魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝
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乙女たちの宴 ~開幕~
「今日も1日お疲れ様! 宅飲みやし面倒な挨拶はいらんやろ? 乾杯!」
はやての言葉に合わせて私となのははそれに応じる。
今の言葉から分かるとは思うけど、私達は宅飲みをしている。場所はなのはの家であり、宅飲みをすることになた経緯ははやてがしようと提案したからだ。
ちなみに今日ヴィヴィオはショウの家に泊まるらしい。まあヴィヴィオが居る状態で宅飲みは出来ないというか、したくはないんだけど。酔ってきたら大きな声出しちゃうかもしれないし、酔っ払いに絡まれるのって嫌だろうから。そこまで飲むつもりもないし、そこまで私は酒癖悪くないと思ってるけど……
「あ~……このために生きてるって感じや」
「立場的に仕事が大変なのは分かるけど、それは少し言い過ぎじゃないかな。はやてちゃんまだ若いんだし」
「そうだよはやて。私達なんて管理局全体で見ればまだまだ若手なんだから」
今年でみんな22歳になるわけだし。まあ……9歳の頃から管理局で仕事をしているんだって思うと色々と思うところはあったりするけど。
「さやけど……せっかくお酒を飲めるようになったんやし、気楽にお酒飲める場所なんや。やってみたい気持ちにもなるやろ?」
「仕事の付き合いとかで外で飲む時もあるけど、そういう時はあまりふざけたりできないしね。まあ……はやてちゃんみたいにボケたい気持ちはないから共感はできないけど」
「あんななのはちゃん、人を芸人みたいに言わんでくれへん? 私は身を削って場の空気を和ませる努力をしとるだけや」
「スバル達がこの場に居るなら分かるけど、私達だけで飲んでるのにその努力って必要?」
「フェイトちゃ~ん、なのはちゃんが冷たい!」
「ちょっはやて……!?」
お酒持ったまま急に抱き着いて来ないでよ。私だってお酒持ってるんだし、こぼれたらなのはに怒られるんだから。仕事の時は先のことまで考えて行動するのに何でこういうときはノリで行動しちゃうのかな。
でも……はやての場合、こういうところでしかストレス発散できないのかも。
シグナム達の前では仕事場ほどじゃないだろうけど、弱いところは見せないようにするだろうし。そう考えると私達に甘えてるというか、気を抜いてくれるんだって思えるなら強くは言えないかな……
「――っ。は、はやてどこ触って……!?」
「いや~フェイトちゃん相変わらずええもん持っとるね。大きさといい弾力といいええ感じや。にしても……前より大きくなってへん?」
「べべ別に大きくなったりしてないから!」
下着のサイズとか変わってないし……はやてがこういうことしてくるのは久しぶりだからその頃から考えると大きくはなったかもしれないけど。
「いや……これは大きくなっとる。私の目は誤魔化せても私の手は誤魔化せへん!」
「それどっちもはやての主観だから……もういい加減……っ」
「お、今ええ反応したなぁ。フェイトちゃんって結構感度ええんやね……もしかしてひとりでやっとったりするん?」
「そ、それは……」
正直なところ……私だってもう大人だし、そういうことに興味がないと言ったら嘘になる。それに女性だってそういう欲求はあるわけだし、一定の周期でその欲求は強まったりもするものだろうし……。
何より私には好きな人が……昔からあれこれ考えることはあったけど、今は昔よりも先のことまで想像しちゃってる。デートのこととか初めてのキスとか……結婚とかその初夜とか。
「その反応からして……月に何回というよりは週に何回って感じやな」
「そそそんなにして……な、なのは!」
自分では墓穴を掘るばかりでどうにもならないと思った私は、はやてを止められるであろうなのはに助けを求める。
だけど視線の先に見えたのは、自分の胸に手を当てて何か考えている親友の姿。あまり私の方に興味を持っているようには思えない。
これでは私ははやてから更なる恥辱に遭ってしまう。そう思った矢先――
「な~の~はちゃん」
はやては、私に向けてたものよりもより悪い輝きが増した笑みを浮かべながらなのはに近づいて行った。どうやら彼女の中で私よりもなのはの方が面白いと思われたようだ。
解放されて嬉しいとも思うけど、まだ乾杯したばかりでビールを1本目。お酒が入ってるのは間違いないけど、言動が不安定になるほど誰も酔ってはいない。
