フリージングFINALアンリミテッド
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
異説外伝『知られざる異次元体』
前書き
3年くらい前に投稿していたものを上げます。
(咆哮するだけで光に変える設定は同じだったのかと思うと、ちょっともったいないことをしたかなと)
ではどうぞ。
UNLIMITED・20『知られざる異次元体』
フリージングファイナルアンリミテッド
UNLIMITED・20『知られざる異次元体』
「知られざる異次元体について……説明をしていただきましょうか?アオイ博士」
緊張と追及を持ち合わせた発言で、幹部は一人の人間を見据えていた。
アメリカ内部に存在するアリゾナ州北部の峡谷、通称グランドキャニオン。
天然の彫刻物に囲まれた防衛組織、対異次元知性体軍部組織シュバリエはそこに位置する。
バイオネットの精鋭を退いで数日が経過した今、人類の防衛組織内はかつてない騒動に見舞われていた。
国際犯罪シンジケート、バイオネットの総帥からもたらされた情報は、各国の首脳陣を騒然とさせた。
まさに、プロフェッサーモズマの思惑通りに事は進んでいた。
「異次元体ノヴァ以外にも、別の異次元体がいるというのか?!」
「過去のノヴァクラッシュにもそんな報告は上がってこなかったぞ?!」
「釈明したらどうかね?!」
あたふたする幹部を余所に、アオイ博士は沈黙を保ったままだ。
事実、アオイ博士に追及すべき事項が多々あるのは間違いない。
ハイエンドスキルの概念を越えた新技術、ハイエンドレアスキルとは?
60年前に消えていった、あの黄金の勇者は?
あのアオイ=カズハの正体は?
二人はなぜ戦っていた?
そして……知られざる異次元体とは何か?
Eパンドラ計画発動の前哨として、アオイ博士の舌戦が行われようとしていた。
(ふっ、下手な小細工を幾らか用意しておいて正解だったな)
各国の首脳陣は固唾を飲み、彼の言葉一つ一つを脳裏に記憶していく。
そう……
すべては……
あの異次元体が発端なのだ……
ノヴァが地球に現れて、人類と抗争関係にまで発展したのは……
Ⅰ
時は2061年、世界が停止したあの日。
知られざる異次元体の咆哮によって、全ての生命は停止に追い込まれる。
フリージングした世界はまるで、神様に見捨てられた箱庭のようでもあった。
死者も生者もいない、根本的物理法則が止まっている世界。
たった一人だけ、フリージングから逃れたアオイ=カズハもこの不思議な世界に感情が囚われていた。
「……ここは?カズヤ?キム先輩?エリズ先輩?」
震える声で、一人の少女は声を発した。
返ってくるのは、極小に反射されて自らの声のみ。
決して寒いわけではない。だけど震えるのは何故?
「誰か……誰かいないの?」
怖い気持ちが高まっていく。抑えきれない何かがカズハの心を満たしていく。
恐らく助かった人はいないだろう、カズハには薄々分かっていた。
ハイエンドレアスキル、武装強化のエーテルアサルト。
訪れるであろう「何か」を感じた時、反射的にそのスキルを発動させていた。
ボルトテクスチャーからプラズマテクスチャー、そしてエーテルテクスチャーへ進化した戦闘防護服がなければ、「アレ」は防げなかっただろう。
エーテルテクスチャーが展開できるのは、おそらく私しかいない。それが分かっている分、余計に心を苦しめる。
そして……決着となりし時が訪れる事を示している。それも知っているからなおさらだ。
――アオイ=カズハの、敗北へと続く戦いが始まろうとしていた――
心が、何度折れそうになっただろうか。
約束された敗北を前にして、カズハの喉から嗚咽が込み上げてくる。
私は戦わなきゃいけない。そう決意したはずなのに……深い悲しみが彼女を押し潰す。存在自体を砕いていく。
そして、黒髪の少女は言葉を紡いだ。
「エーテルテクスチャー……展開」
