勇者番長ダイバンチョウ
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第22話 激突、星雲組!?男とは、時に敢えて道を踏み外す事もある(前編)
前書き
今回前後編をやってみようと思います。
1980年代―――
今から約20数年前のこの時代の宇宙は、正に激動の時代であった。
広大な宇宙各地に置いて、己が名を全宇宙へ轟かさんが為にと、幾多の悪党達が互いに血で血を洗う壮絶な戦いを繰り広げていた。
ある者は宇宙全土を支配する為に―――
ある者は宇宙にその名を刻みつける為に―――
ある者はただ己の欲求を満たす為に―――
宇宙は悪党達の血で真っ赤に染まっていった。
この異常な事態に、当時の宇宙警察、及び宇宙警備隊は事態の収集を余儀なくされていたものの、余りにも戦果が拡大し過ぎていた為に戦力不足に陥ってしまい、悪の根絶は困難を極めていた。
人々は戦果に巻き込まれるのを恐れながら、一日も早くこの地獄の時代が終わるのを願い続けた。
しかし、そんな彼らの願いも空しく、宇宙に覇を唱えんと立ち上がる悪党達は後を絶たなかった。
それに伴い、被害は広がり続け、犠牲者の悲鳴は広大な宇宙に空しく響き続けるのみだった。
後に『悪の戦国時代』と呼ばれる地獄の時代での出来事であった。
そんな時代の中で、互いに激しく争い合う二つの組織があった。
一つは、広大な宇宙を我が物とし、己の欲望を満たさんと悪逆の限りを尽くす組織、その名を『ゴクアク組』と呼ばれた。
ゴクアク星系出身の宇宙人『ゴクアク星王』を筆頭とし、大勢の悪党達が集い、今やその戦力は宇宙警察すらも容易に立ち向かえないほどまでに増大していった。
そんなゴクアク組に立ち向かうもう一つの組織。
仁義を貫き、人情を重んじる組織、その名を『星雲組』と呼ばれていた。
彼らはゴクアク組ほどの財力、戦力を持ち合わせてはいないものの、組織に属しているのはいずれも腕の立つ強者揃いであり、この広大な宇宙に置いて、唯一ゴクアク組に対抗し得る組織であった。
このゴクアク組と星雲組は、長い間激しい戦いを続けており、決着が見えないまま時間だけが過ぎ去っていた。
そんな激しい戦いは、唐突に終わりを迎える事になる。
星雲組の組長であった第21代目星雲組組長が病の為に急死してしまったのだ。
その為、星雲組を引き継いだ第22代目星雲組組長は、先代の息子が務める事となった。
其処に、ゴクアク星王は目を付けた。彼は、若い22代目に対し、多額の賄賂を渡し、その代価として、星雲組の全面降伏を迫って来た。
組員たちは断固としてゴクアク組の卑劣な要求を呑むまいと臨戦態勢をとっていた。
だが、その要求を若い22代目は応じてしまった。大勢の組員たちの反対を押し退け、多額の賄賂を受け取った代償として、星雲組は、ゴクアク組の傘下へと降る事となってしまった。
余りにも無情なその選択に、星雲組に属していた組員たちの不満の声が響くも、時既に遅し。
星雲組が所有していた組員、戦力、財力、土地に至る全てがゴクアク組に接収され、ゴクアク組を更に強大な組織へと成長させてしまった。
こうして、地獄の時代の幕は降り、代わりに更なる暗黒の時代が到来する事となった。
そう、ゴクアク組が全宇宙をその手にすると言う野望を実行に移しだしたのだった。
「ふふふ、我が世の春とはこの事だな。最早この宇宙に我がゴクアク組に対抗出来る組織は居ない。我らの天下は目前よ!」
手始めに、ゴクアク星王は値打ちのある星々を片っ端から差し押さえ、その星に住んでいた先住人達を次々と奴隷として売り捌いていった。
奴隷として売られた人々はそれは過酷な仕打ちを受け、その命が尽き果てる瞬間までゴクアク組を呪い続けたと言われている。
更に、自然豊かな星では宇宙麻薬の生成を行い、星の命すらも己の欲望の為に吸い尽くしていくと言う悪の所業を繰り返し続けた。
無論、そんな悪の所業に宇宙警察も黙っている筈がなかった。
