ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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偵察-リコンナイセンス-part2/届かない手
前書き
あけましておめでとうございます。さて、今年はゲーム2作目の範囲のエピソードを書き上げられるか…
戦地は更なる混乱を呼び込んだ。
サイトたちが乗り込むはずだったアルビオン大陸は、突如発生したバリアに包み込まれてしまい、進入不可能となった。さらにその際、空賊団のアバンギャルド号やホーク3号を放り出し単独で大陸への侵入を試みたトリステイン小型艦がバリアの中に閉じ込められてしまうという事態を引き起こす。
アバンギャルド号も退却を開始し、サイトたちホーク3号の突入組みの侵入も不可能となった今、彼らは自分たちを狙い始めた怪獣たちの相手をする羽目になった。
しかも、その怪獣たちはただの怪獣たちではなかった。遊星ジュランから誘拐されてしまったカオスヘッダーが、かつてムサシの世界で人類と対立していた頃と同じように、ウイルスと化して憑りつき、怪獣たちを凶暴化させてしまった。
「カオスヘッダーが……!!!」
ムサシは目を逸らしたいけど、逸らすことのできない現実にショックを受けた。
かつては敵同士だった、今は共に同じ宇宙を生きる仲間となったカオスヘッダーが、かつてのように怪獣たちを凶暴化・形態変化を引き起こして人類へ牙を向こうとしていた。和解を果たしたうえで、最もあってはならないことだった。だがこうして…悪夢が現実となっている。
カオスヘッダーによってその姿を変えた怪獣たち…カオスバードン、カオスベムスター、カオスペドレオン、カオステロチルス。彼らは湧き上がる闘争本能と捕食本能を高ぶらせ、サイトたちが乗るホーク3号、シュウとムサシの乗るアバンギャルド号、ジュリオと彼を乗せているリトラに向けてそれぞれ襲い掛かり始めた。
真っ先にこちらへ向かってきたテロチルス。
「ち!」
シュウは即座にエボルトラスターを鞘から引き抜き、ウルトラマンネクサス・アンファンスに変身し、テロチルスを正面から嘴を掴んだ状態で食い止めた。
「ヌウウウ…ディア!」
(あれが、ネクサス…黒崎君の変身するウルトラマンか)
ムサシは今テロチルスをそのまま突き飛ばしたネクサスの背を見上げた。
テロチルスをアバンギャルド号から離したネクサスは、次はホークに向かうバードンに、ジュリオとリトラに向かうベムスターに向けて光の光刃を飛ばす。
〈パーティクルフェザー!〉
「シュ!」
カオス化したバードンに追われていたホーク3号の中、サイトは操縦するのに必死過ぎることであること、光の国のウルトラマンであるゼロが、まだ自分の正体を知らないルイズとヘンリーの前で変身することを極力禁じられていることもあって変身できない状態にあった。
彼に代わって、闇の力を克服したハルナ=アキナが、ウェザリーとの決戦時と同じように、ファウストへの変身を試みた。みんなを助けたい、その思いを胸に、再び彼女はあの姿へと変身しようとした。
…しかし。
「そんな…!?」
いくら光の力で変身したときのように強く念じても、彼女の身に変化は起こらなかった。予想していなかったわけじゃないが、変身できないことにアキナは絶句する。
サイトもそれを見て焦りが高ぶる。ハルナの変身できない状況と、今またしつこく接近するバードン。
やはりここは自分が出るしかないのか。
だが、バードンに向けて下から光の刃が飛んでバードンの嘴に直撃する。
サイトたちは今のがネクサスの攻撃によるものだとすぐに察する。
「シュウ…!」
「ビイイヤアアア!?」
そこは偶然にもバードンの片方の毒袋だった。かつてはその毒で、タロウやゾフィーをも倒して見せたバードンだが、実はその毒を溜めている頬袋が弱点だった。自分の毒が逆流し、その毒に苦しむバードン。だが、カオスヘッダーが取り付いている影響からか、致命傷に至るほどのダメージはなかった。
弱点を突かれたことでキレたのか、カオスバードンは下にいるネクサスの方へ方向転換し、そのまま直行した。バードンがホーク3号から離れたことで、サイトたちは間一髪命を拾った。
「助けられちゃったわね…」
ルイズが、自分たちに代わってバードンに狙われ始めたネクサスを窓から見て、借りができてしまったことを感じる。シュウに対して個人的に色々ムカつく印象を持っているルイズだが、受けた借りは返さなければならないと思った。
一方でアキナは、自分の両手を見て、悔しさで表情を歪ませていた。
ウェザリーとの戦いを制した後、その戦いで光の力で変身できたという事実に、ハルナとアキナは、自分たちもまたウルトラマンとしてサイトと共に戦える、そんな期待を寄せていた。だが、実際そうはうまくいかなかった。結局これでは、守られているだけのか弱い少女というだけ。虚無の魔法が使えるルイズと比べると…
(くそが…なんて役立たずなんだ、あたしは…)
やっとサイトの隣に立てる、一緒に戦える。そんな期待が打ち砕かれ、アキナは…ハルナは己の無力感を痛感した。
