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真田十勇士

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巻ノ百六 秘奥義その四

「何を求める」
「極めることを」
 幸村は不動明王に一言で答えた。
「それを」
「道をか」
「そして来たるべきに充分な働きをすることを」
 このこともというのだ。
「求めておりまする」
「そうか、富貴や権勢ではないか」
「望んだことはありませぬ」
「そうだな、お主を見ていればわかる」
 真田幸村という男をというのだ。
「お主はそうしたことには興味がない」
「ただ、死すべき時と場所は同じと誓った者達とです」
「道を極めたいか」
「主として兄弟として友として」
 そうした立場からだというのだ。
「望んでおります」
「だからか」
「はい、それがしはです」 
 まさにというのだ。
「来たるべき時の為のものを備えたいのです」
「そうか、そなたはもう充分に強いが」
「それ以上のものを」
「それで今ここにおるか」
「修行の結果」
「そうか、ではじゃ」
 不動は幸村の言葉を受けて言った。
「これよりお主の力を見たい」
「それがしの」
「そうじゃ、そなたに余の炎を浴びせる」
 その背に背負う紅蓮の炎をというのだ。
「この炎は全ての魔を焼き尽くす降魔の炎じゃ」
「そしてその炎でそれがしを焼き」
「最後まで耐えられればじゃ」
 その時にというのだ。
「余が修行の相手をしてじゃ」
「そのうえで」
「道を極めるのを助けよう」
 こう言うのだった。
「よいな」
「それでは」
 幸村に異存がなかった、不動明王に率直に答えた。
「お願い申します」
「また言うが余の炎は全ての魔を焼き尽くす」
「悪なるものを」
「その全てをな、人にはどうしても邪心がある」
「そしてその邪心が焼かれ」
「お主の心も炎に当たるからじゃ」
 だからこそというのだ。
「只では済まぬが」
「覚悟のうえ」
「そうか」
「はい、それは既に」
 幸村は不動明王に淀みなく答えた。
「だからこそです」
「ここまで至ったか」
「前に得体の知れぬ者達もいましたが」
「あれは魔境の鬼達じゃ」
「魔境ですか」
「知っておるな」
「仏典にある」
「そうじゃ、釈尊も来られた」
 釈迦如来もというのだ。
「あの方もな」
「魔境に至っておられましたが」
「そこでじゃった」
「ああした者達に会い」
「そのうえでな」
「その声を払い除けてですか」
「悟りに至ったのじゃ」
 このこともだ、不動明王は幸村に話した。 
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