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振り返ってはならない

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第七章

「間違いないな」
「はい、鬼ですね」
「人間の骨ではないです」
「女夜叉ですね」
「本当にそうだったにですね」
「そうだな」
 警部は部下の警官達に答えた。
「実際にそうだった」
「人間ではなかったですか」
「今回の事件の犯人は」
「女夜叉ですか」
「そうだな、しかしな」 
 警部は鑑識課に連絡を出してからまた言った。
「後はこの骨と犠牲者に付着していた唾液のDNAの鑑定ではっきりするが」
「若し、ですね」
 チンが警部に言ってきた。
「どういった相手かわかっていなかったら」
「こんなにあっさりと事件は解決していなかったな」
「そう思います」
 チンはこう警部に答えた。
「俺も」
「若し御前がひいお祖父さんから話を聞いてなかったらな」
「こんなに楽にはですね」
「犠牲者は出たがな」  
 しかしというのだ。
「それでもな」
「倒せなかったですね」
「そうだ、振り返ってはいけなくてな」
「塩や桃の木の木刀が有効だとわかっていなかったら」
「こうなってはいなかった」 
 絶対にというのだ。
「本当にな」
「そういうことですね」
「よくひいお祖父さんが話してくれていたものだ」
 ザップ、彼はというのだ。
「よかった」
「そうですね、俺もその時はただ聞いていただけですが」
「子供心にだな」
「それが役に立つとか思いませんでした」
「女夜叉が本当にいてだな」
「それはある程度信じていましたが」
 魔物の存在、それはというのだ。
「ハノイで事件を起こして」
「そうして自分が倒すとかはか」
「思っていませんでした」
「そうか、しかしな」
「それでもですね」
「こうしたことは本当にあるんだな」
 魔物が実際にいて事件を起こす、そうしたことがというのだ。
「事実は小説よりも奇だ」
「全くですね」
「だが魔物も迂闊だったな」
「女性が来ない様な場所に獲物を求めて来た」
「それはな」
「確かに迂闊でしたね」
「罠にかかった、それで倒せた」
 警部はこのことも言うのだった。
「魔物が人間の世界のそうしたことも知らなかったことも幸いした」
「今回は人間の知識と知恵の勝利ですね」
「そうなるな」
 こう言うのだった、そしてだった。
 DNA鑑定の結果彼等が倒した女夜叉の骨のDNAと犠牲者の首筋に付着していたそれが一致した、事件はこれで解決した。だが。
「この事件は、ですね」
「表向きにはだ」
「人間が起こした猟奇事件としてですか」
「犯人は警察が射殺したとしてな」
「解決しましたか」
「流石に魔物の事件とは公表出来ない」
 非科学的な事件とは、というのだ。
「ましてや我が国は建前は共産主義だしな」
「はい、そうですね」
「ホー同志も信じておられなかったみたいだがな」
 ホー=チ=ミンは生粋の民族主義者であり共産主義は支援を得る為の方便だったという、それで共産主義は実は信じていなかったらしいのだ。
「しかしな」
「建前は、ですか」
「科学主義だからな」
 共産主義のそれだというのだ。
「いいな」
「はい、わかりました」
「そういうことになった」
「それでわかりました」
「じゃあ今日の仕事にかかるぞ」
 警部は微笑みチンに言った、この日の仕事は平和なものだった。女夜叉の事件はこれで完全に解決した。建前と本音を含めて。


振り返ってはならない   完


                      2017・3・21 
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