離脱していくアバンギャルド号には、もう怪獣たちは関心を寄せていなかった。
ネクサスは、先ほど攻撃したバードンの他にも、テロチルスやペドレオン、ベムスターが近づいてきたのを見て、再度光刃を飛ばし始める。
「シュ!ハッ!!」
怪獣たちはそれを避けつつ、ネクサスに近づいて突進を仕掛ける。一番最初に彼に届きそうになったのはテロチルス。ぶつかる前に、ネクサスは自らテロチルスに掴み掛り、動きを抑える。彼がテロチルスと取っ組み合っている隙を突くつもりか、バードンが毒のくちばしを突き出して飛来する。…と思ったが、口から火炎弾を放ってきた。
「っグゥ…!」
火炎弾を連続して食らい、ネクサスはテロチルスから手を離し、そのままバードンの体当たりを背中から受けてしまう。すかさず、ペドレオンやベムスターも迫り、エネルギー弾を飛ばして彼に被弾する。
被弾するうちに、爆炎の中に消えたネクサス。怪獣たちはそれに紛れて四方から取り囲み、彼に奇襲を仕掛けようとした。
だが、爆炎の中から赤く強い光が漏れ出る。直後、爆炎の中から激しい竜巻が起こり、爆炎を掻き消すと同時に周囲の怪獣たちを大きく吹き飛ばした。
消えた爆炎の場所、そこにはすでにジュネッスブラッドへスタイルチェンジしたネクサスが浮いていた。自らの体に竜巻〈ネクサスハリケーン〉を纏ったことで怪獣たちの攻撃を掻き消していたのだ。
既にアバンギャルド号から怪獣たちは興味を逸らしている。なら自分も加勢しよう。そう思ったジュリオはリトラに接近するよう命令し、まずはベムスターに向かわせる。口から放つ火炎弾と、ベムスターの角から放つエネルギー弾が、互いに避けあったり、空中でぶつかり合って相殺されていった。
すかさずネクサスは足を突き出したまま飛行し、ペドレオンを思い切り蹴飛ばす。蹴飛ばされた反動で、ペドレオンはちょうど後ろの方で、リトラを撃ち落とそうとしたベムスターに激突する。入れ替わるように、テロチルスが再び飛び掛かってくるが、近づいてきたところでネクサスは顔面にジュネッスパンチを叩き込んだ。
「デア!!」
「ギィイイイ!!」
思いの他、形態変化している割に軽くいなせている。だが、4対1の状態は少しばかり部が悪くなることが懸念される。それに…作戦こそド・ポワチエの一派のせいでめちゃくちゃな結果となってしまったが、今の自分の最大の目的がある。
自分を助けるためにレコンキスタに捕まってしまった、アスカ・シンを助け出さなければならない。こいつらにいつまでも構っている場合なんかじゃないのだ。
一気に光線で、止めを刺してやる。ネクサスは両腕をL字型に組み上げ、まずはカオスペドレオンに向けて必殺光線を発射した。
〈オーバーレイ・シュトローム!〉
量子分解の破壊光線が、ペドレオンを襲う。
だが、予想外の事態を目の当たりにした。ベムスターが、リトラから光線を撃とうとするネクサスを見た途端、待ってましたと言わんばかりにそちらの方に向かっていった。
「いけない!その怪獣は…!」
リトラの上から、ジュリオが叫んでいたが、すでに遅かった。
カオスベムスターが、ペドレオンに光線が直撃する前に、自ら盾となって立ちふさがった。まったく異なる種の怪物だというのに種を超えた絆でもあるのかと、一瞬でも思ってしまったほど、ネクサスには衝撃だった。だがそれ以上に……
「!?」
ベムスターが盾となったことで、ネクサスの発射した光線が、直接奴の腹に吸い込まれていくのを見たことが、彼にとっての衝撃的な光景だった。
(こいつ、俺の光線を…!!)
腹いっぱいだといわんばかりに、ベムスターは腹を軽くたたいて満足げに鳴いた。そんな彼の動揺を突くように、
ドガッ!!
「ッッッッッッ!!!」
カオスバードンのくちばしが、動揺するあまり制止してしまったネクサスの背中に突き刺さった。声にならない悲鳴を上げていた。
その悲鳴は、ネクサスを追ってきたホーク3号を操縦しているサイトの目にも届いた。
「しまった!バードンのくちばしが…!」
「ど、どうしたのよサイト?確かにかなり答えた一撃に見えたけど…」
ここまで大げさに反応したサイトに、ルイズは困惑を示す。それもそのはずだった。さっきも語ったが、バードンにはウルトラマンでさえも致命傷を受けるほどの猛毒がある。サイトはそれを知っていたから慌てていた。それよりも前の、ベムスターのエネルギー吸収能力についても同様だった。しかも、さっき怪獣たちから発生した奇妙な光を浴びたことで形態変化を起こしている。さらに毒が強まっているのではという強い懸念があった。
だが、彼の体を蝕み始めていたのは…毒だけではなかった。
「グゥゥゥ…ジェア!!」
後ろに肘打ちを叩き込み、急いでバードンを突き放したネクサス。だが、刺し傷の痛みと、瞬間的に回り始めた毒の影響で、体中に痺れが回り始め、彼の動きが鈍り始めた。
なんてことだ。こんなドジを踏んでしまうとは。だが、だからといってここで引くわけにいかない、シュウはそう思ったここで退いたら、こいつらはすでに離脱中のアバンギャルド号ならまだしも、ホーク3号さえも狙ってくるはずだ。それに、まだ…
(アスカを助け出すどころか、大陸にも踏み込めていない…!!)