淡い蛍のような光が、カズハの周囲を構成していく。幻想的に展開される戦闘防護服は、地球上の物語でしかありえない光の羽衣のようでもあった。
私がエーテルの概念をもっと早く理解できていれば、みんな助かったかもしれない。あのフリージングからみんなを護れたかもしれない。果てしない後悔と懺悔が押し寄せてくる。
「エーテルウエポン……」
パンドラ専用の得物を精製しようと、カズハの右手は背中の聖痕に届く。従来のボルトウエポンなら、そのような不自然な動作は必要ない。だが、これから挑む戦いには並みのボルトウエポンでは話にならない。前代未聞のボルトウエポン精製を、カズハは挑もうとしていたのだ。
「……ぐっ!」
力ずくで自らの聖痕をむしり取り、掌に収める。気を失うような激痛でも、カズハは平然とたいていた。熟成された聖痕は肉体を構成する一部となる為、そのようなカズハの行為は本来自殺行為に等しい。人体に馴染んだ聖痕を強制除去されれば、激しいメンタルショックを受けるはずだ。それは治療できるかわからないし、どんな後遺症が残るか分からない。下手をすれば命を落とす事さえあるかもしれない。
だが、カズハは違う。
きっと、重度のプレッシャーが、彼女の痛みに対する神経を麻痺させているのかもしれない。
「展開!!」
彼女の手中にある聖痕は、青白い神秘的な光球に包まれていき、複雑な工程を得て一つの得物となる。
工房の役目を果たす光球は役目を終えると、光の粒子となって四散する。
光の中から現れたのは、伝説上の宝具かそれとも、神話に登場する神器と印象づける「カズハ専用のボルトウエポン」だった。
至高、いや、それどころか人間の概念を遥かに超越したボルトウエポン。
聖痕から精製されたそれは、聖剣と呼称するのにふさわしい。
アンチノヴァシリーズの一つ、ノヴァブラッドと呼ぶべきモノではない。ならば……名前をつけてあげよう。
――アオイ=カズハの聖剣――
Ⅱ
再びカズハが目にした世界は、まさに虚無の空間だった。
それ以外に比喩する言葉が見つからない、正真正銘の無の世界。
僅かな星の光が存在する新たな世界に至るまで、カズハは多くの経験をした。
エーテルテクスチャーの恩恵は、彼女に天空を駆けあがる術を与えた。
それだけではない。エーテルという神の力は、宇宙という領域に足を踏み入れる許可を、彼女に与えた。
(……不快感?)
絶対零度に近い空間は、彼女の素肌を直接凍りつかせる。宇宙服で外に出るのとはわけが違うので、圧迫、解放される違和感を瞬間的にカズハは受け止めていた。
宇宙的概念で言えば、空間の99、9%は伝導性プラズマ気体が流動している。他にも重力や暗黒物質のダークマター、並行次元、その他多様のエネルギー体が宇宙を支配していると言ってもいい。
そして、もう一つのエネルギーが発見された。
プラズマより高次元に位置する母体相エネルギー、エーテルである。
人類の科学力では検知不可能のエネルギー技術を、カズハはなんと祖父のアオイ博士を出し抜いて突き止めたのだ。
そして……初めて見る青き星の美しき姿に、カズハは目が釘付けになった。
「……とても綺麗で、でかくて、吸い込まれそうな青」
地球という宝箱の中で、私達は生まれた。
微かに輝く小さな光は、まるで箱の中のジュエルのようにも見えた。
希望がいっぱい詰まった大好きな宝箱。
パンドラの箱も、いつかは希望で溢れかえることを、私は信じてる。
身震いする感動を味わうもつかの間、エーテルテクスチャーで航行移動をしていたカズハは太陽系最大の惑星に差し掛かる。
「……」
冷たい思考のまま、ついにカズハは約束の場所、木星へと到達する。
かつての原種大戦の天王山であり、そして獅子王凱が宇宙飛行士を志すきっかけを作った木星。
そう、全てはここから始まったといってもいい。
未知なるエネルギー、ザ・パワーが内包されている木星は、人類にとっていまだ手に余る。
そんな木星は人類の凶牙となって、今襲いかかろうとしているのだ。
「……来る!ヤツが!」
