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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第20話 正義と悪の大決戦!悪党達を舐めるんじゃねぇ!!

 イインチョウは戸惑っていた。
 一度は己が正義を貫くためにと悪の道を進んだ身ではあるが、かつての同胞達を前に非情になり切れずにいた。
 ジェネラルの周りに陣取るかつての同胞達。皆が共に全宇宙の平和と正義の為にと戦い続けた仲間たちばかりだった。

【皆、銃を降ろしてくれ。私はお前達とは戦いたくはないんだ!】
【裏切者め、正義の道から外れ悪の道へと進んだ外道などこの宇宙には不要だ】
【分からないのか? ジェネラルに正義などはない! 奴がやろうとしている事は私達が忌み嫌っていた悪そのものなんだぞ!】
【ジェネラルこそが正義。ジェネラルの言う事は全て正しい。それを否定している貴様こそが悪なのだ】

 まるで話にならなかった。皆がジェネラルの示す正義に心酔しきってしまっている。かつては自分もジェネラルの言葉や彼の示す正義に酔いしれはした。だが、真実を知ってしまった今となっては、もうジェネラルの言葉に正義など微塵も感じはしない。

【惜しかったよ、レオン。もう少しでお前もこちら側に入れる事が出来たと言うのに】
【どう言う事だ、ジェネラル!】
【簡単な事だ。此処に居る者たちは勿論、この支部内に居る全ての者達は皆私の意のままに動くようにした。皆が私の言葉を信じ、私の行いを正しいと判断してくれているのだよ】
【まさか、洗脳したのか?】
【フフフ、正義に酔いしれる奴ら程操るのは簡単だったよ。貴様だけは例外だったがな。まぁ、それもどうでも良い事だ。さぁ、宇宙の平和と正義の為に、悪を滅せよ!】

 目の前に突き付けられた真実。最早この支部にイインチョウの味方は一人もいなかった。
 心の中では自分の行いに賛同してくれる者が少なからず居るのではと期待していた自分が恥ずかしく思えた。
 既に、この支部はジェネラルの手が回り、全ての仲間達がジェネラルの私兵として生きる事を享受してしまっている。
 彼らの耳に自分の言葉は届く事はない。
 その事実が、イインチョウにはとても歯痒く、そして悔しく思えた。
 目の前の同胞達の指が銃のトリガーに掛けられ、一切の躊躇なくそれが引かれる。

【!!!!!!!】

 イインチョウは覚悟を決めた。仲間に手を掛ける位ならば、いっその仲間の手に掛かって死ぬ事が良いだろう。幾ら悪の道に進もうと決めたとは言え、かつての仲間に手を掛ける事など、イインチョウには出来なかった。

【グホッ!!】

 だが、銃弾がイインチョウに当たる事はなかった。撃鉄が引かれ、鉛玉が飛び出すよりも前に、かつての同胞達が四方八方へと吹き飛ばされてしまっていた。
 イインチョウが助け出したバンチョウの手によって。

「さっきからごちゃごちゃと喧しい連中だぜ!」
【何をする! 我らの正義を邪魔するとは、貴様はやはり悪だったか!】
「今更何言ってやがる! 俺は最初から悪党なんだよ。何しろ、俺は番長だからな」

 殴り倒した事に一切謝罪する気などなく、寧ろ自分が悪と呼ばれた事に誇りすら感じてしまっている。
 そんなバンチョウがイインチョウにはとても清々しく、また輝いて見えてしまっていた。

【ば、バンチョウ・・・】
「イインチョウ、良く見てな。今から俺が喧嘩の仕方ってのを教えてやるよ」

 かつての同胞相手に戦う事の出来ないイインチョウに代わりバンチョウが勇み出て来た。
 腕を鳴らし何時でも打って出る準備は整っている。

【喧嘩だと? 我らが行うは正義の為の戦い、いわば聖戦だ! 喧嘩等と言う低俗な行いと一緒にするな!】
「ゴチャゴチャ言ってないで掛かってきな。自分の言い分が正しいならこの俺を倒してから幾らでも進言すりゃ良い」
【おのれ、辺境の蛮族が!】

