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番外 リオINフロニャルド編 その6
そんなこんなでユニオンフェスタは順調に進み、最終日。
【さて、終にユニオンフェスタも残す所この一戦のみになりましたっ!】
と、アナウンサーが声を大にして言う。
【とは言え、最後のこの戦はエキシヴィジョンです。三国の領主様、勇者、騎士団長各位と有志の参加者対フリーリア王国がアイオリア殿下と四蝶の5人での戦ですっ!】
この戦、アオお兄ちゃん達には内緒で企画されたらしい。
直前まで知らされてなかったとアオお兄ちゃんがボヤいていた。
レオ閣下やシンクさん、ナナミさんが本気で潰しに行くのでアオお兄ちゃん達も本気で来いと挑発。
了承したアオお兄ちゃんだが…彼らの本気、つまり全てと言われれば絶対に彼らは本気は出さないだろう。
心転身の術を使えば内部からの混乱も狙えるし、幻術系の技をレジストする事は難しい。
そんな術を使われたら最初から勝負になりはしないのだから。
当然あたし達はアオお兄ちゃんに対峙する側で参加する。
あたし達は今、リコッタさんを囲むように集まり、作戦を立てている。
「相手は五人でありますが、知っての通り、個人の力量がとんでもないであります。化け物なのであります!」
「リコ…化け物はひどいですよ」
「姫さま、レオ閣下やお館様まで前回の戦では敵わなかったでありますよ?」
そう言えば、そうだったっけ。
「リコ、前回は舞台上での一対一での事。今回は集団戦だ。さすがの彼らも物量には敵わないんじゃないか?」
と、エクレが意見を述べた。
「あの、兵卒の数など物の足しにもならないかと」
と、アインハルトさん。
「どういう事なのデス?」
問いかけたのは第一戦で大活躍した英雄仮面さん。
名前はアデライド・グランマニエ。
数百年を封印装置の中で眠っていた過去の英雄で、クーベルさまのご先祖らしい。
「あれだけ凄い彼らが、広域殲滅攻撃を持ってないとお思いですか?彼ら一人一人がその気になれば一軍を殲滅させる事が出来る攻撃を持っているのです」
「つまりその攻撃をどうにかしないとと言うわけだな」
と、声を出したのは銀の髪に浅黒い肌の目つきの悪い男性がアデライドさんの後ろからにゅっと現れた。
「ヴァレリーっ!?」
彼はアデライドさんと一緒に封印されていた魔王さんで、名前をヴァレリア・カルバドスと言う。
「それで、こちらでその攻撃を防御できそうなのは誰か居るのか?」
ダルキアン卿の隣に居る和装の男の人。
彼はダルキアン卿の実の兄でイスカ・マキシマと言うらしい。なんか名前につながりが無いように感じたけれど、ダルキアン卿の本当の名前はヒナ・マキシマと言うから驚いた。
「私とバナードが先頭で受け止めれば私達の後ろに居る人たちは守れると思いますが…」
と、ビスコッティ騎士団長のロランさん。
「全員を守りきる事は出来ないって事ですね…」
そうナナミさんがまとめた。
「この場合騎士団長や親衛隊長クラスの人が固まって相手の一撃目を防御。その後広域殲滅を打たせないためにも接近して分断するしか手は無いのでありますね」
「待てリコ。その場合一般参加の兵士達は…」
「彼ら全員を守る事は不可能なのであります…」
エクレの問いに難しい顔をしてリコッタさんが答えた。
その後、絶対に一体多の戦闘に持ち込み、その後は臨機応変にと言う感じで作戦会議は終了する。
【さあ、ついにエキシヴィジョンマッチ、スタートっ!】
ドドーンっと言う花火の音で戦が開始される。
「みんな、頑張ろうっ!」
「うん」
「はいっ!」
「がんばりましょうっ!」
ヴィヴィオの鼓舞に皆それぞれ応える。
戦場をセルクルに跨り一気に詰める。
すると眼前を何か雪のような物が舞い落ちてくる。
何だろうと視線を上へと向けるとさらに舞い降りてくるピンク色の何か。
それは深深と舞い落ちあたしの体に付着していく。