――ゴゴゴゴゴゴ――
本来空気のない宇宙では、音が聞こえる事はないはずだ。だが、カズハには不気味な波動音が確実に感じられる。
今まさに……木星が揺らいでいる。
地球上生物的表現を言えば、卵から雛鳥が還る瞬間のようだ。
ザ・パワーを纏い、木星の大気層という殻を打ち破り、勇者王に匹敵する巨体は次元世界に降り立った。
地球を守り抜いた勇者王の姿に酷似しているが、印象は180度対照的だ。
禍々しい風容が全てを飲み込み、命ある者を全て光に還す忌むべき異次元体。
「……これが……おじいちゃんの言っていた……知られざる異次元体」
鋭い瞳で、カズハはその異次元体に見据えていた。
「そして……護の言っていた……次元の変革者……覇界王!」
アオイ=カズハ対知られざる異次元体。
ここから始まるカズハの敗北。
訪れるべき運命が、もう目前まで迫っていた。
震える身体を必死に抑え、聖剣をぎゅっと握りしめる。
怖い。
それも果てしなく。
生きて帰れる可能性はゼロかもしれない。
だから……
どうか……
見守ってほしい。
そして、覚えていてほしい。
アオイ=カズハが、地球ココに在いた事だけを。
――グアアアアアアアアアアアアアアア!!!――
無法の異次元体は、全てをフリージングしかねないような、おぞましい咆哮と共に姿を現した!
彼の者は、単なる産声を上げただけで流星を招きよせた!
燃え盛る星々をバックに、その異次元体は一人の少女を捉えていた!
本来の宇宙ではありえない現象が次々と起こる。終末の焔が彼女の頭上で激しく燃焼する光景は、まさに神々の黄昏を彷彿とさせる。
身も凍りつくような虚無の咆哮は、今まさにカズハを飲み込もうとしていた!
「スクランブルアクセル!!」
ハイエンドレアスキル、初歩のアクセル技術である緊急加速のスクランブルアクセル。
並みのパンドラ達では発動困難のスキルは、この時の為に開発された。
全ては、全ての多次元世界の天敵に対抗する為に。
インターバルなどかけている暇はない!
光より速く対応しなければ彼の異次元体に飲み込まれる!
ならばインターバルなど無視して一気に最高加速まで変速してしまえば問題ない!
だが、これ単体のアクセルスキルでは宇宙移動など不可能だ。
「エアーアクセル!!」
アクセルの概念を一段階超えた加速技術、空中加速のエアーアクセル。
決戦の場が虚無の大空なのは分かっていた。従来のアクセルでは全くの無力と把握していたカズハは、大空を、宇宙を、次元を加速する技術を開発した。
スクランブルアクセルと併用すれば、私にも対抗する術はある!
――ウグアアアアアアアアアアアアアアアアア――
荒ぶる異次元体の咆哮は、空間情報ごと光に分解する。いや、適切な表現を用いれば「破壊」もしくは「覇界」というべきだろうか。
隕石を!惑星を!恒星を!別次元の彼方まで光に変えていく!
無限波動に匹敵する異次元体の咆哮は、多角的な圧力をもってカズハに迫る!
(情報破壊?)
次元移動のイリュージョンターンでは捕縛される可能性が高い。未知の幻想加速スキルにとって、物理的攻撃以上に厄介なのが情報破壊である。
ならば純粋な物理回避で徹底的に対抗しよう。そう決め込んだカズハの対応は的確で迅速だった。
(異次元体の次元咆哮にも指向性圧力が働いているはず……ならば!!!)
僅かな隙間さえ分かってしまえば、そこを潜り抜けてしまえばいい。
慣性が極端に働く宇宙で、そんな加速制御ができるのか?
否。
制御しなければならない。
じゃじゃ馬のようなアクセル共を、無理にでも従える!
アクセルが慣性の法則に従っているなら、無視してしまえば問題ない!
「ヴァリアブルアクセル!!!」
キン!
キン!
キィィィン!!
鋭角に、それでいて真逆に、時折急加速を加えてカズハは反射するレーザーの如く加速移動を行っている!
加速制御スキル、ヴァリアブルアクセル。
針の穴を通すような正確さで、カズハは咆哮の隙間を潜り抜けていく!
