真田十勇士
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巻ノ百一 錫杖の冴えその八
「あの方を最後まで召し抱えていられぬ」
「黒田様の横槍故に」
「それで、ですな」
「その家も手放してしまう」
「だからですな」
「うむ、多くの大名家が是非にと思うが」
そして声をかけるがというのだ。
「それでもな」
「幕府か豊臣家でもなければ」
「あの方を最後まで召し抱えられぬ」
「それで流れていかれますか」
「浪人として」
「うむ、しかしおそらく幕府はな」
つまり家康はというのだ。
「あの御仁のことを承知じゃ」
「では幕府が、ですか」
「あの方を召し抱えられますか」
「そうされますか」
「機があればな」
その時はというのだ。
「大御所殿はされよう、しかしな」
「それも機があれば」
「その時にですな」
「幕府も出来る」
「左様ですか」
「幕府は他の家の臣を取ることはせぬ」
それは決してしないというのだ、この辺り節度を守っているというのだ。
「大御所殿もな」
「ですな、あの方はです」
「そこまでされる方ではありませぬ」
「他人、他家のものには決して手を出されぬ」
「そうした方ですな」
「そうじゃ、節度のある方だからな」
それ故にというにだ。
「あの方もな」
「決してですな」
「後藤殿が他家におられれば」
「その時はですな」
「閲して手を出されぬ」
「そうされますな」
「浪人となられた時じゃが」
その時には家康も声をかけるがというのだ。
「しかしな」
「要はその機があるか」
「それが問題ですな」
「幕府にとっても」
「うむ、果たしてどうなるか」
こう幸村も言った。
「それがな」
「幕府が召し抱えることが出来るか」
「それがですな」
「幕府とっても大事で」
「後藤殿にとても」
「うむ、それでじゃ」
幸村はさらに言った。
「そうなれば運もある」
「機会があればですな」
「幕府は召し抱えることは出来ますが」
「しかしですな
「機会がなければ」
「それはまさに運ですな」
「幕府にしましても」
「そうじゃ、しかし後藤殿はやがてはじゃ」
後藤のその器を見ての言葉だ。
「世に出られる、再びな」
「そうした方ですか」
「あの方についてはですか」
「殿はそう言われますか」
「袋に大きなものを入れればじゃ」
そうすればというのだ。
「出てしまうな」
「はい、確かに」
「そうなりますな」
「袋に大きなものを入れれば」
「後藤殿もそれは同じ」
「そういうことですか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だからじゃ」
「あの方はですか」
「やはり世にですか」
「再び出られますか」
「そうなられますか」
「拙者はそう見る、そしてじゃ」
それにというのだった。
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