いや、あたしの体だけではなくあたし達全員にだ。
払ってみたが、付着してしまって払い落とせない。
周りからも動揺の声が上がる。
「あっ…これは…」
アインハルトさんが何かを察したように呟いた。
「これが何か知っているのですか?」
「いえ、私が知っているのはこんな目に見えた物では無かったのですが…リオさん、何か体が重く感じませんか?」
「そ、そう言えば…」
「わたしも何か体が重いような」
「わたしも」
あたしの答えにヴィヴィオとコロナも答えた。
「まっ…まずいです…これは時間を掛ければ掛けるほどその重さを増します」
「ええっ!?」
「古代ベルカの時代、クラウスもこの現象で撤退を余儀なくされた事が有ります。その当時は何をされたのか分かりませんでしたが…おそらくこれは念攻撃……しかし、周りの人も見えているような気がします。…これは、きっとわざと見えるようにしているのでしょうね…」
後で聞いた話だが、これはなのはお姉ちゃんの念能力、『重力結界』だそうだ。
能力は散らされたなのはお姉ちゃんのオーラが辺りの物に付着して行き、付着した量によりその重量を増す。
攻撃力は皆無だが、この能力はひどく強力だろう。
周りを見るとこの異常事態にみなパニック気味だ。
そしてこの能力は時間が経てば経つほど付着していく量が増える。
つまり重量が増す。
となるとそろそろ…
「わ、わあっ!」
「ぐおっ…」
「そわぁっ!」
セルクル達が体重を支えきれず倒れこみ、皆落馬するのが見える。
「お、降りようっ!」
「うんっ!」
「わ、分かったっ!」
「はいっ!」
【戦場に降り積もるピンクの雪。…これはいったいどういう事か?兵士達の足が止まっていますっ!それどころか空騎士の皆さんも地上に引き寄せられるように不時着している!?】
セルクルから慌てて降りたあたし達。
しかし…
「お、重い…体がうまく動かない…」
既に自分の体重が倍近くに成っているのではなかろうか。
空を見れば次々に空騎士達が墜落して行っている。
前方を睨む。
いつの間にか向こうも距離を詰めていたらしく、アオお兄ちゃん達の姿が見える。
あたしは重い体を念で強化し立ち上がり、油断しまいと写輪眼を発動させた。
「何か対抗策は!?」
「距離に制限があるくらいですか…2km…それがクラウスが判断した能力範囲です…けれど…」
「……アオお兄ちゃんたちも日々強くなっている…今現在もその規模とは限らない?」
「はい…それと、一度捕まってしまうと抜け出す事が容易では無い上に…」
不安を増徴するような感じで言葉を切ったアインハルトさんは辺りを見渡した。
あたしも倣って見渡すと、すでに兵士は一歩も動けずに地面に這い蹲っている。セルクルも同様だ。
すでに立ち上がっているのは輝力の扱いに長けた者だけだ。
「こちらの動きを止めた所で…来ますっ」
アインハルトさんの忠告。
視線をアオお兄ちゃんたちに戻せばアオお兄ちゃんが印を組んでいる。
まっ!マズイっ!
印は火遁の派生印。
つまりこれから放たれるのは火遁の術!
「み、みんなっ!大技が来ますっ!防御をっ!」
叫んだ後あたしは直ぐに皆の前に出る。
「リ、リオ!?何を!?」
確認できたアオお兄ちゃんの印は火遁・豪火滅却に近い印だが、知らない印だった。
アオお兄ちゃんは既に印を組み終わり、組んだ印を口元に持って行き仰け反った。
あたしはすばやく印を組むと大きく息を吸い込んだ。
『火遁・豪火滅失』
アオお兄ちゃんの口から放たれた炎は大きな壁となり押し寄せる。
「えええええ!?」
「うそっ!」
「ナナミ!水陣衝で相殺は!?」
「む、無理だよ!?レオさまは!?」
「ワシの最大火力は自分中心じゃ、むしろ仲間にも被害で出るのぉ」
「「そんな~」」
てんやわんやしているシンクさん達。
『火遁・豪火滅却』
あたしは直ぐにそれにぶつけるようにあたしが放てる最大級の火遁で迎撃した。