にも関わらず……はやてがここまでやってくるなんて。この先また自分が標的にされたとき不安だなぁ……そのときは怒ればいいんだろうけど、多分私じゃ上手く怒れなくていいようにされるだけだろうし。なのは、このあとのためにガツンと言ってくれたりしないかな……
「地味に深刻そうな顔していったいどないしたんや?」
「べ……別にどうもしてないよ」
「なのはちゃん大丈夫や。なのはちゃんのおっぱいも十分に大きいんやから気にせんでええよ」
「どうもしてないって言ったんだけど! ……でも――」
「まあ私達の中では小さいんやけど」
「――ありがと……って、今のやっぱなし! というか、はやてちゃんは私にケンカ売ってるのかな!」
「まさか~、全力全開でトラウマになりそうな砲撃するなのはちゃん相手にケンカ売るはずないやないか」
「どう考えてもケンカ売ってるじゃん!」
なのはも我慢の限界の来たのか、はやてを追いかけ始める。それに対してはやてはお酒を持ったまま笑顔に逃げる。
楽しそうに追いかけっこをしているようにも思えるけど、多分この場で楽しんでるのははやてだけだと思う。あとで振り返れば私やなのはにとっても良い思い出になってるのかもしれないけど。
「はやてちゃん、人の家でドタバタしないで!」
「いやいや、走ってるんはなのはちゃんが追いかけてくるからやん」
「追いかけられるようなことしたのはそっちだよね!」
「私は事実を言っただけや! それに……別になのはちゃんがちっぱいとは言ってない。私やフェイトちゃんの方が大きいって言っただけやん!」
さらりと私の名前を出すのやめてくれるかな!?
別に私はなのはのおっ……胸が小さいとは思ってないし、小さいって言ったこともないわけだから。まあアリサやすずかも含めて私達の中でなのはが1番小さいのは本当のことだけど。
でも本当になのはが小さいわけじゃないし……アリサやすずかが大きいだけで。ふたりとも私より背は小さいのに胸は大きいんだよね。この考えていくと私達の中で最も背の低いはやてが私と同じくらいってことが問題になってるのかもしれないけど。
「あのねはやてちゃん、上げて落とされる方が人は傷つくんだからね!」
「それは否定せんけど、別にそこまで怒ることでもないやろ。なのはちゃんがまな板とか絶壁って呼ばれるほど小さかったら仕方ないけど、十分な大きさは今でもあるやん!」
「十分だけどはやてちゃんの言い回しが気に入らないの。何でそんな風に私の気に障るような言い方ばかりするかな!」
「今も昔も私の言い回しはこんなんやろ。なのはちゃんが打たれ弱くなったというか、単純に短気になっただけやん。子育てで大変かもしれへんけど、私に当たるんはやめて!」
「昔はもう少し優しいというか遠慮があったけど、最近は何でもかんでも言い過ぎだから怒ってるの!」
えっと、えっと……私が止まるべきなんだろうけど、正直私じゃ止められる気がしない。
ここにアリサとかが居ればビシッと「あぁもう、うるさいわね。あんた達いい加減にしなさいよね!」とか言ってくれるんだろうけど……。
って、弱気になってばかりじゃダメだ。止まる気は正直しないけど、しないうちから諦めるわけにもいかないよね。……よし、私がふたりを止めてみせる!
「ふたりとも落ち着い……ちょっとはやて、何で私の後ろの隠れるの!?」
「そこにフェイトちゃんが居ったからや!」
「それ理由になってないよ!?」
「なのはちゃんもフェイトちゃんにはひどいことせんやろうし、壁にしたら行けるかな~って」
理由にはなってるけど私で防ごうとしないでくれるかな!
確かになのはは私にはあまり怒ったりしないけど、それは私が怒らせるようなことをしてないからであって。むしろなのはをよく怒らせてるはやてよりも耐性ないから。
「フェイトちゃん……今すぐそこ退こっか?」
じゃないとはやてちゃん殺せない……。
みたいな目でなのはがこっち見てるんだけど!? なのはってこんなに怖かったかな。こんなに怒る子だったかな。というか、何で私巻き込まれるの? 私は別に悪いことしてないよね!
「落ち着いてなのは、私はすぐに退くから……ね?」
「フェイトちゃん! フェイトちゃんは私のことを……友達を見捨てるっていうんか! 確かになのはちゃんとの方が仲良しやけど。たまに私のこと除け者みたいな空気出すけど!」
「別にそんなことないというか、はやてのことも好きだよ。友達だと思ってるよ! でも今回ばかりは悪いのははやてだよ! なのはの胸が私達の中で1番小さいのは確かだけど」
「……フェイトちゃん?」
あわわ……!?
