ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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侍娘-クリスティナ-part1/侍のお嬢様
トリスタニアから派遣され学院に来ている修復作業員(平民や土系統メイジの集まりで構成されている)のたちが、荒れてしまった学院の清掃と片づけ、修復作業を行っていた。
そんな中、シュウの部屋から水桶を片手に、魔法学院の広場の一角でそれを見ていたサイト。いつどのタイミングで、以前のように学院に星人が現れるかもわからないので、こんな平時でもデルフを担ぐのが癖になり始めた。
『修復作業は着実に進んでいるみたいだな』
「ああ」
外壁に崩れたままの箇所やひび割れなど、ところどころ修復が終わっていないところもあるが、それでも事件直後と比べるとかなり進んでいる方だった。非常事態が立て続けに伴い、修復作業の回数も増えたので作業の流れというものに、彼らは慣れてきたかもしれない。
「でも、またここが襲われたらその度に修復作業に手間がかかってしまうんだろうな」
『そうだな。生徒たちもまだ以前と比べてほとんど学院に戻ってきていない。ジリ貧を通り越して衰退しちまう可能性も捨てきれない』
一方でサイトとゼロの二人はそのようにも考えていた。しかし今のシュウのように、自分たちまで戦えなくなったりするようなことがあったら、この人たちも学院からいなくなるのだろう。最悪の形である、死という形で。
「シュウもしばらくは動けないみたいだし、俺たちだけでやるしかないんだよな」
「なぁ、そういう相棒はいいのかよ」
ライオンの蛇口が付いた洗い場の近くに来て、新たな冷水を水桶に入れたところで、デルフが尋ねてきた。
「いいって、何がだよ?」
『…その分、俺とお前があいつの分の苦労も背負う。今はムサシとコスモスも変身して戦うことも難しい状態だ。俺は構わないが、お前自身はそれでいいのかって、デルフは聞いてんだよ』
「そういうことか…いいんだ。あいつやムサシさんが変身できない分は俺たちで補えばいいし、何よりテファの気持ちもわかる」
遠い空を見上げながら、今までのシュウと共に勝ち抜いてきた戦いを振り返る。
最初はゼロと未だぎくしゃくした関係だった頃、モット伯爵の屋敷で遭遇したノスフェルにやられそうになったところを、光線技を繰り出して救ってくれた。二度目はフーケが破壊の杖ことMACバズーカを学院から盗み出したのを追ったところでツインテールとグドンが現れた時。三度目は、アキナという裏の人格を植えつけられたハルナが変身したファウストとベムラー…それ以降、偶然が重なりながら何度も彼と一緒に戦ってきた。
「俺は、同じ地球人として、ウルトラマンとしてあいつを尊敬してた。完璧で、俺たちと違ってヘマなんてしまい、たくさんの人たちを守ってきた。俺を救ってくれた人達に通じるものがあるんだって。
でも…話を聞いてから、ちょっと勝手だけど、見損なったところもある」
『あいつがきっかけで、彼女の精神が追い詰められたことか?』
「あぁ、あいつの過去については、俺も思うところがある。でも…だからって、あいつを心配してくれてるテファの気持ちを無視するもんじゃないだろ…!」
トリスタニアの城で、ようやくシュウの口から彼の過去を聞いたとき、なぜ彼はあそこまで他者からの心配の視線も、自分の体がぼろぼろになることも無視して、自分一人で戦うことにこだわるのか。その理由を確かに理解できた。だが…ぎゅっと、拳を握っていたときの彼の顔には、わずかに怒気を孕んでいた。
「自分がかっこつければ満足だってのか?自分を大事に思ってる人達の気持ち無視しやがって…!」
