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髪切り

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第三章

「よいな。柳じゃ」
「それを見て、ですか」
「うむ。そしてじゃ」
 大岡はさらに言う。
「もう一つある」
「と、いいますと」
「御主、手裏剣もやっておるな」
 武芸十八般の一つにある。武芸と言っても色々なのだ。
「そうじゃったな」
「はい、一応は」
「ならばじゃ。何かが出て来ればじゃ」
「その手裏剣を使って、でございますか」
「下手人を撃て。よいな」
「そうして宜しいでしょうか」
「どう考えてもこの下手人は尋常な者ではない」
 髪を切る、ただそれだけだが刃物を使う、そこに危険さを感じているからこう言うのだった。
「だからこそじゃ」
「捕らえられなければその時は」
「撃て。よいな」
「畏まりました。それでは」
 こうしてだった。長谷部は大岡の言葉に頷いた。そうしてであった。 
 彼はまた半次を連れてそのうえで夜の江戸の街に出た。この時もだった。
 半次は女装だ。その女の身なりで言うのだった。
「何かこうしていると」
「何かあるのか?」
「癖になってきやしたね」
 こう言うのだった。
「どうも。いい感じになってきやしたよ」
「おい、確かにそうした奴もいるけれどな」
 この時から女装する男はいた。遊郭でもそうした遊びがあった。
 だがそれはだとだ。長谷部は顔を顰めさせて半次に言ったのである。
「あまりな。そういうのはな」
「駄目でやんすか」
「そうだ。あまり普通の趣味ではない」
「確かに。変わった趣味でやんすね」
「少なくともわしは勧めぬ」
 長谷部にはそうした趣味はなかった。稚児やそうした遊びもしない。
 だからだ。こう半次に言うのだった。
「癖にはならぬ様にな」
「そうでやんすか。それは」
「そうじゃ。まあとにかくじゃ」
 何はともあれだというのだった。長谷部は今度はこう言ってきた。
「街を歩いてじゃ」
「そうしてでやんすね」
「また下手人を探すぞ。よいな」
「旦那今回は何かお考えが」
「これを使う」
 懐からあるものを出してきた。それこそがだった。
 十字のやや小さいものだ。半次もそれを見て言う。
「ああ、旦那の得意の」
「うむ、手裏剣じゃ」
 まさにそれだというのだ。
「この手裏剣でじゃ」
「下手人を撃ちやすか」
「本来なら捕まえるに越したことはないのだがな」
 大岡と話したことをだ。長谷部はそのまま半次に述べた。
「しかし。刃を夜に使う者なぞじゃ」
「放ってはおけないというんでやんすね」
「その通りだ。お奉行とも話をした」
 そうして決めたというのだ。
「ではじゃ。その時はな」
「お願いしやすね」
 こうした話をしてだ。この夜もだった。 
 長谷部は半次を囮にさせてそのうえで下手人が出て来るのを待った。暫く歩いたが半次の鬘の髪は中々切られない。だが柳のところを通る時に。
 彼は半次から少し離れて物陰に潜んでいた。そこから柳を見ていた。大岡が言った柳を。
 あの時半次の髪は柳を通った時に切られた。それならばだった。
 その柳を見る。何がいるのかと。そして。
 半次がある柳の横を通り過ぎた時にだ。不意に。
 柳の葉のところで何かが動いた。それを見てだった。
 長谷部は手にしている手裏剣、それを咄嗟にその何かに投げた。それでだった。 
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