直ちに部隊を派遣し、ゴクアク組征伐に動き出した。
だが、彼我の戦力差は圧倒的であり、多くの宇宙警察隊員が犠牲となってしまった。
その余りにも痛々しい戦況に、宇宙警察はゴクアク組征伐を諦めざるを得なかった。
***
【次に地上げを行うのはあの星か―――】
地球を見つめる二つの存在。地球制圧を目論むゴクアク組の放った構成員達の様だが、今回の彼らは何処か様子がおかしい。
【何時まで、こんな事を続けにゃならんのだ?】
【文句を言うな。俺達はただ、親と決めた組の為に働くだけだ。それが例え、仁義に反する行為だとしてもな】
【分かっちゃいるが・・・分かっちゃいるがよぉ】
【おしゃべりは其処までにしろ。そろそろ仕事に取り掛かるぞ】
不満を呟きながらも、彼らは地球へと向かう。全ては彼らが親と定めた組の為に―――
***
宇宙警察地球支部を壊滅させた番と守は無事に地球へと帰還し、晴れて仲間たちとの再会を果たす事が出来ていた。
「よっ、俺が居ない間ちゃんと留守を守っててくれたみたいじゃねぇの」
「ったく、調子良い事言ってんじゃないよ。あんたが居ない間こっちだって大変だったんだからねぇ」
【そうですよ。あの後僕やレッドさん、それにドリルさんの三人全員緊急メンテナンスで大変だったんですから】
レスキューが言うのは先のバトル三兄弟との闘いの際の出来事の事だった。
レスキュー、レッド、ドリル。三人の番長がそれぞれ合体し、新たな力、その名も『トリプル番長』へと姿を変えたのだった。
それでも、バトル三兄弟との闘いは相打ちに終わり、三人が元の動ける状態になるのに多大な時間と労力を費やす羽目になってしまった。
その間、迫りくるゴクアク組の猛威を茜一人で捌く羽目になってしまい、相当苦労を掛けてしまったようだ。
「ま、この際それは良いとしてだ。番、あんたが連れて来たあの男は一体誰なんだぃ?」
「誰って、守の事か?」
「他に誰が居るってんだぃ? パッと見ただけでも全然強そうに見えないし、一体何者なんだぃ? あいつは」
【俺も其処んとこ知りてぇなぁ、番】
茜の問いにドリルも食い付いてきた。
【俺達ぁ仲良しこよしの集まりじゃねぇんだ。戦力にもなりそうにない奴を連れて来られても邪魔なだけなんだよ】
「ドリルの言う事も最もだね。で、どうなんだぃ? あの峰守ってのは一体何者で、あんたとはどう言う関係なんだぃ?」
「見りゃ分かるだろ。あいつは其処に居るイインチョウの相棒で、俺が唯一喧嘩で負けた相手だ」
二人の問いに、番は簡潔に答えた。
【はぁ、お前が喧嘩で負けただぁ?】
「あんなもやし相手にかぃ?」
茜は信じられなかった。あの番が喧嘩で負けるなんて考えられない。
ましてや、それが目の前に居る如何にもひ弱そうな奴に負けるなんて―――
「おい、そこのもやし!」
「ん?」
論より証拠。番の言い分が嘘か真か、確かめる方法は一つしかない。
即ち、守相手に喧嘩をする事だった。
「あんたが番を負かしたってのは・・・本当なのかぃ?」
「そうみたいだね。と言っても、僕が番と喧嘩したのは随分昔の話だよ」
「あっそう。んじゃ、今度はあたしと喧嘩して貰うよ!!」
言うや否や、守の顔面目掛けて茜は得意の右足を蹴り上げた。
唸りを挙げて向かって来るそれを、守はじっと見つめながらも、微動だにしなかった。
右足はそのまま守の顔面すれすれを通過し、誰も蹴る事なく振り切られて終わった。
「凄い蹴りだね。相当鍛えたんだね」
「どうも、大抵の男は皆これで腰を抜かすんだけどねぇ、それじゃ・・・次は本気で当てるよぉ!」
今度は一発のみならず、連続で蹴りが叩き込まれた。しかも、一発一発が全て本気の威力が込められている。
当たれば最悪骨が折れるであろう威力だが、それを前にしても、守は平然としており、尚且つ一発も当たる事無く全てかわして見せている。
「はは、早い早い。当たったら痛いだろうね」
(こいつ、あたいの本気の蹴りを全てかわしてる。それも一切の無駄のない動きで! こんなの初めてだよ!)
