| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

【継がれゆくもの】

 
前書き
 THELASTの、ハナビの心情。 

 
(───どうしよう、何も見えない……。白眼も、使えないし……。ここは、どこなの? 私、死んじゃったのかな……)

 真っ暗闇の中、ハナビはただ独り蹲っている。

(父上は、供を何人か連れて行き先も告げず何日も戻らなくて、捜索隊が組まれたけど見つかったのかな……。ヒナタ姉様は、どうしてるんだろう……。父上が居なくなったのも、私が妙な連中に攫われたみたいになったのも、日向の白眼が関係してるんだとしたら、姉様も危ないかもしれない……。誰か、誰か助けに来てくれるよね……。───情けないな、私……。次期日向当主になるはずの私が、こんな事じゃ……兄様に、ネジ兄様に呆れられちゃうよ……っ)


 ────ハナビ────


(え……? 今、誰かに呼ばれて……気のせい、かな)


 …………ハナビ様…………


(……! 気のせいじゃない、微かに聞こえる……! この声、まさか……ネジ兄、様……?)

 ハナビは真っ暗闇の中思わず顔を上げ、立ち上がる。

(やっぱり、何も見えない……。ネジ兄様、どこ…? どこに、居るの…!? 私、怖いの……何も、見えないの…! 助けて、ネジ兄様…っ)


『───ハナビ様』


 今度はハッキリと、間近で声がして肩に手を置かれた感覚があった。

「!? やっぱり兄様……ネジ兄様なのっ? 私、気がついたら何も見えなくなってて、白眼も使えないしどうしたらいいか分からなくて…っ。兄様の姿、見たいよ…! 迎えに、来てくれたの? 私、死んじゃったって事なのかな……」

『落ち着いて下さい、ハナビ様。……あなたは、亡くなってなどいませんよ。少し、待って下さい』

 間近の従兄のネジらしき声が優しい口調でそう述べたかと思うと、そっと目元に横にした手の平を宛てがわれたように感じ、そこからじんわりと温かさが伝わってくると少ししてその手を離される。

『──ゆっくり、目を開けてみて下さい』

「あ……」


 言われた通りにすると、目の前に在りし頃の従兄の姿がハナビの目に映った。

上忍当時の白装束姿で、額当てはしておらず、日向の呪印は刻まれていない。

『久しいですね、ハナビ様。…二年振りくらいでしょうか』


 ハナビにとっては従兄のネジは普段無愛想なイメージだが、今目の前に居るネジは従妹のハナビに優しい微笑を向けている。

「な…、何よネジ兄様ってば…っ。私の知らない所で勝手に居なくなったくせに、今さら出て来たって嬉しくなんかないんだからね、バカぁ…!」

 ハナビは目が見えるようになった事よりも、言葉と裏腹に大戦で亡くなった従兄に逢えた事が嬉しくて目に涙を浮かべながらネジに抱き付く。

『すみません、ハナビ様……。こういう状況でもなければ、逢いに来るつもりは無かったのですが』

 ネジは宥めるようにハナビの両肩に手を置く。

「こういう状況って、何……? あれ、ここ……異空間みたいな場所?」


 ハナビがふと周囲を見やると、上下左右蒼空を思わせる空間に白く瞬く無数の星々が時折流れ星となって白い軌跡を描いている。

「私、さっきまで何も見えなかったのに……ネジ兄様、何かしてくれたの?」

『大した事はしていません。──ここは、一種の精神世界のような場所ですよ』

「夢……とは違うの?」

『そうかもしれませんね』

「私は死んでないって、言ったよね。…私がどうなってるか、知っているの兄様?」

 問いに対し、ネジはハナビを案じるような表情になり、多くは語れずとも少し話して聴かせる。


『意識を失わされているようです。命までは、今の所取る気はないようですが……それ以上の事は、俺から言える事は余りありません。──ですが、ヒナタ様やナルト達があなたを助けに向かっているのは事実です。ヒアシ様は……無事とは言えませんが、そちらにもきっと助けが及びますよ』

 そう言い終える前に、従妹のハナビを安心させるようにネジは微笑する。

「そっか……よく分からないけど、ネジ兄様も付いてくれているし、そんなに心配しなくても大丈夫って事ね!」

『えぇ、少なくとも確実に助けが来るまでは、俺が傍に付いています。……それくらいしか、今の俺には出来ませんから』

「ネジ兄様が傍に居てくれるなら、心強いよ。……というか兄様、敬語やめてくれないかな。日向の呪印だって、消えているでしょう。亡くなってまで、分家のように振る舞う必要ないよ」