【アイオリア殿下とリオ選手、両者火を噴いたっ!?これはいつかの再現か!?しかしその規模がその時とは桁が違いすぎる!?】
範囲は向こうの方が上だが、それでもあたしの豪火滅却で一部は相殺できている。
これなら結構な数の兵士を守れるかもしれない。
しかし、あたしのそんな考えは打ち砕かれる。
ソラお姉ちゃんが忍術を使ったからだ。
『風遁・大突破』
風は火を煽る事が出来る。
突如、アオお兄ちゃん達の方から強風が吹き荒れ、風に煽られた炎は勢いを増し、あたしの火遁すら飲み込んで襲い掛かった。
「リオさんっ!?」
アインハルトさんが不利を悟ってあたしを強引に抱きかかえ、連れ去った。
抱きつかれたと同時に火遁は終息させたのでアインハルトさんに怪我は無い。
そのままあたしはヴィヴィオ達の所まで下がる。
「クリエイトっ!」
コロナがあたし達の前方に地面を隆起させて土の囲いを作った。
「「はあああっ!」」
その内側でロランさんとバナードさんが障壁を張る。
その中に集まる事が出来たのは作戦会議に参加していた人たちのみだ。
炎の壁はあたし達を通り過ぎ、後続を次々に燃やしていく。
【なんとっ!今の攻撃で戦場は死屍累々。残っているのは騎士団長クラスの人達だけか!?】
もはや立っているのはあたし達だけで、右も左も大量のけものだまが溢れかえっている。
アオお兄ちゃんの火遁が終息すると、いきなりあたし達を襲っていた重さが無くなった。
見れば付着物がきれいさっぱり無くなっている。
「あれ?体が軽くなった?」
「ほ、本当だ。もしかしてこの能力には時間制限があるのかな?」
ヴィヴィオの呟きにアインハルトさんが答える。
「いえ、こんな短時間で終了するような物では無かったですよ……時間が経てば動く事も適わない。最後は自重で押しつぶされて終わりです。…これは救護の為に解かれたと考えた方がよさそうですね」
ダメージを食らってたま化しているとは言え、救助は必要だ。
スタンバイしていた救護班が虫網を手に持ってけものだまに変化した兵士を拾い集めている。
その光景は結構シュールだ。
「しかし、今しかありません。あの能力が解除されているうちに距離を詰めて分断しないとっ!」
「そ、そうだねっ!行くよ、シンクっ!」
「うん、分かったっ!」
シンクさんとナナミさん先立って駆けていく。
「どれ、ワシ達も行くとしようか」
「はい、レオさま」
レオ閣下とミルヒオーレさんも勇者に続く。
「リオっ!わたし達も…リオ!?」
あたしが少しふらついたのでヴィヴィオは驚いたようだ。
「あはは、少しオーラを使いすぎちゃった。…大丈夫、行けるよ」
流石に豪火滅却は消費が激しい。
「ほ、本当に?」
しかし、今この時にへこたれている場合ではない。
「大丈夫っ!」
そう言ってあたしは重い体に活を入れ、駆け出した。
「はぁっ!」
「はっ!」
「おらぁっ!」
シンクさん、ガウくん、ナナミさんがまず接敵し、それぞれの得物でアオお兄ちゃん達を分断する。
「行きますよ、ヴァレリー」
「へーへー、了解っ!」
「行くか、兄じゃ」
「久しぶりに童心に帰るのも一興か」
英雄王さんに魔王さん、ダルキアン卿にイスカさんが分断した後に割って入り、合流させまいと攻撃を開始する。
空からは再び飛び上がったレベッカさんとクーベルさまが援護射撃を繰り出している。
残ったあたし達やミルヒオーレさん、リコッタさん、ユッキー、エクレも急いでその戦闘に加わるべく駆けた。
向かうはアオお兄ちゃん。
対するはあたしとダルキアン卿、イスカさん、空中からはクーベルさまが援護をしている。
「はぁっ!」
巨大な直刀を軽々と振り回しアオお兄ちゃんを攻撃するダルキアン卿。
「ふっ」
その攻撃を細身のカタナで軽々と受けるアオお兄ちゃん。
よく見れば流で刀身を強化しているし、自身の腕力も強化しているだろう。
「流石でござるな」
「そっちもね」
アオお兄ちゃんが受け止めた刀身を弾き返す。