大切な人たちの思いを踏みにじり、自分の命さえ投げ出してまで悲劇の主人公を気取って一人格好をつけるような行いが、サイトは嫌いだった。親を失って荒れていた頃、義母になってくれたアンヌとGUYSの好意をろくに受け入れなかった自分とダブっていたこと、ラ・ロシェールでゼロが取り返しのつかない間違いを犯しそれを叱責した身でありながら、あの男自身も人の気持ちを無視した行為に走ったことが大きな要因だった。なぜ助けを呼ぼうともしなかった?なぜあれほど辛いのに、何のためにジャンバードを介して、自分のビデオシーバーと彼のパルスブレイガーの通信回線を繫げたのだ。どちらかが危機に陥った時のために、繫げたのではなかったのか。
不満を口にし続けるサイトだが、これ以上彼をイライラさせるのは忍びないので、デルフは強引に、今後の自分たちの身の振り方について言うのはやめた。
「…まぁなんにせよ、俺たち側の戦力は落ちたことに変わりねぇな。どうするよ?」
『グレンもラグドリアン湖で皇太子を守っている状態で当てにしづらいし、しばらく俺たちでなんとかしようぜ。ハルナもまだ、自分の目覚めた力のコントロールには慣れていないし…となると、トレーニングに一層力を入れた方がよさそうだな…』
「あぁ…やっぱそうするしかないか」
「なんでぇ。ちと気が進まなそうだな」
必然的にトレーニングの強化を提案したゼロだが、少し肩を落とすサイト。デルフが怪訝な声を漏らす。
「ゼロって…あのウルトラマンレオ、おおとりさんの弟子だろ?前にタルブ村で修行してもらった時のことを思うとな…」
以前、ワルドに敗れウェールズたち王党派の人々が奴の手にかかったショックが重なりルイズとも亀裂が走ったころに出会った、ウルトラマンレオの人間の姿、おおとりゲン。渋くてかっこいいと思ったが、同時に学校の鬼教師がかわいく見えそうなくらいめちゃくちゃ厳しそうな人だという印象を受けた。実際、タルブ村にレコンキスタと怪獣軍団が来るまでの間の連日、ゼロに変身して地獄の組手を受け続けてきた。そのレオの弟子であるゼロ、なにかしら遺伝されているような気がしなくもなかった。
『くくく……なぁに心配すんな。お前に死なれたら俺も死ぬ身だからな。死なない程度にかわいがってやるからよ』
「さらりとどっちみち残酷な未来が待ってること言ったよこの人!?」
一瞬安心を促すような言い方を言いながら、次にめちゃくちゃ不安を煽るような言い方をするゼロに突っ込みを入れる。なぜかジープで追い掛け回されたり、岩を頭上から落とされたりする光景が目に浮かばされる。
「ったく…まぁそれはともかく、何よりハルナはこの前まで酷い目にあわされてただろ?これ以上、俺たちの戦いに巻き込んでもいいのかなって思うし…」
『そうだったな…悪かった、思慮が足りなかったな』
「あ、いや…別にゼロを責めてるわけじゃなくって…」
元は被害者であるハルナを戦わせることに遠慮なしの言葉を口にしてしまったゼロは詫びを入れる。
「けどよ、相棒たちと一緒に戦うって決めたのはあの娘っ子の方だろ?娘っ子たちの相棒への嬢は深いんだ。お前さんがいくら説得してもやめるつもりはないと思うぜ」
「……」
「ま、どちらにせよ相棒のやることは変わらねェ。娘っ子たちを守るためにも、強くなっていこうぜ」
「…そうだな。もう二度と失うのは…御免だ。何より、俺が強くならなくっちゃな」
思えば自分は、大事な人を失う経験が多かった。その度に深い悲しみに暮れた。たった一つの命が失われる。世界にとってはほんの小さなことかもしれないが、死んだ人にとっては、すべてが終わるのだ。大げさな表現かもしれないが、一人の人間の死とは、その人間の世界が終わることと同義なのである。
仲間のために、大切な人たちを守るために、もっと強くなりたい。シュウが戦えなくなったとしても、それは変わらない。拳をぎゅっと握り、改めて決意を固めるサイト。
(けど、それにしてもあの時のシュウの奴…)
