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TOHO FANTASY Ⅰ

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霊夢は女性から話を聞き、何処かにある「GENESIS」と呼ばれるスーパーコンピュータを壊すことを決めた。
だが、肝心の場所が分からない。手段や目的を持っていても、それを用いるための段階が理解出来なければ水の泡である。こうして多くは末人に陥り、畜群本能を顕わにして生きるのだ。霊夢はそうした輩の集まる大衆に埋没することを酷く恐れていた。そんな彼女のテキパキとした行動性や機敏性は、実存主義者にとって一種の賞賛に値するだろう──諸手の拍手喝采を以てして。

「…でも、その「GENESIS」が何処にあるかなんて分からないわ」

「もしかしたら、PYT研究所で働く研究者の家で働かされている仲間なら、知ってるかもしれません…」

女性はすぐに携帯を取り出し、その仲間と思われる人に電話をかける。相手は出たのか、女性はすぐにその事を問う。急ぎ口調で、やや聞こえ辛い点が否めないのは確かだ。

「もしもし!今そっちに行って聞きたいことがあるんだけど!」

「え!?今は勤務中だから、変な事したら間違いなく刑務所行きだよ!奴隷は普通の人たちと比べて身分が低いから、その分軽視されるのは知ってるでしょ?」

「…いや、こっちにはマスコミで大々的に報道している人がいるの。変えられるわ、これは……私たちの”最後の希望”なんだから!」

◆◆◆

最終的には彼女の説得により、霊夢だけ来てもよいという許可を得たが、これは奴隷同士の約束である。主人に見つかれば大事であるのは相違ないだろう。携帯を誇らしげにしまった彼女は霊夢に奴隷用作業服を渡した。茶色がかった、ファッションセンスが1ミリも感じられない服である。埃が付き、ダニや蚤に集られてそうな物である。霊夢は着るのを躊躇ったが、渋々着る決心をした。

「これを着れば、見ただけでバレてしまうことはまずないと思います!」

女性は霊夢に服を押し付けると、「あ、どうも…」と霊夢は弱々しく、そして忝さそうに丁寧に畳まれた服を受け取った。

「早速これを着て、すぐにそこへ向かいましょう!研究者の参考文献をひっそりと読んでくださいね!そうしたら、データの保存庫である「GENESIS」の場所が分かるかもしれません!」

「それは有難いんだけど…何処で着替えればいいのかしら?流石にこんな大衆の前じゃ…」

霊夢の噂を聞いて駆け付けた奴隷たちはそんな霊夢を1目見ようと集まってきたのだ。要するに野次馬である。彼女は偉大なる決心者と言えど、公衆の前で着替えることの出来るような破廉恥を持ち合わせている訳ではない。彼女とて淑女なのである…。

「わ、分かりました!」

女性はすぐに何枚かのカーテンを集めて、簡易的な着替え場所を作る。即席的で、すぐ破れそうな代物であった。

「こ、こちらでお願いします!…ほ、他の皆さんは離れて下さい!」

霊夢に気を使わせ、野次馬たちを退散させた女性は着替え中の霊夢を守っていた。霊夢も早めに着替えを終わらせ、出てきた時には完全な奴隷となっていた。彼女は逃亡犯から最底辺にまで堕ちたのだ。しかし彼女は絶望を大地とし、希望を友として見据えていた。最早、彼女の敵は何者でもない『真理』であったのである。

「これで完璧ですね!…では早速、私が研究者の家までお送りします!途中で電車を使うんですけど…あ、この町の事はまだ説明していませんか?」

「町の事は聞いてないわね」

「じゃあ説明します!この町はA、B、C、D、Eと区画が分けられていて、5つの区がドーナツ状に存在しているんです!それで、その中心に聳え立つのが「PYT研究所」の建物という訳です!…あの建物ですよ!」

女性は遠くに建っている、1番大きなビルを指さす。一面硝子張りで、天さえ届きそうな高層ビルだ。あそこから見た世界の広さには、どんな感嘆を覚えるだろうか──と霊夢に思わせるほど高く聳えていた。スラムから見たそれは、蟻から見た象のようなものであったのだ。

「で、今から私たちは電車に乗ってその研究者の家へ行くんです。ここはC区に位置しているスラム街なので、1番近い「C区駅」から1駅跨った先の「E区駅」に行きます。…環状線なので、何かしらに乗れば絶対着くので安心してください」

