ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
焔を纏う精霊
クーネさんは本当に真面目だ。 真面目であることは美点だけど、真面目すぎることは欠点でもあり、そしてそれだって理解しているだろうにどうしようもないくらい真面目だ。
きっと僕たちに無茶を押し付けているから早く終わらせて援護にいかなくちゃとか、そんなことを考えていたのだろう。 実にクーネさんらしいところではあるけど、だからと言って目の前の敵に集中できないなんてらしくない。 大方、パーティーの強制分断中に仲間がピンチに陥っていたことがダメな方向に働いたのだろう。
「リン君とニオはそのままサラマンダーのタゲ取りをお願い! リゼルとレイはこっちに来て! ヒヨリちゃんは隙を見つけたら確実にソードスキルを! ただし無茶はしないこと! ティルネルさんは毒薬の準備をお願いします! アマリちゃんは……そのままでいいわ!」
「あれ、クーネさん、諦めた?」
「アマリちゃんを制御できるのはフォラス君だけでしょう?」
「まあね。 で、僕はどうすればいいの?」
憑き物が落ちたように活き活きとし始めたクーネさんに苦笑を返しながら僕は問う。
それに対する解答は手短で単純だった。
「お手製の毒薬をリゼルとレイにも渡してもらえるかしら? なるべく強いやつを」
「……高いよ」
「あら、フォラス君は仲間からお金を取るのかしら?」
「友情だけだとお金にならないからね」
「なら情報はお金になるわよね?」
「……嫌な予感しかしないんだけど」
「着替えを覗いたことをアマリちゃんに教えてあげようかしら?」
「ちょっ! その、ほら、あれは事故だってクーネさんも……て言うかそれは世間一般では脅迫って言うんですけど⁉︎」
「乙女の下着姿を既婚者が覗き見なんていいのかしら?」
「だから事故だって! いや、確かにあれは僕も悪かったけど、そんな昔のことを持ち出さなくても……あー、もう、わかったよ……」
脅迫に屈する僕。
確かに僕はクーネさんの着替え現場に遭遇したことがある。 あれは事故だったしクーネさんも顔を真っ赤にしながらも許してくれたはずだ。 それがまさかこんなところで持ち出されるとは思ってもいなかった。
確かにクーネさんが言うように乙女の下着姿を覗いてしまった僕は償いをする必要があるだろう。 たとえそれが1年近く前の出来事だとは言え。
「ずいぶん盛り上がってるじゃないか。 なんの話しをしてたのさ?」
「なんでもないよ……。 と言うわけで、はい、これ」
「これ、なんだい?」
「高確率でレベル8の麻痺毒を与えるって言う最高級の毒薬だよ。 レベル9の麻痺毒もあるけど、そっちは発生率が低いし、今回には向かないでしょ?」
「そ、そんな高級品受け取れないよ! ボクたちのお財布事情は知ってるでしょ?」
「いいよ、商談はもう済んでるから」
色々と諦めて深々とため息を吐く僕を見てクーネさんが笑う。 その微笑は綺麗だけど、明らかに黒いナニカが漂っている。
ここで反論してあれがバラされると思えば安いものだ。 それにまあ、あれが毒薬を代償にして見れた光景だと思えばやっぱり安すぎるだろう。
「って、なにを考えてるんだかね、僕……」
「顔が赤いぞ、フォラス。 なにを考えてるのさ?」
「なんでもないよ、うん、なんでもない」
どうやら赤くなっているらしい顔をブンブンと振ってサラマンダーに視線を投げる。
足止めに徹しているリンさんとニオちゃんの2人に加え、その隙を抉る容赦ないヒヨリさんとティルネルさんを相手にしているのだから、気がつけば2割ほどHPが削れている。 アマリは一応周囲を気遣っているからか爆裂は使っていないらしい。 使っていればサラマンダーのHPはもっと削れるだろうけど、リンさんとニオちゃんがご臨終していてもおかしくはないので一安心だ。
「で、僕はどうすればいいのかな? って、さっきも聞いたっけか」
「フォラス君はアマリちゃんを回収してから後方で待機して。 この人数で連携はできないでしょう?」
「まあ、それが現実的だよね」
