ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
狂喜乱舞
アマリの《爆裂》に紛れてティルネルさんを最初に狙う。
初手の成否は問わず、アマリが《心渡り》を使って空中に飛び上がり、そこからクーネさんを狙って《でぃーちゃん》を投擲する。
それと同時に僕もクーネさん排除に向かい、確実にクーネさんをリタイアさせる。
アマリには僕の不意打ちとアマリの投擲とで混乱しているであろうニオちゃんとリゼルさんを迅速に排除し、それが完了し次第待機してもらう。
ここまでがアマリに伝えておいた作戦だ。
遠距離攻撃を仕掛けてくるティルネルさんの危険度は言うまでもなく、集団戦に於いて指揮官を潰すこともやはり重要案件であり、リゼルさんの乱戦に於ける厄介さは明瞭すぎるだろう。
蓋を開けてみればティルネルさんが残り、クーネさんが脱落し、ニオちゃんとリゼルさんも予定通りに脱落した。 まさかリンさんがアマリに向かうとは思わなかったけど、それでも問題なく排除せしめたのだから問題はない。
アマリにわざわざ《でぃーちゃん》を投擲するようにお願いしたのは、うっかり誰かを殺してしまわないためだ。 ニオちゃんほどの硬度があればたとえ《でぃーちゃん》の一撃を喰らおうとも死ぬことはないだろうけど、軽装のリゼルさんやヒヨリさん辺りはその限りではない。 今のアマリがうっかり誰かを殺してしまうとは思えないものの、それでも念には念を入れたわけだ。
アマリの待機に関しては、あくまで予備戦力の温存が目的で、そこに深い意味はなかった。 強いて言うなら、僕が楽しみたかったからだけど、それはまあアマリに言わないほうがいいだろう。
「…………」
ティルネルさんを真っ先に狙って失敗するとは正直思っていなかった。
僕の《心渡り》は今まで2人にしか破られたことのない技であり、僕自身の必殺技と言ってもいいものだ。 理論を知っていようが理屈を理解していようが一切合切関係なく、僕は不意打ちを成功させてきた。
なのに、それが破られた。 完璧に、それも初見であるだろうヒヨリさんに、だ。
《心渡り》が破られたのは確かに初めてではない。 アマリには通用しないし、リーナにも通用しなかった。
アマリに《心渡り》が通用しないのは、アマリが僕以外を見ていないからだろう。 逆にリーナはその恐ろしく広い視野と天性の才能によって、戦場全体を俯瞰で見ていたからだ。
視界に僕以外を収めていないアマリに心渡りが通用するわけがないし、どれだけ視線を散らそうとも戦場全体を俯瞰で見ていたリーナにも心渡りが通用しなくて当然だと思う。 アスナさんだったりクーネさんみたいな指揮官としての適性があるプレイヤーであればリーナと同様の手段を以って《心渡り》を破れるのかもしれない。
けど、ヒヨリさんは違う。
アマリのように僕以外を見ていないなんてことはないし、失礼な話しだけど指揮官の才能があるようにも思えない。
つまり、今までの2人とは違う手段で《心渡り》を破った、と言うことだ。 そして、アマリやリーナとの最大にして明確な差異は、ヒヨリさんが僕の味方ではない、と言うことだ。
危険。
あまりに危険。
少なくとも僕やアマリにとって危険。
サラマンダー戦で感じた危機感は最早見過ごせるレベルを超えた。 敵になる前に潰してしまおうと、殺すまでせずとも徹底的に痛めつけてトラウマを刻もうと、僕はそこまで考えた。
考えて、けれどそこで思い至る。
ヒヨリさんはクーネさんの友達だ。
2人の間合いを見る限り、かなり親しいことは間違いない。 そんなヒヨリさんを徹底的に痛めつければ、クーネさんとの間に、延いてはクーネさんたちとの間に溝ができるかもしれない。 僕はそれだけを嫌い、思い留まった。
なのに……
「……まあ、自業自得なんだけどさ」
「戦闘中に考え事なんて、ずいぶん余裕だ、ねっ!」
レイさんの少し苛立った声での刺突を避けつつ僕は苦笑いを浮かべる。
確かに今は戦闘中であり、しかも相手は手練れが3人だ。 あまり意識を外していると負けてしまうだろう。 クーネさんとのあれこれはこれが終わってから考えればいい。
フッと息を吐いて僕は集中を一段階上げる。
「さて……」
トンと軽やかな踏み込みでレイさんとの距離を詰める。 が、そこはさすがのレイさん。 瞬時にバックステップで距離を置きつつ、こちらの足を狙って横薙ぎに槍を振るう。