「でも電車はお金を取るものじゃないのかしら?…私、持ってないわよ」

「お金の心配はありません。私が負担します。…ですが」

「ですが?」

相手は言葉を立ち止まらせて、少しの間を恐怖に満たさせた。如何ばかりにして、この現実を乗り越えるべきかを考えていたのである。その省察たるや並大抵とは思えぬ明晰性で、希望を背負ってもらう霊夢をどのように導くか、その預言者的な存在性を空間に呼応させていた。存在論的な論証を悉く廃絶させた実存項が、彼女を照らす。今やその明晰は理解の大地を鳴動させ、揺れ動かすのだ。測定即ち或る確定された単位が直観の全体に部分として幾何含まれているかを計算する一つの作用は、こうした実存項の広がりを形式的、方法論的に示すのだ。正しく『叡知は徳である。それは最高の善である』(sapientia virtus est, id summum bonum est)という言葉の中の、叡智の諸規定の中絶が徳を、並びに最高善を与えるのだ。実存項は、ここに存在していた。

「…きっと駅や電車内では指名手配されているに違いありません。──奴隷が電車に乗ることは別におかしく無いのですが、指名手配されると情報網が…」

女性は霊夢が捕まることを恐れた。それは希望の喪失、何よりも避けたい事実である。降って沸いた英雄を易々と手放す愚を犯すことは、どうしても躱したいものであったのだ。

「…いいわ、私がやると決めたんだもの。最後までやり遂げないと意味がないじゃない」

◆◆◆

彼女は味方である女性の後ろをついていく。その姿は普通であり、何も変哲もない光景だが彼女は必死であった。
何よりも、気づかれた瞬間終わりなのだ。終わり、それは彼女の奇跡の終焉を示していた。

「もうすぐ駅です。…切符を買うので、私の後ろで並んだフリをしていてください」

「…分かったわ」

小声で返事をすると、女性は頷いた。
スラム街を出た2人は近代的なビル街の中を通り、目標のC駅に到着する。
C駅も駅ビルが隣接した、とても大きな駅であり駅の中の店々は繁盛していた。霊夢にとって、その賑わいは異常なものであった。人々が行き交い、貴賎問わずして買い物の光景が繰り広げられている──花屋、ファーストフード店、ゲームセンター、その店の類は数えることが出来ないほど存在していた。現在地が載った駅ビルの地図も、その混雑性を表現するのには苦労したようであり、何処に何があるのか一目では理解出来ない仕様になっていた。
だが、彼女はそんな光景を見向きもせず、たたひたすら前へ歩いた。

駅構内、コンコースへと入り普通の奴隷を装った霊夢は女性の後ろを並ぶ。
女性はE区駅までの切符を2枚買うと、霊夢は何かを忘れたフリをしてそのまま列から外れる。
女性はこっそりと霊夢に切符を渡し、霊夢は渡された紙切れの使い方を他の人たちの動きを見て理解した。
2人は何事も無く切符を使って改札を潜り抜け、駅員に疑われなかった。
駅構内の壁には政府と手を結んだPYT研究所のことである、壁一杯に霊夢の行方を探す張り紙を張っていた。

他の客に紛れ、ホームで電車を待つ。
茶色の外套がホームに入る冷たい風の寒さを少し和らげた。
するとアナウンスが入り、電車が到着する旨を伝えると、赤のラインを基調とした電車が駅に入線する。
電車が到着すると、大きな駅であるC区駅で降りる人が波のように電車から降り、霊夢たちはそれに抗うように電車に乗る。ドアが閉まると、電車は音を上げて走行し始めた。初めて乗る電車は、人の多さが際立つ満員電車そのもので、決して居やすい場所ではない。不快感を覚えた霊夢は、電車のイメージを低下させて捉えた。

途中でD区駅に止まり、人の乗り降りの波を彼女は受けたが、必死に耐えた。何よりも、「誰にもバレてはいけない」という精神で彼女は気配を消し続けた。人の多さと正体とを、二つの窮屈さに襲われる霊夢の限界は今に崩れそうであった。

