハハ、直ぐに判るわ!」
直後にクヴェードリンブルクは最後の突撃の末、撃沈し宇宙の藻屑と成ったのである。
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