次第に、焦りを強く感じ始めたネクサス。アスカを助けるためにも、ついでに今大陸を包む結界内に閉じ込められたトリステイン小型艦の軍人たちを助けるためにも光線技で一気に勝負に出たのが裏目に出てしまった。だが、今は無理を押してでも、この怪獣たちをまとめて倒さなければならない。全て自分の役目と責任。また、彼の悪い癖が出始めていた。
だが、焦り過ぎた精神と毒の回った体では、やはり動きが乱れまくりだった。現に、テロチルスに向けて突っ込んでいったネクサスだが、単調なうえに速度も落ちていて、いともたやすく避けられ、逆に頭上から足のかぎ爪で引っかかれてしまう。
「ギイイイ!!」
「グァ!」
その隙を怪獣たちは見逃さない。ペドレオンが触手を伸ばして彼の首に巻きつける。ただ締め上げるだけに留まらず、触手を通して赤い電撃を彼の体に浴びせていく。その威力は、カオス化した影響もあって、通常のペドレオンのそれを上回っていた。
「ウッグ…ウオオォ…!!」
「シュウ!!」
その時、サイトの操縦するホーク3号からレーザーが放たれ、ペドレオンの触手を焼き切った。
(ひ、平賀か…!)
ペドレオンの触手から解放され、自分の周囲を飛び回るホーク3号を見て、シュウ=ネクサスを一時とはいえ危機から脱させたことに一安心したのか、ふぅ、とサイトが一息吐いたのを見た。ネクサスは彼の手を煩わせたことを悔やんだ。
その時だった。
――――ドクン
――――ズズズズズ…
(な、なんだ!?これ、は…?)
嫌な悪寒が、体の中を毒と共に駆け巡り始めた。
内部から、自分の知らない何かが湧き上がり、自分を全く異なる色に染め上げようとしている。ティファニアたちを襲ったムカデンダーやメンヌヴィルたちに対して湧き上がったどす黒い感情とはまた違う…おぞましい感覚だ。
『我ラト同化セヨ』
「!?」
『秩序ヲ求メルナラバ』
「…嫌だ、止めろ…!!」
『救済ヲ求メルナラバ…』
『我等ヲ受ケ入レヨ』
「俺の中に踏み込むなあああああああああ!!!」
その感覚が、次第に頭の方にまで回り始めた時、ネクサスは自分の中に駆け廻り始めた悪寒に対して叫んだ。
『ムサシ、あれは…!』
「ああ、間違いない!カオスヘッダーがウルトラマンネクサスの…黒崎君の体に取り付いたんだ!」
脱出中のアバンギャルド号からそれを見ていたムサシは、今のネクサスに起きた異変にいち早く気付いた。さらなる最悪な事態だ。よりによって、カオスヘッダーが自分たちと対立していたあの頃と同じ手口を使ってくるとは。
カオスバードンが、嘴でネクサスの背中に突き刺したあの瞬間、毒と共に彼の体にカオスヘッダーが流し込まれたのだ。
カオスヘッダーは、かつて宇宙に平和をもたらすために、とある善意ある存在によって作り出された人工生命体だった。しかし、その方法は一言で言うなれば『押し付けの善意』だった。なぜなら、カオスヘッダーは無数で一つ、あらゆる存在を自分たちと同化させることで、異なる存在同士の争いを鎮め平穏を保たせようとしていたのだ。違う存在同士が相対すれば、間違いなく争いが起こる、それを防ぐためである。
カオスヘッダーに取り付かれた怪獣たちが暴走し破壊活動を実行するのは、憑依された存在がカオスヘッダーにまだ馴染み切れていないが故の症状。だがいずれは、カオスヘッダーの意思に乗っ取られ、支配される形で彼らは争いを止める。
平和は確かに手に入るかもしれないが、同時にそれは心ある存在の意思を踏みにじる行為でもあった。
恐らくカオスヘッダーをさらい、悪用しているレコンキスタは、カオスヘッダーに取り付かれ暴走状態に陥った怪獣たちを侵略兵器として利用できると考えたのだ。
「なんて卑劣なことを…!!」
ムサシは、今はかつての自分の過ちを認識したカオスヘッダーを、彼らの意思と関係なく悪事に走らせたレコンキスタへの怒りを覚えた。
だが今は、カオスヘッダー以上にネクサスが…そしてカオスヘッダーに取り付かれてしまった怪獣たち、そしてまた以前と同じことをさせられているカオスヘッダーのことも心配だ。
ムサシは、コスモプラックを取り出した。これを使えば、自分はウルトラマンコスモスになれる。だが…