「うげ……」
僅かに足を止めた僕の隙をまるで見逃さないタイミングで矢(しかも毒付きだろう)が飛んできて、それを避けるとヒヨリさんの高速剣技が牙を剥く。 かと言って防御すればギリギリの間合いからレイさんが槍を突き込んでくるのだから本当に堪らない。
こんな応酬も既に8回目だ。
恐らく、と言うか間違いなくクーネさんからの指示だろう。 作戦会議の時にこの状況まで予想していたのか、その采配は的確すぎる。
現状で残っているメンバーのHPはそこまで削れていない。
僕のHPが9割強。 ヒヨリさんは無傷。 ティルネルさんも無傷。 レイさんだけは7割を切ってはいるけど、僕が一瞬後退したり動きを止めたりしている隙にポーションを飲んでいるようで、今もじわじわと回復している。 この辺りが1対3と言う変則的なデュエルの弊害だろう。
レイさんがリーチの長さにものを言わせた攻撃で僕の体勢を崩し、その隙をティルネルさんとヒヨリさんが確実かつ慎重に突いてくる。 しかも全員の武器に毒が塗られているだろうことは明白で、無理に仕掛けたり回避も防御も間に合わなければかなり悲惨な負け方をしそうだ。
と言うか、レイさんがこちらに向けている槍の刀身部分の色合いから察するに、あそこに塗られているのはクーネさんがサラマンダー戦の折りに僕から掠め取った麻痺毒なのは明白である。 あの時に使われなかった麻痺毒をここで使っていると言うことは、クーネさんは僕がデュエルを吹っかけることを予想していたのだろう。 全く以って腹黒だ。 まあ、各方面からお前が言うなと言われそうだけど。
ありとあらゆる可能性を精査して、ありとあらゆる対策を思考する。
僕が口癖のように言い続けていたスタンスをうまい具合に真似された形だ。
「んー……」
通常の《心渡り》は相手の意識をある程度外さないと使えないので、状況がここまで固定された現状ではそもそも発動さえできない。 それに、もし使えたとしてもヒヨリさんには通用しないので、結局は無意味と言う最悪さだ。
「やっぱり少し本気を出そうかな」
これ見よがしに呟くとレイさんの持つ槍が僅かに揺れる。
瞬間、僕は雪丸を回転させながら放り投げた。
くるくると回る雪丸。 その進路にいるのはレイさん。 特に攻撃の意図のない雪丸はあっさりと弾かれるけど、その一瞬があれば十分だ。
「レイちゃんっ!」
「ーーーーっ」
僕の意図を察したのか、あるいは僕の動きを見切っていたのか、真っ先に声を上げたのはヒヨリさんで、レイさんは数瞬遅れて僕の意図に気がついた。
けれど、もう遅い。
腰の鞘から抜き放った片手剣を左右両の手に装備した僕は、出せ得る限りの最速で槍の間合いを侵す。
初撃は槍の横っ腹を左手に装備したマレスペーロで打ち払う。
続くニ撃目は更に踏み込んで右肘による打撃。 ソードスキルを使っていない上にそこまで力を込めていないので決着には程遠い。
そこでレイさんを助けようとティルネルさんが矢を番え、ヒヨリさんが一歩踏み込んだ。
そう。 こちらの予想通りに、だ。
「なっ……」「え?」「はい?」
三者三様の声は僕の行動が全くの予想外のものだったからだろう。 なにしろ僕は、せっかく装備した双剣を天高く放り投げたのだから。
けれど、さすがは攻略組に於いてもトップクラスのプレイヤーたちだ。
丸腰になった僕の行動の意図を探るように警戒はしながらも、かと言って隙だらけになった僕に一斉に攻撃を仕掛ける。 まあ、それもまた予想通りだけど……
まず発動したのはティルネルさんのソードスキルだ。
いかに僕があらゆるソードスキルのモーションを記憶していようとも、そもそも公開されていないソードスキルを前にしては無力であり、アドバンテージは存在しないと、そう考えたのだろう。
けれど、それは僕を相手にするにしてはずいぶんと甘い。
僅かに瞬いたソードスキルのライトエフェクトの軌跡は僕のすぐ横を通過して消える。 確かに弓矢によるソードスキルを僕は殆ど知らないけど、それでも全くの初見ではないのだ。
フロアボス戦、あるいはここまでに起きた戦いの中、僕は少なくない回数、そのソードスキルを見た。 重単発ソードスキルに該当するだろうその一撃のモーション、軌道、速度、威力、それらはもう解析済みである。 加えて仲間に当たらないように配慮されているからこそ、どこを狙うかも大体予想がついていた。
だから避けられる。 だから避けられた。