ふと、もうひとつサイトは気になることを思い出した。先日の作戦中、カオスヘッダーに憑依されたネクサスのあの姿を。カオスヘッダーに支配されたかと思ったら、逆にそれらすべてを飲み込んで暴れた、ウルトラマンというより、それに似た姿の怪物というべき戦いぶりが、脳裏に焼き付いている。
(なんだったんだ、あの黒いオーラは…)
見ていてゾッとするものがあった。ウルトラマンの姿をした邪悪な…。
そこまで考えたときだった。
「なら、ちょうどいい。私が相手になってやろう」
「え?」
突然、凛とした声が耳に入る。その直後、デルフとゼロが大声を上げた。
「『上だ』!!」
サイトはすぐに反応し、デルフを引き抜いて頭上で盾代わりにして構えた。
その時、太陽の光と重なる形で、人影がサイトに向かって落下し、彼に剣を振りかざしてきた。いち早くデルフを構えたおかげもあり、サイトはその一太刀をガードすることができた。
「ほぅ、今の一撃を防ぐか。見事だな。気配は消していたはずだったが」
「だ、誰だ!?」
襲ってきたのは、サイトらとほぼ同じ年頃の金髪の少女だった。しかし…気になったのはその恰好だった。時代劇でしか見ないはずの服装…『袴』である。少女はそれを着込んでいたのだ。それも、異世界であるこのハルケギニアで。さらに握っているのは、本物の日本刀だ。よく外国人が日本の文化に感化されて和服を着たりコスプレしたりする話をよくニュースで見ていたが、今の彼女はまさにそれだ。
「ならこの一撃はどうだ!?」
さらなる一撃が放たれる。サイトは次の一撃も防ぐが、少女の太刀筋は彼を捕えようと、そのまた次の一撃を繰り出してくる。
(この子の剣術…かなり洗練されているぞ!)
全ての太刀筋が、サイトの隙を突こうと的確に突いて来ている。そもそも魔法学院のど真ん中で剣を向けてきたりと…一体この少女は何者なのだ?
もしや、レコンキスタの刺客か!?
しかし、圧されて終わりでは、これまでウルトラマンとして戦ってきた意味がない。
『サイト、レオの修行をよく思い出せ!相手の動きをよく見て、逆にこっちが隙を突くんだ!』
『おう!』
ゼロの言葉が脳の中で響く。レオの修行を受けた時も、何度も「相手の動きをよく見ろ」とうるさく言われたものだ。
サイトは、少女の連撃を防ぎつつ、彼女の動きを深く観察する。
「次は…これだ!」
少女が突きを放ってきた。今だ!サイトは姿勢を低めながらデルフを彼女の刀の下から潜り込ませ、そのまま掬い上げた。その状態で、逆にデルフの刀身を少女の喉元に突きつけた。
「…ふふふ、聞いていた通りの腕前だ。アンリエッタが一目置くのも頷ける。気に入ったぞサイト!」
「え?」
自己紹介なんて一度もしてないのに、この少女はサイトの名前を言い当てた。大笑いしながら刀を鞘にしまう少女を見て、デルフが口を開く。
「…どうやら、相棒を試したかったみたいだな。嬢ちゃんよ」
『…なるほど、結構鋭い一撃を向けてきた割に、殺気があまり感じられなかったのはそのためか』
ゼロもまた似たような感想を漏らす。そういえば、この少女の攻撃は、思ったほど重いわけではなかったような気がする。じゃあ、別にレコンキスタの刺客とか新しい侵略異星人が襲ってきたわけでもないのか。
「いきなり不意打ちを仕掛けてすまなかったな。お前の力を自分の手で確かめてみたくなったんだ。しかし、男なら白刃取りをしてみせろ!」
「へ?」
こちらがほっと一安心した矢先に意味不明なことを口にする少女。白刃取りだなんて、変身しているときならまだしも、今の姿のサイトでは無理がある。できもしないことをごく当たり前にできるように口にするとは、この子どこか変だ。さっきから気になっていたが妙に侍くさい格好もしているし、本当に何者なのだろうか。
「アンリエッタの話を聞くと、お前はかのサムライの国の者の一人らしいが、私の勘違いだったのか?」