(今のコスモスは、エネルギーが残り少ない…後1回…それが限界な状態…)
そう、コスモスはムサシと一体化し、異次元宇宙から移動し怪獣たちを連れ攫ったチャリジャが従える怪獣との交戦が立て続けたっだこともあり、変身できる回数にはあまりにも強すぎる制限がかかっていた。前回、ティファニアたちを救った際、理性を取り戻したカオスヘッダーの一部の分け与えたエネルギーと日数の経過で、以前よりも回復できているが、それでも不十分だった。
だが、それでも自分はすぐにでもシュウ…ネクサスも、怪獣たちもカオスヘッダーも救いたい。でもコスモスのエネルギーが…。ムサシは、コスモスと共に戦うことが何度もあったが、その度にコスモスのエネルギーを著しく消耗させることが何度もあったのだ。
『ムサシ、私のことを気にしているなら大丈夫だ』
それをムサシが気にしていたのを察してか、コスモプラックを通してコスモスが語りかけてきた。
「コスモス?」
『私は君と共に、ジュランの怪獣たちを取り戻すと誓った時から…いや、初めて君と一つになったあの時から、君と運命を共にする覚悟はできていた。
構うことはない。自分の心に従うんだ、ムサシ』
「…ありがとう、コスモス」
以前と変わらず、自分の決意を肯定してくれているコスモスに感謝し、ムサシはついに決意し、コスモプラックを掲げた。
「コスモ―――――ス!!!」
「…」
ジュリオは無言のまま、カオスヘッダーに憑依され始めたネクサスを、リトラの背の上から見ていた。怪獣たちと同様、ネクサスがカオスヘッダーの影響を受けた後の結果は、おそらく……今度は彼自身も新たな脅威となるのだろう。それをジュリオは予感した。
「…悪いね、クロサキ君。僕も自分の仲間である怪獣の方が大事なんでね。醜い姿に変えられるなんてたまったものじゃない。
リトラ、アバンギャルド号の方角へ転身しろ」
そう告げると、彼はリトラに離脱するように命令し、リトラはそのまま飛び去って行ってしまった。
自分の怪獣の安全と、カオスヘッダーによって自分の怪獣がカオス化されるという二次災害。それを理由に、ジュリオは事実上ネクサスを見捨てていったのだ。
「グウアアアア…!ウグゥ…」
ネクサスの体に、カオスヘッダーが毒と共に感染していく。証拠に、カオスヘッダーの光が彼の体から溢れ出して、彼を苦しめていく。
「なんだ、あの光は!?」
「ウルトラマンが苦しむなんて、なんなのあの光?」
ホーク3号から、ヘンリーが目を見開いて叫ぶ。ルイズも当然ながら驚いていたが、サイトはまた一つ違う驚きを示した。
「まさか、あれがムサシさんが言っていた、カオスヘッダーってやつか!?」
あらかじめムサシがなんのためにこの世界を訪れていたのか聞いていたサイトは、ネクサスの体から発せられている光の正体に気付いていた。
「どういうことよサイト!なんであんたがそんなこと知ってるの!?」
「今んなことどうでもいいだろ!それよりもあいつを助けないと!」
「どうででもいいって何よ!あんた最近、ご主人様である私に対してなんか雑じゃないの!?」
状況が状況だからサイトの言うとおりだが、ルイズとしてはサイトからぞんざいに扱われるのはいろんな意味で気に食わないことでもあってので、条件反射のごとく文句を言ってくる。
「言い争っている場合じゃないぞ君たち!」
そんな二人に対しヘンリーが怒鳴り散らし、二人は我に返る。
「今はとにかく、我々は離脱することを優先するべきだ!もはや僕らにできることは、ここから脱出することだけだ!幸い怪獣たちはこちらを見ていない!」
怪獣たちは攻撃をやめ、カオスヘッダーに浸食されていくネクサスをただ静かに浮いたまま取り囲んでいる。おそらく、自分たちと同じくカオス化し自分たちの仲間になるのを待っているのだ。
「だめだ!ここでシュ…ウルトラマンを見捨てたら…!!」
そうだ、見捨てることなんてできるわけがない。彼は、自分と同じウルトラマンであり、何度も助けあった仲間なんだ。それをどうして見捨てられる!
やはりここは、ルイズたちの前であることを承知で変身するべきか?