レイさんとヒヨリさんとに当たらないよう放たれた一撃を回避した僕は、そのままティルネルさんに向かって一歩踏み込む。 レイさんとヒヨリさんを今は無視。 まずはティルネルさんを潰す。
ひたすら鍛え上げてきた敏捷値を使っての疾走。 スキルの補正も手伝って、ティルネルさんとの間合いはぐんぐんと縮まっていく。 が、単純なスピードではヒヨリさんに分があるらしい。 軽やかな足音を響かせて僕とティルネルさんとの間にヒヨリさんが割り込んできた。 それと同時にティルネルさんの硬直が解け、再び矢を番えると、今度は上空に向けて矢を放つ。
恐らくはこのままこの軌道を描いて僕を穿つことになるだろうそのソードスキルを見て、僕は思わず笑ってしまう。
「あはっ」
一歩踏み込んでヒヨリさんとの間合いを潰す。
今まで僕の体勢が崩れているタイミングでしか接敵できなかったヒヨリさんと、これでようやく対峙できたのだ。 このチャンスは逃さない。
「これでーー」
呟きつつ、ヒヨリさんに向かって手を伸ばす。
そこで反応できたのは僕の狙いに気がついたからではなく、ただ勘が働いたからだろう。
「ーーチェック」
咄嗟のバックステップで逃げようとするヒヨリさんの防具に指がかかる。
……色々と誤解されると困るので先に言っておくけど、決してそこを狙ったわけではない。 狙ったわけではなく、胸部を防護する軽金属鎧の縁に指がかかった瞬間、なんとも形容しがたい柔らかな物体に触れてしまったけど、本当に故意ではないのだ。 いやもう、本当に。
思春期全開のパニックに見舞われている一部の思考とは裏腹に、身体は一切の無駄なく動く。
かかった指に無理矢理力を込め、思いっきり引き寄せると同時に身体を捻って僕とヒヨリさんとの立ち位置を反転させてから手を離す。 視界の端で驚愕に目を見開いたレイさんがヒヨリさんが衝突するのを確認しながら、ティルネルさんを攻撃の対象に設定した。
「くっ!」
短く息を吐いて腰の片手剣を抜こうとするティルネルさんだけど、残念ながら僕の方が速い。
抜かれる直前の片手剣の柄頭を右手で押さえ込んで抜くことを妨害し、同時に左手にライトエフェクトを灯した。
体術スキルに於ける基本中の基本技《閃打》は狙い違わずティルネルさんの腹部にめり込み、更に左手のガントレットに付加されたノックバック増大の効果に後押しされて、その身体を丸ごと吹き飛ばす。
その頃には接触して動きを止めていた2人も復活していたけど、狙い通りのタイミングで降り注いだティルネルさんの矢が障害になって間合いを詰めることができない。
そんな2人に僕は再びニコリと笑った。
「さてーー」
ゆらりと揺れる僕に意識を集中する2人。
まだ状況は1対2であり、数的な有利は向こうにある。
もっとも、それでもこれで僕の勝ちだ。
「ーー終わりだよ」
瞬間、僕が放り投げておいた双剣がヒヨリさんとレイさんの身体に突き刺さり、同時にテイムモンスター扱いのティルネルさんを除く全員の眼前と宙空にウインドウが出現して盛大なファンファーレが鳴り響いた。
クーネさんたち6人には敗北を報せるウインドウ。 僕たち2人には勝利を報せるウインドウ。 宙空に瞬くのは試合結果と所要時間を報せるウインドウ。
「ふふ、僕たちの勝ちだね」
こうして、2対7と言う超変則デュエルは、僕とアマリの勝利で幕を閉じたのだった。
後書き
ラスボス戦終了回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
長かったバトルパートもようやく終わり、これでこのコラボの終わりも見えてきました。 まあ、まだまだ終わりませんがねw
さてさて、今回は前回のように簡単にいかない戦闘が主軸です。 と言うか、そもそも戦闘描写が苦手なくせに、なにを血迷って集団戦なんてしたのでしょうかね、私は。
おかげでレイさんはイマイチ活躍できないまま終わってしまうし、ティルネルさんはグーで思いっきり殴り飛ばされてしまうし、ヒヨリさんはセクハラされてしまうし、クーネさんは腹黒認定されてしまうと言う事態です。 いやはや、sonasさんに怒られないかが本当に心配ですね。
次回は今回のクエストの報告に行きます。 そこでもまた一悶着があるかもしれません。
ではでは、迷い猫でしたー
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