『ハナビ、様……』

「様付けもナシ!」

『わ、判りま──いや、……判ったよ、ハナビ』

 ネジは少し困った表情になりながらも微笑んだ。


「ねぇ兄様、私にとっては叔父上のヒザシ様……父上には、逢えたの?」

『あぁ……逢えたよ。何も言わず、迎え入れてくれた。その後は、色んな事を話しているよ』

「そうなんだ……。叔父上も、ここに呼んでみてくれないかな。私、逢ってみたいの」

『すまない、ハナビ……そう都合よくはいかないんだ。今この空間には、俺しか居てやれない』

「それなら、仕方ないけど……。あのね、兄様……、ヒナタ姉様とナルトの事、なんだけど」

『──・・・』

 ネジは何とも読み取れない表情をしている。

「あの二人、敢えてあまり逢わないようにしてるみたいなの。あの大戦後から、ずっと……。二年くらいもだよ。戦没者慰霊の時に会っても、私から見ても明らかによそよそしくて……。ネジ兄様が亡くなった時の事、どうしても思い出してしまうみたいなの。私は……大戦の場には居なかったからその時の事は分からないけど、話には聴いているから……」


『──フ、俺の事などさっさと忘れ好きなようにすればいいものを……。いつまでも責任を感じていられては迷惑だ』

 ネジは瞳を閉ざし、皮肉るように笑みを浮かべる。

「兄様ってば、そんな言い方はないでしょ…! あの二人がそう簡単にネジ兄様を忘れられるわけ──」

『ヒナタ様……いや、ヒナタとナルトには、いい加減前を見据えてもらわねば困る』

「姉様だって、前を向こうとはしてるよ。兄様が命を懸けて守ってくれたから、大切な人達を今度はちゃんと自分で守れるように強くなろうとしてるし、ナルトだって次期火影になる事は決まっているようなものでその為に頑張ってるし……。私、だって……ネジ兄様に恥じないように次期日向当主として日々鍛えてるけど、まだまだ兄様には遠く及ばないよ」

『……俺はもう日向として高みを目指しようがないから、ハナビならすぐに俺を越えられるだろう』

「そう言われたって、嬉しくない。兄様が生きてくれていたら、私は次期当主の座をネジ兄様に譲ろうと思っていた。あの大戦前にも、父上に進言していたの。分家や宗家は関係ない……次期当主として最も相応しいのは、日向の才に愛されたネジ兄様だって───」

『…………』

「これまでも話し合いはされてきたとはいえなかなか進展せずにいたけど、大戦後は日向の改革を推し進め、長年の宗家と分家の確執を取り払い、ネジ兄様を次期日向当主として皆に認めさせてみせると、父上は約束してくれていたの。……でも兄様は大戦でヒナタ姉様とナルトを二人一緒に守って命を落としてしまって……結局私が次期当主になる事は変わらない。──呪印制度に関しては、その執行は大戦後に停止されているの。完全な廃止まで持っていくにはまだ時間が掛かりそうだけど、私が当主になる頃にはきっと廃止されると思う。……それともナルトが先に火影になって、日向の呪印制度を直接廃止してくれるっていうのもアリかもね」


『あぁ、そうなってくれればいい。──俺が居なくとも、何も問題はない』

「そんな事言わないでっ! みんな、どれだけ寂しがってるか分かってないでしょ! ……ずっと悲しんでたって、ネジ兄様や亡くなった人達が戻って来るわけじゃないし、いつまでも悲しんでいられないのは分かっててみんな前向きに頑張ってるけど……ふとした拍子に、やっぱり“居ない”って感じるのは、とても寂しいんだから…っ」

 ハナビは堪えきれず下向いて涙を零し、ネジは僅かに憂えた表情で黙ったままハナビを見つめている。

───それから急に、二人の居る空間がぐらりと揺らいだ。


「な、何が起きてるの……?!」

『どうやらハナビに助けが来たようだ。……ヒナタにもな』

「え、姉様にもって……?」

 異空間にある一点に亀裂が走り、人一人入り込める程の穴が開きそこから眩い光が溢れた。

『ハナビ、そこへ飛び込め。元のお前に戻れるだろう』

「兄様……ネジ兄様は…!?」

『俺は一緒には行けない。……判っているだろう?』

 少し寂しげな笑みを見せるネジ。


『前を見ていろ。──決して、振り向くな』


「あっ……」

 不意に背中を押され、大きく亀裂の裂けた穴へと押しやられるハナビ。


『遠くから……俺はいつでもお前達を見守っている。だから───』


(ネジ兄…様……っ)

 ハナビは振り返りかけたがぐっと堪え、光溢れる前方を見据える。

(私、兄様のように……ううん、兄様よりももっと強くなってみせる。ネジ兄様の意志は、私が継ぐから。大切な人達を……今度は私が守って行けるように)



《終》

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