今まで、自慢の蹴りが全てかわされる事など一度もなかった。それを、今目の前に居る守はいとも容易く行って見せている。
信じられないが、番の言っている事はどうやら本当のようだ。
だが、だからと言って此処で引き下がる事はスケ番筆頭として出来る筈がない。
「こうなったら・・・紅蓮鳳凰k―――」
「はい、終わり」
決め技を放とうとした茜の足を掴み、守は初めて前へと歩み寄った。
茜と守の顔が間近までに迫る。
「なっ!!」
「これ以上やってもお腹が減るだけだよ。やるだけ時間と労力の無駄無駄」
「む、無駄だって誰が決めたんだぃ! それに、まだ決着はついちゃいないよ!」
「ついちゃいないって言っても、もう君の技は全部見切ったから僕には当たらないよ。それに、この状態でこの後どうするつもりなの?」
まじまじと茜を見つめながら守は訪ねる。確かに、彼の言う通り、今の茜は右足を抑えられている上に至近距離にまで近づかれている。
これでは彼女が拳を振りぬくよりも前に守が首をへし折る方が早い。
彼の言う通り、勝敗はついたようだ。
「ふ~~ん―――」
「な、なんだぃ? 人の顔をじろじろ見つめて」
「君って、結構綺麗なんだね。君みたいなのを『美人』って言うの?」
「な! なななっ―――」
いきなりな発言に茜は顔を真っ赤にした。それは、遠巻きに見ていた番達にも聞こえた事であり―――
【ず、随分と変わった奴なんだな・・・】
【凄い人なんだなぁ。あの茜さんの蹴りを全部避けちゃうなんて―――】
「それはそうと、茜の奴。顔真っ赤になってないか? それに、頭から煙吹いてるぞ」
番達の前で完全に硬直状態に陥ってしまった茜とそれをまじまじと見つめる守。
恐らく当分このまま二人だけの時間が続きそうなのでそのまま放置しておくとしよう。
下手に立ち入って痛い目を見たくはないし―――
「ところでよぉ、レッドはどうしたんだ?」
【レッドさんだったら今は仕事で此処にはいないよ】
【最近小火騒ぎが多いらしくてなぁ。まぁ、レッドはレッドで大張り切りだったみたいだけどな】
消防車であるレッドにとっては火災の大小など関係ない。一たび火災が起これば即座に出動し鎮火させる。これが今の彼の生き甲斐でもあった。
無論、救助作業もお手の物らしく、高層ビルに取り残された人を助けるためにロボット形態に変形してビルをよじ登って救出するなんて珍場面も多々あったそうだ。
「ま、これからは俺や茜。それに守もいるし、何よりお前ら三人が合体してトリプル番長なんてのになれるんだから正に鬼に金棒って奴だな。それとも馬鹿とハサミは使いようだっけか?」
【番さん、その事なんですけど・・・僕達、余り合体はしない方が良いと思うんです】
「何だよレスキュー。折角合体して強くなれるってのに嫌なのか?」
【そうじゃないんです。でも、合体って言うのは番さんが思っているよりも複雑で、それでいて危険なものなんです】
「危険?」
番や茜が合体するのとレスキュー達が合体するのとでは大きな違いが生まれて来る。
それは、番と茜は所謂単独合体な為に合体した者に対しての負荷は余りない。
だが、三人が合体する複合合体の場合はそうはいかない。
「何が危険なんだよ?」
【俺達は前に合体したんだけどよぉ。その時に変な感覚に襲われたんだ。まるで、それぞれの意識が混ざり会って溶け合って、自分が自分でなくなっちまうような。そんな感覚だった】
【あの時は僕の人格が微かに残ってたから良かったんですけど、もしも僕達三人の人格が消えてしまったら・・・そう思うと少し怖くなったんです】
「なるほどなぁ、だからその合体ってのは古来から伝説の勇者にしか出来ない禁断の秘術って言われて来たんだな」
【今までもこの宇宙各所ではその禁断の秘術を行って人格崩壊した奴や、合体の負荷に耐えきれず瓦解した奴もいた。俺達があの時合体に成功出来たのは言ってみれば奇跡に近い事だ。次も成功すると言う保証はない】
