ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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憂いの雨と陽への祈り
乱立する旗
フォラスとシィとが楽しい会話を繰り広げていたその時、アマリとユーリは絶賛戦闘中だった。
眼前にいる敵は変わらず蟻型のモンスター。 HPバーを1本しか持たない雑魚に苦戦するわけもなく、戦闘自体はなんの危険もなく過ぎていく。 だが、一向に先へと進めないでいた。
2人を取り囲むように展開された蟻の一群はその数を時の経過とともに増やし続けていた。
蟻。
蟻とは真社会性を有する昆虫だ。 その分類にいる生物の中で最も有名と言って過言ではないだろう。
それはつまり、群れでの行動を基本としていると言うことに他ならない。 正式な分類や細かな役職の説明はこの際省くが、群体として行動する生物であり、細部まで細かく現実の蟻を再現したクラスター・アンツがその特性を有しているのは当然と言えた。
「ったく、キリがないな」
「名は体を表すとはよく言ったものです」
「蟻だから集団行動ってことか? そう言や複数形だもんな、こいつら」
「ですね。 ……ユーリさん、一歩後退してください」
「うげ」
絵面だけ見れば危機的状況だが、2人の顔に焦りはない。 進めはしないが危険もなく、危険はないが倒し切る算段が立てられないと言うのが現状だった。
爆裂によって発生した衝撃波が前衛にいた5体の蟻を喰い千切り、ややすっきりとした視界の先でまた新たな蟻が出現する。 先程から繰り返した光景にうんざりしていたのはユーリだけではない。
SAOは1エリアの時間あたりポップ数が極めて緻密に計算されている。 それはリソースの独占を防ぐ意味合いがあり、ポップ数が多い高効率の狩場などは一定期間経つとすぐに制限がかかってしまう。
今2人と戦闘中の蟻などは攻撃パターンも単調で、その攻撃力自体も決して高くはない。 防御力で見ても大したことはなく、言ってしまえば倒しやすい敵だ。 レベル差の激しい2人は例外にして、中層ゾーンのプレイヤーにしてみれば、かなり高効率のレベリングが可能になるだろう。
通常であれば、だが。
如何にレベルが極端に低かろうと敵を撃破した際に僅かながらでも経験値は手に入る。 アイテムは確率もあるが既に50を越える蟻を撃破しているのだ。 何も手に入っていないと言うことはないだろう。 コルに関しては言わずもがな。
だが、一方がヘイトを集めている隙にウィンドウで確認したところ、何もかもが僅かたりとも変動していなかった。 それが示す答えはただひとつ。 それを2人は同時に悟ってしまう。
「無限ポップだよな」
「無限ポップですね」
その結論に達して、これまた同時にため息を吐いた。
無限ポップとはその字面が全てを表している。 敵が、無限に出てくるのだ。
もっとも、字面通りの無限ではないのだ。 何がしかのギミック、あるいはリーダーユニットの撃破でポップが止まるように設計されている。 しかし、そのギミックがまるで見えてこないのも事実。
一度全ての敵を爆裂を以って殲滅した。 だと言うのにポップは続き、今の状況だ。
「やっぱあれだよな」
「多分あれですよね」
そして再び同時にため息。
2人の視線の先にあるのはボス部屋に開けられた横穴。 部屋に入った当初は気がつかなかったが、戦闘中にそれに気がついた。 そして、そこから蟻がわらわらと出てくる様も、だ。
蟻と言うのは例外もあるが基本的には一個の母体——即ち女王蟻が繁殖能力を持たない雌と、繁殖のための雄を産み落とし、その数を増やす。 あの横穴から蟻が出てくると言うことはあそこが蟻の巣である可能性が高い。 そして、その先に女王蟻がいる公算も高いのだろう。
「どうする?」
「行くしかないでしょうね。 あまり狭いところは気が進まないのですけれど、この場合はそうも言っていられません」
「巻き込まないでくれよ」
「細かい調整はできないと言ったはずですよ。 もちろん大まかな調整は可能なので、極力巻き込まないようにはしますけど」
2人が気乗りしない理由はそこにあった。 爆裂を使わずとも問題にはならないだろうが、最悪の場合の想定はしておかなければならない。
これでアマリの隣にいるのがフォラスなら、爆裂の攻撃範囲を瞬間的に演算し、巻き込まれる前に退避することも可能だ。 何度も共闘し、何度も爆裂を見ればユーリにも可能になるだろう。 だが、ユーリが爆裂の存在を知ったのはついさっき。 さすがに合わせろと言うのは酷すぎる。