(くそ…)
アキナは自分の手を見て、まだ悔やしさを滲み出していた。まだサイトたちと敵対していた頃のように、ファウストへの変身ができなくなっていた。ウェザリーとの決戦時ではできたのに…。それさえできていれば、今カオスヘッダーに取り付かれているネクサスを助け出せるのかもしれないのに…同時にサイトへの期待に応えらえたかもしれない。それもできない自分の無力さを、とことん呪いたくなった。
そう思った時、アキナは外に一筋の光が彼方の空でキラッと光ったのを見た。アバンギャルド号からの方角だ。その青い光はこちらの方に近づいてきている。
「あれは…!」
やがてその光は人の姿を象り、カオスヘッダーとバードンの毒に苦しむネクサスの前に飛来した。
その巨人を見て、サイトはその名を口にした。
「ウルトラマン…コスモス!!」
「コスモスだと…!?」
コスモスの登場は、レコンキスタの地下秘密基地からガーゴイルの目を通して観察していたシェフィールドにとって予想外のことだった。
話には怪獣を駒として仕入れた際、チャリジャから話を聞いていたが、実際にコスモスを見るのは初めてだった。
カオスヘッダーや、ジュランの怪獣たちを救うためにこの世界に来たらしく、今回も大方怪獣たちやネクサスを救うつもりなのだろう。
だが、ちょうどいい。奴も捕まえてしまえば、ダイナに続いて新たに利用価値のある駒を手に入れたことになる。しかも今、ゼロはどうやら変身できない状態らしく、さっきから姿を見せていない。バトルナイザーを通して、彼女は怪獣たちに命令を下した。
「しもべたち、命令よ。ウルトラマンコスモスを生け捕りなさい」
「また新しいウルトラマンが…!」
ルイズは目を見開いて驚愕する。今コスモスは、ちょうどホーク3号を背に浮遊していた。コスモスはホーク3号のコクピットのほうを振り返り頷くと、サイトの頭の中に声が聞こえてきた。
『サイト君、ゼロ』
それはゼロの声ではなかった。荒っぽさのある彼と違い、穏やかで優しい声だ。それにゼロのことも名指ししている。すぐにその声の正体が、コスモスと一体化しているムサシのものだと気づいた。
『ここは僕らに任せてくれ』
『待ってください!今のシュウは戦えない!実質あなたと怪獣たち、4対1の状態だ!一人で4体も相手なんて危険すぎる!変身はできないけど、ホーク3号で援護します!』
頷きとともにそう語りかけてきたコスモスだが、頭数的に状況は芳しいとは思えなかった。
『変身はできなくても、確かに僕の援護はできるかもしれない。でも、そばにいる彼女たちのことはどうするんだ?』
「う…」
そうだ、今の自分はルイズたちの命を預かっている。しかもアキナは結局変身に失敗したようで戦力にできなかった。それも察して、コスモスは言い続ける。
『大丈夫。まだ復活したてだけど、それでも簡単にやられるほど、僕とコスモスはやわじゃない!』
「トゥワ!!」
コスモスはホーク3号の前から苦しむネクサスの前に移動すると、全身から暖かな光を右手から放出し、彼に浴びせていく。
「ムウゥゥ…ハアアアア」
怪獣からカオスヘッダーを取り除く浄化光線〈フルムーンレクト〉である。このように、コスモスは怪獣たちを殺さずに事件を幾度も解決していった。
「グウウゥ…ウゥ」
コスモスの光は、次第にネクサスの全身を、彼にまとわりつつあったカオスヘッダーごと包み込んでいく。ネクサスの苦痛の声も和らいでいる。うまくいけば、このまま浄化が進むだろう。
「ギギギィ!」
だが、カオス化した怪獣たちはそれをよく思わなかった。自分達の仲間が増えると思った矢先に邪魔をして来たコスモスを疎ましく思い、シェフィールドの命令もあって襲いかかった。
一斉に襲いかかる怪獣たちに対し、コスモスは冷静だった。テロチルスの突き出されたくちばしを軽やかに避け、続けて放たれたベムスターの光弾も手ではじき落とす。今度はコスモス自らが怪獣の一体、テロチルスへと向かう。空気を切り裂きながら、テロチルスもコスモスに応戦するべく接近する。真正面からコスモスが近づいてきている。このままくちばしを突き刺してやろうと、さらに勢いを強めた。
しかし、テロチルスの予想は覆された。コスモスはすんでのところで体をひねらせ、テロチルスの頭上に移動、テロチルスの突進は空振りに終わった。その直後、すぐにコスモスはテロチルスの足を掴み、勢いよく体を回転、その遠心力で遠くに向けてテロチルスを投げ飛ばした。
「ビイイヤアアアア!!」
「グッ…」
続いて、今度はバードンが火炎放射をコスモスに向けて放つ。ちょうど背後からの攻撃で、さすがのコスモスもその熱を浴びて怯んだ。
だが彼はこの程度で倒れはしない。すぐに構え直し、すかさず迫ってきたバードンを受け流し、すれ違い様に平手で掌底を叩き込んでバードンを押し出した。
それからコスモスは、何度も繰り出される怪獣たちの攻撃を軽くいなしていった。
「すごい、さっきからまるで怪獣たちの攻撃を通していない」
「無駄もなく、それでいて冷静…あのコスモスというウルトラマン、噂のゼロやネクサス同様、相当の戦士だ」
そのようにサイトとヘンリーは言った。