あのドリルですらこんな発言をしてしまっていた。それほどまでに合体と言うのは安易に行える代物ではないのだそうだ。
下手に手を出して取り返しのつかない事になってしまっては元も子もない。
【けれど、どうしても合体しなきゃならない時は僕は迷いませんよ。僕だってこの星を守る番長なんですから】
【俺も同意見だぜ。自分の人格が無くなっちまうのは嫌だが、だからと言って尻尾巻いて逃げるなんざ性に合わねぇってなもんだぜ】
「そうだな。極力お前らは合体しない方針で行く方が良いかもな。まぁ、其処は俺達が手助けしてやるから大船に乗った気でいろって」
【ついでに俺のドリルもつけりゃ正に無敵の不沈艦の完成だな】
(逆にドリルさんのドリルで船底に穴開けそうな気がするんだけどなぁ)
意気揚々と意気込む番とドリルとは対照的にレスキューは不安な気分になったと言うのは秘密だ。
「そう言えばよぉ、バトル三兄弟はどうしたんだ? 此処にはいねぇみたいだけどよぉ」
【兄さん達だったら、僕達が目覚めた後すぐ地球各地へ修行に行ったんだ。その・・・僕が強くなったのを見て相当嬉しかったらしくって、それで、兄さん達もこの地球で修行した強くなろうって言いだしちゃって―――】
要するに嬉しさ半分の悔しさ半分っと言った所のようで。
兄として弟が成長したのは嬉しいけれど追い抜かれたくはないので自分達もこの地で修行してパワーアップしちゃおう。っていう寸法なのだろう。
【ただでさえ強かったあいつらが更にパワーアップして帰ってきたら、今度こそ勝てないだろうなぁ】
【お、恐ろしい事言わないでくださいよぉドリルさん。ただでさえ兄さん達は怖いんだから、これ以上怖くなるなんて僕嫌だよ】
【何言ってやがる。その兄貴たちをぶっ飛ばしたのはお前だろうが】
【あ、あれは僕だけの力じゃなくて、ドリルさんやレッドさんが力を貸してくれたお陰で―――】
楽しい会話の最中にけたたましく非常事態を告げるサイレンが鳴り響いた。
「またゴクアク組の奴らか。相変わらず凝りもしねぇで―――」
「行くよ、あんた達!」
「おいコラ! てめぇが仕切んな茜ぇ!」
「あんたが仕切ったら滅茶苦茶になっちまうだろ? 此処はスケ番筆頭であるあたぃに任せておきなって」
「なるほど、彼女の言う通りだ。番は協調性ないからね」
「守、てめぇ!」
言いたい放題言われまくってる我らが主人公です。
【確かに、番はここぞと言う時では頼りになるが、リーダーには向かないよな】
【信頼してますけど、其処は僕も同意見です】
「てめぇら・・・畜生、こうなったらこの怒りを全部ゴクアク組の奴らにぶつけてやるぅ!」
伝家の宝刀『八つ当たり』の発動を垣間見た瞬間だった。
***
そんな訳で早速現場へと急行した一同が目にしたのは、ゴクアク組の放った構成員が暴れている光景なのだが、何処か何時もと違う風に見えた。
【何だ、あいつら?】
【何時もと何処か違うねぇ】
番も茜もそう思った。
と、言うのも・・・確かに破壊活動は行っているのだが、どことなく消極的と言うか、壊しているのがどれも道路のアスファルトだとか、電柱だとかと言う、所謂案外簡単に直せる奴ばかりしか壊していないのだ。
しかも、壊している奴らも揃ってやる気が感じられないとまで来た。
【そぉらそぉら。侵略だぁ侵略ぅ】
【はぁ、やっぱやる気出ねぇなぁ。こんなの俺達のやる仕事じゃねぇよ】
とまぁ、愚痴まで零す始末。最早どう処理したら良いか困る一同だった。
【どうする? 番】
【まぁ、一応あいつらも町ぶっ壊している訳だし・・・とりあえず止めさせるか】
流石に開始一番に殴り掛かるのもどうかと思ったので此処はひとまず穏便に話を進めるべきかと思われた。
