ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
ラスボス現る
ケクロプスに復讐の是非を問う。 あるいは自我を喪失してまで復讐することの是非を問う。
それがケクロプス戦を最短ルートで攻略するためのフラグだったんだろう、と言うのが隠しクエスト専門家のリンさんが出した結論だった。
無味乾燥としたロジカルな話しのようでいて、その実、人間臭い解釈だと言うことに果たしてリンさんは気がついているのだろうか?
もしかしたらリンさんも思ったのかもしれない。 ケクロプスは誰かに止められることを望んでいたのだ、と。
復讐が無意味なものだと、自我を喪失してまで復讐する意味なんてないのだと、ケクロプスは誰かに言われたかったのだろう。 始めてしまった復讐を止めることができなかったのだ、きっと。
そんなケクロプスの復讐を止めてあげることができたのだから、少しだけ僕の心は穏やかだった。 もっとも、あの世に行けば因縁の相手であり友人でもある龍皇との大喧嘩が待っているのだろうから、彼の眠りは穏やかなものにはならないだろう。 それでも虚しい復讐心で魔剣如きに自我を蝕まれるよりは幾分ましなはずだし、何より友人との大喧嘩と言うイベントがあるのだ。 穏やかでなくとも楽しい日々が過ごせるだろう、きっと。
「…………」
感傷に浸るのも感慨に耽るのもここまでだ。
ケクロプス戦も終わり、これでようやく《鍛冶師の願い》も山場を越えたと言えるだろう。 クエストの目的である魔剣も、宝物庫から盗み出された品々も、龍皇と皇妃との思い出の品と思しきアイテムもそれぞれ回収できた。 これらを持ってヴェルンドさんのところに行けばクエストクリアになるはずだ。
「まずは、みんなにありがとうって言わせて。 みんなのお陰でここまでこれたし、ずいぶん楽もできたしね。 さっきは見苦しいところを見せちゃったけど、まあ、概ね楽しかったよ。 本当にありがとう」
「うわっ、フォラスが素直だ……明日は槍でも降るのかな?」
「じゃあ、その槍を拾ってインゴットに戻せばウハウハだね」
茶々を入れてくるレイさんに適当に返して、僕はその場に集まったみんなの顔を順繰り見やる。
クーネさんは相変わらず聖母のように穏やかな微笑を浮かべ、リゼルさんは勝気な笑みで僕の視線を受け止める。
レイさんはげんなりしながらも笑っているし、ニオちゃんは僕のお礼が意外だったのか少しだけ驚いたような顔だ。
リンさんは視線を合わせようとしないけどどこか嬉しそうで、ヒヨリさんは元気一杯に笑って手を振っている。 そんなヒヨリさんをティルネルさんが微笑みながら見守っていた。
一癖も二癖もあるこの面々で遊べたことは、僕にとってもそうはない楽しい思い出になった。
だからまあ、ここは僕らしく、最後の締め括りといこう。
「さて、じゃあ戦おっか?」
ニコリと笑って言い放った僕の言葉に、その場の全員が凍りついたように固まってしまう。 はて、何かおかしなことを言っただろうか?
相変わらずいつも通りなのはアマリだけで、既に《でぃーちゃん》を構えて準備万端だ。
「えっと、一応確認するけれど、誰と誰が戦うって言うのかしら?」
「そんなの決まってるよ。 僕たちとクーネさんたちが、だよ」
「……戦う理由がないわ」
「んー、じゃあ戦う理由を作ろっか?」
クスクスと笑いながら、まずは最も与し易いリゼルさんに近づく。
あからさまに警戒しているけど、それでも退かないところはさすがと言えるだろう。
「な、なにさ。 アタイは絶対にやんないよ!」
「僕を1日だけ着せ替え人形にしていいーー「よしやるぞ‼︎」
食い気味の了承である。
コスプレさせることに並々ならぬ執念を燃やすリゼルさんらしい即答だ。 さすがはリゼルさん。
「ちょ、リゼちゃん! もう完全にフォラスの思う壺だよ!」
「うるせえ! フォラスがやりたいって言うなら付き合ってやるのが友達だろうが!」
「かっこいいこと言ってるけど、自分の欲望に忠実すぎるよ!」
「猫耳メイド、ミニスカ巫女、体操服、セーラー服、裸エプロン……グヘヘ」
「思考がダダ漏れだよ!」
「ええい、うるせえぞ、レイ! もちろん、あんたも参加だよなぁ! ああん!」
「ボクは絶対にやらないからね!」
リゼルさんを止めようと頑張るレイさんの横でポソリ。
「超激レアの強化素材詰め合わせ」
「ボクもやるよ!」
「レ、レイさんまでフォラスさんに踊らされていますよ!」
次いで止めに入ったニオちゃんにもポソリ。
「勝てたら《ニオちゃん》から《ニオ姉》に」
「さあ、やるからには勝ちましょう!」
「ニオまで⁉︎ 悪いけどフォラス君。 私たちに明確なメリットがーー「あれ、クーネさん最近太った?」ーーええ、いいわよ。 そこまで言うならやってあげましょう」