無数に差し迫まる咆哮も、カズハの超光速アクセルにかすりもしない!
ノヴァにとっても、人類にとっても、別次元の生命体にとっても忌むべき存在。
知られざる異次元体、その名は覇界王。
カインが、アベルが、ソムニウムが、マリアが人類に警告せし存在。
一人の科学者は、無秩序に多元世界を荒らす性質を鑑みて、それを「癌細胞カンケル」と呼んだ。
そして……唯一無二の完全なる存在。
多生命体との共存を望まず、先天的行動で食い散らかす無法者の異次元体。
そんな存在に、カズハは戦わなければならない。
――グオオオオオ!!!――
異次元体の両腕から、宇宙空間ならではの衝撃波、ソニックウエーブが放たれる!
「ソニックウエーブ!?」
数えきれない程の衝撃波を猛乱打し、空間を埋め尽くすほどの牙刃がカズハを襲う!
超新星爆発、スーパーノヴァという言葉があれば、このような光景を言うのかもしれない。
ザ・パワーを、爆炎を纏った衝撃波が立て続けに迫りくる!
(並みのボルトウエポンでは返ってダメージを受けてしまう!)
異次元体の猛攻を相殺しようと、数少ない切り札をさらけ出す。
攻撃強化のアサルト系スキル。
多段攻撃のダブルアサルト。
追加攻撃のプラズマアサルト。
武装強化のエーテルアサルト。
「輝け!!雷刃!!」
カズハもまた、自身の聖剣から光の衝撃波を生み出した!
両腕のボルトウエポンによるダブルソニックウエーブ!
一振りの聖なる浄化の刃と混沌なる爆炎の刃が激突する!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
衝撃波同士が交差する刹那、まさしく超新星爆発が生まれる!
瞬間、二撃目の衝撃波も同様に衝突!
束の間、三撃目がカズハに食らいつく!
異次元体の攻撃動作に追いつくため、カズハも必死に対抗する!
多段攻撃の三撃目は……これしかない!
「砕け!!閃光!!」
衝撃波には震動波で対抗!
両腕に高めた聖痕エネルギーを直接空間に叩きつける!
眩しい光が凝縮された破壊弾、ノヴァクラッシュ!
プラズマアサルトによって発生した電離現象がなければ、そのまま異次元体の攻撃に飲み込まれていただろう。
エーテルアサルトを全開にし、聖剣の質を上昇させる。
開放されたノヴァクラッシュと異次元体の衝撃波はしばしの間、閃光が何度も生まれる膠着状態を演出した!
しかし……
「…かはっ!!!」
三撃目、四撃目を相殺され、五撃目が確実にカズハを捉える!
人間の動作限界を遥かに超えた波状攻撃に競り負け、その身を切り裂かれる!
異次元体が織りなす無限波動は、カズハの超波状攻撃クアトロフルアサルトを軽くあしらってしまった。
流れ弾のように、次々とカズハの後ろを素通りする衝撃波も幾つかあるが、カズハに集中した衝撃波も相当なものだった。
(怯んでは……ダメ!!)
このまま流されてはいけない。何とか異次元体に攻撃しなければ!
方法はただ一つ。
肉弾。
この身を光速の弾丸に変えて突撃。
少ない聖痕エネルギーを解放し、ヤツに強襲を仕掛ける!
全身から閃光が溢れ、カズハの身体は激しく変容する!
対異次元体武装技術、ハイエンドアーツにおける系統の一つ、近接系統のストライクアーツ。
それは……
「ノヴァストライク!!」
可憐な少女は衝撃波の海中掻き分け、無我夢中で突っ込んでいく!
カズハは傷つく身体に振りむくことなく、弾丸のように突貫する!
――ウグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!――
怒りなのか、それともカズハの一撃によるものなのか、いずれにせよ、異次元体が喘いでいるのは間違いないはずだ。
異次元体の中枢を打ち抜き、素通りしたカズハは再び身体を振り返る。
彼女の身体は既に限界を迎えている。
これでヤツが止まらなければ……あるいは。
聖剣を握る握力すら消失しつつある。
視界がわずかに霞む。
聴覚も反応が低下している。
そして……異次元体が再び鳴動する瞬間、それらは全て吹き飛んだ!
