渦巻く滄海 紅き空 【下】
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四 毒媒蝶
前書き
いつも月末投稿が多いですが、今回別ジャンルで月末が忙しく、大変申し訳ございませんが、お早めに更新させていただきました!
捏造多数、オリジナル忍術などございますので、ご注意ください!急いで書き上げたので、短いし矛盾等あるでしょうが、ご容赦願います!
ナルトが非道に見えるかもしれないですが、許してやってください…っ!
その代わり、美少女ハーレムなカカシは許さなくていいよ!←おい
オリジナル忍術の一つはかつて【上】の十四話で出てきた術なので、よかったらご覧になってくださいね。
よろしくお願い致します!
吹き荒れる砂嵐が、止まった。
やむことのない風がピタリ、と一瞬治まったのは何かの前触れか、兆しだろうか。
台風の目にいるかのような一時の静けさの中で、倒れ伏したカンクロウの顔を、彼は片膝立ちで覗き込んでいた。
暫しの戦闘を繰り広げ、毒により力尽きたカンクロウの首元に手を翳す。
それだけで注入された毒の量が如何ほどのモノか推測した彼は秘かに眉を顰めた。
三日ともたずに済む量ではなく、明らかに今日一日もつかもたないかの瀬戸際を確かに感じ取る。
「……随分凶悪な量を仕込んだな…」
ナルトが認める傀儡師は己一人だけだ、と同じ傀儡の術を扱うカンクロウに勝手ながら対抗意識を燃やし、毒の量を普段の数倍注いだサソリ。
原因が己自身だとは微塵も気づけないまま、彼はカンクロウを憐憫の眼差しで見遣った。
「このまま解毒するのは容易いが…我愛羅を取り戻すなら、サソリと再戦するのは必然」
それならば、毒の抗体を得る必要がある。サソリと闘い勝つ為に不可欠な血清を手に入れるには、今、解毒しては再戦しても二の舞になるだけだ。
砂隠れの風影が暁に連れ去られたという情報が真っ先に入るとすれば、同盟国の火の国・木ノ葉隠れ。
医療スペシャリストの綱手は火影故に里から離れられないが、彼女の弟子ならば、問題ない。
おそらく砂に応援を要請された木ノ葉隠れの里が打つ手段としては、その弟子を送り込む可能性が非常に高い。
一部隊に一人の医療忍者が必要だと昔から主張している綱手なら猶更。よって、解毒法が皆目見当がつかない砂が頼るとすれば、木ノ葉からの応援要請で来る医療忍者だ。
更に、現在の時期を顧みれば、波風ナルを筆頭にした部隊を送り込むと予想がつく。
木ノ葉隠れの里にいる内通者からの情報という裏付けがあっての推測だが、綱手の弟子となった彼女達の実力を見るならば、これ以上ない案件だ。もちろん第一に見たいのは、波風ナルがどれほど成長したか、なのだが。
「すまないな…毒の巡りを遅延させるくらいしか、今はできない。解毒できない場合は、コイツに体内の毒を処理させる。それまで苦しいだろうが、我慢してくれ」
毒を秘かに吸って、体内の毒の量を徐々に減らす働きをもたらすソレ。人目につきにくい首筋あたりにソレをつけた彼は、すっくと立ち上がる。
そうして、砂隠れの忍びに見つけられやすいよう、おもむろに印を結んだ。
「【疾風沐雨】……」
瞬間、激しい雨風がカンクロウの身についた砂を全て洗い流す。
中忍試験予選試合でドスの身体に纏わりついた我愛羅の砂を掃ったあの術である。
あの時は我愛羅からドスを守る為に使った術を、今は我愛羅を助ける為に動いたカンクロウを救う羽目になるとはなんとも皮肉だった。
吹き荒れる砂嵐は砂を高く積み、埋める。吹き曝しになっているカンクロウの身体に砂が積もれば、ただでさえ見通しが悪い砂漠での発見が遅れる。そうなれば、身体を廻る毒の経過も速い。
以上からカンクロウを砂の追跡部隊に発見されやすいように施した彼は、何事も無かったかのように立ち去った。
再び吹き始めた砂嵐に、はためくフードの白がやけに目立つ。
その裏地の黒に、赤き雲の模様が垣間見えた。
砂隠れの風影が暁という組織の者に連れ去られたという情報は木ノ葉隠れの里にすぐさま通達された。
応援を要請してきた砂隠れに応じ、五代目火影の綱手に命じられて、現在、畑カカシ率いる一部隊が砂隠れの里へ向かっている。
先陣を切って走っていた波風ナルは、前方を歩く背中に、木の枝上で足を止めた。
「テマリ姉ちゃん!!」
中忍試験の打ち合わせを終え、里へ帰る途中だったテマリは、頭上の木から下りてきた集団に驚いた。
波風ナル・畑カカシそれに山中いの・日向ヒナタ。
カカシ以外は女の子で固められた部隊に、テマリの眉間に皺が自然と寄った。
だが、もたらされた衝撃的な情報に、彼女は愕然とする。
「なに!?我愛羅が!?」
風影であり、そして自分の大事な弟である我愛羅を連れ去られたと知って、テマリは唇を噛み締めた。その険しい表情を、ナルもまた、難しい顔で見つめ返す。
女性ばかりのチーム編成だが、急を要する事情故、仕方がなかった。
砂隠れの里からの急を要する知らせが届いた時、火影室にいたのが偶々彼女達だったのだ。