「いつでもスイッチできるように構えておいてもらえるかしら? 私たちだけで削りきれなかったらお願いするわ」
「ん、りょーかい」
「安心して、あのことは黙っておいてあげるわ」
「……ソレハドーモデス」
「フォラスの目が死んだ⁉︎」
「おい、あのことってなんだ!」
「さあ、なにかしらね」
最後の最後まで手玉に取られた。
その場に残っているとリゼルさんに問い詰められそうなので早々に退散だ。 アマリを回収して癒されてくるとしよう。
けどまあ、あんな風に手玉に取られるのも偶には悪くない。 そんなことを思った。
「聞いてください。 ノームに胸が、胸が平坦だと言われてしまいました」
「そっか、それは嫌な思いをしたね」
「た、確かに一般から比べれば膨らみが少ないとは思いますけど、平坦ではないのです」
「うん、知ってるよ。 それにほら、僕はそう言うアマリのことも好きだしさ、だから気にしないでいいんだよ?」
「フォラスぅー」
久しぶりに少女モードなアマリの髪を優しく撫でながら、僕はサラマンダーと戦闘を繰り広げているクーネさんたちを見やる。 肩の力が抜けたクーネさんが指揮をすれば特に問題はないだろう。 もしも問題が発生すればさっさと介入すればいいだけの話しだ。
ギラリと剣を煌めかせてリンさんの片刃が右左と袈裟斬りを決め、その場で身を翻して薙ぎ払い、そこから身の回転を踏み止めて更に斬撃の中心地点に剣を突き込む。 花弁を思わせるダメージエフェクトが美しいそのソードスキルは確か《アステリスク》だったか。 キリトのような重い剣好きの変人だと回転を踏み止める動作で必要以上に流されるからとあまり使われない技だけど、リンさんのような軽量片手剣士なら十全にそれが力を発揮するようだ。
最後の突きによるノックバックから早々に復帰したサラマンダーの剣がリンさんに迫るけど、その横合いからニオちゃんの盾が滑り込んでギリギリで受け止める。
ヒースクリフの次点に甘んじているとは言え、ニオちゃんは攻略組最高クラスの壁だ。 仲間に降りかかる危険は全て防ぎきってしまう。 その堅牢さは今までのボス戦で何度も見たけど折り紙付きだ。 正面から戦えば僕にとって最も厄介な相手になるだろう。
「うぉおおぉぉぉぉっ!」
サラマンダーの攻撃を受け止めたニオちゃんが咆哮と共にグッと身を沈め、次の瞬間、ダンっと地を蹴って飛び上がる。 そして盾に光が灯ってソードスキルが発動した。
最上段に振り上げられた盾がその重量とシステムアシストを受けて恐ろしい速度と重さで振り下ろされる。
盾殴術ソードスキル《グラヴィティフォール》だ。 昔やった模擬戦の際にでぃーちゃん装備のアマリを叩き潰してくれた一撃は狙い違わずサラマンダーの胸部に突き刺さり、そのままの勢いで地面に縫い付ける。
「みなさん、やっちゃってくださいっ」
「しゃあ! でかしたニオ!」
「後でいっぱい愛でてあげるよー!」
「今日の晩御飯、デザートもつけてあげるわ」
相変わらず緊張感皆無の戦乙女たちが次々にサラマンダーに殺到する。
仲間同志の攻撃が干渉してキャンセルされるなんて不細工な真似はしない。 全ての軌道が計算され尽くし、研鑽に研鑽を重ねたソードスキルのタコ殴りは無慈悲にサラマンダーのHPを削り取る。
けれど無用な追撃はしない。
全員が全員、ソードスキルの硬直が終わり次第バックステップで順次離れていく。
そして舞うのは高火力と高機動を両立する驚異の細剣士、ヒヨリさん。
ようやく転倒から回復したサラマンダーの腹部に純白の光芒を引きながらヒヨリさんが突き刺さる。 その速度はなるほど《流星》の二つ名に相応しいものだけど、一瞬だけ踏み留まった隙をサラマンダーは逃さない。 自身の持つ剣を振り上げ、未だ細剣に純白のライトエフェクトを灯すヒヨリさんに向けて振り下ろそうとする。
が、その腕を薄緑色の光が穿つ。 あれはティルネルさんの弓術だろう。 生憎と弓術ソードスキルはティルネルさん以外に誰も使えないのでそこまで詳しくないけど、今までの戦闘を見ていた限りで判断すると単発重攻撃に分類されている技だと思われる。