――ウグアアアアアア!!――
その咆哮は空間に存在する異物全てを因果地平へと吹き飛ばし、次元にさえも亀裂を入れ込む!
次元空間の切れ目から異次元が拡散し、一人のパンドラと一体の異次元体を取り囲んでいく。
「これは!!」
カズハは驚愕せざるを得なかった。
異次元に入るような違和感と共に、かつてない程の戦慄を感じ取っていた。
辺りを見回すと、カズハの視界には、決して人間が見る事の叶わない光景が広がっていた。
それは……
破壊と混沌の渦。
形容するとなれば、その言葉が最も適切かもしれない。全てが無に帰りし空間に飲み込まれた瞬間、カズハは覚悟を決めざるを得なかった。
(もう……地球には帰れない)
唇を噛み締め、哀しみに心が震えてしまう。
荒れ狂うザ・パワーはまるで混沌のよう。
全ての生命が原初に帰りし場所はあそこかもしれない。
虚無の果てにたどり着いたカズハは、次元の変革者と決着を付けるべく、最後のハイエンドアーツに取り掛かる。
対する異次元体も、「絶対なる根絶」の力を以て、カズハを喰らおうと咆哮する!
――グアアアアアアアアアア!!――
最恐最悪の異次元体を前にして、カズハの表情は先ほどとは打って変わって清々しくなっていた。
このストライクアーツの後で、みんなが生きてる。
私の背中で、みんなが生きてる。
たくさんの人に平和が訪れる。
だから、カズハは切に願う。
――力が欲しい――
――覇界王を倒せなくても、封印できるだけの力を――
――ううん、違う――
――せめて……みんなを護れるだけの力を――
キム先輩。
エリズ先輩。
シスター=マーガレット。
おじいちゃん。
そして……
カズヤ。
どうか、私を見守って。
護。
私に一欠けらの勇気を貸して。
――ウグアアアアアアアアア!!!――
ついに、アオイ=カズハのラストアーツが炸裂!
全てを超越せし究極のストライクアーツの名は……!
「ギガストライク!!」
両者の存在は雌雄を決するべく激突する!
カズハにとって最高の一撃は、確実に異次元体を捉える!
ここから始まるギガストライクの脅威は、覇界王を畏怖の念に貶おとしめる!
異物が!空間が!プラズマが!光が!重力が!異世界が!混沌を構成する情報自体が切り裂かれていく!
無類の威力を誇るギガストライクに対し、カズハは一つの不安を遺していた。
(ダメ、やっぱり私のギガストライクでは覇界王を止められない)
歯を食いしばり、聖痕エネルギーを極限まで絞り、必死に異次元体の猛攻を阻止する!
それは、最後となり得るハイエンドレアスキルが不足しているからだ。
「ゴルディオンアサルトがないと!」
アサルト系の到達点、イレイジング効果のゴルディオンアサルト。
カズハでさえ成し得なかったハイエンドレアスキル、ギガストライクが未完である理由はそこにあった。
本当の煌きを宿さぬギガストライクでは、やはり無法の異次元体を倒すことは不可能だ。
極滅を意味するイレイジングがなければ、ギガストライクの完成はありえない。
絶妙な均衡状態を保ったかに思われたが、彼の異次元体はカズハのギガストライクをモノともせず突っ込んでくる!
絶対にダメージを負わせているはずなのに、どうして特攻して来るのか?
否、本当にキズを負わせているのか、もはやカズハには分からなくなっていた。
「それでも……私は!!」
混沌なる咆哮に消されつつあるカズハの脳裏には、たくさんの想い出が駆け巡る。
穏やかな平和の日々。
たくさんの人達と絆を交わした日。
勇者達の背中を目指して、パンドラになった瞬間。
――絶対に負けない!!――
全ての想いを乗せた聖剣は混沌さえも超越し、知られざる異次元体の喉笛に直撃する!
―グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!―
刺し違える形で両者はそれぞれの結末を迎える事になる。
今この瞬間――
アオイ=カズハの――
パンドラとしての物語は終わりを告げようとしていた。
Ⅳ
「アオイ博士、宜しかったのですか?」
「ボルフォッグ?」
諜報部所属のビークルロボに声を掛けられ、アオイ博士は軽く返事をした。
「知られざる異次元体についてです。ノヴァと抗争状態が続く今では公開するべきではないと判断しま
す」
「構わん。いずれにせよ、人類はあの異次元体と決着を付けなければならない」
知られざる異次元体の情報をシュバリエにあらいざらい提供し、アオイ博士はボルフォッグと共に「とある施設」へ急行している次第。
今のシュバリエ首脳部は一時の混乱に陥った。
それこそ、アオイ=源吾の思惑通りに事は進んでいた。
決して、うかがい知ることのできない人間の言う通りに。
あまりにも人間の概念を越えた事実は、どう受け止めていいのか分からなかった。
知られざる異次元体。
アオイ=カズハの聖剣。
敗北から始まるカズハの物語。
そして紡がれる獅子王凱との熾烈極まる涙の死闘。
「そう遠くない日に、知られざる異次元体の封印が解ける」
「アオイ=カズハの聖剣が効力を失うと?」
「だから私達は急がなければならない。来たる次元空間の革命に抗う為……」
できれば、Eパンドラ計画が実行段階に入る前に取り掛かりたい。
最終勇者王計画、即ちファイナリティプロジェクトを――
ウルテクエンジンを軽快に活動させ、長距離の海を横断し、アオイ博士とボルフォッグはイギリスの重要施設へとたどり着く。
シュバリエ本部の位置するグランドキャニオンからイギリスは、意外に近かったらしい。
それは、ボルフォッグが持つ独自の機動能力があればこその話である。
険しい絶壁の岩肌を風のように乗り越え、時速400キロメートル近くで海の上を走行するボルフォッグの機動性と超AIの持つ判断力に、アオイ博士は驚かざるを得なかった。
ただ速いだけでは意味がない。速度が圧倒的に高いと言う事は、転倒や転落といった速度制御不能から陥る事態に発展するからだ。
これは、ボルフォッグのような精密かつ高い情報処理能力があってこそ行える速度なのである。
下手な専用航空機よりも速い事実は、いろんな意味でシュバリエを出し抜いていた。
「エル=ブリジット領地内からつながる地下通路です。ここなら格納施設へ直通しています」
「なるほど、ボルフォッグがいてくれて助かるよ」
特殊な通信機能を用い、ボルフォッグとの電子認証が取れた鋼鉄の門は警戒に横開きする。
延々と続く地下通路の先には、巨大な人型兵器が佇んでいた。
「大河長官、アオイ博士をお連れしました」
「ご苦労、ボルフォッグ」
金色の長髪がなびく壮年の労いに、紫の諜報部員はアオイ博士を大地に降乗させる。
現在の大河には長官という肩書はない。しかし、普段呼び慣れている言葉の方が、彼らには呼びやすくて、親しみやすい。大河に長官付けする理由はそこにある。
「偉大なる勇者達を待たせて何とも思わないのかね」
そうアオイ博士に口を叩くのは、長髪を除けば大河と同じ金髪の堂々たる体躯が隣に立っていた。変わらないフルセットの髭が特徴であるエル=ブリジット領主本人の……
「ハワード……これでも精一杯急いできたのですから容赦してください」
やや疲れたような顔で、アオイ博士は言った。その仕草はどこかわざとらしくも見えた。
世事話をほどほどにして、三人は本題に移る。
新生する勇者王が抱える問題点について――
「スティグマ・バハムート・システム?」
「そうです。無尽蔵にエネルギー供給する独立機関を搭載すれば、深刻なエネルギー切れを防ぐ事が可能です」
第10次ノヴァクラッシュ時、地球製勇者王はその姿をパンドラ達に披露した。
GSライドが発する強大なパワーは、ノヴァのフリージングすら打ち破る成果を残す。
