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酒の魔力

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第一章

           酒の魔力
 オスカー=フォン=ブラウヒッチュはドイツでも屈指の酒造メーカーの会長だ。代々それこそ時十八世紀から経営している、最初は修道院のビール製造所を領主が買い取ったものだったが今では企業になっている。
 彼はそこでワインやビールを製造して売っているが彼自身も無類の酒好きでよく飲んでいた。
 彼はワイン党だがビールも飲み朝から自社のビールをごくごくと飲んでそれか一日をはじめる。
 だがその彼にだ、妻のコジマはこう言うのだった。
「出来る限り朝からビールは」
「ドイツの習慣でもだね」
「はい、それも何杯も飲まれるのは」
 実際に二杯か三杯は飲む。
「痛風によくないです」
「痛風にはなってないがね」
「それでもよくないです」
 痛風、ビールを飲んでいると避けられないこの病気についてはというのだ。
「どうしても」
「最近我が国でも言われるね」
「ましてや旦那様は朝だけではないです」
「昼もね」
「そして夜も」 
 つまり常にというのだ。
「飲まれていますね」
「確かに」
 ブラウヒッチュも自覚があるので否定しなかった、年齢は初老でよく太り金髪はもうすっかりなくなっている。大柄だがそれ以上に肥満と薄毛が目立っている。灰色の目は穏やかな感じだ。
「いつも、特に夜は飲んで」
「よく二日酔いにもなられています」
 コジマはその面長で高い鼻の顔で言う、髪は長いプラチナブロンドで目はライトブルーですらりとした長身だ。
「それでもですか」
「いや、やはりね」
「飲まれることがお好きですか」
「どうにもね」
「全く、お酒がお好きなのはいいにしましても」
 それでもというのだ。
「旦那様の場合は」
「過ぎるかい?」
「あまりにも」
「朝はビール、昼はワインで」
「ご夕食の時もワインですね」
「そして寝る前にはね」
「蒸留酒ですね」
「他の酒も飲むね」
 笑って妻に話した。
「我が社で輸入しているアジアの方のお酒もね」
「日本酒や紹興酒も」
「そうしたお酒も美味しいんだよ」
 実にという言葉だった。
「これがね」
「お米等で造ったお酒ですね」
「あの味を確かめるのもいいけれど」
「お仕事でもあるのですね」
「我が社で輸入しているんだ」
 商品として扱っているというのだ。
「だからね」
「味を確かめる意味でも」
「飲んでいるけれどね」
「そのこともわかりますが」
「過ぎているんだね」
「そうです、この前は二日酔いになられましたね」
 夜に飲み過ぎてというのだ、立派な屋敷の食堂で二人で朝食を摂りつつ話をしている。代々住んでいる屋敷だ。
「そうでしたね」
「ああ、そうだったね」
「それでもですね」
「二日酔いは辛いけれどね」
 辛くない者なぞいない、酷いとベッドから起き上がるのも苦しい。
 だが、だ。ブラウヒッチュはそれでもなのだ。 
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