 吐き捨てるかの様に言い放ち、配下のジャスティス星人達が一斉に銃口をバンチョウへと向ける。
 が、それよりも早くバンチョウは地を蹴った。
 一瞬の内にジャスティス星人達の懐へと入り込み、手近な一人に頭突きを食らわせて来た。
 凄まじい轟音と共に頭突きを食らったジャスティス星人は目を回し、無防備な状態を曝してしまっている。
 そんなジャスティス星人を抱え込みバンチョウは他のジャスティス星人達を睨んだ。

【おのれ、仲間を盾にするとは卑怯な!】
「喧嘩に卑怯もらっきょうもねぇんだよ! それを言うなら大人数で仕掛けて来たてめぇらの方こそ卑怯だろうが!」
【構わん、味方ごとバンチョウを撃ち抜け!】

 ジェネラルの命令に一同は戸惑いを見せるも、それも一瞬だけだった。
 すぐさま一同は銃口を向け、その撃鉄を引いた。

「ちっ!!」

 迷いなく撃鉄を引いた様を見たバンチョウは人質を手放し放り捨てる。
 その直後、バンチョウ目掛けて降り注ぐ弾丸の雨あられ。

【馬鹿め、流石にこれだけの銃弾の雨を食らえば一溜りもあるまい!!】

 誰もが勝利を確信した。硝煙が晴れ、その中から大地に立つバンチョウの姿を見るまでは―――

「へっ、正義とか抜かす割にゃ俺みたいな悪党一人倒せない豆鉄砲みたいだな」
【あ、あれだけの銃撃を物ともしていないのか?】
「こんなの百万発食らったって効く訳ねぇだろうが! イインチョウの攻撃の方が一億倍効いたぞ!」

 その後はバンチョウの反撃がひたすら行われた。
 先ほどの銃撃のお返しと言わんばかりに撃鉄を引き絞った奴ら全員に鉄拳と鉄脚、そして頭突きを見舞ったのだ。
 忽ち殆どの面々がバンチョウの一撃を見舞い倒れ伏してしまった。

「どいつもこいつも歯応えのねぇ奴らだぜ。ちったぁイインチョウの爪の垢でも分けて貰えってんだ!」
【良い気になるなよバンチョウ星人!】

 部下を倒され怒り心頭のジェネラルが前に立つ。その手には怪しく光り輝く粒子状の剣が握られている。

「何だ? そのバチバチ光ってる妙な物は?」
【貴様を地獄の底へと導く正義の刃だ!】

 言うや否や横薙ぎの一閃が襲い掛かってきた。どうにか身を翻してそれをかわすも、肌には黒いかすかな焦げが付き、その粒子の刃の危険を露わにしていた。

【どうだ! 鋼鉄すらも切り裂くビームサーバーの威力は? 貴様如き両断する事も容易い事だ!】
「けっ、銃の次は剣ってか? てめぇら正義の味方は武器なしじゃまともに戦う事も出来ねぇのか?」
【問答無用! 最後に勝つのは正義なのだ!】

 怒号と共に頭上へと振り被り、バンチョウ目掛けて一直線にそれを振り下ろす。
 その刹那、バンチョウの後方から撃鉄の引かれる音がした。
 放たれた弾丸はバンチョウの頬を翳め、ジェネラルの持っていたビームサーバーを後方へと弾き飛ばした。

【お・・・おのれ、レオン!!】
「サンキュー、助かったぜイインチョウ」
【礼は良い、今の内に合体しろ!】
「おうっ!!」

 ジェネラルが弾かれたサーバーを拾いに行ってる今が好機。イインチョウの手により整備された番トラに再び火が灯る。

「やるぞ、バンチョウ!! 根性合体だ!」
【おうよぉ!!】

 バンチョウのゴーサインを受け、番トラとバンチョウが合体を果たす。
 背中には喧嘩最強の文字を抱き、傷の入った学帽を被り、長ランにボンタン、そして下駄と言った如何にも時代を間違えたような風貌をした姿が其処に現れた。
 これこそ、幾多の侵略者を返り討ちにしてきた喧嘩番長ことダイバンチョウの姿である。