10分くらい走行した電車は、やがてE区駅に停車した。ドアが開くと2人はすぐに降りた。最初からいなかった、という空気を作るために最速で電車から降り、改札を瞬間的に潜り抜ける。C区駅とは違い、小さな駅であるE区駅の前に到着して、女性は彼女に話しかけた。

「…ここら辺はPYT研究所で働く研究者が住んでいる、言わばVIP層の住宅地なんですよ」

「…で、その家がここにあると」

「案内しますが、私の役目はそこまでです。これ以上干渉すると、あなたに危害が及んでしまうかもしれないんです。…奴らは何かしらの手段で私たちの跡をつけてきます。私は何も力を持たないので…」

「そうなのね。……でも色々と助かったわ。ありがとう」

霊夢は足を進めながら礼を述べると、女性は霊夢の眼を見つめて言い放った。それは本気の表情であった。

「本当に残された…私たちの最後の希望───どうか、私達を救ってください!」

◆◆◆

2階建ての大きな一軒家の前に到着すると、女性は足を止めた。確かにスラムの家々とは大きく異なり、極めて居心地の良さ気な建築物である。所々に洒落た煉瓦作りが見え、広々とした庭園まで付随する。霊夢とて此処には住んでみたい、と言う意思さえ芽生えて沸いた。それ程までに豪華で瀟洒な家であったのだ。

「…ここです。ここに私の仲間がいるはずなので、あとはその人の言うことに従って下さい」

「分かったわ」

「…お願いします」

女性は霊夢に希望を託して、そのまま去ってしまった。霊夢が来たことを察知した「仲間」は玄関の扉を開け、彼女を迎え入れる。やや俗っぽく、何処となく垢抜けていない姿をした女性が霊夢の前に現れる。同じく貧相な装いであり、そこには帰属的な闇が呈されていた。

「──あなたがテレビで噂の」

「そうよ…」

「話は聞きました。ここに主人もとい研究者が帰ってくるのは夜遅くです。今はまだ真昼なので大丈夫だと思います」

「は、入ってもいいかしら?」

「どうぞ…って本当はこんなことをしたら大変ですが、今は仕方ありませんので」

彼女は研究者の家へお邪魔し、仲間に書斎へと案内して貰った。そして手当り次第に情報の鍵となるような手紙や書類を漁った。故に、彼女はこの研究者が「GENESIS:CONCORDIA」というGENESIS専門の研究者であることが分かった。また、他の文献によるとGENESIS:CONCORDIAはC区のPDMの力を引き受けるGENESISらしい。
つまりこのGENESISを倒すことが、今に於いて最も鮮明な澪標となったのである。

「ありがとう。…よく分かったわ。まずはこの研究者が担当している「GENESIS:CONCORDIA」を破壊してC区の奴隷を解放するわ」

「C区の奴隷解放…お願いします!あそこを解放すれば、奴隷全体の3分の1が解放されます!」

「場所も分かったわ。…場所はCONCORDIA秘密保管科。…どうやらA区の中央公園の地下みたいわね。…システムロック解除の暗証番号も分かったわ。…これで壊しに行けると思う」

「私もC区管轄の奴隷なので…すみません!手伝わせてください!」

仲間が突如霊夢に頭を下げたので、霊夢は戸惑ってしまう。彼女には別に感謝されない欲望も無いとは言えないが、これは自分のためにやっていたようなものである。連れ去られたチルノやレミリアを追い掛けるべく、その手に意思を握りしめた事の話の延長線に過ぎないのだ。事の所以、彼女が頭を下げてまで協力を要請することは全く予想だにしていなかったのである。

「て、手伝わせてください、って…」

「ここからA区の中央公園までは結構な距離がある上、この家にはバイクがあります。そのバイクを盗んで、一気に中央公園へと向かいましょう!…電車で行こうとしても、ここにお金はないので、今はこれしかありません!それにあなたは超能力をお持ちと聞いたので……私が運転して、あなたが追ってくる敵に向かって攻撃するんです!」

仲間は霊夢にそう言うと、霊夢も欲しかった情報を得られたことに満足していた為、承諾することにした。もう彼女も、別に抗うことへの恐怖心は忽ち消えたようである。ここまで大胆に来れる事はそうそう無いだろう。