すると、隙ありとばかりに背後からイスカさんが抜刀する。
「はっ!」
それを鞘を手に持ち受け止め、やはり弾き返した。
あたしも今がチャンスと念で脚部を強化し、駆ける。
「木の葉旋風っ!」
空中回し蹴りがアオお兄ちゃんを捕らえるが…
鞘をレ点を描くような軌道で切り上げ、あたしの攻撃を受け流した。
その後も入れ替わり立ち代り、何合も斬り合うが、それを凌いでいるアオお兄ちゃんは本当に凄いと思う。
「とは言え、流石に多勢に無勢…」
そう呟いた後、アオお兄ちゃんは両手の人差し指と中指を立て、クロスさせた。
影分身の印だ。
「ま、まずい!?ソルっ!」
『アクセルシューター』
させてなるものかとシューターを放つが…
『プロテクション』
現れるシールド。
当然防御魔法で防がれてしまった。
『影分身の術』
ボワンっと現れる二体の影分身。
本体を含めれば三人のアオお兄ちゃんがそれぞれ目標を定め、地面を駆ける。
「なっ!?分身!?」
「で、ござるな!」
驚いているイスカさんとダルキアン卿。
キィンっギィンっ
「幻影ではないでござるなっ」
「はいっ!それにこの分身の戦闘能力は本体と同等なんですっ!」
ダルキアン卿の言葉にあたしが注釈を加えた。
「本体と同等だと!?それは輝力の扱いもかい?」
イスカさんがアオお兄ちゃんのカタナを受け止めつつ問い掛けた。
「はいっ!」
「それは厄介だっ…なっ!」
気合と共にイスカさんはアオお兄ちゃんのカタナを弾き返した。
目の前のアオお兄ちゃんの影分身が振るうカタナを避けた一瞬であたしも影分身。
ポワンっと言う音と共に現れた影分身が腰に挿したカタナに手を掛け、この戦で初めて抜き放つ。
ギィンっと甲高い剣戟の音が響く。
影分身にアオお兄ちゃんの影分身を任せ、一旦距離を取る。
あたしは神経を集中する。
輝力開放っ!
すばやく印を組む。
「何か弱点は無いのか?」
「しいて言えば防御力が低い事です。大きなダメージを与えれば維持できず消失しますっ!」
ポワンっと煙を上げてあたしの影分身が消失した。
流石にカタナでの斬り合いは習熟度の低いあたしではまだ分が悪かった。
「なるほど。今のがそうでござるな」
「はいっ!」
と、返事をした所であたしも反撃の準備が完了する。
「雷遁・千鳥、ヴァージョン輝力っ!」
もはやおなじみの輝力版の千鳥だ。
しかし、アオお兄ちゃんの影分身を打倒しうる威力を出すにはおそらくミウラさんの抜剣ほどの威力が欲しい所だ。
しかしそれには集束させる時間が作れない。
その時だ、空中からクーベルさまがこちらに飛びながら紋章砲での援護射撃が時間を作ってくれた。
あたしは直ぐに集束に入る。
「輝力開放、レベル2っ!」
目の前のアオお兄ちゃんは空中のクーベルさまをどうにかしようと懐から何かを取り出し、地面にばら撒いた。
一体なんだとあたしは警戒を緩めない。
アオお兄ちゃんは右手にオーラを集めると、地面に手を着いた。
着いた手からオーラが広がり、ばら撒かれた物に到達した瞬間、地面から突如巨木が乱立した。
後で聞いたアオお兄ちゃんの念能力、『星の懐中時計・クロックマスター』と言うらしいその能力は物体の時間を進めたり戻したり止めたり出来るらしい。
今のはそれで巨木の種を急成長させたのだ。
「のわわわわわわわっ!?」
いきなり現れた巨木に突っ込み激突。
「きゅー…」
クーベルさまは枝に絡みついたまま気絶してリタイアだ。
しかし、クーベルさまの稼いでくれた時間であたしの集束も最大威力だ。
右足からヂッヂッヂッヂッヂッヂと凄い唸り声が聞こえる。
アオお兄ちゃんから教えてもらった技ではダメだ。
それらは全て熟知されている。
だから、今放つのはあの技だ。
この前シンクさんに放った技。
あれをもっともっと昇華させる。
ミウラさんの抜剣。
アインハルトさんの閃衝拳。
だけど、基本はあたしのもっとも得意な木の葉旋風。
これを全て掛け合わせ、昇華させる。
行きますっ!
