ダンジョンに闇の王子が迷い込むのは間違っているだろうか
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1章 兎との出会い
プロローグ
ずっとずっと昔のこと、はるかな天空に浮かぶ、美しい王国。
その玉座で丸まる気高き白猫に、泥にまみれた黒猫が──恋をした。
それが、すべてのはじまり。
☥
「はぁっ……はぁっ……」
漆黒の髪と翼をたなびかせ、青年《グレン》は、天空の大陸を目指し、大空を高速で飛ぶ。
しかしその空は青くなく、無数の魔物で埋め尽くされ、天空の大陸が見えないほど黒く塗りつぶされていた。
その時、魔物が一斉にグレンの存在を察知する。
「……っ!」
グレンの身に、数千を超える魔物の大軍が押し寄せてきた。
「……っ! 邪魔を、するなぁぁ!!」
しかし彼も黙ってはいない。
背に背負われた真紅の大剣を握り締め、大声とともに横に薙ぐ。
その圧倒的すぎる力に、魔物はなす術もない。
巨大な爆風が起こり、次々と魔物が消滅し、たった一撃でほとんどの魔物が消え去った。
魔物の壁がなくなったため、天空の大陸が微かすかに見える。
すかさず剣を背負い直し、弾かれたように再び大陸を目指す。
「頼む、間に合ってくれ! ──《アイリス》──!」
☥
「はぁっ……はぁっ……」
息を切らしながら、グレンは走り続ける。
アイリスはどこにいる!? 絶対に助ける!
走りに走ってたどり着いたのは、『始祖のルーンの間』。
グレンはためらわずに、そこの扉を勢いよく開ける。
「──!!」
「!」
……いた、アイリスが。
銀の髪をたなびかせ、こちらに振り返る。
しかしその顔は、驚きと悲痛で染まっていた。
「そんな──」
「……?」
「ごめん……なさい──」
微かに聞こえる謝罪の声。
しかし、その意味も考える時間すらなく、大きな地響きが襲いかかってきた。
「……!?」
それと共に、『始祖のルーン』が砕け散り、大量の『光』が放出される。
ボロボロと翼が朽ちていく。全身に焼けるような痛みを覚える。
そんな中で、アイリスのたっている地面が崩れ始めた。
「──!!」
このままじゃ、アイリスが……!
そう感じたグレンは、最後の力を振り絞って、彼女の元へと走る。
全力で手を伸ばす。しかし、届かない。
やめてくれ……やめてくれ!
最悪の結果は避けたい。せめて彼女だけでも助けたい。
しかし──
「──さよなら、約束の人──」
「──!? アイリスーーーーッ!!!!!」
現実は、甘くなかった。
アイリスはどんどん落ちていく。
今の翼では、助けに行くことすらできない。
「……間に、合わなかった」
約束、したのに……! 俺の、せいで!
悲しみに狂い、己を否定し始める。
しかし、そんな時は、すぐに終わった。
「おのれ……! まさか、『始祖のルーン』ごと、天空大陸ごと……!」
「……!?」
「だが──」
いやらしい声を放つ、一つ目の怪物。
「あとほんの少し──」
禍々しき姿とオーラを纏った異形の存在。
「足りなかったなぁ!?」
《闇の王》……! まだ生きていたのか!?
──ならば!!
「うおおおおおおっ!!」
「!?」
闇の王の、むき出しの心臓に向かって、グレンは剣を突き刺す。
「……き、貴様あああああっ……!!!!」
闇の王の、巨大な掌が、グレンの頭を鷲掴む。
しかしそれに怯まず、剣をさらに奥に突き刺した。
「がああああっ……!」
「共に滅ぼう──それが、彼女の望み!」
遂に彼らの下の地面が崩れ始める。
「消えろぉおおおおっ!!」
「……お、おのれぇえええ……」
闇の王とともに、地上へと落下していく。
その時グレンは、走馬灯のように、彼女のことを思い浮かべた。
「さよなら──アイリス……」
☥
「今日はたくさんじゃが丸くんをゲット出来た! 待ってろベルくん! 今帰るぜ!」
ここは、世界で唯一ダンジョンを所持する巨大都市、迷宮都市『オラリオ』。
出会いとロマンの詰まったこの都市には、ある一つの超常現象が起こっている。
それは、『神』が存在しているということだ。
「ふんふふーん♪」
鼻歌を歌いながらスキップをする少女、女神《ヘスティア》。
その幼い容姿には、似つかわしくない豊満な『胸』を揺らしながら、帰路についている途中。
「ふんふ……!?」
その時、目の前で倒れ伏せる一人の青年を見つける。
「だ、大丈夫かい!? ……っ!!」
近づいた瞬間、強く感じた、禍々しいオーラ。
牙を隠した獣のように、うちに秘められた殺気に、神としての本能が察する。
──この子は危険だと。
しかし、不思議と彼が暴れるとは思えなかった。
これは、女神としての、ヘスティアとしての勘。
本能と勘。似て非なる2つの考えに、若干の戸惑いを感じる。
しばらくの考察の後、彼女の出した決断は──
「……連れて帰ろう」
神としての本能ではなく、女神としての勘を信じた。
青年の肩を担ぎ、足を引きずりながらも連れ帰る。
──この頃はまだ、ヘスティアには……いや、ほかの神にも感じ取れなかった。
彼がその気になれば、この世界が一瞬で消えてしまうことに。
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