慌て過ぎて余計なことまで言っちゃった。どうしよう、どうしよう……このままじゃはやてだけじゃなくて私までなのはの標的にされちゃう。
最善の展開としてはどうにか収拾して宅飲みに戻ることだけど、今の私はそこまで望まない。とりあえず私が標的にされない展開になればそれでいい。だってそう考えてしまうくらいなのはが冷たい笑顔浮かべてるから!
「ななななのは、お、落ち着こう? せっかく今日は3人で集まれたわけだし、こんなことしてないで楽しく飲もうよ。む、無理なら……やるのははやてだけにして」
「ちょっフェイトちゃん!? 完全に私のこと見捨てる発言が聞こえたんやけど。私達は友達やなかったんか!」
「元はと言えば、はやてが悪いんでしょ!」
私の胸とか揉んだりもしたし、はやては一度痛い目に遭うべきなんじゃないかな。
「ぐぬぬ……ええもん、ええもん。フェイトちゃんが味方になってくれなくても私にはショウくんが居るんや。ショウくんに助け求め……あの~なのはちゃん、冗談やからそのイイ笑顔やめてくれへん?」
「やめてほしい? ならすべきこと分かってるよね? ね?」
「は、はい……この度はろくに酔ってもないのにふざけすぎました。ごめんなさい」
はやて……確かに悪いことをしたのははやてだけど、いくら何でも土下座までしなくても。
仕事で頭を下げた回数も多くて慣れてるのかもしれないけど……そんな簡単に土下座はするべきじゃないというか、簡単に土下座しすぎじゃないかな。まあそれくらい今のなのはは怖いけど……。
「まったく……次やったら本気で怒るからね」
「いやいや本気で怒ってやろ。あれより上があるん?」
「うん?」
「ごめんなさい。何でもないです。飲み直しましょう」
管理局では私やなのはよりもはやての方が上司なのに……プライベートでのはやてって何だかなぁ。こんな姿をシグナムとかが見たらため息ものだろうに。ヴィータあたりは悪いのははやてだし、なのはに逆らえる奴なんていないとか言いそうだけど。
「なのはさんなのはさん、何かおつまみでも作りましょうか?」
「はやてちゃん、その露骨な態度はかえって不愉快なんだけど。おつまみはほしいけど」
「了解や。じゃあ冷蔵庫にあるもん適当に使うからな」
「……そういう切り替えの早さも割と気に障るんだけど」
あはは……はやてがキッチンの方に行ってから言うあたり、なんだかんだなのはも楽しんで飲みたいんだね。このあとも言い合いはしそうだけど。
「……フェイトちゃん、さっきから飲んでないよね?」
「え、うんまあ……ふたりのやりとり見てたから」
「ダメだよ飲まないと……明日朝早いの?」
「ううん、今日で一段落したから休みだよ」
「じゃあ飲まないとダメ! これから酔うであろうはやてちゃんの相手を素面でするのは大変なだけなんだから」
それはそうだけど……雰囲気からしてなのはも結構飲むつもりだよね。
酔い潰れてそのへんに寝られるのも困るし、ごみだって出るわけだから誰か動ける状態で居た方が良いと思うんだけど。明日の昼間で寝ちゃって帰ってきたヴィヴィオにその惨状を見られるのは私としても嫌だし。だって……
ママ達さ……お酒を飲むなとは言わないけど、もう少し綺麗にしてベッドで寝ようよ。
みたいなこと呆れた顔で言ってきそうだもん。泣き虫だったヴィヴィオも最近ではすっかりしっかり者になってきてるし。
そんなことも思いながら少しテンションの上がったなのはの相手をしていると、はやてがキッチンから戻ってきた。
キュウリの塩揉みといったシンプルなものからレンコンのハムチーズ焼きといった居酒屋にありそうなものまで次々とテーブルに並んでいく。これを3人で全部食べるとなると結構飲まないと厳しそうだ。
「お~さすがはやてちゃん」
「そうやろそうやろ、もっと褒めてくれてもええんやで」
「それはやめとく。調子に乗られても面倒だし、見た感じ冷蔵庫にあったもの結構使ってるよね? 明日買出しに行かないと」
「うーん何やろ……冷たい返しやけど納得せざるを得ないこの感じ」
はやては善意で色々と作ってくれたんだろうし、今の気持ちも分からなくもない。でもここはなのはの家で家主はなのはなわけで……もう考えないようにしよう。私が考えても仕方がないことだし、目線が合ったりして絡まれると面倒だから。今日は楽しく飲むために来てるんだし。
