東方夢想録
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4.幻想の切り札、その男
「な、何なんだぜ!?」
「何って、異変以外にないでしょ?」
「そういう意味じゃねぇ!」
「迅、出てこないの?」
「検索するにせよ、キーワードが足りないだろうな」
「そう。まあいいわ。いいから入りなさい」
「いや、だから」
「ハ・イ・リ・ナ・サ・イ」
「…………はい」
怖いなぁ。まったく、さっきの戦いの時より怖いよ。いやでも一番怖かったのが今日の出会い頭だな。あれが一番怖かった。
まあ、しょうがない。
では──────────検索を始めよう。
キーをつぶやくと、どことからともなく本棚の大群が押し寄せてきた。俺の回りの真っ白な空間は一面本と本棚に埋め尽くされる。
「今回の異変の主犯者の居場所が知りたいわ。一つ目のキーワードは、紅い霧」
バババババババッ!と本棚が次々と消えていく。
この俺の能力による星の記憶を閲覧するには闇雲に本棚から見ればいいもんじゃない。都合がいいことに、検索エンジンがあることによりキーワードを重ねていくことで情報を絞っていくのだ。この一つで減るには減ったが、まだまだ残っている。
「二つ目のキーワードが、幻想郷」
バババババババッ!とまた減っていく。今度は目に見えるほど減り、残りわずかとなった。
「おっ、一気に減ったな」
「そりゃ、地名だもの。そして最後に────────────吸血鬼」
バババババババッ!残りの本棚に本の大群が消え、一つの本だけが残った。
「種族で絞るとは考えたな。ビンゴだ霊夢」
「でも、何で吸血鬼ってわかったんだぜ?」
「勘よ。それに、この天気なら太陽が当たんないし吸血鬼にとっても都合が良いわ」
「さらに、この幻想郷にはすで一度紫さんに取って代わろうとした吸血鬼がいるんだよね。しかも、その吸血鬼の館には、魔理沙が出入りしていると書いてあるよ。ブラックリスト入りしてるけど」
「ブラックリスト!?意味が分からないんだぜ!」
「行くたびに本を盗んでりゃそりゃそうなるわよ」
俺はバッと魔理沙に顔を向けた。
魔理沙はバッと顔を逸らした。
魔理沙にヘッドロッグをかける。こいつは本人が悪い。しょっぴかれないだけましだ。
「ギブギブギブ!私はただ死ぬまで借りてるだけであって、」
「それを世間一般では盗むって言うの!」ゴキッ!
「よし、じゃあ行いくわよ。こんな異変さっさと終わらせましょ。って魔理沙早くしなさい。おいてくわよ」
「あ、あぁぁぁんまりだぁぁ」ガクッ
そして俺らは博麗神社から飛び出した。
しかし、霊夢は犯人の居場所に心当たりがあるのかね?
「紅魔館。吸血鬼の根城で且つ魔理沙が通っている場所となればそこしかないわ」
「なるほど、やはりめぼしはついてたと。ところで魔理沙」
「いてて、ん?何だぜ?」
「お前最後にその紅魔館に行ったときに何か変わったことはなかったか?」
「いや、三日前に行ったきりだけど、なにもなかったぜ?だからこそ寧ろあいつ等が犯人だとは思えないんだぜ」
そう。幻想郷全体の空を覆い包むような魔法だ。そんな魔法を用意するとなると一週間は掛かりはしなくても、四日か五日はかかる。だからこそ、三日前に行った魔理沙が何もなかったというのだ。白のように思える。だが、本棚が示したのは紅魔館。意味が分からない。
しばらく飛ぶと、黒い球体が飛んでいた。
「………霊夢、何あれ?」
「あれー?霊夢なのだー」
「あら、ルーミアじゃない」
「よっ!ルーミア、久しぶりだぜ」
「魔理沙もいるのだー。ん?そっちの人は誰なのだー?」
「どうも、実力派エリートの迅優作だ」
「そーなのかー?」
「そーなのだー」
「「わはー」」
「何で順応してるのよ」
あれ?何故だ?体が勝手に反応した。これが俗に言う神の見えざる力と言うものか。
「霊夢ー!久々に遊ぶのだー!」
「今から異変解決に行かなきゃならないのだけれど?」
うわ!今遠回しに『どけ。さもないと退治する』つったよ。霊夢、恐ろしい子!