ナルが家を空けていた間、花の世話をしてくれていたヒナタといのにお礼を伝えている最中の、緊急な知らせだったのだ。もちろん、綱手とて何も考えていないわけではない。
何故なら、綱手の弟子は、山中いの、そして日向ヒナタの二人だからだ。
山中一族の能力故に、戦闘面は仲間に頼りがちになりやすく、攻撃術は不得手だという弱点を克服する為、いのは【桜花衝】を始めとした攻撃に特化した術を綱手から主に学んでいる。
一方のヒナタは木ノ葉最強と歌われる日向一族な為、【柔拳】を駆使した接近戦は得意。よって彼女が綱手から主に教わるのは、繊細な医療忍術である。
体内のチャクラの流れである『経絡系』をも見ることが可能で、洞察力・透視に長けた『白眼』ならば、相手を治療するのも他の忍びに比べれば遥かに容易い。
それでも生半可な知識では難しいのは当然。よって二人が努力したのは、手に取るようにわかる。
いのも花屋の娘故に、薬草や毒物に詳しいので、二人揃って綱手の弟子と名乗るに相応しい大きな成長を遂げていた。
「ここから砂まで二日半はかかるからな。急ごう」
カカシの言葉に応じて、テマリを加えた部隊は再び、砂隠れの里を目指した。
ちょうどその折、里からおよそ半日の地点で意識不明のカンクロウが発見され、サソリによってバラバラにされた傀儡と共に回収される。
砂隠れの医療忍者に解毒不可能だと判断されるものの、比較的早く意識が戻ったカンクロウが得た情報を聞いて、バキは顔色を変えた。
手術室を後にしたバキは酷く険しい顔で、足早に廊下を進む。
「あの方達に…あのご姉弟に相談するしかあるまい。だが…素直に出てきてくださるかどうか…」
重厚な扉の向こうで、泉に釣り糸を垂らす隠居した姉弟。
年老いた弟が、訪問者の気配に気づいて、立派な白眉を片方吊り上げる。
「おや、誰か来たようだな」
泉を挟んで、向かいの姉に呼びかけるも、返事は返ってこない。
一向に身動ぎしない姉に「死んだか?」と弟のエビゾウが呼びかける間もなく、釣竿がゆっくりと泉へ。
落ちる寸前、大きくしなった。
「なぁーんてな、死んだふり~!」
やーいひっかかったひっかかった、とばかりに、お茶目という言葉では聊か限度があるボケをかました姉のチヨに、エビゾウは大きく肩を落とした。
毎回、リアルな死んだふりをかますのはやめてほしい。齢が齢だけにこちらの心臓に悪い。
「ご姉弟…お二人にお力をお貸し頂きたく、参りました」
訪問してきたバキに、最初こそ静観の態度を崩さなかった砂隠れの里の相談役のチヨとエビゾウ。
かつて熟練の傀儡師・凄腕の軍師として忍び世界に名を馳せた姉弟は、次のバキの一言で目の色を変えた。
「暁のメンバーの一人に、お孫さんがいらっしゃいます」
実際に対峙し、毒を注入されたカンクロウから得た衝撃的な情報。
彼の実の祖母であるチヨは、明らかとなった孫の所在に、眼に見えてうろたえた。
かつて砂隠れで傀儡部隊の天才造形師と謳われた『赤砂のサソリ』。
彼が里を抜け二十数年、ようやく掴んだ孫の居所が、現在『暁』の一員であるという酷な真実を耳にして、チヨは目元を伏せる。
釣り糸を垂らしていた泉に波紋が幾重にも広がって、そして消えていった。
無事、砂隠れの里に辿り着いた木ノ葉増援部隊。
いきなり『木ノ葉の白い牙』と勘違いして、カカシに襲い掛かったチヨとの騒動があったりしたが、医療忍者であるヒナタが早速カンクロウを診る。
いのは助手として付き添い、阿吽の呼吸で二人は協力してカンクロウから毒を抜いた。
薬草に関してはいののほうがエキスパートなので、ヒナタが体内に未だ残留する毒に対して治療する傍ら、解毒薬を調合する。
皆がカンクロウの治療に専念する中、首筋から秘かに何かがゆるり、と音も無く動いた。
治療に集中するヒナタといのは気づけなかったが、砂隠れの里の医療忍者の一人はソレを目にして眉を顰める。
それは、何らかの蛹であった。
白い壁をパキパキ…と抉じ開け、今まで見た事もないほどの艶やかな色が垣間見える。
深い青紫。ゾッとするほどの美しさ。
開け放たれた窓から飛び立つソレに、思わず眼を擦り、再度、カンクロウの首元を注視する。
首筋についていた蛹のようなモノは白い灰となって、やがてサラサラと砂の如く空気へ消えていった。
幻だったのだろうか。
連日徹夜でカンクロウの治療に手を焼いていた医療忍者は、寝不足による幻覚だったのだ、と己を納得させ、ヒナタといのの手伝いへと走った。
「解毒したか…」
己の許へ舞い戻ってきた蝶に、彼はゆるゆると眼を細めた。
カンクロウの首筋から毒を徐々に吸わせて大きく成長したソレが、ゾッとするほどの美しい輝きを放って周囲を華麗に飛ぶ。
毒が強ければ強いほど、美しく艶やかな翅の蝶へと育つ為、猛毒だったのは間違いない。
蝶の働きがあったとは言え、それを解毒したのだから、五代目火影の弟子は優秀だという事が窺える。
「――これは期待できそうだな…」
この世のモノとは思えないほどの美しき蝶を人差し指に止まらせ、影の功労者である彼は、人知れず優雅に微笑んだ。
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