軽やかで美しい動きを崩すことなく、怪獣たちを翻弄するコスモスの姿に、サイトたちは強く関心を寄せていた。事実見とれていたと言える。
しかし、ルイズは一つ気になることを見つけた。
「でも、あいつさっきから変じゃない?」
言われてみて、ヘンリーやハルナもコスモスの姿を見る。
「え…でも、どこもおかしい感じがしませんけど?」
アキナと人格が入れ替わったハルナが首を傾げると、そのことについてルイズは気になっていたことを明かした。
「戦い始めてから、あのコスモスってウルトラマン、自分から怪獣たちに攻撃していないわ」
そう、彼はさっきから、カオス化した怪獣たちに、何一つ決定的な攻撃手段をとろうとしてなかった。先ほど、カオスヘッダーが憑依される前のネクサスがやったように、
「何を考えてるの?ウルトラマンは長く戦うことってできないんでしょ?だったら必殺技で一気に止めを刺した方がいいはずじゃ…」
ルイズがそう考えるのも当然と言えた。ゼロやネクサスが怪獣たちと戦うことにより、ウルトラマンとは怪獣を倒して人を守る存在であるという認識の上に置かれていた。そして怪獣は人々の平和を乱す存在。そのため、コスモスが一向に攻撃に転じようとしないことを不思議に思った。
サイトは、当の本人からその話をあらかじめ聞いていたので、コスモスがあのような戦い方をする理由については納得していた。コスモスは、あの怪獣たちさえも助けなければならないと考えているのだ、と。
しかし、やはり4対1という状況はサイトが予想した通り、まだ万全とはいえないコスモスにはきついものだった。そのため次第に動きが悪くなり始めていた。
「ギィィィィ!!」
しかも敵はカオスヘッダーに感染されているせいでパワーアップしている。さらに言うと、怪獣たちのうち3体は過去にウルトラ兄弟を苦しめた個体で占められている。コスモスが苦戦するのも当然だった。
カオステロチルスの突進攻撃がコスモスに激突し、彼は大きく吹っ飛ばされる。さらに続けて、ペドレオンが赤い電撃を浴びせてコスモスを苦しめる。
「グオオオオオ!!」
このままではタコ殴りだ。ならば…ここは一度攻勢に転じるべきか。
コスモスは頭上に右手を掲げると、手のひらから太陽のごとき赤い光が輝く。戦闘形態コロナモードへの移行の構えだ。
しかし…コスモスの手に宿った太陽の赤い光は、彼の全身を包み込もうとしたところで、突如途中で途切れて消滅してしまった。
「!?」
自分の両手を見て、動揺を露わにするコスモス。だがすかさず、ベムスターの角から光弾が撃たれコスモスを直撃する。ベムスターに続き、さらにバードンやペドレオンのさらなる電撃攻撃が、コスモスの体を痛めつけた。
「グゥ!!ウワアアアァ!!」
大きく吹っ飛ばされるコスモス。サイトが心配した通りの現状に陥っていた。
「まずいな…さすがのウルトラマンでも4対1は…」
苦戦するコスモスを見て、ヘンリーが言う。
「うぅ…」
変身できないもどかしさを呪うハルナ。コスモス…いや、ムサシは恩人だ。変身さえできれば、すぐに駆けつけられるのにそれさえできないとは。悔しい気持ちばかりが湧き上がる。
「ハルナ…」
それを横目で見て、ルイズは彼女の気持ちを察した。ルイズもゼロの正体がサイトであることはまだ知らないが、以前のウェザリーが起こした事件をきっかけに、逆にハルナがファウストだったことは知っている。
(おそらく変身しようとしたけど、叶わなかったってことね)
彼女が自分たちやゼロによって救われた後でも、本人は再び変身できるかどうかわからないと語っていた。予想通りだったということか。ルイズは意を決してサイトに言った。
「これ以上は見てられないわ。サイト、コスモスを援護して!その間に私が虚無を詠唱するわ!」
すぐに杖を構え、詠唱に入ろうとしたところでデルフが口を挟んできた。
「けど娘っ子、水差すように悪いけどよ、いけんのか?この安定しない足場の中で、ちゃんと詠唱できんのか?」
「変なところで口挟まないで!それに、やってみなくちゃわかんないでしょ!?これまでウルトラマンたちに助けられ放題だったのに、ここで貴族である私たちが手をこまねくわけにいかないじゃない!」
「ルイズ…!」
『そうだな…ルイズの言うとおりだ』
サイトとゼロもそれを聞いて、やはり自分たちもコスモスたちに助力するべきだと考えを改めた。確かにここにいるみんなも危険に飛び込むことになるが、そんなのは何度も経験してきたこと。今更だ。ホーク3号は、義母アンヌとシエスタの曾祖父フルハシたちの誇りでもある戦闘機。怪獣たちにだって手傷を負わせることくらいは可能だ。
なら、さっそく…と思ったその時だった。
「おい、見ろ!」
ヘンリーは、ある方角を指さしてサイトたちに呼びかけた。
「な、なんだよ急に!人が決心した矢先、に……………!?」
殺気のルイズのデルフに対するそれのように、ヘンリーにも文句を言いたくなったサイトだが、指をさした方角を見て、言葉を失った。
それだけ、彼の目に見えたその光景は…『異常』かつ動揺を誘うのに十分すぎた。
(コロナモードになれないなんて…やっぱりエネルギーが十分じゃないのか…!)