蹴った地面が抉れ、焼け焦げる。
「ああああああっ!」
その時、あたしは音速を超えたと思う。
右足に集めた雷が光を放ち、昼間だというのに辺りを白く染め上げる。
『雷鳴・旋風衝』
ここ数ヶ月のあたしの集大成である。
「なっ!?」
驚くアオお兄ちゃんの声が聞こえる。
「くっ…」
急ぎ、流で防御力を強化したようだが、あたしの蹴りがその防御を上回った。
ポワンっと消え去るアオお兄ちゃんの影分身。
ザザザーーーーっ
地面を滑りながら減速し、もう一度脚部に力を込める。
そのままイスカさんが相手をしていたもう1人の影分身に向かい二撃目。
つばぜり合いをしていた為にガードが間に合わずに崩れ去る影分身。
さらに着地して地面を蹴ると今度は本体へと翔ける。
あたしの攻撃を察して飛びのくダルキアン卿。
三撃目っ!
行ける!と一瞬あたしは確信した…が、しかし。
無常にもあたしの攻撃は止められてしまった。
「…、すごいな。本体に直接来られたら流石に防御は出来なかったかもしれない。…さすがに三撃目は威力が落ちたね」
くっ…確かにそうだ。
どうしても一撃ごとに威力は下がっていったのは感じ取れていた。
「下がるでござる。リオ殿っ!」
ダルキアン卿の声にあたしは膝を曲げ、蹴り上げるとそのままくるくると後方へと距離を開けた。
「神狼滅牙っ」
着地してダルキアン卿とイスカさんに目をやると二人は山をも越えるほどの大きな剣を輝力で生み出していた。
込められた輝力にあたしはビリビリと衝撃を感じるほどだ。
ダルキアン卿の剣が垂直方向に振り上げられ、イスカさんは凪ぐように水平方向に構えられている。
「「必滅・十文字っ!」」
一瞬イスカさんの斬撃の方が早く動いた。
まずは水平攻撃で退路を断ち、もし飛び上がっても垂直に振り下ろされたダルキアン卿の一撃が仕留めるのだろう。
故に必滅。
しかし…
「………スサノオ」
え?
アオお兄ちゃんが何かを呟いた気がした。
ドドーーーンっ
粉塵が視界を塞ぐ。
【なっ!なんと言うことでしょう。ダルキアン卿とイスカさまの大地を揺るがす一撃っ!さすがのアイオリア殿下もこれはノックアウトかっ!?】
「いや、まだでござる…」
低い声で呟くダルキアン卿。
粉塵が晴れるとそこには大きな上半身のガイコツが何かを守るような格好で現れた。
そのガイコツに阻まれ、二人の剣はアオお兄ちゃんを捕らえられていない。
見る見るうちにガイコツに肉がついていく。
それは女性のようで、さらにそれを囲むように鎧が装着される。
そのさまは巨大な偉丈夫だ。
いつの間にかその巨人は二人の剣を振り払い、左手には大きな盾を、右手には幾つも枝がついている歪な剣を持っていた。
「まさか、これを使う事になろうとは…もう少し手加減してくれても良かったんじゃないかな?」
「アイオリア殿下に手加減なんてどうして出来ようか。まだかようなお力を隠し持っておいででござるからに」
と、ダルキアン卿。
「一応これは俺達の切り札だからね。普段なら絶対に見せるような物じゃないんだけど、フロニャルドの風潮の所為かな?見せてもいいかななんて思えるのは…」
あれがアオお兄ちゃんの切り札…
「それじゃぁ…行くよっ!スサノオっ」
振り下ろした大剣はその一撃であたし達は吹き飛ばされ、戦闘不能に陥らされた。
「きゃーーーーっ!」
意識を失う前に見えたのは、後ろに見えていた丘を一刀の下切り裂いた所までだった。
………これは次元が違うよぉ。
◇
「叩いて砕けっ!ゴライアスっ!」
わたしはナナミさんとジェノワーズの3人とでシリカさんとの対戦に望んでいる。
シリカさんのバリアジャケットは漆黒に紅い模様が禍々しい竜鎧だ。
手に持つデバイスは双短銃。
ティアナさんのクロスミラージュが一番近いだろうか。それに魔力刃を展開しダガーにしている。
わたしに出来るのはやはりゴーレム操作。
ゴライアスを攻撃に防御に操ってナナミさん達を援護する。
今もシリカさんが繰り出した剣戟を見かけよりも速いゴライアスのコブシがインターセプト。