「まあ、霊夢か魔理沙頼んだ。それが一番早い」
「はぁ、しょうがないわね。私が行ってくるわ。だから次は魔理沙が行きなさいよ」
「お、おう。わかったんだぜ」
そして、霊夢はルーミアの弾幕を避け始めた。そしてたまに自分の弾幕を挟む俗に言ういやな攻撃を重ねていった。
「なあ、迅。何でお前がやらないんだぜ?お前だって十分強いし。それにお前のその刀の能力は初見殺しだぜ。あの時、霊夢じゃなく私だったら勝負は最初についてた」
「まあ、魔理沙の意見はごもっともだ。俺の風刃の能力は霊夢から聞いてたよな」
「斬撃を物に伝播させるんだろ?」
「そゆこと。つまり物体がないこの空中戦じゃあ、風刃はただの刀同然。はっきり言って、俺が弾幕戦をやるには仕掛けに時間がかかる。まだ本気を出すには早いしな」
「何でだぜ?」
「わからん。ただ、本気を出さない方がいいって。俺のサイドエフェクト(推理)がそういってる」
「なるほど、だいたいわかったんだぜ」
「米符『おにぎり』!」
「わーい!おにぎりなのだー!」パクッ
そう言って、スペルカード宣言して放たれたおにぎりにルーミアはかぶりついた。
ん?スペルカード宣言?あー、そゆこと。
「フフフ、食べたわね。私がスペルカードとして放ったおにぎりを!」ドンッ!
「ムシャムシャ ムシャムシャ」
ルーミアはひたすらに無言でおにぎりを食べていた。
「さすが霊夢!汚い手口をやったしっぺ返しに決めシーンが全く決まらない!」
「そこに痺れないし憧れもしない」
「……………行きましょうか」
霊夢が少し肩を落としながらルーミアの横を通り過ぎていった。しかし、おにぎりに夢中でルーミアは気づいてなかった。そもそも──一応だけどね──弾幕に当たったんだから関係ないけど。
霊夢の後を追うように魔理沙がルーミアの横を横切り、俺もそれについて行くと、通り過ぎ際にルーミアがおそらく俺にしか聞こえないくらいの声で話しかけてきた。
「ジョジョにはよろしく伝えて欲しいのだー」
っ!ジョジョだって!?彼が来ているのか!
「彼とはどんな関係で?」
「んー。友達なのだー」
あと、寺子屋で先生やってるのだー、とルーミアが付け加える。あの丞一がねぇ。あの不良に先生なんてできるのか?頭はいいけどさ。
「そっか、あいつのことをこれからも頼むよ」
バイバイなのだー、という言葉に振り返らず手をひらひらさせるだけですませた。
このあと、チルノという氷の妖精が、
「あたいってばサイキョーね!」
と言いながら出てきたが魔理沙のマスパをくらって即退場なさっていた。訳を聞いたらこの前いたずらに大切にとっておいたプリンを食べられたらしい。いやー、食べ物の恨みって怖いねー。
「あそこなんだぜ!」
チルノを瞬殺し、俺らは全体紅い館を眼前にとらえていた。
「じゃあ、少しあいつ等がくるまで待ちましょうか」
「よー。霊夢、魔理沙」
俺はその声の人物の方を振り返った。肩甲骨まで伸ばした銀色の髪を後ろで束ねた神職姿の男と、緑色の髪をもう一人の男より伸ばした巫女服をまとった少女だった。
「あら?丞一じゃない。ひさしぶりね」
「ひさしぶり。その節はどうもな」
「魔理沙もひさしぶりだな」
「おう!丞一!ひさしぶりなんだぜ!」
ん、やっと俺に気づいたか。まぁでも、
「で、そちらさんが?」
やっぱりね。きっと苦笑い浮かべてるだろうな。俺。君のやんちゃの後始末はだいたい俺の仕事だったんだけどな。
「あら、これ俺覚えられてない感じ?」
「?俺と会ったことあったか?お前」
「これでも、同じ学校だったんだけどなぁ。まあいいや、まずは自己紹介だな。俺は実力派エリート迅優作。よろしく」
「まったく、だめですよ!ジョジョ、同じ学校の同級生くらい覚えておかないと!」
「お前は俺の母ちゃんか!まあ、いいや」
そして、間を作り。しゃべる仕草は、
「──────────俺は慶条丞一。わけあって今は守矢神社に居候させてもらってる。ジョジョってよばれてる。改めてよろしくな」
それとなく、誰かと似てる気がした。
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