「サムライだって…!?」
今、この少女はなんと言った?異世界に来て以来、聞くことなんてないはずの単語にサイトは目開いた。ならば服装が袴で、刀を振るっていたことにも説明がつく。
「もしかして君も、俺たちみたいに地球から来たのか!?」
「ちきゅう…?」
しかし、地球の名前を聞いて少女はキョトンとした。あれ?とサイトも反応に首を傾げた。
「えっと…違うのか?」
「いや、私はニホンの者でも、そのちきゅうとやらの者でもない」
「でも、君のその格好は…」
明らかに昔の日本人が着込んでいた服装だ。なぜそれを着ているのか、少女は理由を明かした。
「これは、私の師匠がくれたものなんだ。私の剣術も、あの人から教わったものだ」
誇らしげには少女は笑みを見せた。彼女も師承を敬愛しているのがわかる。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。
私はクリスティナ・ヴァーサ・リクセル・オクセンシェルナ」
「やっぱり長いな…」
ハルケギニアの貴族とは、どうも名前が長いイメージばかりが付きまとう。
「ならばクリスと呼んでくれ。アンリエッタのように、親しい者たちは皆そのように呼ぶ」
「アンリエッタって…もしかして、女王様の知り合いなのか?」
「古くからの友人なんだ。互いに呼び合う仲なのだよ。先日、久方ぶりに会った際にもお前のことを聞いたよ、サムライのサイトよ」
「侍って…もしかして、俺のこと?」
まさかこの少女の言う侍とは、自分の事を指しているのか?自覚なんてまず持つことがないゆえに、サイトは自分を指差して問い返した。
「他に誰がいるというのだ?先ほどの剣技、まさに達人の技だったぞ。隙を突いてきた私の連撃をいなし、それどころか逆に私に剣先を向け返すとは。師匠が見ていたら驚くだろうな」
「そ、そう…ははは」
素直に褒め称えて笑みを浮かべるクリス。別に剣を振るっているだけで侍を名乗っているわけでもないのだが、この少女もルイズたちにも引けを取らない美貌を持っていることもあり、サイトは思わず照れて頭を掻いた。
「…相棒、顔が緩んでるぜ」
『サイト、顔が緩んでるぞ?いけないんだー』
デルフとゼロからダブルで指摘されて、サイトは我に返る。…いかんいかん、こんなところルイズたちに見られたら睨まれる。こほん、と咳払いし平静さを取り戻したサイトはクリスと向き直る。
「と、ところでクリスはなんでこの学院に来たんだ?」
「実は、私は明日からこの学院に一時的に編入する予定なんだ。アンリエッタに口利きしてもらってな」
「へ、編入!?この時期に!?」
現在のハルケギニアは、怪獣や異性人、そして闇の巨人の脅威にさらされてきた。そのせいで、今のこの学院は不登校生徒が相次いでいる。3度も襲撃を食らうような危険な学院に我が子を預けたくないと考える貴族の親や、学院にいたところで危ない目に合わされるだけと考える生徒が続出しているのだ。そんな時期に、まさかの編入生?それ以前にハルケギニアの現在の時期は、実を言うと秋を過ぎて冬にさしかかろうとしている時期。転校生が来るような時期ではない。
「…この国で起きている事件やレコンキスタの侵攻についても、アンリエッタから聞いている。普通では考えられないことかもしれないが、だからこそ私はここに来たんだ」
「だからこそ?」
「これまでこの国を中心におきてきた事件の中心にいる怪獣という存在…いかなるドラゴンやモンスターよりも凶悪らしいな。だが、かといってそれに怯え、噂のウルトラマンとやらに頼るあまり、強くなる努力さえも疎かにしてしまえば、それこそいずれ自分たちが侵略者共から命を奪われることに繋がってしまうと私は思うのだ。だから、私は祖国とこのトリステインの外交をかねてこの学院を、かつて多くの生徒たちで賑わっていた頃のようにできれば、と思っている」
