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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  休日の過ごし方

 「ユーゥリちゃーん、あっそびましょー」

 教えてもらったユーリさんのホームの玄関先でアマリは声を張り上げた。 さながら小学生のような呼び出し方だけど、アマリがやると似合っているから面白いくて可愛い。

 SAOの扉は非常に強固なシステムで保護されているので、聞き耳スキルを上げていない限り扉越しの音を拾うことは叶わない。 けれどそこには余程大きな声、あるいは音でなければ、と言う例外はある。 もちろんこの場合、アマリの声は例外に余裕で入る。 字面にすれば可愛らしいお誘いも、野獣の咆哮の如き大音声でなされていたのだ。 正直に言おう。 耳が痛い。

 「うに? 出てこないです?」
 「みたいだね」
 「じゃあ出てくるまで何度でもやるですよー」

 スウっと息を大量に胸に溜め、宣言通りまた近所迷惑になりかねない大音声で咆哮を上げる。 最早何を言っているのか聞き取れないと思う。

 それにしてもなるほど。 アマリの胸も息を溜め込めばそこそこ膨らむらしい。 これはアマリにとって福音となるのだろうか? 現実世界ではできない解決法だけど、呼吸を必要としないここでなら使えるかもしれない。

 現実逃避気味に思考を流して、ため息を吐く。 同じ行動が5回目に達した辺りでようやく観念したのか、非常に嫌そうな表情を顔で作り、更には家の中だと言うのに帯刀までしてユーリさんが扉を開いて現れた。

 「うるせえ」

 どころか声にまで棘を量産して聞いてくる。 どうしてか不機嫌なようだ。 シィさんと喧嘩でもしたのかな? いやはやその憤りをこちらに向けないで欲しい。

 「って……なんでここ知ってんだよ⁉︎」
 「知り合いに聞いただけだよ」
 「知り合い……まさか……おいこらシィ!」

 それだけで誰から聞いたのかを察したのか、ユーリさんは家の中に向かって怒鳴り声を上げる。 この人はいい加減、そう言う楽しいリアクションをするから弄られるということを学習したほうがいいと思う。 まあ、弄ってる側の僕が言ってもあれだけど。
 大声で呼ばれてようやくシィさんが奥からのっそりと現れる。 不機嫌なのか疲れているのか、いつもほどの元気がない。 表情から覇気が完全に抜け落ちているので普段とのギャップでちょっと面白い。

 「なぁにぃ……って、フォラスぅ……早速来たの……? あふ……」
 「うん。 僕もアマリも暇人だからね。 それに……」
 「ふん? ……ああ、あれ?」
 「そうそう、それ」
 「なるほどねぇ……」

 大きく欠伸をして(欠伸を噛み殺すとか、口を隠すとかの気遣いはゼロだ。 乙女としてどうなのだろうか?)、グッと身体を伸ばして頭を振った。 それでようやく眠気を振り切……られることもなく、「まあ適当に寛いでってねー」と残して気怠げに手を振りつつまた奥に戻って行ってしまう。

 が……

 「おい待てやゴルァ!」

 素晴らしい速度で伸びた手がシィさんの首根っこを捕まえた。 一瞬の早業過ぎて僕の動体視力を以ってしても挙動の起こりが見えなかったほどだ。 さすがユーリさん。 突っ込みを入れるタイミングだけは絶対に逃さない。

 「シィお前、こいつらにここの場所教えるとかどう言うつもりだよおい馬鹿シィてめえこの野郎!」
 「野郎じゃないんだけどなぁ……」
 「そう言うことじゃねえよ!」
 「元気だね〜」

 もう一度欠伸を吐き出し、それで寝るのを諦めたのだろう。 ユーリさんの首に抱きついて脱力してしまった。 完全にユーリさんに体重を預けている状態だ。 最早シィさんはユーリさんの付属品と化している。

 「やっほー、お2人さんいらっしゃーい」
 「うん、やっほ」
 「やっほですよー」
 「で……てめえらなんで普通に挨拶してんだよ⁉︎」
 「なんでって、友達だから?」
 「……俺らを友達って思ってたなんて知らなかったぜ」
 「ん? 照れてるのかなぁ?」
 「おやおやぁ、ユーリ照れてるぅ?」
 「あはぁ、照れてるですねー」
 「う る せ え !」

 今日も今日とて楽しげなユーリさんの絶叫が木霊した。





 「そもそもどうやってシィと連絡とったんだよ? あいつ、神出鬼没な上に昨日の今日じゃねえか」
 「ユーリさん知らないの? SAOにはメッセージ機能が実装されてるんだけど」
 「いやそりゃ知って……待て、お前、あいつとフレ登録したのか?」
 「うん。 同じ裁縫スキル持ちとしては興味があるからね。 良質な素材とか実入りのいいクエストの情報とか、そう言うのをやり取りしようと思うとフレンド登録するのが楽だからって、牢屋に入れられてたタイミングで」
 「それで『友達』か。 まるっきり打算だよな、それ」
 「まあ個人的に好ましく思ってるのも否定しないけどね」
 「そうかよ」