何事もグーパンじゃダメって事だね。
【おらおらぁ、てめぇら好き勝手すんのも其処までだぁ! この俺の目ん玉が黒い内は好き勝手なこたぁさせねぇぜぇ!!】
前言撤回―――
番にそもそも話し合いなんてできもしない事を期待するべきではなかったようだ。
その証拠に、やる気のない宇宙人二人組をダイバンチョウがひたすらボコボコにしてしまっているのだから。
【ちょっと、番さん! これ以上はやり過ぎですってば!】
【お前、さっきと言ってる事まるで違ってるじゃねぇか】
結局、その後はレスキューとドリルの二人に止めて貰いようやく落ち着いたダイバンチョウを他所に、一同はやる気のない構成員の元へと集まった。
【けっ、好きなようにしやがれ! 煮るなり焼くなりてめぇらの好きなようにしろぃ!】
【俺も同意見だ。揚げても蒸しても食えないがな】
すると、さっきまで暴れまわっていた二人は途端に地面に腰を下ろして降参とも取れる言い回しをしてきた。
やはり、何か違う気がする。
今までの構成員や刺客達であればこんな真似は絶対にしない筈。
いままでと違う展開に一同は戸惑いの表情を浮かべだす。
【喧嘩じゃ喧嘩じゃ喧嘩じゃああぁぁぁ! その喧嘩、ワシも買ったるけんのぉぉぉ!】
けたたましいサイレンを鳴らしながらようやく消火活動を終えたレッドがすっ飛んできた。
どうやら最近喧嘩をしていないので腕がうずうずしているようだ。
【おうおまんら! 今回の喧嘩の相手は誰じゃ?】
【あぁ、それだったら其処に―――】
一同がそう言って地面に座ってる二人を指さす。
【お、おまんら―――】
【どうした? さっさとトドメを刺しちまえよ!】
【俺達ぁもう覚悟決めたんだ。さっさとひと思いにやっちまえよ!】
レッドを前にしても相変わらず態度を崩さない二人。そんな二人を前にして、レッドは顔をとてつもなく強張らせた。
【おまんら・・・まさか、ハジにサブか?】
【な、何で俺達の名前を知ってるんだよてめぇ!】
【待てハジ! あの口調、それにその真っ赤なボディ・・・まさか――――】
ハジとサブ。そう呼ばれた二人は改めてレッドを凝視する。すると、さっきまでとは打って変わり、今度は二人して滝のように涙を流してレッドにしがみついてきたのだ。
【【兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!】】
と、大声で叫びながら。
【あ、兄貴ぃ?】
【あぁ、こいつらは昔わしが奉公しとった組の舎弟じゃった奴らなんじゃ。にしてもおまんら久しぶりじゃのぉ】
【兄貴、本物の兄貴じゃぁ! 生きて兄貴に会えるなんて、こんなうれしいこたぁねぇ!】
【兄貴、レッドの兄貴! 会いたかったっすよぉぉぉ!】
男三人がひしっと抱き合って互いの再会を喜び合っている。本来ならお涙頂戴の感動場面なのだろうが、生憎話が呑み込めていない一同には全くチンプンカンプンな展開であり。
【んでぇ、そいつらはお前の元子分って事なのか?】
【へぇ、あっしらは元々星雲組に所属していたものでして、兄貴はその組の舎弟頭を務めていたんでやんす】
【そん時、あっしらの面倒を見てくれてたのも兄貴なんすよ。俺達はその時は札付きのワルでして・・・その・・・兄貴に惚れて組に入ったみたいなもんなんです】
頬を赤く染めながら自身の生い立ちを告白するサブ。其処まで憧れる存在だったようだ。
【ふぅん、レッドって其処まで凄い奴だったんだな。単に火消しが好きな喧嘩屋だと思ってたけどなぁ】
【とんでもねぇ! あんたらレッドの兄貴をご存じないんですかぃ? レッドの兄貴と言ったらあの『血の天の川事件』を引き起こした張本人ですぜぇ!】
【血の天の川事件だってぇ!!】
真っ先にドリルとレスキューが驚きの顔を見せた。だが、番や茜には今一意味が分からない。