距離を開けたナナミさんに追撃しようと迫ったシリカさんの両短剣の攻撃をガードする。
「ありがとー、コロナっ」
「はいっ!」
あたしがシリカさんの攻撃を遮っている隙を狙ってジェノワーズのウサギのような耳の女性、ベルさんが間の抜けたような声と共に弓での射撃体勢に入った。
「いきますよ~、えーいっ!」
気合の入っていないような掛け声だが、放たれた矢は幾重にも分裂してシリカさんを襲う。
「ふっやぁっ!」
シリカさんは最小の動きで飛んで来る矢を打ち落とし、被弾せずに避けた。
「水陣衝っ!」
ナナミさんの紋章砲。
それを直線上から難なく避けるシリカさん。
しかし回避した先にはノワさんが先回りしている。
「セブンテイル」
猫の尻尾のような物が七本に分かれ伸縮し、シリカさんに襲い掛かる。
ダッダッダッ
尻尾がからぶって地面に突き刺さる。
「うりゃーーーっ!」
「ふっ!」
ギィン
絶妙なタイミングでジョーさんが戦斧を振り下ろすが、力勝負のはずなのに重量でも質量でも負けるシリカさんの短剣が戦斧を弾き返した。
「なっ!?」
流石にこれにはナナミさんをはじめ、ジェノワーズの皆が驚いた。
すかさずシリカさんは距離をとる。
「皆強いね。このままじゃジリ貧かなぁ…だから、あたしも少し本気を出すね」
「今までのは本気やなかったんかいっ!」
と、たまらず突っ込んだのはジョーさん。
「この能力は強力すぎて普段は余り使わないんだけど…フロニャルドの加護って凄いよね」
言ってる意味が分かりません。
しかし次の瞬間、体の中をめぐっていた魔力やオーラの力を技に乗せる感覚を感じなくなった。
輝力は練れていると思うのだけど…
わたし達の首元にチョーカーのような物が巻きついている。
「え?」
「何これ?」
「う、うそっ…」
これは一体?と思ってシリカさんを見れば、いつの間にか醜悪な上半身は人間、下半身はムカデのような全身骨で出来た骸骨の化け物が現れていた。
ザ・スカルリーパー
「輝力が使えないでしょう?
『理不尽な世界《ゲームマスター》』 これがあたしの能力。他人に自分のルールを押し付ける。もちろん、あたし自身にもそのルールは当てはまるから自分でも輝力は使えない。もちろんそれ以外も」
それ以外とは魔力とオーラの事だろう。
「あら?そのゴーレムは構築済みだったからテイムモンスター扱いになっちゃったか」
ゴーレムとはわたしのゴライアスの事だ。
しかし、魔力による制御が出来ない今、わたしの制御を受け付けない。
「それでも条件はあたしに有利。
あなた達は五人と一体でこのスカルリーパーを相手にしなければならない」
GURAAAAAAAA
震わす喉も無いくせに骸骨が吼える。
その雄たけびは身の毛もよだつほど恐ろしい。
「アオさんには壊れ能力とか言われるね。本来なら条件が細かいような能力になるとか何とか。だけど、そう言うものだと思えば条件とか何とかなんて関係ないと思うのだけれど…。あなた達にはこの理不尽に打ち勝つ力はあるかな?」
巨体には似合わない速度で動き、両腕の鎌を振るうスカルリーパー。
まず標的にされたのはナナミさん。
「きゃーーーっ!」
一撃でその鎌に吹き飛ばされて防具破壊。
「ナナミさんっ!?」
「きゅーー…」
どうやら気絶しただけのようだ。
「くっ…ゴライアスっ!」
わたしの言葉で動き出したゴライアス。
しかし、その動きはわたし自身が操っている時ほど柔軟には動いてくれない。
スカルリーパーがゴライアスの周りにとぐろを巻くように移動した時に打ち払った尻尾によってベルさんとジョーさんが吹き飛ばされて戦闘不能に陥った。
ゴライアスは懸命にコブシを繰り出すが、わたしの命令を聞くわけではない。
しかし、ゴライアスは強く、どうにかスカルリーパーを止めている。
二体は激しくぶつかり合い、その余波に巻き込まれないように逃げ惑うのがやっとだ。
「つっ…」
突如背中に気配を感じたと思った瞬間、背中に短剣を押し付けられた。
二体の戦いに気を取られすぎていたらしい。