 ハッと鼻で笑われてしまう。 どうやら僕に気に入られている自覚はないらしい。 あるいは僕が誰かを気にいるようなことはないと思っているのか。 半分くらい正解だからなんとも言い難いところだけど、そう思われているのは少なからずショックである。

 ショックである。
 なので、ユーリさんイジメを敢行しよう。

 「それに好都合ではあったよ。 そうでもなかったらユーリさんを捕まえるのは難しかっただろうからね」
 「……俺に何か用か?」
 「とぼけてるね。 それともそうやってなかったことにしてれば僕が忘れるとか思ってるのかな?」
 「…………」
 「デュエルの敗者は勝者の命令に絶対服従。 この条件を出した本人がまさか踏み倒そうなんて思ってないよね?」

 クスクスと笑ってみると思いっきり顔をしかめられてしまう。 僕が優しい男の子だったら良心の呵責で苦しむところだけど、生憎とそんなものは持ち合わせていない。 と言うわけで少しずつ追い詰めていくとしよう。

 ちなみに視界の端ではシィさんとアマリの睨み合いが発生していた。 もちろん険悪になるのなら止めに入るつもりではいるけど、どうやらそうはならないらしい。 睨み合う両者の間にあるのはユーリさんお手製のマフィンで、それを取り合うために互いが互いを牽制しているようだ。 平和な睨み合いは見ていて和む。

 「ユーリさんが約束を破るような人なんて知らなかったなー。 あ、唐突に、つまり偶然思い出したんだけど、最前線から突如として姿を消した《舞姫》さんの情報を必死で集めてる人がいるって知ってる?」
 「脅迫か?」
 「いやいや、独り言だよ。 攻略組は慢性的に人手不足だって嘆いてたなーとか、有望なプレイヤーを紹介してって言われてたなーとか、そんなことを思い出してただけ」
 「それを脅迫って言うんですけどねぇ!」
 「しかもその人は行動力が凄まじい上に強気だから、舞姫さんの居所を知ったら面ど……楽しそうなことになるよね」
 「言い直してより酷くなってるじゃねえか!」
 「ああ、そう言えばその人と僕、フレンド登録してるんだっけ。 最前線から退いた舞姫さんの腕が衰えてなくて、しかも今目の前にいるって教えてあげたほうがいいのかな?」
 「…………」

 そこにあるのは警戒だった。 苛立ちじゃない辺り、ユーリさんの優しさが窺える。 そして真っ先に警戒するのはその聡明さの証左だった。
 ユーリさんが警戒しているのは、あのデュエルの最後に使った僕の知らないスキルに関して問われると思っているからだろう。 スキルの情報は生命線であり、その重要度は計り知れない。 ならばこそその警戒は当然だった。 更に言えば僕がその手の情報を見過ごさない人格だと理解していることも示している。

 不確定要素を取り除き、ありとあらゆる可能性を思考し、全ての危険性を網羅し、対抗策を講じる。
 それが僕の方針であると、余さず理解しているのだろう。

 けど、その認識は完全とは言えない。 僕と言う人間を少しも理解できていない。

 「無言は肯定と取るよ」
 「だあもう! いいぜわかったよ! なんでもするからここの場所を誰かに言うのはやめろ!」
 「じゃあユーリさんは今日1日僕の奴隷……じゃなくてオモチャね」

 僕は、悪ふざけをする時は徹底的にふざけるのだ。 今はシリアス休業中である。 思いっきりふざけると決めていた。

 「こう言う場合は1個だけだろうが」
 「『僕の言うことを1日絶対遵守』。 ほら、1個だよね?」
 「くっ……屁理屈って知ってるか?」
 「屁理屈だろうと理屈であることに違いはないよ」
 「それはまるっきり悪役のセリフだ」
 「つまり僕向きのセリフってことだよね」

 実に渋い顔で沈黙したユーリさん。 この状況での沈黙は敗北宣言に等しいと言うことに気づいているのだろうか? どちらにせよ僕の意向は示し終えたし、どんな異論反論をしようと勝者である僕が譲る道理はない。 なのでこのまま大人しくユーリさんには僕のオモチャになってもらう。

 「と言うわけで、まずは着替えよっか?」
 「は?」
 「着替えだよ、着替え。 お出掛けするのに部屋着のままってわけにもいかないでしょ? それがいいなら尊重するけど?」
 「……やな予感しかしないんだが」
 「ユーリさんに拒否権はないからね。 諦めたほうが楽だと思うよ」
 「ああそうか、もう詰んでたのか……」
 「そう言うこと。 物分かりが良い人は好きだよ」
 「お前に好かれてもな」
 「何か言った?」
 「なんでもねえよ」