「そうね。…それで早く奴隷を解放するわよ!」

「はい!」

仲間はすぐにバイクのキーを取ると、家の横のガレージに保管してある「PYT研究所」と刻まれたバイクにキーを差し込む。バイクはすぐにエンジンを唸らせ、仲間は椅子の前方に座っていた。バイクは黒を基調としたアメリカンのものである。霊夢はその厳ついイメージから、とても手強そうなバイクに思えた。ヘルメットを手渡された霊夢はそれを被る。仲間も被ったところで、準備は完了した。

「私が後ろに座って、いざとなった時に戦えばいいのね?」

「はい!私は中央公園まで行けますので、フォローお願いします!」

そしてガレージから、2人乗りのバイクが出発した。その図体から簡単に予測できる巨大な轟音と共に、彼女たちは走り去ったのだ。

◆◆◆

「見つけました!脱走犯!脱走犯と思われる女が仲間と共にバイクで逃走しております!進路方向はA区方面!只今警察が追いかけておりますので、近隣の皆さまはどうか避難してください!」

PYT研究所のテレビに映し出される、マスコミの報道。マスコミは逃走するバイクにヘリコプターで追いかけ、空中から撮影していた。テレビの中では1台のバイクが10台以上のパトカーに追いかけられている。

「……霊夢、一体何処に向かってるのかしら?それに前に乗ってるあの女は誰よ?」

パチュリーはそう呟くが、神子は分からなかった。呑気そうにジュースを飲みながら観るテレビは、些か機嫌良いものであったが、何せ報道内容が積み上げてきた機嫌を一気に真っ逆さまにする。

「分かりませんが、何処かで仲間を見つけたものだと思います。救世主とでも讃えられているのではないのでしょうか」

「霊夢なら貪欲だし、そう言われて鼓舞されそうね。…わざと右手を火傷させて、ガイウス・ムキウス・スカエウォラなど大したこと無さそうに見そうじゃないの」

「幼少期のニーチェみたいですね」

テレビの中継を見ていた2人の元に、水色の帽子を汗だくにした「博士」が姿を見せる。博士は服までも濡らし、その疲弊を具現化させていた。テレビを見つめる2人は、彼女に丁重な挨拶を行う。

「あ、にとり博士。お久しぶりです」

神子はにとりに頭を下げると、にとりは「いや~」と言いながら2人の元にやってきた。足は水に浸かったかのように汗が集積しており、真下には水溜まりが出来ていた。

「今、霊夢たちがきっと向かっている先はA区の中央公園だよ、きっと……仕組みに気付いたようで」

「あそこの下には「GENESIS:CONCORDIA」があるわ。……それを破壊するつもりってことかしら?」

「そう。それを壊せばC区の管轄の奴隷たちの力が一気に舞い戻って、奴隷たちは大暴れだ。…だから神子、あなたを派遣しておきたいのよ」

「わ、私ですか?」

「そう。…まあGENESISもただのスーパーコンピュータじゃない。私が事前に「EXGENESIS.exe」と情報を送っておいたから、霊夢も少しは苦戦するはず。──あれを壊されたらこっちが大変だ。神子、あなたに行ってもらいたいのよ」

「…わ、分かりました!行ってきます!」

神子はにとりの言葉を受けて、すぐにA区の中央公園へと向かった。残ったパチュリーはつまらなそうな顔立ちを浮かべ、テレビを見直した。相変わらずマスコミは霊夢の逃亡劇を捉えている。博士は去り際、静かに「別に対策は施してあるんだよね…」と呟くも、誰にも聞こえることは無かった。

◆◆◆

追ってくる警察たちを夢想封印やお札で撃退しても、限りなく警察は追いかけてくる。やがてはパトカーや白バイに乗っていた警察官も銃で霊夢たちに向かって発砲するが、仲間が巧みな運転で回避しつつ、霊夢の夢想封印で片づけていった。どうもこの近代世界では魔法という超常現象は把握され難いらしい。ポストモダンにとって非現実的な物事など、不合理的な具象としか捉えられないのである──。
さらには上空を舞うヘリコプターからも機関銃で撃ってきたのだ。霊夢は自己の前に作り出した二重結界、もといバリアで何とか持ちこたえると、機関銃で撃ってきたヘリコプターに容赦なくお札を投げた。彼女の投擲したお札は忽ち魔力を持ち、一種のミサイルと同等の威力を誇った。空気抵抗さえ無視する物理的現象の逸脱された札は、その正確たるやプロペラの駆動部を当てられ、故障したヘリはそのまま市街地に墜落して爆発、炎上した。
近くにいた人たちの悲鳴が飛び交う中、彼女はバイクで疾走していた。