エネルギー不足なのは知っていたが、まさかコロナモードにさえ変身できないとは。怪獣たちを助けるどころか、こっちが攻撃をかわすだけで精いっぱいだ。
『ムサシ、今の我々ではさすがにこれ以上は限界だ。彼を連れてここは退却するべきだろう』
『…悔しいけど、そうするしかありませんね』
これ以上エネルギーの消費とダメージの蓄積は、自分たちの身さえも危険でしかない。ここで自分たちが倒れたら、誰もカオスヘッダーや惑星ジュランの怪獣たちを連れ帰ることができない。
サイトたちを連れての撤退を決めた、その時だった。
「グウウウウウウウウああああああああ!!!」
「「「!!?」」」
カオスヘッダーの汚染からコスモスの浄化光線によって浄化されたはずのネクサスが、苦しみの雄叫びを上げた。誰の耳にも届くほどの迸る叫び声に、サイトたちも、コスモスも思わず彼に視線を傾けた。
(どういうことだ!?フルムーンレクトでは威力が足りなかったのか!?)
「シュウ…?」
動揺するコスモスと、思わず苦しむ彼の名を呟くサイト。嫌な予感がよぎった。
「黒崎君!カオスヘッダー!目を覚ますんだ!」
コスモスが、ムサシの声でネクサスと、彼の中に巣食おうとしているカオスヘッダーに呼びかける。だが、カオスヘッダーはかつての邪悪さを取り戻し光のウイルスとしての役目を続けていく。
このままではネクサスまでもカオス化してしまう。
かつて自分もカオスヘッダーに憑依され、コスモスに似た偽のウルトラマン『カオスウルトラマン』が誕生し、何度も自分達の前に立ち塞がった。場合によっては、今度はネクサスをベースにした新たなカオスウルトラマンが誕生するかもしれない。
「ウ、ウググウウウウウウ…!!」
ネクサスはもだえ苦しみ続けた。コスモスのフルムーンレクトを浴びても、一時的に落ち着いただけで、実際には効果をもたらしていなかったのだ。
フルムーンレクトで浄化されるはずなのに、寧ろ勢いを増していくカオスヘッダーの光が次第に強まり始める。
両手で頭を抱え、背中をエビぞりにしたり頭を垂れたりと、まるで悪霊に取り付かれたかのように異常。そこに人間たちの守護者=ヒーローとしての姿など皆無だった。
『サアドウシタ』
「ウウウウウアアアアア…」
頭の中に、嫌な声が流れ込み続ける。
『拒ムコトハナイ』
「や…やめ………」
頭の中で、誘い続ける声は止まる気配がない。その声を聴くたびに、発狂が長引いていく。
『我ト同化セシメヨ』
「黙…れ…!」
恐らくカオスヘッダーの声だろう。かつてコスモスと対立していた時と同じ状態にさせられ、ネクサスをも取り込もうとしていた。
『サスレバオ前ノ闇ヲ、我ラで…』
「黙れって…」
――――薄汚いウイルス風情が図に乗るな
「言ってるだろうがアアアアアア!!」
『ヌグゥ…!?』
もだえるのを止めたネクサスが、声を轟かせる。同時に、カオスヘッダーの光の勢いが止まった。
「…?」
サイトたちもコスモスも、さっきまでの発狂ぶりがうそのように落ち着いたネクサスを見て、呆然とする。
「なんだ?一体なに…が……!!?」
ネクサスの体から、カオスヘッダーを飲み込みながら、赤黒いオーラが漏れ出していた。
「俺は…アスカを助けなければならないんだ…それなのに…」
顔を上げて、ネクサスはカオス化した怪獣たちを睨み付ける。
「邪魔をするなああああああああああ!!!」
頭上にシュトロームソードを形成するネクサス。その剣はいつも以上に禍禍しいオーラを纏っていた。
すると、怪獣たちの様子にも変化が現れる。さっきまでコスモスに対して余裕を持っていたが、今はうってかわって尻込みしたかのように体が震えている。今のネクサスに、彼らは明確な恐怖を感じていた。
「ギギギィ…ピヤアアアア!」
恐怖に駆られるあまり、先に殺らねば殺られると思ったのだろう。怪獣たちは一斉にネクサスに向けて襲いかかった。
しかし…一瞬の出来事だった。
怪獣たちの首が、その一瞬で撥ね飛ばされていた。
「!」
コスモスは無意識のうちに手を伸ばしていた。しかし、首と胴が離れ落ちていった怪獣たちにその手は届くことはなかった。ジュランのではないとはいえ、助けようと思っていた怪獣たちが、同じウルトラマンの…とても光の戦士と思えない一撃で葬られた。コスモスは、ショックのあまり硬直した。
ネクサスはコスモスにもサイトたちにも、自分が手にかけた怪獣たちにも目をくれず、アルビオン大陸の方を見上げる。謎の結界が張られ、大陸を覆って侵入者を徹底的に寄せ付けようとしない。
忌々しい…!