とは言えそんなことを言っていられる状況でないのも事実。 このまま無限に戦おうと死の危険はないだろうが、しかし装備品の耐久値は減少していくし体力にも限界はある。 まだまだ逼迫はしていないものの行動を起こすのなら早いに越したことはない。
「んじゃ、さっさと行くか」
「わかりました。 では先に行ってください。 殿は私が務めます。 すぐに追いつきますから気にしないでください」
「死亡フラグ立ててんじゃねえよ」
「私、この戦いが終わったらフォラスと仲直りします」
「フラグを増設すんな!」
「もしも私に何かあったらフォラスにごめんなさいと伝えてください。 それと……今までありがとう、とも」
「乱立させないでくれませんかねぇ!」
「蟻さんこちら、手の鳴る方へ」
「っだぁくそ、絶対追いついてこいよ! 絶対だからな!」
抗議を無視して敵の集団に特攻したアマリを怒鳴りつけ、ユーリはその隙に横穴へと入っていった。
挟撃されることを恐れての処置であり、特に他意はない。 だが、そこまで定型文の返答にアマリは思わず笑ってしまう。
「まったく……それこそ死亡フラグでしょうに」
クスクスと笑いながらユーリを追った個体の眼前に着地する。
アマリ本来の役割はダメージディーラーではあるが、それはアマリのキャラクターが攻撃にのみ特化しているからで、その膨大なHPとそれに付随するバトルヒーリングによる回復力によって一時的なら壁職も可能だ。 もちろん防具の性能やスキルは本職に劣るが、レベル差の大きい現状であれば特に大過はない。
横穴の先に姿を消したことを確認し、アマリはこのボス部屋に入って初めてソードスキルのモーションを取った。 ユーリがここにいない以上、巻き込むことを留意する必要もない。 故に全力が出せる。
フォラスをして一撃の火力はSAO最高と言わしめる、アマリの全力。
「————っ!」
《ジ・デストロイ・アース》
現在公開されている中で最も攻撃力の高い単発ソードスキル。 3秒と言う遠大な溜めを必要とする欠点は実戦向きではないが、ダメージを受けても即座に回復してしまうアマリにとってそれはあってないような欠点だった。
咆哮と同時に振り下ろされた両手斧が地を抉る。 瞬間、周囲の全てが爆裂によって喰い千切られ、床と壁、そして天井に至るまで紫色のパネルを明滅させた。
これが周囲の被害を全く考慮に入れない、爆裂の出力を最大にしたアマリの全力。 フォラスとの連携をする際ですら禁止されている絶対無比の必殺技。
その攻撃範囲は実に半径20mにも及び、叩き出すダメージは下手な単発ソードスキルを軽く凌駕する。 最前線のモンスターであればさすがに一撃とはいかないが、とは言え中層で出てくると敵程度ならば余さずHPを吹き飛ばすことが可能だ。
噴煙が晴れればそこにいた全ては死に絶えていた。
感慨も歓喜もなく、無感動にユーリの後を追うアマリの横顔は、酷くつまらなそうに乾いていた。
ユーリが飛び込みアマリが後を追って突入した横穴は推測違わず巣だったらしい。
人狼スキルによってブーストされているユーリの索敵を以って調べたところ、索敵範囲内のあちこちに大量の交点が表示されたのだ。 その数は少なく見積もっても100はある。 とは言え、さすがにその全てと戦うつもりはない。
蟻の巣はかなり複雑に作られているため、隠れる場所には事欠かないのだ。 索敵の結果に従い無駄な戦闘を避ければ恐らくは最奥部まで戦闘なしでいけるだろう。 と言うのがユーリの予想であり、アマリもこれに同意した。
そもそもどう言う理由で始まったのかは理解していないが、ここは31層と32層の中間部。 出てくる敵のレベルもそれに準じたものであり、クエストもそれに合わせた調整がなされている。 少なくともこの層に到達できるプレイヤーであれば攻略できるレベルに、だ。
であるならば攻略可能レベルは30前半。 安全マージンを取るのなら40と言ったところか。 その倍以上のレベルを有する2人にとって面倒はあっても苦になるはずもなかった。
「多分、この一団がボスだろうな。 ここだけ無駄に密集してるし、こいつだけ微妙にレベルが高い」
「索敵に反応すると言うことはダンジョンボス扱いではなくフィールドボス扱いと言うことでしょうか?」
「かもな。 それかネームドMobかだ。 どっちにしろここ自体はダンジョン扱いだからメッセージは送れないけどな」
「確認したのですか?」
「……一応だ! 他意はねえからな!」