そして攻撃の手が緩んだサラマンダーの懐で力を溜めていたヒヨリさんが動き出す。
ヒュンと、僕の視力を以ってしてもギリギリ視認できるほどの速さで振るわれる怒涛の8連撃は細剣技最上位ソードスキル《バニッシュメント・サイト》だ。 アスナさんが好んで使う《フラッシング・ペネトレイター》に近しい技だけど、その隙の多さから使う人は少ない。 連携に慣れている仲間のバックアップがあるとは言え、それをこの場面で使えるなんて随分な胆力だ。 余程の信頼が見て取れる。
この時点でサラマンダーのHPがレッドゾーンに突入する。
同時にヒヨリさんが飛び退き、サラマンダーが咆哮をあげる。
HP減少に伴う行動パターンの変更。
シルフとウンディーネにはなかった仕様だけど、どうやら四天王のリーダーであるらしいサラマンダーにはあるようだ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「何を余所見しているのですか? 殺しますよ?」
「いやいや、僕の目にはアマリしか映ってないよ」
「本当ですか? もしも嘘だとその目を抉り取りますよ?」
「うん、もちろん嘘じゃないよ」
僕の背を伝う冷や汗はサラマンダーの行動パターン変更を警戒しているからだ。 いや、決して少女モードのアマリの愛が重いからではない。 そう、本当に。
「グッ、ガァアアアァァ!」
そんな僕の冷や汗を吹き飛ばす勢いでの咆哮は行動パターンの変更を終えたサラマンダーのものだろう。 さすがにこれを確認しないとまずいけど(主にクーネさんたちのピンチ的な意味合いで)、確認するのも色々とまずい(主に僕の両目的な意味合いで)。 よし、最後の手段だ。
「アマリをむぎゅー」
「ふふ、どうしましたか? フォラスから抱きついてくるとは珍しいですね」
「いやー、アマリがあまりにも可愛くてね」
ギュッとアマリを抱きしめながらさり気なく体勢を変えて鉄火場に視線を移す。
「わーおー」
そこにいたのは龍。 いつぞやの龍皇と同様の紅蓮の龍。
体高は10mほどもあるだろうか。 ゴツゴツとした鱗と長大な尾を持つ龍は眼下にいるクーネさんたちを揃って睥睨していた。 呆れたことにレッドゾーンにまで削ったHPが半分まで回復し、更なる戦闘が約束された状況に於いて僕は笑う。
「ねえ、アマリ」
「はい?」
「偶然、つまり偶々視界を掠めたんだけど、あそこにでっかい龍がいるよ」
ピクリとアマリの身体が震える。
「僕としてはこのままアマリを抱きしめててもいいんだけど、あれ、ぶっ殺したくない?」
ピクピクとアマリの身体が震える。 そして噴き出すのはアマリの象徴とも言える絶大な狂気と濃密な殺気。
「あそこまででっかくなったらみんなを巻き込むとか考えなくていいし、全力でぶっ殺せるよ。 ねえ、どうする?」
「あは、あはー、あっはぁ! ぶっ殺すですよー」
「オッケー」
腕の中にいたアマリを離すと、近くに立てかけてあったでぃーちゃんを持ち上げて確かめるようにブンブンと振った。 僕も僕で腰に差した片手剣をそれぞれ抜き放ってニコリと笑う。
「じゃあ、殺ろっか?」
「殺るですよー」
そうして僕とアマリの参戦が決定した。
駆け出す僕とアマリの気配を察したクーネさんが振り返るけど、特に文句もなくサラマンダーへと向き直る。 この状況で僕たちを温存する理由が見当たらないのだろう。 そして、その判断はきっと正しい。
「みんなはこのまま様子見! 攻撃パターンの解析はあの2人に任せるわよ!」
トンと跳び上がった僕の後ろからそんな指示が聞こえるけど、残念ながらそれは叶わない指示だ。
「だって僕たちが、このまま殺しちゃうから、ね!」
トントントンと3回空を蹴った僕はサラマンダーの頭部の左側で左右の剣に深緑の光を纏わせる。
舞い散る剣閃は11連の斬撃。 双剣ソードスキル《ハンドレッドエッジ》はたったの1秒半で完結する超高速の連続剣だ。
グラリと揺れたサラマンダーの双眸がこちらを捉えるけど、全く問題にならない。 11連撃ソードスキルのものとは思えないほどに短い技後硬直を終えた僕は、その場から飛び退いてサラマンダーの更に上へと駆け上がる。