A区の中央公園に到着し、バイクから降りると霊夢は文献通りの場所に赴き、そこにあった隠し扉の暗証を解除して、早速中に入っていく。明るい公園とは対照的に、薄暗い電気しか灯っていない暗い階段を駆け下り、2人は公園地下の巨大な空間に出る。

霊夢たちが来た瞬間、センサーが反応して巨大な空間に明るい電気が灯る。
目の前には、白と赤が気持ち悪いくらいに混ざった色をした、謎の芸術品があった。地面にコードの根を生やし、発芽したばかりの双子葉類を思い出される機械。葉の部分は手のように5本の指があり、計10本の指をくねくねさせていた。まるでフォービズムの芸術家たちがごっそり画題にしそうな、直感では捉えがたい偶像が眠っていたのである。印象的に残るそれは、まるで意志と表象に代表される論理の飛躍そのものであった。これはどう足掻いても我々が体現できるものでは無かった。決して──有り得ることがなく──。

「これが……GENESIS:CONCORDIA…」

CONCORDIAは目の前に現れた霊夢たちを、本部から送られてきた情報を元に敵とみなし、モーター音を響かせた。その図体を突如光らせ、神経という名の光ファイバーを起動させた。

──ウイイイイイイイイイイン!

CONCORDIAはそんな霊夢たちに向かってデータ化された情報を元に、攻撃を仕掛ける。2人に向かって炎を噴き出してきたCONCORDIA。霊夢はすぐに仲間を階段に避難させた。
目の前に存在するは、グロテスクな見た目と称されても不思議ではない物自体の恐怖体であった。──霊夢は数枚の札を右手で持った。相手を睨め、その勇ましさを体現させる事においては英雄の理屈に沿っていた。

「いいわ!私がやっつける!」

◆◆◆

足元から噴き出す炎を避け、霊夢はカードを掲げ、宣言した。その大きな声が閉鎖された空間に幾度も谺響する。

「霊符・夢想封印っ!」

霊夢の体から色鮮やかな光弾がCONCORDIAのあらゆる場所に炸裂する。CONCORDIAは攻撃を受けた影響で電流が少し漏れ、バチバチと音を立てるが屈しなかった。そんな霊夢に10本のくねくねした指先からビームを放ったのである。霊夢は10本のビームを自身の身体能力を生かして避けたが、ビームが当たったコンクリートの地面が幾つか溶けだしていた。
恐らくはとてつもない高温度を誇る熱線であろうか。それを許容するCONCORDIAの耐久性にも驚く観点は存在する…。

「完全に殺す気ね…」

霊夢は再びカードを構えたが、その隙にCONCORDIAは自身に込められたエネルギーを一気に射出する。それは巨大な破壊光線となり、霊夢に一直線で放たれた。

「仕方ないっ!夢符・二重結界っ!」

霊夢は二重結界でCONCORDIAの破壊光線を受け止めたが、1枚目の結界は壊れていた。このことから、相当の力があったことが伺える。仲間はCONCORDIAに怯えながらも必死に彼女を応援していた。

CONCORDIAは破壊光線で自身のエネルギーを一気に射出したため、処理落ちで止まってしまう。恐らくは全身全霊の力を使ってしまったのだろう。防衛機制には慣れているが、その論理的思考には聊か慣れていない様相であった。

「哀れね!霊符!夢想封印っ!」

霊夢は一気に夢想封印をCONCORDIAに決め、CONCORDIAにそのまま炸裂する。その機械にとって、未知なるエネルギーを内包する光弾は『耐えられるものではなかった』。

──ウイイイイイイイイイイン!!!

最後の最後に暴走したモーターの音を響かせ、CONCORDIAは大爆発を起こした。2人がいた空間は煙で一杯であったため、すぐに階段を上った。
爆発の音が間近で響く。花火のような轟音が連鎖し、逃げる2人に襲いかかるのだ。しかし、そんな彼女たちが上った先には、バイクで遅れてやってきた神子の姿があったのである。 
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