【ダイバンチョウ、見参でいぃ!】
【ぬぅぅ、合体したと言うのか?】
【やいやいジェネラル! てめぇが幾ら正義を歌おうが、てめぇのやってるこたぁ所詮お山の大将レベルの正義でしかねぇ! 本当の正義を名乗りてぇんなら、宇宙全部を守って見せろ! それが出来ねぇのなら正義なんざ名乗るんじゃねぇ!】
【ほざけ! その為にこの私が貴様と言う悪を成敗するのだ!】

 先ほどは邪魔が入ったが、今度こそこの一撃で仕留める。しかし、ダイバンチョウは逃げなかった。
 相手が正義を背負って戦うのであれば、こちらは悪を背負って戦う。
 悪には悪の意地があるのだ。

【そんななまくらがこのダイバンチョウに効く訳ねぇだろうが!】

 咄嗟に、ダイバンチョウは履いていた下駄を脱ぎ、両手でそれを掴んだ。 
 そして、その下駄でジェネラルのビームサーバーを掴んで止めてしまったのだ。

【何ぃ! 鋼鉄すら切り裂くビームサーバーを下駄でぇ!】
【これぞ、真剣下駄取り・・・なんてな】

 洒落た一言を言い終え、すぐさま手首を切り返して粒子の刃をへし折る。
 驚愕するジェネラルの顔面にダイバンチョウの鉄拳が突き刺さる。

【おらおらぁ、必殺の下駄パンチを食らいやがれぇ!】
【も、もう少し名前は考えた方が良いんじゃないのか?】
【良いんだよ。こっちの方が覚えやすくていいだろ?】

 怯んだジェネラルに向かいダイバンチョウの下駄攻撃が炸裂する。
 下駄パンチに下駄張り手。下駄フックに下駄アッパーなど、下駄越しの鉄拳がジェネラルに次々と浴びせられていく。

【ぐふぅっ・・・】
【ちったぁ身に染みたか? 悪の強さってのをよ】
【調子に・・・乗るなよ・・・バンチョウ星人!】

 ジェネラルがそう言うと、床にあった取ってを掴み、それを思い切り引いた。
 その瞬間、部屋一体が何やら不穏な振動を起こし始めた。

【な、何だ?】
【不味い! 此処を切り離す気だ】
【切り離す? ってぇ、どうなるんだよ】
【俺達は揃って宇宙に放り出される事になるんだよ】
【はぁぁっ、宇宙ぅぅぅう!!】

 驚くダイバンチョウ。だが、そんな彼ら諸とも、巨大なスクラップ置き場は広大な宇宙へと切り捨てられてしまった。

【ダイバンチョウ・・・私の正義を侮辱した貴様を生かしては帰さんぞ。全軍に伝えよ! 「K」作戦を実行すると!】

 宇宙へと放り出されたダイバンチョウとイインチョウを見下ろしながら、ジェネラルが激を飛ばす。
 必勝の策と言われた「K」作戦を実行する為に―――





     ***




 辺り一面満天の星空が視界を支配し尽していた。
 手を伸ばせばその輝きがつかめるのではないかと言われる程のおびただしい数の光が辺りに散らばっている。

【これが・・・宇宙か・・・俺、生まれて初めて宇宙に来たぜ・・・】
【ま、俺達はもう見飽きた位だけどな】

 初めて見る宇宙の風景に、番はすっかり魅了されていた。だが、状況はダイバンチョウとイインチョウにとって最悪の方向へと傾いていた。

【不味いな・・・今の状況は非常に不味い】
【何が不味いんだよ。イインチョウ?】
【今の状況だ。まず、我々には地球に帰る手段がない】
【なにぃ!!】

 イインチョウの話によれば、今現在ダイバンチョウ達が居るのは太陽系の中で9番目の惑星とされている冥王星の付近なのだと言う。
 地球からは遥かに遠いこの場所に居る現状、身一つではどう考えても地球へたどり着くのは不可能に近かった。
 更に、別の問題も浮上しだした。
 宇宙警察本部から大勢のジャスティス星人達が姿を現してきたのだ。