いつの間にかシリカさんの接近を許してしまっていたようだ。
「こ、降参です…」
わたしはそこでリタイア宣言。
その宣言の後、シリカさんは能力を解除したらしい。
ガイコツムカデは霞のように消え去った。
◇
さて、結局あれだけの数で五人しか居ないアオお兄ちゃんたちと対戦したわけだけど、結果は惨敗。
まさかこの戦力で負けるとはあたし達以外誰も思っていなかったらしく、みな驚愕していた。
しかし、そんなネガティブはフロニャルドの人には似合わない。
直ぐに前向きに受け止め、みな次こそはをこの戦を糧としていた。
そんなこんなでユニオンフェスタは終わりを告げ、二週間に渡るあたし達の滞在も終わりを告げる。
旅行カバンに荷物を詰め込み、帰還準備を終えるとドライアプリコット城の中庭へと移動しした。
「あー、楽しかったね」
修行に戦。両方とも凄く充実していた。
「うん、確かに楽しかった。また来ようね」
あたしの呟きに同意したヴィヴィオ。
「そうですね」
「そうだねー」
アインハルトさんとコロナも追随した。
「ヴィヴィオはこの後の夏休みの予定は?」
「わたしはミッドチルダに帰って数日ゆっくりしたらなのはママのお休みに合わせて地球のおじいちゃんとおばあちゃんに顔を見せに行かないとかな」
「なんだ、ヴィヴィオは地球に行くのか?」
少し遅れてやってきたアオお兄ちゃんがヴィヴィオの話に興味をそそられたのか会話に混ざった。
「はい」
「そうか。地球は俺的には凄くなじみが深く愛着も有る。特に日本なんかは住みやすい所だよ」
「そうですか。…そう言えば海鳴に住んでいたのですものね」
「ああ。ついでに言えば高町の家…正確には不破の家だが、彼らとは遠い親戚だったよ」
「フワ?」
「士郎さんの旧姓。高町になる前は不破って言ったんだ」
「そうなんですか。今度行ったときに聞いてみようかな」
「御神と不破は古くから伝わる剣術を継承していてね。リオに教えている剣術もその時覚えた技術だ。昔士郎さんに教えてもらった事もあるんだよ」
え?そうなの?
「え?と言う事は、わたしも継承しないと高町家の子供としてはいけないのかな?」
「あははっ、無理に覚える必要は無いんじゃないかな?」
と、笑い飛ばすアオお兄ちゃん。
「ど、どうしてですか?」
「なのはさんは習ってなかっただろう?覚えたいと自分で決めたなら良いが、そうでなければ強要はしないと思うよ、士郎さんは」
なのはさんとはここに居るなのはお姉ちゃんの事ではなくてヴィヴィオのお母さんのなのはさんの事だ。
「あのっ…アオお兄ちゃんの世界のわたしはどうだったんですか?」
「ヴィヴィオ?あの娘は俺たちの影響を色濃く受けたから…ね」
その言葉で想像がついてしまった。
おそらく今のあたしなんかじゃ太刀打ちできないほどだったのだろう。
会える訳じゃないけれど、平行世界のヴィヴィオに軽く嫉妬した。
ヴィヴィオは考えてみますと言って答を保留した。
「ああ、そうだ。地球に行くなら注意する事がある」
「何ですか?」
「世界にはその世界の神秘の法則がある。このフロニャルドでの加護の力なんかがそうだ」
うん?
「地球にも地球の神秘がある。面倒事に巻き込まれそうになっても、自分から突っ込んでいかない事だね」
意味が分からない。
「つまりね…」
と、前置きをして少し長いお話をアオお兄ちゃんは語った。
さて、名残惜しいがそろそろ帰る時間だ。
大丈夫、冬休みはきっと直ぐに来る。
ほんの少しのお別れだ。
見送りに出てきてくれたフロニャルドの人たちに別れを告げるとあたし達は転移魔法で元の場所へと戻り、残りの夏休みを満喫するのだった。
後書き
ドッグデイズ編終了。次があるとしたら三期が終わったらですかね…
次回は新しいクロスになるんじゃないかなと思います。書き上げてからの投稿になるので時間がかかると思いますがご了承いただけますよう。
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