「なるほど…」
確かに、彼女の言うことは正しい。ウルトラマンという立場から考えても、はっきりいって人間たちには、正しい方向に強くなってくれたほうが助かる。人間の立場でありながら、ただウルトラマンに助けられる身であることに甘んじるつもりはないというクリスの心構えに関心を持った。
結構気さくな性格らしい。貴族だからって偉ぶるばかりの連中とは違い、好感も持てた。
「そうだ、サイト。今から学院の案内を頼む」
「え…今から!?」
「せっかく剣を交え、友になれたのだ。さぁ、いくぞ!」
いつの間にか友達と思ってくれていたのはかまわないし、寧ろ嬉しいのだが、強引さは変わらないらしい。
サイトは強制的にこのサムライガールの案内役として連行されていった。
「…うーん」
学院内のルイズの部屋で、一人の少女が顔から脂汗を滴らせながら唸っていた。その少女を知る者は、ぱっと彼女を見れば「ハルナ」と呼ぶだろう。だが今の彼女は、ハルナであってハルナではない。彼女がウェザリーによって新たに植え付けられた裏の人格、アキナである。証拠として、彼女の髪型がポニーテールで、ハルナと比べて若干目つきが鋭いのが特徴である。
目を閉じ、強く何かに集中して、自分の体に何かを溜め込もうとしている。目に見えないオーラでも体から放出しようとしているかのようだ。
が、しばらく経ってから、彼女はくたびれて椅子にドサッと座り込んだ。
「あの時あたしたちが変身できたのは、やっぱ奇跡だったのか…?」
『不思議なくらい、絶対にできるって、あの時は思ったのに…』
彼女たちは今、ウェザリーとの決着の際と同じように、自力でファウストに変身して見せようとしていた。しかし、元々ウェザリーに植えつけられた闇の力を一度は吸い上げられた身だ。あの時は奇跡的に変身することができたものの、今は取り戻したはずの力をコントロールできず、変身したいと思うときに変身することができない。
「でも、ここで何の結果も無いってことだけはごめんだ。もう一人のウルトラマンが戦えないって話だし」
『黒崎さん、か…』
ハルナたちも、シュウの身に起きたことは聞き及んでいる。そして、彼の壮絶な過去も…。あまり顔を会わせたことはなかったが、サイトと同じウルトラマンで、何度も彼の危機を救った頼もしい存在。サイトを想う立場からすると羨ましいと思った。
「…ま、どちらにせよ今は、その彼が戦うことができない状態。だからあたしたちはその穴を埋めるためにも、自在に変身する練習を続ける。今あたしたちがやるべきなのはそれだ」
『…うん、私たちが戦いで平賀君たちの役に立つには、やっぱりウルトラマンの力が必要になってくる。なんとしても、会得しよう!』
「いわれなくたってやってやるさ!」
表と裏の人格で互いに言葉を交し合って励まし、再び目を閉じて変身の姿勢をとるアキナ。だが、その次も、その次も何の変化も見られなかった。
「やっぱりだめか…これで50回目の失敗…」
『そう簡単にうまくいくとは思ってなかったけど、ここまでだと自信無くなっちゃうね…』
アキナと、彼女と人格交代し体の奥から見ていたハルナが順に口を開く。
「…ハルナ、あたしちょっと疲れたから奥に引っ込むわ」
『そうね、そろそろ休憩にしよっか』
アキナが人格交代の意思を表すと、彼女のポニーテールが解かれ、目つきも穏やかなものに代わる。本来の人格であるハルナと入れ替わったのだ。
「…ふぅ」
少し疲労を感じ、ハルナはため息を漏らす。ふと、授業終了の鐘が校内に響いた。授業が終わった頃だろうか?外を眺めて様子を見てみた。校舎入り口から生徒たちが出てくる。
そろそろルイズも戻ってくる頃だろう。
「ただいま」
「あ、ルイズさん、お帰りなさい」
そう思っているうちにルイズが戻ってきた。
「今日はどうだったの?」
