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真田十勇士

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巻ノ百三 霧を極めその七

「楽しみにさせてもらう」
「それではな」
「はい、それでは」
「では」
 幸村も百地に挨拶をした。
「我等はこれで」
「それでは」
 お互いに挨拶をしてだ、そしてだった。 
 幸村達は百地の前を後にして九度山に戻った。そうしてそこでまた大坂の話を聞いてそれで思った。
「やはりな」
「危ういですか」
「うむ」
 こう幸村に言った。
「日増しにじゃ」
「茶々様のご勘気は強くなり」
「それを誰も止められぬ、しかもじゃ」 
 昌幸はさらに言った。
「近頃大御所殿を呪われておる」
「呪いを」
「うむ、丑の刻参りがあるな」
「あれをですか」
「夜な夜なされておるとかな」
「馬鹿な、呪術の類はです」
 幸村はその話を聞いて眉を驚かせて言った。
「まさに左道」
「左道をすればな」
「はい、それでです」
「相手にかかるよりもな」
「ご自身にかかります」
「そうじゃな」
「人を呪えば穴二つです」 
 幸村はこうも言った。
「まず自分がかかるものです」
「だからな」
「はい、それはしてはなりませぬ」
「しかも丑の刻参りはじゃ」
 それはというのだ。
「誰かに観られてはならん」
「そうした呪術ですな」
「そうじゃ」
 そうしたものだというのだ。
「自分に返って来る」
「では」
「我等がこれを知っておるからじゃ」
「もうこれはですな」
「茶々様ご自身に返って来る」
「そうなりますか」
「まさに人を呪わば穴二つじゃ」
「左様ですな」
「まず自分に返って来る」
 相手にかかる前にというのだ。
「そうなる、しかもな」
「はい、大御所殿はです」
 彼もっと言えば徳川家と対する立場である幸村から見てもだ。家康のその考えはというのだ。
「豊臣家に対して配慮をされています」
「残る様にな」
「その様にされています」
「大坂から出ればよいじゃからな」
「それだけです」
 即ち転封だけを望んでいるというのだ。
「茶々様を江戸に入れられることも」
「大名なら当然じゃしな」
「それにご自身のご正室にどうかとは」
「破格であろう」
「はい、しかし」
「それをですな」
「茶々様は全くわかっておられずな」
 そしてというのだ。
「そうしたことをされる」
「呪術まで」
「そうじゃ、これではじゃ」
 苦い顔でだ、昌幸はこうも言った。
「滅びぬものもな」
「滅びますか」
「人を呪う様では」
「そして左道にかかろうとは」
「そんなことをすればじゃ」
 とてもというのだ。
「滅びてしまうわ」
「それがわからぬとは」
「大坂も先が見えたと思うか」
「はい、しかしですな」
「我等は幕府には入れぬ」
 それは到底というのだ。 
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