「そんなことよりおつまみも出来たわけだし、仕切り直そうよ。そういうわけではやてちゃん」
「え、また私なん?」
「今日宅飲みやろうって言いだしたのははやてちゃんでしょ」
「それはそうやけど……まあええか。これからが本番やで、乾杯!」
ハイテンションなはやてに釣られる形で私となのはも乾杯と叫ぶ。
やっぱり友達と一緒に何かするのって楽し……
「ちょっなのは、一気に飲んだら身体に悪いから。はやてもそれ対抗して一気に飲もうとしないで!」
「大丈夫だよフェイトちゃん、私達そんなにお酒に弱くないし」
「それにまだ1本目やで。さすがに酔ったりせえへんよ。ウォッカみたいな度数の高いお酒飲んでるわけやないんやし」
「そういう問題じゃなくて……飲むなとは言わないから飲むペースだけは考えて。救急車だけは呼びたくないから」
私達それぞれ立場もあるし、世間的にも名前知られてる方なんだから。管理局の方もようやく落ち着き始めてるのに私達が騒がせるようなことするのは不味いんだから。
それを抜きにしても飲み過ぎで病院に運ばれるとか大人として恥ずかしいし……ヴィヴィオにも連絡が行くだろうからダメな大人と思われちゃう。しかも今日はショウの家に泊まってるわけだから必然的に彼にも知られるわけで……
「フェイトちゃんは真面目さんやな。大丈夫や、さすがにそこまで飲むつもりはないし……ふたりにしたい話もあるしな」
にこやかだったはやての顔が真面目に変わったこともあり、私となのはは手を止めて自然と姿勢を正した。はやてがこういう顔をするときは決まって大事な話をするときだと知っているからだ。
「はやてちゃん、私達にしたい話って……」
「もしかして……部隊を再建するの?」
「いやいやいや、そういう話やないから。確かにそれくらい大事な話はするかもしれんけど、決して仕事とは関係のない話やから真面目な雰囲気出さんといて。かえって話しづらくなってまう」
まあ確かに部隊とかに関わる仕事の話ならお酒を飲みながら話したりはしないよね。
でも……部隊再建に匹敵するほど大事な話? それも仕事が関係ないことで…………まさか……いやまさかね。
「じゃあ気楽に聞くけど、はやてちゃんは私達に何の話したいの?」
「私達の今後についてや」
「今後? ……部隊とか仕事関係なくて?」
首を傾げるなのはを見てはやては盛大にため息を吐く。
「なのはちゃんが鈍感なのは今に始まったことやないけど……その仕事中心の思考はどうかと思うで」
「べ、別に仕事のことばかり考えてないし! ヴィヴィオのこととかも考えてるんだから……その呆れたような目は何かな!」
「いや……仕事の他が娘って年頃の女としてどうなんかなって。なのはちゃん、私達確かに管理局員のキャリアとしては10年超えとるけど……まだ今年で22歳になるうら若き乙女なんやで。成人はしとるけど世間から見ればまだまだ若手や。それが1に仕事、2に娘って……」
「う……どっちも私にとっては大切なことだし」
仕事もやりがいのあるものだし、それが人助けにも繋がる。愛する愛娘は日に日に成長していて楽しい。そんななのはの気持ちは理解できる。
でも……はやての言うように私達ってまだ今年で22歳なんだよね。一般的に考えれば仕事に付き始めて苦労してる時期かもしれないけど、興味のあることとかに打ち込んだり、友達と遊んだりもしているだろうし。何より……好きな人とかとデートしたりしてるよね。
「大切なのは分かっとるよ。けど……他にも大切なことがあるやろ?」
「他……えっと……効率的な飛行や砲撃の撃ち方とか?」
「何でそこでそんなことが出てくるんや! わざとか、わざとやっとるやろ。言っとくけど、今日は誤魔化しとか一切させへんからな!」
「別に誤魔化して……」
「人が話してるんやから黙って聞きや!」
「は、はい!」
はやては近くにあった缶ビールを手に取るとすぐさま開け、なのはへの言いたいことを飲み込むように一気に飲み干す。
「ええか! 今日話すことは他でもないショウくんのことや。なのはちゃんもフェイトちゃんもショウくんのこと大好きやろ!」
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