「…教室が妙に広く感じたわ」
ハルナからの質問に、少し伏目がちにルイズはそう答えた。
ルイズはこの日修復作業を手伝っていたが、生徒たちの人数が、かつての半数以下に少なくなっていたことに気づいた。レコンキスタに占領されたアルビオンとの戦争もあるかもしれない。だがそれ以上に、度重なる怪獣・星人・闇の巨人による災害や、で生徒たちにも死者が現れ、その恐怖で実家に戻ってこない生徒たちが続出したのが大きな要因だ。かろうじて学院に来ている生徒たちは、大半が加盟を優先している実家の命令もあるのだろう。怪獣だろうがなんだろうが、敵に後ろを見せるのは貴族ではない。かつて無能という意味で『ゼロ』と呼ばれていた頃のルイズの持論と同じように、従来のハルケギニア貴族のプライドから来る無謀な根性論で、自分の子供を精神面で追い詰めているのかもしれない。
ハルナも自分がサイトたちの手引きでこの学院に保護されたときと比べると、生徒たちが少なくなっているのが目に見えてわかった。終わるまでの間、彼らはこの学院の修復作業を行っていたのだが、まるでそれらの行動が無意味だと主張しているかのように、多くの生徒たちの表情が沈んでいた。
「今の状況、何度も地球で見てきました。」
「チキュウ…サイトとあんたの元の世界?」
「はい、今の学院の空気…私たちの故郷が荒らされた後とよく似てるんです。怪獣被害を受けた町の人たちは皆あんな顔をしてました」
「そう…でも、そうなるのも仕方ないわね」
ルイズは教室で授業を受けた際の、テンションが下がり続ける生徒たちの顔を思い出す。あれだけ自分を馬鹿にしてきた同級生たちでさ、以前のようにルイズのことを『無能のゼロ』『魔法の才能なしのゼロ』と笑うものさえもいない。
いくら怪獣がいないからって、また自分に悪口が戻る日々に戻ってほしいなんて絶対思わないが、せめてこの辛気臭くて不幸な日々が終わるときが来てほしい…と、ルイズは思った。
「ところでハルナ、さっきまで何をしていたのよ?」
今のハルナを改めて見て、ルイズは自分が戻るまでの間何をやってたのか気になって尋ねてみる。同じ女子同士、一応自分の私物は使ってもいいとは言っていたが、特に何かを使って暇をつぶしていたわけでもなさそうだった。
「実は、あの力を自力で引き出せるように練習してたんです」
「あの力って…黒い巨人の力のこと?」
それはルイズも知っている。彼女が敵だったころのアキナの人格で正体を明かし、サイトだけじゃなくルイズの前でも変身した光景を見せつけていた。
「ええ。でも、予想してたとはいえ、全然うまくいってないんです。あの時とはやっぱり違うのかな…」
ウェザリーの意思に逆らい、サイトの元に戻る頃までと違い、前回の戦いでもうまくいかなかったことも含め、どうやればもう一度光の力でファウストに変身できるのか悩むハルナ。
「……」
ルイズは少し考え込んだのか、黙りだした。
「ルイズさん?」
どうしたのかと思って声をかけると、ルイズはハルナに向けて一つ問いただしてきた。
「ハルナ、ひとつ聞いていい?」
「はい?」
「ウルトラマンって、普段は人間の姿なんでしょ?だったら…ウルトラマンゼロって普段はどうしてるの?」
「え…!?」
予想外な質問をされたためか、ハルナは言葉を詰まらせた。
「今詰まったわね?知ってるんでしょ?話してちょうだい」
「え、ええっと…」
ルイズからの問い詰めにハルナは焦り始める。その様子にルイズは疑惑を募らせていく。
『あ、アキナ~…なんとか言ってあげてよ』
『そういう面倒なのはあんたが適当にやっときな。あたし知ら~ね』
自分の別人格ながら薄情かつカチンと来る物言いにハルナは怒りたくなったが、自分とアキナのやり取りなど他者から見れば奇妙な一人二役にしか見られない。
「そう、話せることじゃないのね」