「あっはぁ!」
そして届くのはアマリの楽しそうな笑声。
見れば砲弾と見紛う勢いで跳躍したアマリの左拳が生み出す爆裂の衝撃波がサラマンダーの顎をかちあげる。 そこから軽業スキルのアシストを受けてぐるりと身を翻したアマリはサラマンダーの角へと着地し、そこででぃーちゃんを振り被る。
紫紺の両手斧が纏うダークブラックのライトエフェクトは人に根源的な恐怖を呼び起こす。
「ーーーーーーーっ‼︎」
きっちり3秒にもなる延大な溜めを終えたアマリが言語変換不能な咆哮と同時にでぃーちゃんを振り下ろした。
両手斧スキル最上位単発重攻撃《ジ・デストロイ・アース》によって発生した周囲を埋め尽くす轟音と爆風とに苦笑を浮かべながら、僕は落下を開始する。 落下の勢いを上乗せして放つソードスキルは僕が双剣スキルの中で最も多用するそれ。
純白の光芒を灯して殺到する《サウザンドエッジ》による24の剣戟は、未だサラマンダーの角の上で硬直に晒されているアマリをすり抜けてガリガリと鱗を削る。 それの最中に硬直から脱したアマリがでぃーちゃんを放り投げて両手を組み、再び身体を反らして振り下ろすとそこが爆ぜる。
《鉄槌》
体術スキルの中で例外的に威力が高いそれは、爆裂の衝撃波の上乗せで更に威力を上げ、サラマンダーのHPを無慈悲に喰らった。
ここまでで既にサラマンダーのHPバーはレッドゾーンに突入している。
様子見なんてするつもりはない。 僕たちの全身全霊を以ってサラマンダーを殺す。 仲間が傷つけられて怒っているのは、何もリンさんだけではないのだ。
「あはっ」「あっはぁ!」
地に落ちていくサラマンダーの頭部へと自由落下を続ける僕とアマリが同時に笑う。
双剣ソードスキル《ツインミーティア》
両手斧ソードスキル《デストロイ・ノヴァ》
双剣スキルの中では例外的な単発重攻撃と両手斧ソードスキルのスタンダードである単発重攻撃の二重奏は僅かに残っていたサラマンダーのHPを完全に喰い散らかし、その身を無機質なポリゴン片へと変える。
「さようなら、焔を纏う精霊よ。 あなたのような強敵と巡り会えた幸福を僕は忘れない。 その眠りがどうか穏やかなることを……」
おやすみ
僕はいつものように言って目を閉じた。
後書き
サラマンダーさん爆散回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
これでようやく四天王全員の撃破が終了しました。
途中、フォラスくんのラッキースケベな罪状が明かされましたが気にしないであげてください。 彼に悪気はなかったのです。 ええ、本当に。
ついでに少女モードのアマリちゃんが微妙にダークサイドを発揮していますが、こちらも許してあげてください。 彼女はフォラスくんが大好きすぎるだけなのです。 ええ、本当に。
しかし、クーネさんに脅し取られた麻痺毒が活躍することもなく戦闘終了。 彼は何のために脅されたんだろうか?
ここでクーネさんの名誉を守るために言っておきますが、あの脅迫はクーネさんの照れ隠しです。 前話で息子にお説教されたオカンが照れ隠しに遊んでいるだけです。 彼女はそこまで悪女ではありません。 若干、腹黒疑惑はありますが……
さてさて、そんな寿命を縮める話しは置いといて、次回は遂にクエストボス最終戦である対ケクロプス回です。 果たして彼はどんな風に爆散するのかをお楽しみに。
ではでは、迷い猫でしたー。
PS.《旋律の奏者》が記念すべき50話を迎えました。 それもこれも感想や評価、お気に入り登録をしてくださったり読んでくれているみなさまのおかげです。 そんなみなさまに最大限の感謝を。
ちなみにこれでコラボが17話にもなります。 コラボでここまで続けているのってもしかして私だけではないでしょうか? しかもまだまだ終わりが見えていないと言う事態です。 一体何話になるのだろうか……
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