【あ、そうか。地球人であるあんたらには馴染みにのない事でしたね。それでしたらあっしが一から説明いたしやす。あれはそう、今から―――】
***
血の天の川事件―――
それは、広大な宇宙を生きる悪党、並びに宇宙警察や宇宙警備隊、及び銀河連邦の者達にとって見れば恐るべき事件として記録されている。
今から遡る事およそ200年前―――
当時、銀河系の覇権を争っていた【星雲組】と【覇罵根露組】と言う二つの組織の戦いは日増しに激化の一途を辿っていた。
当時の星雲組組長はこれ以上の戦いの激化を危惧し、覇罵根露組と雌雄を決すべく天の川宙域にて最終決戦を挑むべく全兵力を投入した。
だが、それに対し覇罵根露組は莫大な財力を生かし、最新鋭の武器や腕利きの殺し屋を大勢雇い入れ、その総戦力は数十万にも及ぶとされていた。
それに対し、星雲組の戦力はたったの5千近く。勝負にすらならなかった。
次々と倒れていく星雲組の組員たち―――
絶体絶命の状況に立たされた組長は、苦肉の策を講じようとしていた。
「これ以上はもうもたん。レッド、若い衆を引き連れてこの宙域から逃げろ!」
「いえ、それはおやっさんのすべき事です! 此処は私に殿を務めさせて下さい!」
「馬鹿言うんじゃねぇ! お前はまだ若い。それに比べりゃワシなんぞ棺桶に片足突っ込んでるようなものだ。今更命なんぞ惜しくは―――」
「おやっさん。あんたが死んだらそれこそ星雲組は終わりだ。だが、あんたが生き残れば星雲組はまた立ち上がれる! それに、俺はあんたに恩返しがしたかったんじゃ」
「レッド―――」
「頼んます。このレッド、一生の頼みを聞いて下さい。この俺に、殿の役目をお与え下さい!」
深々とレッドは頭を下げて懇願する。この時、組長は死ぬつもりだった。
いざとなれば自分の首を撥ねてしまおう。そう思ってさえいた。
だが、その目論見は若いころのレッドによって阻止されたのだった。
「組長! 覇罵根露組の奴らがもうすぐ其処まで来ています! もう此処ももちません!」
「組長、此処は私に任せて下さい! 必ず、殿の役目を全うして見せます!」
「レッド・・・すまん!」
断腸の思いで組長はレッドにその任を託した。早い話が死ねと言っているようなものだ。
だが、その任を任された時のレッドの顔は、とても満ち足りた顔をしていたと言う。
「有難う御座います、おやっさん。おまんら! 今すぐおやっさんを連れて此処から逃げろ! この場はこの俺が預かる! ハジ、サブ! お前らは若い衆を引き連れてさっさとこの場から去れ! そして、一日も早く組を立て直せ!」
「兄貴、俺達も残りやす!」
「俺もだ! 死ぬ時は兄貴と共に死にますぜ!」
「馬鹿野郎! 時期を見誤るな! お前らにはお前らの成すべきことあがあるだろう。それを果たす前に死ぬことはこの俺が許さん! さっさと言われた通りにしろ!」
「あ、兄貴ぃぃ!」
「すんません、兄貴―――」
涙を流す二人を背に、レッドは敵の波へと走って行った。
真っ赤な背が巨大な炎となって揺らめいているようにも見えたと言う。
「覇罵根露組の雑魚とも! この極道レッドがてめぇらの相手をしてやる! まとめてかかってきやがれ!」
「たった一人で何言ってやがる! さっさとぶち殺せぃ!」
覇罵根露組組長の号令を受けて怒涛の勢いで迫りくる敵の波。その波へとレッドは一人で突っ込んで行った。
みなしごだった自分を拾ってくれた組長を、自分を慕う子分たちを、そして、大勢の仲間たちを守る為に―――
再度、天の川宙域に星雲組が訪れたのは、それから一週間経った後の事だった。
急ぎ兵力を整えて天の川宙域に戻った星雲組一同が見たのはそれは信じられない光景だった。
「こ、これは―――」
「全員・・・死んでる!!」
