ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
恐怖のお胸様事件簿
前書き
前回の後書きでも書きましたように、これからギャグ短編をいくつか投下していきます。 重い空気での幕引きとなったコラボ本編の空気感を完全に吹き飛ばす勢いのギャグ短編ですが、生温かい目で見守ってください。
シリアスは疲れた。 私はギャグが書きたいんじゃ←おい
《鍛冶師の願い》
隠しクエストであろうそれの舞台である広大なダンジョンの安全地帯で、僕たちは合流後2度目となる休憩をしていた。
クエストボス戦の前に連携を確認する必要があり、その一環として中ボス戦を何度か繰り返して流石にみんな少し疲れた様子だ。 問題の連携は解決策が見えないままで、そんな調子での戦闘は可視化可能なHPではなく、精神をガリガリと削っていく。 そうでなくともここの中ボスは普通に強いので、その点でも疲労の蓄積が早いのだ。
「結局、最後まで連携は機能しなかったな……」
「……もういっそ、連携しないって言うのはどうかな?」
「戦力を分散させると言うの?」
「それもありかなーって。 できない連携を無理にしても危険になるだけでしょ?」
「一理あるが、それの危険性は勘定に入れてあるんだろうな?」
軽い調子の僕を一瞥して言うリンさんの懸念はもっともだ。
敵がどの程度の強さなのかわからない現状で、戦力の分散はあまりに危険な賭けと言っていい。 それでもメリットがあるのは確かで、それも理解しているからこそ懸念を口にしても否定はしないのだろう。
クエストボスのケクロプス。 ケクロプスに従う四天王。
リンさんから齎された情報を考慮に入れれば、この後に戦うのはこの5人だと思う。 もちろん、リンさんたちすらも知らない新たな敵が追加されている可能性もあるし、たとえそうでなくとも5人が強化されている可能性だってあるのだ。
分散のさせ方を間違えれば相当に危険な目に遭うだろう。
「で、どうするのかな?」
「やっぱり私に押し付けるのね……」
「僕は指揮官って柄じゃないからね。 それに僕はリンさんたちの力量をよく知らないし、リンさんも僕たちの力量は知らない。 どっちともと共闘の経験がある人に任せるのが良いと思うけど?」
むう、と唸りながらも文句を言わずにクーネさんは思考に埋没していく。 微妙に白い目を向けているリンさんをスルーして、僕もまた思考の海に漕ぎ出した。
が……
「うぅー、フォラスぅ……」
珍しすぎる呼びかけに思考が一瞬で停止した。
見れば、アマリはいつもの《アマリ》ではなく、僕の前でさえ滅多に見せようとしない普通に普通の女の子に戻っていて、しかも目には涙すら貯めている。 普段であれば突進(突貫でも正解だ)と形容するべき熱烈なハグも今は大人しく、僕の首に抱きつくだけで済んだ。
何事かと首を捻りながらも、この状態は色々とまずいので手早く事態収拾に動くとしよう。
「どうしたの? そっちでいるなんて珍しいね」
「うぅー……」
僕の首に縋りついたままブンブンと首を振るアマリ。 状況が全くわからない僕にはどうしようもないと周囲に助けを求めようとぐるりと視線を巡らせたところで、ようやく諸々の事情が理解できた。
その年頃の女の子と限定せず、日本人と言う大きな分類の中でさえ明らかに飛び抜けて豊かな胸部を持つヒヨリさん。 ヒヨリさんよりは常識的ではあるものの、それでも胸部の膨らみが大きいレイさん。 サラシを巻いているらしいからそこまで目立たないけど十分の豊満なバストを持つリゼルさん。 以上3名が胸を隠すように手を交差して、羞恥か怒りかで顔を赤くさせていた。
加えて、アマリと同様になだらかな平原をその胸に宿すニオちゃんと、2人に比べればまだ辛うじて膨らみがあるとは言ってもアマリたちの仲間にカテゴライズされるであろうティルネルさんが自身の胸に手を当てたままピクリとも動かないのだ。
おそらくは自身の胸にコンプレックスを持つアマリの八つ当たりが牙を剥いたのだろう。 向いたのはあるいは魔の手、かも知れないけど。
胸が大きい人に対して複雑な感情を抱いているアマリが何をしたのかはおおよそ察しがついたけど、被害者たる彼女たちに僕はなにも言えなかった。 僕がアマリを責められるわけもなく、かと言ってどんなフォローをしようと確実にセクハラ扱いを受けることは間違いない。 胸の話題はデリケートかつ深刻なので、男の身としてはスルーが安全策なのだ。
「フォラス……私は、私はぁ……」
「はいはい、まったくもう……」
けれど、アマリのショックは想像以上に大きかったらしい。 僕の胸に擦り寄ってくるアマリの髪を撫でながら辺りを見回すと、ニヤニヤと笑うクーネさんとばっちり目が合った。 どうやら助け舟を出す気はないらしく、しかもさりげなく僕とリンさんをうまく使ってアマリの視界に入らないようにする徹底ぶりだ。 関わらないのが得策だと言う判断には激しく同意だけど、僕はそう言うわけにはいかない。
……と言うか、僕と2人きりの時でさえ見せてはくれない素の姿を大勢の前で見せている現状はどうにも複雑だ。 薄々自覚はしていたけど、どうも僕は独占欲が強いらしい。 全く以ってやれやれである。
「ねえティルネルさん。 どうにかできる薬とかないの? ほら、エルフの秘薬でさ」
「そんな便利な秘薬があるのなら、私が真っ先に使っています……」
「あ、ごめん……」
なんとかしようと解決策を探そうとしたら、ティルネルさんの傷を抉ってしまったらしい。 沈痛な表情で俯いてしまったティルネルさんには謝罪の言葉をかけておいて次だ。