【あいつら、凝りもせずまた来やがったか・・・へっ、上等だ! 纏めて叩き潰してやる!】

 勢い良く、ダイバンチョウの両眼が光り輝く。開始一番の一発目としてメンチビームを叩きこもうとした。
 だが、メンチビームを発射した途端、ダイバンチョウの体が後ろへと反転しだしたのだ。

【ななな、なんだぁこりゃぁぁぁ!!】
【何してるんだ! 逆噴射をしろ!】
【何だよそれ? 大体噴射するもんなんざダイバンチョウにはついてねぇぞ!】
【宇宙には重力がないんだ! 威力のある武器はその分反動もでかい。逆噴射しながら放たなければ回り続けるだけだぞ!】
【なんじゃそりゃぁぁ!】

 更に問題が出来た。
 それは、ダイバンチョウこと番自身に宇宙の知識がまるで無い事だったのだ。
 更に言えばダイバンチョウには噴射用のバーニアが装備されていない為に宇宙空間では身動き一つとる事が出来ない。無論武器の使用も出来る筈もなく、地面がない為踏ん張りも効かない為に防御もまともに行いないと言う三重苦に見舞われてしまっていた。
 其処へ更に付け込むかの様に悪い事は立て続けに起こった。
 大量に現れたジャスティス星人に加え、更に別の何かが大量に発進されてきたのだ。
 それは、番トラと同じ大型トレーラー型のそれだった。

【あれは、ジャスティスローダー!! それもあんなに・・・】
【何だよ、ジャスティスローダーってのは?】
【我ら宇宙警察の切り札だ・・・あれを出したと言う事は・・・まさか、フォームアップを行うつもりか?】
【フォームアップ?】

 意味不明な単語が連呼される。さっぱり意味が分からない番の目の前で、それは行われた。

【今こそ、我らの正義の神髄を見せる時ぞ! 全機、フォームアップを開始せよ!】
【【【了解、フォームアップ!!】】】

 ジェネラルの号令と共に、大勢のジャスティス星人達がジャスティスローダーと合体していく。
 その全長はダイバンチョウと相違ない程にまでなり、正に正義を象徴とする風貌を持った白い巨人が其処にはいた。

【【【巨大合体、キングジャスティス!!】】】

 その数、実に数百機―――
 正義の為に作られた巨大な力が今、番達の前に立ちふさがっていた。

【あいつら、人の十八番を勝手にやりやがって!】
【気を付けろ番。今の奴らのパワーはこの私すら遥かに凌駕している】
【畜生! こんな戦い難い場所じゃなけりゃ関係ねぇってのによぉ!】

 現状のダイバンチョウでは戦力としては全く頼りにならない。武器も使用できないし、攻撃も出来ない、防御もままならないとなっては最早木偶の坊同然だった。

【悪の化身、ダイバンチョウを今日此処で葬り去るのだ! ジャスティスバスター、一斉発射!】

 号令と共に、数百機のキングジャスティスから大量の砲撃が放たれる。

【不味い、ジャスティスショット!!】

 応戦するかの様にイインチョウが迎撃を行う。だが、合体してパワーアップしたキングジャスティスの大軍勢を前にイインチョウ1機の迎撃では到底間に合う筈もなく、砲撃の悉くが両者に襲い掛かってくる。

【んがぁっ!! 畜生、何て威力だ!!】
【駄目だ、やはりパワーでは奴らに勝てない!!】
【おい、お前にもあれは無いのかよ? その、ジャスティスローダーって奴?】
【私には配備されていないんだ。あれが配備されたのはジェネラルの息が掛かった者に限られている】
【くっそぉ、パワーがある癖にせこい連中だぜ!】