さあ、これで戦乙女組は陥落だ。 全く以ってちょろい限りである。
次はリンさんたちだけど、この人たちはどこをどう攻めれば落ちるだろうか? クーネさんたちとは付き合いが長いからわかるけど、今日初めて話した面々の弱点は未知数だ。
さて、どうしたものか……
「私は戦ってもいいよ」
「はい、私もです」
「え?」
僕がなにを言うでもなく、ヒヨリさんとティルネルさんが参戦を表明してくれた。
それは確かに嬉しい誤算ではあるけど、どう言うつもりなのか全くわからない。 2人の雰囲気から、まさか戦闘狂なんてことはないだろうに。
と、解答は意外にすんなりと教えてくれる。
「だって、お友達と遊ぶのって楽しそうだもん」
「ええ。 それに、フォラスさんには恩がありますから」
「あー……」
お友達。 恩。
僕とヒヨリさんたちは友達じゃないし、レベル9の麻痺毒用ポーションのことを恩だと言っているのならあの時も否定したけどそれは違う。 盛大な勘違いに吹き出してしまいそうになるけど、それでも参戦は参戦だ。 気が変わらないよう特になにも突っ込まない。
さて、最後の1人であるリンさんに視線を向ける。
一瞬だけ嫌そうに顔をしかめ、けれどすぐに諦めたのかため息を吐いた。
「わかった。 俺もやろう」
相棒に対してやや過保護なところのあるリンさんだからこそ、ヒヨリさんの参戦が決まった時点で退路はなかったのだろう。 まさか僕のような得体の知れない奴を相手にヒヨリさんを放置するなんて選択肢は存在しないのだ。 少なくともリンさんの中では。
それでも納得できないのか、ヒヨリさんの頭を軽くペシリと叩くけど、それだって結局は甘やかしの部類だ。
「それで、組み分けはどうするつもりだ?」
「組み分け?」
「俺たちは9人だ。 半々にしても1人あぶれる。 まさかバトルロワイアルをしようって言うんじゃないだろうな?」
「バトルロワイアル? あはは、まさかだよ」
それも楽しそうではあるけど、僕は首を振って否定する。
「僕とアマリ対みんなに決まってるでしょ?」
「ひとつ言っておくけど、この勝負、勝ち目はかなり薄いわ」
フォラスが設けた作戦会議のための時間。 味方チームが全員集まったのを見て、クーネはそう切り出した。
《片翼の戦乙女》の面々はそれに同意するように頷き、リンとヒヨリとティルネルは驚いたように目を丸くする。 この差はフォラスとの交戦経験があるか否かだろう。
「私たちはフォラス君たちと何度も模擬戦をしているけど、2対4で戦って勝率は2割もないの」
「2割……それは冗談ではなくか?」
「ええ、至ってマジよ」
淡々と告げられた衝撃の数字にリンは言葉を失った。
クーネたちは強い。 個々の技量もさることながら、4人での連携は既に完成されていると言うのがリンの印象だ。
全ての攻撃を受け止めるニオ。 長柄武器の長所を活かして堅実に仲間のサポートをするレイ。 高速隠密機動で敵を撹乱するリゼル。 そして、そんなアクの強い戦闘スタイルを持つ仲間たちを十全に活かす指揮官であり、自身も最高峰剣士のクーネ。
そんな4人を相手に、たった2人で8割以上もの勝率を叩き出すフォラスとアマリにリンは戦慄する。
が、そこで思い至った。
アマリだ。
アマリの《爆裂》と言うSAOに於いて埒外なスキルがあれば、そんな戦力差など容易に吹き飛ばせるのかもしれない、と。
しかし、それが誤りであることを早々にクーネが指摘してしまう。
「アマリちゃんは正直問題にならないわ。 あの筋力値は確かに警戒するべきだけど、良くも悪くもパワー主義だもの。 付け入る隙はいくらでもある。 もっとも、《爆裂》なんて隠し玉があるなんて知らなかったけど」
「待て。 あいつは今まで《爆裂》を使ってなかったのか?」
「そうよ」
あっさりと頷かれたリンは、爆裂を始めて見た時のことを思い出す。 あの時、リゼルはリンにはこう問うたのだ。
『アレは一体なんだい?』と。
あの問いはだから、アマリを指して言ったものではなかったのだ。 そもそも旧知である以上、そんなことはリンに聞く必要はなく、つまりあの問いは爆裂についての問いだったのだろう。
「アマリちゃん単体であれば、1対1での勝率は……そうね、7割くらいかしら。 それがフォラス君の場合、1対1どころか1対3でようやく互角よ」
「……あいつはそんなに強いのか?」
「別次元ね。 いえ、レベル自体は大差ないはずよ。 対モンスターに限って言えばプレイヤースキルもそこまで飛び抜けてはいない。 問題は……」
「対人戦闘の熟練度、か……」
「ええ」
そう。
フォラスの最も異質なところはそこにある。
