人非人
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
「それこそだ」
「教祖が判決と執行の前に死にますね」
「有り得るぞ」
それもというのだ。
「本当にな」
「そうですよね」
「だからだ」
それでというのだ。
「これは大変だぞ」
「どうしたものでしょうか」
「さてな、我々は検事だ」
「被告人の証拠を出すのが仕事ですから」
「それだけだ」
自分達が出来ることはというのだ。
「だからな」
「あの連中の引き延ばしにはですね」
「こうした場で言えるだけだ」
仕事をする部屋で愚痴の様なことをというのだ。
「仕事以外のことはな」
「そうですね」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
「つくづくとんでもない奴だ」
河原崎は苦々しい顔で言った。
「わかっていたがな」
「はい、裁判もお金がかかって」
「国民の税金がな」
「あの教祖も教団も許せない人多いですよね」
「テロやら内部の粛清で何十人と殺してるんだ」
そうしたことをしているからだというのだ。
「そう思う人が多いのも当然だ」
「そうですよね」
「そんな連中死刑にしてもな」
「当然だっていう人多いですね」
「被害者の遺族の人達はどう思う」
その殺された人達のというのだ。
「調べていて殺された人達もいるな」
「はい、そうした人達もいましたね」
「相手は凶悪犯だぞ」
河原崎は言い切った。
「クーデターも狙ったな」
「そんな連中の裁判で、ですか」
「死刑廃止やら反体制の為の運動なんかするな」
苦い顔でだ、河原崎は山田に言った。
「そう思うな」
「はい、裁判は裁判で普通にして」
弁護士の立場でというのだ。
「それとは別にですよね」
「言いたいことは言えばいいんだ」
「そうですね」
「私としては死刑になって当然だしだ」
「死刑自体もですね」
「賛成だがな」
「僕もですよ」
この考えは山田もだった。
「死刑賛成を言う馬鹿共とか言う尼さんもいますけれど」
「その尼さんも遺族の気持ち考えていないだろ」
「そうですよね」
「遺族の人達の気持ちも考えろ」
親しい人、愛する人、何よりも肉親を殺された人達の心をというのだ。
「それから人道とか言え」
「全くですね」
「そもそも尼さんが馬鹿とか罵倒語を堂々と使うな」
「本当に出家しているんでしょうか」
「さあな、出家していても所謂生臭坊主もいる」
そう言われる様な僧職の者達もというのだ。
「そういう類じゃなかったらいいがな」
「その尼さんも」
「ああ、それで安田に話を戻すがな」
また彼の話をするのだった。
ページ上へ戻る