しどろもどろなハルナに、ルイズは悟った。軽く喋っていいことじゃないことではないということだと。
「…ごめんなさい。これはさすがに、私の口からじゃ話すことは無理です。せめて本人から許可をもらわないと、後でどうなるかわからないから…」
ウルトラマンの正体はうかつに明かしていいものではない。それがたとえ知りたがっている相手が近しい存在で、口が堅い人だとしても。そのリスクの重さは、ハルナもサイトと同じ世界の人間だからよく知っている。むしろシュウのように、ギーシュたちと二度と会うつもりがなかったからという理由で、目の前だろうと遠慮なしで変身するようなケースとは違う。
「わかった。無理を言って悪かったわね」
「いえ…」
ルイズは考える。しかしそうなると、ウルトラマンゼロとは一体誰なのか、どこで何をしているのだろうか。これまでこの世界で出現したウルトラマンたちの共通の特徴を思い出してみる。
サイトの話だと、ウルトラマンはその姿を保つのに著しくエネルギーを消費するため、おおよそ3分の間しかあの巨体を保てないらしい。人々への危害を最小限で抑えるため以外にも、そういった理由もあって短期決戦を求めている。
(そのエネルギーを抑える手段として、人間の姿で普段は過ごしているということなのかしら?それに人の姿をしていれば目立たなくて済むし…)
そこまで考えたときだった。ふと、サイトの姿が中庭にあったのを見つけたのは。
「平賀君…!」『サイト!』
「サイト?」
ルイズ、ハルナ、そして疲れて彼女の奥に引っ込んでいたはずのアキナが反応を示す。
「おーい!平賀!………君?」
窓を開けたハルナが手を振って呼びかけてみようと思った…が、すぐに思いとどまらされた。なぜかその先を止めたハルナに、ルイズは怪訝な視線を向ける。窓の外に、鳥が固定魔法でもかけられたかのように、空中で停止している光景でも見たのか?
「どうしたのよ。何か変なものでも…」
ルイズも窓の外を見下ろして、ハルナが何を見たのか確かめた。その途端だった。彼女もハルナとまったく同じ表情を浮かべた。
なぜなら、彼のそばにはこのとき…
女の子が一緒に歩いていたのだから。
面白いくらい瞬間的に、驚愕の表情を露にしたルイズとハルナ。ハルナの心の奥から見ていたアキナも同じ顔を浮かべていたに違いない。
サイトと同伴している女の子は袴という、現在の地球でもあまり見かけない服装をしているが、遠くからでもわかる美貌でサイトと楽しげに会話していることの方が彼女たちにとって重要だった。
表と裏共に、ハルナはサイトに、知っての通り惚れている。そんな男が他の女と…それも知らない女と二人歩いている。嫉妬心を沸きあがらせるには十分だった。しかもハルナはアキナと共存してからか、その傾向が強くなった。
「「あんんの………」」
「発情犬ううううううう!!!」
「色ボケええええええええ!!!」
心の奥にとどまっていたはずのアキナの人格が瞬時に表に出て、ルイズも一緒に猛ダッシュした。
人によっては、大地を駆け巡るヌーの大群もどこぞの別次元で地球を闇で覆いつくそうとしたイナゴの群れも霞みそうな勢いに見えるほどの勢いに見えるかもしれない。
それだけの勢いをつけていた二人は、ちょうど廊下を通りがかっていた、いつもどおりメイドの仕事に勤しんでいたシエスタと接触した。
「ど、どうしたんですかお二人とも!?」
いきなりの登場を果たした二人にシエスタは思わずびっくりしてしまう。
「ちょうどいいわシエスタ、あんたも来なさい!」
「ちょ…まだ私仕事中…ひゃああ!?」
強引に引っ張られる形でパーティに加えられたシエスタだが、その後サイトが知らない女を連れて学院内を歩き回っていると聞き、「ぜひ私も!」とあっさり承諾し、サイトたちを探し回り始めた。
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