ネクサスは結界をうっとおしく思い、胸のコアゲージを赤く、そして熱く禍々しい光を輝かせ、結界に向けて必殺光線を放った。
〈コア・インパルス!!〉
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
エナジーコアから発せられた光線はまっすぐ結界の方に向かい、ぶつかった。だが、ネクサスが浴びせ続けても、結界は消える気配がなかった。それでもネクサスは他への配慮を一切捨て去り、ただアスカが捕えられた大陸へ向かうために結界を破壊しようとしていた。
(アスカ…この結界を壊したらすぐに助けるから……それまでは………!!)
それまでは…!!
「ウオオオオオオオオオ!!!」
だが、それを見ていたサイトが、ただひたすらネクサスが光線を放ち続けていたのを見て、あることに気がついた。
ピコン、ピコン、ピコン……
彼のコアゲージが、点滅を始めていた。結界を破壊するために、本気になり過ぎてエネルギーを膨大に浪費していたのである。
「やめろシュウ!それ以上はあんたのエネルギーが…!!」
周囲の存在をも忘れ、思わず叫ぶサイトだが、ネクサスには届かず、彼はただひたすら結界を破壊するべく光線を放ち続ける。それだけじゃない。光線を撃ち続け、コアゲージの点滅が強まり始める内に、ネクサスの体から先ほどから発生した赤黒いオーラが濃さを増して彼を包み込み始めていた。
(このオーラは…いや、それよりも!!)
サイトだけでなく、コスモスもそれを見かねて彼を羽交い締めて光線を無理やり中断させた。
「グ!?」
「止せ!やめるんだ黒崎君!」
「離せ!あそこにはアスカが…アスカがいるんだ!俺のせいでみすみす捕まったんだ!!だから俺が!!」
「もしあのバリアを消し去っても、その中に閉じ込められたトリステインの人たちが死んでもいいのか!!?」
引きはがそうともがくネクサスに、コスモスは必死に呼びかける。
そう、捕まっているのはアスカだけじゃない。先ほど独断専行したトリステイン小型艦と、その中にいるトリステインの軍人たちもだ。
「知ったことか!!あいつらは自分の手柄のために仲間を切り捨てるような屑共だろうが!!そいつらに情けをかける意味などあるのか!!」
信じられない言葉を、ネクサスは…いや、シュウは吐き飛ばした。頭に血が昇っていたこともあるが、とても平和のために戦う戦士の言葉とは思えない彼の発言に、コスモスは一瞬絶句したものの、すぐに気を取り直して説得を続けた。
「確かに彼らは許されないことをした!!けど、だからって君まで同じことをしていいと思っているのか!?そんなことを…ティファニアたちやアスカって人が本当に望むのか!!」
「うるさい!!誰に許されまいがかまうものか!!俺が…俺が……」
「このバカ野郎が!!!」
突如ネクサスの体が、数発の砲撃によって被弾し、ネクサスの動きが止まる。
今の声と攻撃は、コスモスのではなかった。
ネクサスは視線を、砲撃が飛んできた方に移すと、その正体を知った。
サイトが、ホーク3号のビームを使ってネクサスを攻撃したのである。
「…ざけんじゃねぇよ…」
鋭い視線に突き刺さされ、ネクサスは動きを止めた。同時に彼の体から発せられた、赤黒いオーラも、そこで霧散し消えていった。
ネクサスは、ようやく落ち着きを取り戻した……訳ではなかった。
サイトのあえての攻撃で我に帰ったが、怒りの感情がアルビオン大陸の方から自分自身に移った。
さっきまでアスカを助けることに拘りすぎて、ネクサスは結界に閉じ込められたトリステイン小型艦のことを完全に無視していた。ちょうど射線上に、結界で阻まれていたとはいえあの小型艦があったのに、それを全く考えてなかった。
それでは、メンヌヴィルが言っていた通りではないか。
『貴様も俺と同じ…血に飢えて血で、赤く染まった存在だ』
「なんでだ…なんで…」
認めたくなかった。あんな男と同じだということに。
だが、認めたくないのに、認めざるを得ないと感じていた。
残酷な現実ばかりが、自分と言う存在がトリガーとなって引き起こされ続ける。
ネクサスは…シュウは感情を抑えられずに叫んだ。
「なんで俺は!!
いつも…いつもいつも!!
助けたいと思った奴に限って助けられないんだ!!!
そればかりか、また罪ばっかりが無駄に重なって行く!!」
「なぜなんだああああああああああああああ!!」
伸ばした手も、心も届かない。
悔しさと憎悪に満ちた声はアルビオンの空に轟き、サイトとコスモス…ムサシは心を痛めた。
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