「リゼルさーー「悪いけど無理さね。 服である程度誤魔化すことはできても、アマリくらいになるともう……」
もはや食い気味の否定である。
まあ、服でどうにかこうにか誤魔化すと言うのは僕も以前試したことがあるからよくわかる。 あれは散々な結果しか生まない。
「レイさんはどう?」
「ええっ、ボク⁉︎」
「防具でならどうにかできないかなーって。 具体的には胸当てとか」
「無理だよ! できるにはできるけど、やっぱり違和感が出ちゃうからダメ!」
「それはプロの美意識的に?」
「当然」
鼻息荒めに否定されたけど、そう言う理由なら仕方がない。 僕も裁縫スキル持ちの端くれとして、その感覚はよくわかるのだ。
服や防具のような外的要因で胸を増量すると、レイさんが言うようにどうしても違和感が出てくるのだ。 それが果たしてここでだけのことなのか、あるいはリアルでもそうなのかは定かではないけど、とにかくその違和感は生産職の僕たちからすれば見過ごせない問題で、だからこそ手詰まりになってしまう。
そもそもこの手の話しは今まで何回もやっていて、その度にその結論に至ってきた。
アマリの胸はもう手の施しようがない。
これがあるいはリアルであればもう少しどうにかできる可能性はあるし、万に一つの可能性ではあるものの成長するかもしれない。 まあ、その可能性を万が一と言うしかない事実が中々にあれだけど……。
「ふふ……」
と、普段であればこれで終わっていたはずのアマリが唐突に笑った。
それはいつもの緩い笑いでも、戦闘中に見せる狂的な笑いでも、極稀に垣間見ることのできる素の酷薄な微笑でもない、満面の笑み。 擬音にするならば『ニパッ』と言ったところか。
少なくとも僕の知るバリエーションにはない笑顔だった。 つまりは完璧に初見。
それは可愛らしい笑顔だ。 今まで見てきたアマリの笑顔はどれも抜群にキュートだったけど、その中でも異彩を放つ可愛さ。 それこそ写真に撮って額縁に入れて飾っておきたいくらいの破壊力。
「…………っ」
だと言うのに、なぜかはわからないけどゾッとした。
言うなれば野性の勘か、あるいは今まで培ってきた殺人者としての直感か、とにかくゾッとした。
「ふふ、うふふ……フォラス。 私、とてもいいアイディアを思いつきました」
「どうしてかな、すっごく嫌な予感しかしないんだけど……」
「うふ、そう言わずに聞いてくださいよ」
うふふ、と怪しく笑ってアマリが立ち上がる。 そのままふらふらと幽鬼のように歩いていくさまは恐怖以外の感情を抱けない。 アマリに甘い自覚のある僕のフィルターをもってしても、だ。
「……レイさん、一緒にアマリを捕まえよう」」
「ちょっ、なんでボク⁉︎」
「こう言う時は誰かを道連れしないと怖い……って言うかお願い僕を1人にしないで!」
「こんなことで頼られても嬉しくないよ!」
「お願いしますレイさん! 後で素材集め付き合うから!」
「そんなに嫌なの⁉︎」
「あのアマリは慣れてないから落ち着かないの。 だからお願い、僕を1人にしないでよ」
「あーもう、わかったよ。 仕方なーー」
レイさんの承諾は最後まで聞けなかった。
聞き慣れた《爆裂》の轟音が辺りに響き、全ての音を塗り潰す。 見れば地面を踏み砕いた体勢のアマリと目が合って、そしてアマリはニッコリととても良い笑顔を見せてくれた。
どうやら僕とレイさんが仲良く話していることに大変ご立腹らしい。 嫉妬深いアマリの単純明快な苛立ちの発露は僕とレイさんを容易く沈黙させる。
「ふふ、もしかして浮気ですか?」
「いやいやまさか僕が浮気するわけないでしょそんな勘繰りはレイさんにも失礼だようんうん」
おっかなすぎて句読点すら挟む余裕がない。 仮想体だからあるはずもないけど、冷や汗がダラダラと流れる気分だ。 冗談を差し挟む余地すらない。
「えっと、それでなにを思いついたのかな?」
「ふふふ、私より大きな人たちがいるから私が小さいと言う扱いを受けるのです。 と言うことはつまり……」
そこで溜めるアマリに嫌な予感がひしひしだけど止める手段は僕たちにはなかった。
「私より大きな胸を全て切り落とせば万事解決です」
「猟奇的すぎるよ‼︎」
「大丈夫です。 ここなら痛みを感じませんし、私のSTRなら一瞬で済みます」
「そう言う問題じゃないからね⁉︎」
「それにどうせ切っても生えてきますから」
「生えるって⁉︎」
「もちろん、生えてきたらまた切り落としますけれど」
「問題だらけだよ‼︎」
「……煩いですね。 あなたから切り落としましょうか?」
「絶対に嫌だからね⁉︎」
「…………」
「無言ででぃーちゃんを構えるなー‼︎」
レイさんの絶叫は安全地帯に響き渡った。
それから繰り広げられた鬼ごっこはそれはもう凄惨だった。 胸を賭けた恐怖の鬼ごっこの結果がどうなったのかをここで明記することはないけど、それでもまあひとつだけ。
唯一狙われなかったニオちゃん……ドンマイ。
後書き
コラボ短編開始回。
と言うわけでどうも迷い猫です。
久しぶりすぎる更新ですが、なんとか生きています。
今回の短編の時間軸は、四天王戦の直前です。 こんな感じでコロコロと時間軸が移ろっていくので、なんとかついてきてください。
ちなみに書いててめっちゃ楽しかったです←おい
ではでは、迷い猫でしたー
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