神に匹敵する異次元知性体を下す勇者王としての力は、それなりの代価を支払う形となる。
効率よくブロウクン効果を伝達させるメルティングエネルギー。
空間湾曲制御を上昇させるフリージングエネルギー。
新機軸のエネルギー開発以外に、多くの新武装も搭載されることになる。
プログラムリングの機能を発展させ、バリエーションを広げた結果が、従来の勇者王にない力を与える事となる。
遠距離砲撃のエクステンションファントム。
殲滅飽和射撃のショットガンファントム。
各種Gツール情報搭載のディヴィジョンツール。
特殊兵装可変ウイングのストラトスフェザー。
これらは全て勇者王の根源を極端に絞ってしまう。現在のGSライドでは供給力が追い付かないのが現状だ。
それを解決する為に提案されたのが、スティグマ・バハムート・システムである。
聖痕に秘められたエーテル反応によって、かの聖痕ジェネレーター「フェイラン」をも凌駕する出力が発生できる事実が判明した。
だが、強力無比の力も、時として深刻な問題をも生み出してしまう。
「だが、それでは凱に聖痕組織が侵食する危険性もあるのでは?」
大河の指摘は最もだ。
臨界点を超えた聖痕は、一切の制御が聞かない暴走装置にもなる。例えエネルギー不足が解決されても、搭乗者の凱自身に危険が及ぶのでは話にならない。
聖痕組織はノヴァ組織と同等のモノ。
凱自身が破壊の鬼ノヴァと化してしまうのでは?
そんな危険な独立機関を搭載するわけにはいかない。
エヴォリュダー能力を以てしても、ノヴァ組織を打ち破る保障は何処にもない。
「私もそう考えました。ですが……」
出来ませんでした、その言葉を言う為に来たのではない。アオイ博士には、大きな確信がある。
以前の獅子王凱ならそれもありえると考えたアオイ博士だったが、ある事件をきっかけに、それも杞憂に終わる。
「エヴォリュダー……いや、アンリミテッドに進化した彼なら、逆に聖痕を支配できるかもしれない」
獅子王凱。運命の悪戯は彼の肉体に対する転機を与えた。
生身の肉体からサイボーグへ、そして生機融合体へ、さらに優性進化遺伝子情報構成体へと進化を遂げる。
数奇な運命をたどった彼ならば、あらゆる存在を超越できるかもしれない。
人類を滅亡に導く異次元知性体さえも、人類が神と呼ぶ存在さえも、乗り越えてくれるかもしれない。
アンリミテッドという単語は、大河も知識程度で聞いたことがある。もし、誕生する可能性があるとすれば、獅子王凱かもしれない。案の定大河の予想は的中する形になるが……
(凱……君こそ隣人と手を取り合う、いや、君にしか手を取り合う事が出来ないかもしれないな)
何だか妙な気持ちになる大河の横顔は、すこし寂しそうにも見えた。
いつか、エヴォリュダーの力とその名の意味を、凱に明かした事がある。
人類の進化の可能性と、異世界と絆を結ぶ未来の称号という意味を称えて、進化のエヴォリューションを模って、エヴォリュダーと呼んだ。
そのエヴォリュダーを超越したアンリミテッドとしての獅子王凱の身体記録は、これまでの生物学、聖痕技術や常識を大きく覆す稀なものとなる。
手渡された一切れの書類だけで、大河とハワードは驚愕の表情を浮かべた。
「スワン君の検査によるものか……これは!?」
「アオイ博士、これは本当かね!?」
ヒトの形を取りながら、凱という身体は、あらゆる国家プロジェクトさえも優々と追い抜いてしまっていた。
これまでの聖痕技術が何だったのかと、思わざるを得ないばかりに。
だが、知られざる異次元体に対抗するには、彼の力が絶対に必要となる。
アオイ博士の脳裏には、次々と名前が過ぎる。
凱だけじゃない。
天海護。
サテライザー=エル=ブリジット
アオイ=カズヤ
ラナ=リンチェン
まだ産声を上げていないが、彼らもまた、優性進化遺伝子情報構成体の持ち主。
すなわち、アンリミテッドであると、アオイ博士は確信している。
そして、最初にアンリミッドとして誕生した凱を、改めてこう呼ぶ。
サイボーグガイからエヴォリュダーガイ、そして……
――アンリミテッドガイと――
ページ上へ戻る