「まだ何も言っていませんよ」
実に苦い顔で沈黙するユーリにクスクスと笑いかけながら、これから取るべき選択肢を列挙していく。
まずは問答無用で最短距離を突っ走って敵を叩く。 道中出てくる敵も全て踏み砕く。 単純な趣味嗜好の話であればフォラスが最も好む手法がこれだ。 必然、戦闘回数が多くなり、危険度も増すため実際には採用しない方法でもある。
次にダンジョン内全てをマッピングするためにボスと思しき一団をひたすら避けながら進む方法。 最前線であれば道中でアイテムを回収できるため、それはよく取られる手法であり、時間はかかるがその分実入りがいい。 とは言えここが中層域(むしろ2人からすれば低層域と言って過言ではない)なので、アイテム関連の実入りは期待できない。
そして趣味嗜好は別にしてフォラスが最も多く採用する手法が戦闘を極力避け、目的だけ果たして離脱する、だ。 十分な索敵スキルが必要になるし、不意打ちで挟撃される可能性も考慮に入れる必要があるが、最も安全で最も効率のいい方法と言える。
「ユーリさん」
「なんだよ? 本当に他意はないぞ!」
「ええ、それはよくわかりました。 シィさんが心配だと言う一点にのみ理由があって、それ以外の他意はないと言うことですね。 とにかくそれはもう置いておくとして、ユーリさんの索敵からここのモンスターが逃れられると言う可能性はどの程度ありますか?」
「……まずないと思うぞ。 ランダムにポップする奴らはその時にならないと引っかからないけど、この手の待ち伏せ系の連中は索敵で表示されるはずだ。 ボスっぽいのが表示されてるのがいい証拠だ」
「自信満々ですね」
「つーかレベルの差を考えりゃ当然だ。 だから敵性Mobの感知範囲をうまいことすり抜けてボスっぽいのを叩くのがベストだろうな。 マップが白紙だから難しいかも……いや、待てよ。 なあアマリ、お前……隠蔽スキルに自信はあるか?」
「カンストしてますよ」
やや気まずげに問うユーリと、間髪入れずに答えるアマリ。
SAOでスキルの詮索をするのは褒められた行為ではなく、むしろそれをしてはならないのが不文律だ。 しかしアマリに気にした様子は見られず、当然のように答えてしまう。
それに難色を示したのはむしろユーリの方だったが、アマリは微笑と共に非難の言葉を封殺した。
「隠蔽スキル程度は今更です」
爆裂と言う最上級——それこそSクラスと言ってもいい情報を開示しているのだから、隠蔽スキルの熟練度など言っても言わなくても同じこと、と言いたいのだろう。
言葉にされなかった言外の指摘にユーリは一瞬だけ沈黙し、そして頷いた。
「安心しろ。 誰にも言わない」
「信頼しています。 ふふ。 信頼……いい言葉ですね」
「……とりあえず隠蔽で進もうぜ。 雑魚相手に戦うのはさすがにうんざりだ」
「はい。 異論はありません」
言って頷いたアマリの微笑は小揺るぎもしていない。
微笑ではなく顔が微笑の形に固定されているだけだと、ユーリもいい加減気が付いているが、何も言わないし気が付いていないふりをしている。 地雷原に特攻したユーリも、さすがに逆鱗に触れる愚行は犯さない。
触れてはならないものと言うのは、確固として存在するのだから。
後書き
死亡フラグ? 知らない子ですね。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
今回の更新は早めになりました。 褒めて褒めてー←おい
冗談はさて置いて、今回はこちらも特に進展のない展開ですね。 一歩だけ進んでいる分、全話に比べればまだマシ、かも?
SAOではどうかわかりませんが、無限ポップと言うのは様々なゲームで見かける仕様ですよね(ですよね?)。 ちなみに私はレベリング大好き人間ですので、そう言う一瞬作業ゲーになりかねないプレイを嬉々としてやります。
アブソーブゲートのゴーレムを倒してブロックにして、それからミュウアタックでアグロ化してまた倒してミュウアタックしての繰り返しで延々レベリングしてたのもいい思い出です。
あるいはフィールドの同じエリアをグルグルしてたらいきなりバルバトスさんに襲い掛かられて全滅したのもいい思い出です。 いい、思い出……ハハッ(目のハイライトオフ
とまあどうでもいいトラウマには蓋をして、次回はフォラスくんとシィちゃんルート……ではなく、アマリちゃんユーリちゃんルートとなる、かも?
ではでは、迷い猫でしたー
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