デスゲームであるSAOに於いて、非常に稀有な対人戦闘に精通したプレイヤー。 半年以上にも及ぶ長期間、復讐のためだけに生きた悪鬼。 そこで磨かれた技は、戦力差など容易に覆すほどに極まっている。
「フォラス君にソードスキルは一切通用しないわ。 モーションの段階で潰されてソードスキルをそもそも発動できないもの」
「だが、それくらいならレイにだって……」
「うん、剣技阻害。 長物武器の使い手なら誰でもできるし、もちろんボクだってできるよ。 でも、フォラスはそれだけじゃないから」
「どう言うことだ?」
「フォラス君は公開されている全ての武器のソードスキルを記憶しているの。 モーションから軌道を完璧に計算できるそうよ。 だから、普通にやればソードスキルは一切通用しない」
2度目になる断言は、確かな重さを伴ってリンを襲う。
リンも対人戦闘の経験はある。
そうでなくともソードスキルを当たり前に使うモンスターがいる以上、様々な武器のソードスキルを記憶している。 それでもモーションを見ただけで軌道を完璧に計算できるかと問われれば否だ。
SAOは数多の武器種とそれに対応しただけ恐ろしい数のソードスキルがあり、それらを全て記憶するなんてことはリンにはできない。 いや、他の誰だってできないだろう。
「さすがは《ドクター》、と言うべきか……」
「それ、本人が嫌がるから言わないであげてね」
思わず呟いた感嘆にクーネからやんわりと釘を刺され、リンは素直に頷いた。
「……それにしても、だ。 ソードスキルが一切通用しないとしても、そしてあいつにはあの毒があるとしても、だからと言ってそこまで滅茶苦茶な数字にはならないんじゃないか?」
「そうね。 1番の問題は、だから《心渡り》になるのかしら」
「《心渡り》?」
「ええ、《心渡り》。 本人の言を借りるなら、いわゆるミスディレクションよ。 相手の隙……フォラス君はこれを《意識の空白》って言っていたけど、相手の隙を突いて視覚からも聴覚からも意識からさえも完全に消える技。 発動されれば捉えることはできないわ。 気がつけば目の前に、あるいは背後に現れて、それでお終い。 言ってしまえば不意打ちの技と」
「それは……」
「そうだよ。 あの時アマリが使ったあれさね」
リンは心渡りを見ている。 見えてはいなかったが、それでもそれを知っていた。
「いや、まさかアマリまであれを使えるとは思わなかったから驚いたよ。 夫婦だからってそこまで似るもんかね」
「ちょっと待って、リゼル。 アマリちゃんが心渡りを使ったの?」
「ああ。 と言っても渡った距離はフォラスの足元にも及ばなかったし、精度も本家には劣ってたさ。 アタイでなんとか見えてたから、警戒してれば問題ないはずさね」
ゾッと、リンは今日何度目になるかもわからない寒気を覚える。
クーネとリゼルとの会話を聞けば、フォラスの心渡りはアマリが使用したそれよりも遥かに高性能な代物なのだろう。 間近で体験し、殺されかけたリンからすれば、それは絶望を誘うに十分すぎる情報だった。
「……勝てるのか?」
「まあ、負けても命を取られるわけじゃないもの。 そこまで恐れることはないわ。 ただ、このまま負けるのも癪なのよね……」
まずは勝って、それから訂正させないと、と小声で漏らしたクーネの言は理解できなかったが、それでも既に参戦を決めた身だ。 ここで逃げるわけにもいかないだろう。 ましてこれまでの会話で一向に発言しようとしないヒヨリとティルネルをあんな危険人物と戦わせておいて自分は高みの見物など、そんな真似はリンにできるはずもない。
「ええ、だから、勝てるための方策を練りましょう」
指揮官の言葉にリンは無言で頷いた。
後書き
ケクロプス戦終了&最終ボス戦準備回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
前回のとっ散らかった話しを回収しつつ、今回のコラボでの最終戦闘が決定いたしました。
殺人狂である前に戦闘狂な2人の魔の手は《幻影組》を捕らえて離しません。 今回のコラボを了承して頂く以前から決めていた戦闘です。 予定調和です。
まずは付き合いが長い《クーネさんと愉快な仲間たち》をそれぞれのクリティカルポイントを突くことで参戦させると言う悪事。 次いで《チーム・リンさん》に毒牙を伸ばそうとするとヒヨリさんとティルネルさんに先手を打たれて困惑すると言う失態。 彼が主人公で本当に良いんですかね?
次話は遂に《チーム・リンさん》と《クーネさんと愉快な仲間たち》によるラスボス戦です。 さてはて何話になることやら……
ではでは、迷い猫でしたー
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