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後ろに立つと

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第一章

                 後ろに立つと
 呉瑠後拾参という、実に変わった名前だ。
 顔も変わっている、剃刀の様に鋭い目に太く確かな眉を持っていて髪の毛は小学生だというのに角刈りである。表情も渋い。
 性格も口調もだ、実に変わっている。
 寡黙で機能的というよりかは機械的な性格だ、そしてだ。
「用件を聞こう」
 こう言うことが多い、そしてだった。
 基本無口だ、それで一日喋らないことも多い。そうした小学五年生だ。顔はやけに大きく四頭身位である。
 とにかく変に目立つ、そのうえで。
 彼には変な癖もあった、何とかだ。
 人が後ろに立つと攻撃して来るのだ、それも無意識のうちにだ。そのうえで攻撃した相手に言うのだった。
「俺の後ろに立つな」
 こう言うのだ、それで彼の後ろに立つ者はいないが。
 雑用でも勉強でも体育でも何でも出来るのでクラスでは何かと頼りにされている、まさに困った時の呉瑠後だった。
 それはこの時もだった、クラスメイト達は彼に頼んでいた。
「今度のドッチボール大会も頼むな」
「呉瑠後君頑張ってくれよ」
「相手どんどん倒してね」
「頼むわね」
「・・・・・・・・・」
 無言でだ、彼は鉛筆を煙草の様に持って言ったのだった。
「用件は聞いた」
「ああ、じゃあな」
「宜しく頼むな」
「今回もな」
「そうしてね」
「そうさせてもらう」
 こう話してだ、彼はドッチボール大会に参加した。三十五歳位にしか見えない剃刀の様な目の四頭身の身体で小学生の体操服を着てだ。
 そうしてだ、コートに入るといきなりだった。
 相手のクラスの一人を振り向き様に殴って言った。
「俺の後ろに立つな」
「反則、退場」
 すぐに審判役の先生が言ってきた。
「呉瑠後君の大会への参加を禁止します」
「何故だ」
「何故かって今あんた人を殴ったでしょ」
 先生は自分に無表情で問う呉瑠後にはっきりと答えた。
「だからよ」
「・・・・・・・・・」
「無言になっても駄目よ」
 やはり表情は一切変わらない。
「見学してね」
「・・・・・・・・・」 
 呉瑠後は無言のままだったがとにかく大会への参加自体が禁止された、それでクラスメイト達も思わず言った。
「何やってんだよ」
「というかまた悪い癖出たし」
「どうして人が後ろに立ったら殴るの?」
「いつもそれで迷惑なことになってるし」
「私達クラスでも後ろに座れないし」
「だからいつも席一番後ろじゃない」
 席順もそうなっているのだ。
「今回もコート一番後ろにいてもらったら」
「よそのクラスの外野の子殴ってこれって」
「まだはじまったばかりよ」
「これでいきなり主力離脱って」
「もう何なんだよ」
「・・・・・・・・・」 
 やはり無言の呉瑠後だった、何も言い返さない。そしてクラスは彼の失格が効いて見事一回戦負けとなった。
 とかく呉瑠後のこの癖は実は彼にとっていいことではなかった、それはこの時もだった。
 呉瑠後の趣味はトランプにカルタ、百人一首や人生ゲームにボードゲームとそうしたものだった。他にはカードゲームもする。 
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