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世代交代

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第一章

                        世代交代
 エースだった。圧倒的な。
 村山実はまさに阪神を代表する選手でありエースだった。背番号十一はまさに阪神を背負ってマウンドに立っていた。
 オーバースロー、スリークォーター、サイドスローの三つの投法を駆使して投げる速球と変化球、特にフォークを武器として投げていた。その彼をだ。
 どのチーム、特に巨人は打てなかった。彼は常にこう言っていた。
「敵はあいつや」
 長嶋茂雄、巨人を象徴するその彼を終生のライバルと定めてこう言っていたのだ。
 実際に彼は甲子園のマウンドに立ち巨人、特に長嶋を倒していた。その彼を見てファン達も喝采を送った。
「やっぱり阪神のエースは村山やな」
「村山がいての阪神や」
「甲子園のマウンドにあいつがおったら安心できるわ」
「村山がいてこそや」
 こう言ってだ。彼等は村山を応援していた。まさに阪神は彼がいてこそだ。
 天覧試合でも激しい攻防を繰り広げペナンドも二度制した。それが三十年代だ。
 だが時代が変わった。四十年代に入るとだ。プロ野球に変革が起こった。
「ドラフトなあ」
「あれってどうなんやろな」
「獲得できる選手を選べるんか」
「それぞれのチームで競合して」
 この制度の話を聞いたファン達はまずは首を捻った。
「何かおもろい制度やけれどな」
「前までええ選手は巨人の取り放題やったさかいな」
「あいつ等すぐ金にもの言わすからな」
 当時から何一つ変わっていない巨人の金権体質である。
「まあそれを抑える為にもやな」
「ドラフトはあってええな」
「阪神もええ選手獲得せなあかんな」
「村山みたいなピッチャーもう一人欲しいわ」
 こう言うのだった。そしてだ。
 阪神はある高校生をドラフト一位で指名した。その高校生はというと。
 サウスポーだった。その左腕のことを聞いてだ。ファン達はこう言い合った。
「江夏豊?知ってるか?」
「ああ、あいつ確かめっちゃボール速いで」
「しかもコントロールもええし頭もええ」
「結構掘り出しものやで」
 高校野球のマニアがだ。その江夏について話していく。
「まあ甲子園は出なかったけれどな」
「けれどそんなに凄いんかいな」
「かなりのピッチャーかいな」
「そんな奴かいな」
「まあ村山も甲子園に出てないしな」
 村山が名を売り出したのは大学野球からだ。関西大学で活躍してそこから阪神に入ったのだ。彼が甲子園で投げる様になるのはプロ入りからだったのだ。
 だからだ。甲子園に出ていないことはだった。
「まあそれは特にええな」
「そやな。それだけでどんな選手かわからんわ」
「問題はどんな奴かや」
「プロで活躍してくれるかや」
 彼等はこう言ってその入団した江夏を見ることにした。彼等にしてみれば江夏が村山と共に阪神のエースになってくれることを期待したかった。その江夏のことを聞いてだ。
 村山は練習中にだ。ブルペンで記者達にこう言った。
「わしにとってはや」
「はい、江夏投手はどうですか?」
「どうなって欲しいですか?」
「阪神の柱になって欲しいな」
 これが村山の江夏への考えだった。
「わしに憧れて阪神に入って嬉しいそうやけれどな」
「それでもですか」
「江夏投手にはですか」
「阪神のもう一人のエースになって欲しい」
 村山はまた言った。
「相手は強い。巨人は半端やないからな」
「そうですね。ミスターだけじゃないですからね」
「王さんもいますからね」
「わしの敵は長嶋や」
 村山はあくまで己の宿敵は長嶋と定めていた。まさに彼にとって長嶋は永遠のライバルだった。そして長嶋もそれを受けていたのだ。 
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