 はあ、と諦念を滲ませるユーリさんは既に何かを悟ったような表情だ。 無茶振りや理不尽は幼馴染さんの相手で慣れているのだろう。 それにしたっていくらなんでもちょろすぎやしないかな? もしかして、実は振り回されるのが好きなのかもしれない。 まあ、本人は絶対に認めないだろうけど。

 「さっきも言ったけど僕は裁縫スキル持ちでね。 だから試作品も色々作ってて、その感想を聞かせてもらいたいなーって」
 「試作品?」
 「売り物にするつもりはないけど、着心地とか動きやすさとか、数値化されないとこを教えて欲しいんだ。 自分で確かめると贔屓目が入りかねないし、アマリはアマリで言うまでもないし――って、なんでそんなに意外そうな顔なの?」
 「あ、いや、着替えって言われるとどうも警戒するんだ。 あの馬鹿が変な服を押し付けてきやがるから……」
 「ああ、ケモミミ巫女、だっけ? そう言えばそんなこと口走ってたよ。 安心して。 今回着てもらうのは普通に普通の普段着だから」
 「お前がマトモに見える……!」
 「褒め言葉として受け取っておくよ。 で、ユーリさん好きな色とかある?」
 「強いて言うなら紫とか紺とかだな」
 「あー、じゃあもしかしたら気に入ってもらえないかも……」

 言って僕はストレージから用意しておいた品を取り出す。
 それはややゆったりとしたシルエットの七分丈パンツ。 暗めの色合いの青だから紺色と言って言えなくもないけど、これは好み的に合うだろうか? 左太腿と右膝の部分にダメージ加工を施し、その内側から更に濃い色合いの布を縫い付けてある。 リアルで言うところのクラッシュデニムを参考にしてみた作品だ。
 トップはそれに合わせる形でやはりゆったりめのデザインで、白のコートのような形状をした丈の長いカーディガンとグレーのタートルネックニットだ。 肌触りがチクチクしないように作れるようになったのは最近なので、これは割と本気で感想を聞いておきたい。
 そして狼耳を気にしているユーリさんに対する配慮として、大きなキャスケット帽も用意した。 と言うか、このコーディネート自体がユーリさんの耳と尾を隠すためのものだ。
 ゆったりとしたシルエットのパンツなのでその中に尾を隠すように履き、丈の長いカーディガンでどうしても膨らんでしまう部位を隠す。 更にカーディガンの上から細身のベルトを締めることにより、ダボっとしてしまう全体のラインを引き締められる。 キャスケット帽は言うに及ばず。
 惜しむらくはユーリさんの髪の色と合わせるとどうしても白系統の服になってしまうことで、本人の好みの色からは離れてしまっていた。 この辺りはキチンと確認しなかった僕のミスなので文句を言われても素直に聞ける。

 ついでとばかりにアンクル丈のブーツを取り出すととても安堵した表情のユーリさんと目が合った。

 「マトモだ……コスプレじゃない……」

 よくわからない感動の仕方をされたけど、そこはまあ触れないでおこう。 彼の普段の心労を思えばわからなくはない。 強く生きて欲しいものである。
 他人事気味に流しつつ、僕はユーリさんに笑顔を向ける。

 「と言うわけで着替えてきてね」
 「おう。 助かる。 待っててくれ」

 嬉しそうな足取りでリビングから出て行ってしまう。 恐らくは自室に向かったのだろう。 僕の思惑を知らずになんとも単純なことだ。 と言うか、普段が普段すぎて服に関しての警戒心が緩みすぎているのかもしれない。

 「ま、いっか」

 何も言うまい。





 そして数分後。

 「ユーリが普通に女装してる⁉︎」
 「あ、こらシィさん、それは……」
 「おいフォラス! それどう言うことだ!」
 「騙される方が悪い」
 「開き直るなぁ!」
 「あ、もしかして口車に乗せて騙してた最中だった?」
 「って言うか簡単に騙されたよ。 ちょっとちょろすぎないか心配になったくらい」
 「お前ら……」

 自己嫌悪に打ち拉がれるユーリさんと、それを愉しげに眺める僕とシィさん。 そんなこちらを他所にマフィンを無心で頬張っていた。 どうやらあれが随分と気に入ったらしい。 後でレシピを教えてもらおうと、そんなことを思いながらまた笑うのだった。 
 

 
後書き
 ユーゥリちゃーん、あーそびーましょー(ともだちボイス

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 やってきたぞギャグ次元! ユーリちゃんは、可愛い。 
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