それは、天の川宙域一面に横たわる覇罵根露組の構成員達、更には金で雇われた腕利きの殺し屋たちまでもが物言わぬ死体となって転がっていた。
彼らの体から流れ出たオイルが当時、白く流れる事で有名だった天の川を真っ赤に染め上げてしまっていた。
そして、そんな大勢の死体の上では、たった一人で覇罵根露組を全滅させたであろうレッドが立ったまま意識を失っている姿が其処にはあった。
「れ、レッドの兄貴・・・」
「すげぇぜ! やっぱ、兄貴は凄すぎるぜぇ!」
この戦いの後、天の川宙域が一時的に赤く染まった事から『血の天の川事件』と呼ばれるようになり、極道レッドの名は、全宇宙に知れ渡るようになったと言う。
そして、星雲組はこの戦いを皮切りに更なる戦いへと押し進むのであった―――
***
【以上が、兄貴の伝説と呼ばれている血の天の川事件の顛末なんですよ】
自慢げに語るハジ。自分の兄貴分である為か相当鼻が高そうだ。
んで、レッドはと言うと、自分の事を言われた為か少し恥ずかしそうに鼻っ柱辺りをかいている。
【そんなに持ち上げる事じゃないじゃろうに。昔の話なんじゃから気にすることないじゃろうに】
【しっかしやっぱすげぇなぁレッドは。血の天の川事件って言ったら俺も知ってるぜ。押し寄せる敵を千切っては投げ、千切っては投げって、そりゃもう凄すぎたからなぁ】
話を聞いていたドリルもすっかり興奮気味だ。こう言う手の話は大好きな様子だ。
現に、血の気の多い連中はその話を聞いてとても楽しそうな顔をしている。
他人の武勇伝と言うのは何故かとても輝いて見えてしまうようで―――
【んでよぉ、そのかつての星雲組に居て、尚且つレッドの弟分だったお前らが、何でまた極悪組に属してて、しかも奴らの野望の片棒を担ぐ真似なんかしてんだよ?】
【・・・俺達だって、好きでやってんじゃねぇんだ】
【あぁ、だけど・・・俺達も星雲組の一員。親の命令には逆らえねぇ】
【親の命令?】
【今の俺達の親は、極悪組のゴクアク星王なんだ。星雲組は、奴らの傘下に加えられた後すぐに、解体されて、主だった幹部は皆奴らの厳重な警備の行き届いている星に幽閉されてる。残った組員の俺達でさえ、こんな雑用みたいな仕事を押し付けられる始末さ】
極悪組が恐れている事、それは星雲組の復活だった。それを阻止する為、若い22代目を抱き込むだけでなく、主だった幹部達を自由の利かない場所に閉じ込めて置き、更には息の掛かった構成員達との絆を絶つべく、こうして日々雑用を押し付け続けているのだと言う。
しかも、その雑用を命じているのが、こともあろうにその若い22代目なのだと言う。
極道の社会に置いて上からの命令は絶対。それが例え気に入らない命令だとしても、従わなければならない。
それが彼らの常識なのだから。
【もう、今の星雲組は・・・かつての組じゃなくなっちまったんです】
【俺達だけじゃねぇ、元居た組の連中は皆、極悪組に良い様に扱われちまってる始末なんです。もうこれ以上こんな悪事をし続けるのは嫌なんですよ】
ハジとサブの二人が涙を流しながら経緯を話した。義理と人情を重んじる彼らにとって、悪事を行う事は死よりも辛い苦行に違いない。
【おまんら、随分と苦労を重ねて来たようじゃのぉ】
【何を言うんですか! 俺らの苦労なんて、兄貴に比べたら大した事ありやせんよ!】
【そうです。あの時だって、兄貴が大怪我を負った原因なんて俺らにあるんですから!】
あの時―――
それは、極悪組が星雲組を解体処分にし、主だった幹部たちを捕えて幽閉する事を行い始めて間も無くの頃だった。
レッドは、一人組の仲間を救うために極悪組に戦いを挑んでいた。
だが、それに対しゴクアク組は星雲組の構成員を迎撃に向わせて来たのだった。
「兄貴!」
「何してんだおまんら! 親の命令は絶対、ならば敵であるワシを撃て! それが極道ってもんじゃろうが!」