 苦言を吐いた所で、状況が最悪な事に変わりはない。相手はすさまじいパワーを有し、更にその数は数百機に及ぶ。対してこちらは宇宙空間と言う不慣れな環境での戦いを強いられた為に全く無防備な状態と言う、明るい材料が全く見当たらないとはこの事だった。

【ダイバンチョウは怯んだぞ、一気にトドメに掛かれ!】
【了解、ジャスティスソードで仕留めます!!】

 数百機のキングジャスティスが一斉に巨大な両刃の剣をその手に持つ。
 正義と言えば剣での斬撃、そう言わしめるかの如くな構図だった。

【近づいてくれんなら好都合だ! 武器持ちだろうが何だろうが接近戦なら負ける訳ねぇぜ!】
【援護する! 油断するなよ!】

 一斉に襲い掛かってくるキングジャスティス軍団にダイバンチョウは迎え撃つ態勢を取る。イインチョウもそれを助けるかの様に陣取る。

【覚悟しろ、悪の手先共め!】
【来るなら来やがれ! 返り討ちにしてやらぁ!】

 両者が激しくぶつかり合う。ダイバンチョウの接近戦の破壊力は如何にキングジャスティスと言えどもまともにぶつかり合えば無事では済まないだろう。
 だが、それは此処が不慣れな宇宙空間でなければの話だった。
 不慣れな宇宙での戦いに加え、地面のない宇宙では腰の入った拳は出せず、自慢の接近戦のパワーも無いに等しい状態となってしまい、更には数百機にも及ぶキングジャスティスの連続斬撃の前に成す術もなく痛めつけられる現状が其処にあった。

【く・・・ちく・・・しょう・・・】
【む、無念・・・だ・・・】

 ダイバンチョウも、イインチョウも既に満身創痍の状態だった。それに対し、数百機も居るキングジャスティス軍団はほぼ無傷に近い。
 それもそうだ。ダイバンチョウはまともに攻撃を行える状態ではない上に、イインチョウの攻撃ではキングジャスティスの装甲に傷をつける事自体困難であった。
 これが、ジェネラルの言う圧倒的正義の力なのかも知れない。

【終わりだ。やはり正義は必ず勝つのだ!】
【バンチョウ星人、そして地球星人よ。正義の名の下にこの地で果てるが良い!】

 今度こそトドメを刺さんとばかりに迫りくるキングジャスティスの群れ。
 それに対抗する術は、もう二人には残されていなかった。

【こんな所で・・・こんな所でくたばって溜まるか! お袋を・・・弟を残して・・・俺はまだ死ねねぇんだ!】
【それは・・・私とて同じだ・・・私自身の目指す正義の為にも・・・偽りの正義に負ける訳には・・・だが、もう我々には打つ手が―――】

 体は満身創痍でも心はまだ諦めてはいない両者。だが、その思いとは対照的にあの大軍勢に対抗する手段がないのでは、ただ倒されるのを待つだけでしかない。

(どうしたんだ、番? こんな事で諦めるなんて、君らしくないじゃないか?)
【声・・・今の声は!!】
【守・・・だが、まだ守はまだ意識が戻ってない筈】

 自身の内部へ格納した守の声が番とイインチョウの脳裏に響き渡ってくる。
 その時だった。イインチョウとその内部に格納されていた守の意識が混ざり会い、一体化しだしたのだ。

【これは! 私の意識と守の意識が混ざり会い、一つになっていく】
【イインチョウ。君なら知っている筈だ。僕達にもあれが残ってる筈だよ】
【馬鹿な、ジャスティスローダーは既に全機配備された筈。余った機体は残ってる筈が・・・そうか!】
【そう、残ってるんだよ。試作型の『0』号機がね】
【何だ? まだ残てんのかよ。その・・・なんたらローダーって奴】