迎撃に出向いた星雲組の構成員達全員が歯噛みする。相手は自分達が最も信頼を置いている兄貴分でもあるレッドだ。
そのレッドを事もあろうに撃ち抜くなんぞ出来る筈がない。
だが、やらねばならない。やらなければ捕えられている幹部達が処刑されてしまう。
そうなれば星雲組の復活はなくなってしまう。
「さっさと撃てぇ!おまんらの組を!意地を!魂を守る為にも撃て!」
「兄貴ぃぃ!す、すいやせぇぇん!!」
滝のように涙を流しながら、構成員達は皆一斉に発砲した。降り注ぐ弾丸の束は仁王立ちしていたレッドの全身に叩きつけられ、突き抜けた箇所からはオイルが噴き出る。
「そ、それで良い・・・それで・・・良いんじゃ・・・流石は・・・わしが鍛えた・・・男・・・た・・・ち・・・」
全身に弾丸を浴びたレッドはそのまま広大な宇宙へと放り出された。
助けに行きたい心境だったが、そんな事をすれば命を懸けたレッドの覚悟を無駄にする事になる。
彼らには、それを黙って見送る事しか出来なかったのだった。
【あの時・・・俺達にはどうする事も出来なかった、だけど、今こうして生きて兄貴に出会えた!】
【兄貴、お願いっす!俺達の為に、星雲組を救ってくだせぇ!】
全てを話し終えた後、ハジとサブの二人は揃ってレッドの前に頭を下げた。
そんな二人の肩にレッドは手を置く。
【男がいちいち頭なんぞ下げるんじゃねぇ。おまんらの覚悟はわしが聞き届けた!わしも男じゃ、何時までも此処で甘んじる訳にはいかんようじゃ!】
レッドは腹を括った。かつて出来なかった星雲組の救出と復活。これを成し遂げようとしているのだ。
それ以外にゴクアク組に立ち向かう方法はない。
【おいレッド!俺達を忘れんじゃねぇぞ】
そんな話を聞かされて番が動かない筈がない。真っ先に参加を申し込んできた。
他にも茜や守にドリル、更にはレスキューまでもが名乗りを上げて来た。
【お、おまんら―――】
【今更だねぇ。あんたはもうあたぃらの仲間なんだろ?だったらあたぃらもそれに付き合うよ】
【牢屋を破るんだったら俺に任せな!どんな硬い岩盤だろうとぶち破ってやらぁ!】
【えっと・・・僕も力を貸しますよ!何が出来るか分かんないんですけど】
レッドは正直泣きそうになった。
見知らぬ星に流れ着き、其処の住民に助けられ、今度は共に戦う仲間と出会えた。
今のこの仲間たちとなら恐らく数万、いや数十万の軍勢にも匹敵し得るだろう。
【星雲組の幹部救出なら僕が担当しよう】
【守、一人で平気か?】
【このメンバーの中で宇宙空間の戦闘が出来るのは僕だけだからね。それに、一人の方が動き易くて良い】
そう言うと、守はハジとサブから主だった幹部達の捕まってる星の座標を聞くと、即座にフォームアップを行い地球を飛び立った。
守の事だ。恐らく守備隊程度では足止めにもならないだろう。
問題は残りの構成員達の行方だ。
【それなら心配いりやせん。兄貴が星雲組復活の号令を挙げれば組員一同この星に馳せ参じる筈です】
【それは頼もしい話なんじゃが、何故ワシなんじゃ?】
【それは、これを―――】
差し出されたのは一枚の封筒だった。レッドはそれを受け取り、中を拝見する。
其処に書かれていたのは、若き22代目の残した書状だった。
【こ、これは!!】
【兄貴、中には何と?】
返答を待つハジの前で、レッドは固まりながら、書状を読んだ。そして、涙を流した。
【兄貴!?】
【この書状に書かれておったんは・・・若き22代目の・・・ボンの・・・遺言じゃ!!】
【【!!!!!】】
それを聞いた途端、ハジとサブも驚愕した。
そう、星雲組の頭たる若き22代目組長は、既に死亡していたのであった。
≪後編へつづく≫
後書き
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