 僅かだが、この状況を好転させる方法があるのならそれに掛けるしかない。今は藁に縋りたくもなる思いなのだが。

【だが、0号機は今まで誰にも扱う事が出来なかったそれを、私が扱う事が出来るのだろうか?】
【大丈夫さ。僕も居るんだ、自信を持とう。僕達なら出来る!】
【守・・・分かった、私は信じる。君と私自身を!】

 覚悟を決めたイインチョウの目に闘志が宿った。その熱き闘志はイインチョウの体を通してダイバンチョウにまでも伝わってくる程の熱量を持っていた。

【頼む、0号機よ。私と、守の魂に応えてくれ。来おぉぉい、ジャスティスローダー!!】

 


     ***




 本部内にて、ジェネラルは一方的な戦いを観戦していた。大軍勢を誇るキングジャスティスの群れ。その群れの前にダイバンチョウも裏切者のイインチョウも成す術なく痛めつけられている。

「戦力差は歴然です。我らの勝利は揺るぎない筈です」
「当然だ。我らは正義なのだ。負ける事は許されない。今此処で、悪の権化たるバンチョウ星人、並びに地球星人と裏切者の処断を行うのだ!」

 誰もがこの揺るぎない勝利を確信していた。戦力差は歴然、しかも相手は虫の息とまで来れば余程の者でなければ勝利を疑わないであろう。
 だが、予想外な事は何時いかなる時でも起こり得る。それが予想外なのだから―――

「ジェ、ジェネラル! 緊急事態です!!」
「何だ?」
「だ、第0格納庫が内側から破壊されました!」
「何!! あの中には確か―――」

 その報せを受け、本部内ではざわめきが起こった。
 
 第0格納庫―――
 
 宇宙警察本部内に置いてその場所は近づく者無き場所となっていた。その為、一部の者の中にはその存在すら知らない者さえいた。
 その第0格納庫の中にあったのは一台のトレーラーだった。

 ジャスティスローダー0号機―――

 宇宙警察の主戦力でもあるキングジャスティス。その合体用特殊兵装でもあるジャスティスローダーのプロトタイプであり、現状この宇宙警察本部内でただ一つ残っていた存在であった。

「誰だ、一体誰が0号機を動かしていると言うんだ?」
「お、恐らくですが・・・」

 一同の視線がイインチョウへと集まっていく。殆どのジャスティス星人は皆フォームアップを済ませている。
 唯一済ませていないのと言えばイインチョウしかいない。

「馬鹿な、0号機は今まで数多居たジャスティス星人のフォームアップを悉く跳ね除けて来たと言うのに・・・何故だ、何故あんな裏切者などに動かせる!我らこそ正義ではないのか!?」

 ジェネラルが吠える。己の信じる正義を疑わないが如く。だが、幾ら吠えようとも、ジェネラルの正義は0号機には届かなかった。0号機は、車線上に居たキングジャスティスを跳ね飛ばしながら、一心不乱なまま突っ切って行った。
 自身が主と定めた者の元へと―――




     ***




 イインチョウと守の声を聞き、宇宙警察本部から真っすぐに0号機が向かって来るのが見えた。

【0号機が・・・私の声に答えてくれた・・・数多の勇者ですら0号機を動かす事叶わなかったと言うのに―――】
【数多の勇者がねぇ・・・んじゃ、お前がその勇者なんじゃねぇのか?】
【私が?】

 ダイバンチョウの言い分にイインチョウは大きく目を見開いた。

【だってそうだろ。あれを動かせるのがお前の言う勇者だって言うんなら、その勇者はお前なんじゃねぇのか?】
【何を言う。私など同胞を裏切った卑しき者。そんな私が誉れ高き勇者になどなれるだろうか?】
【少なくとも俺はお前を裏切者だなんて思いはしないぜ】
【番―――】
【お前は自分の正義を信じてこうして戦ったんだ。そんな奴を裏切り者だなんて抜かしやがる奴が居るんだったら、俺が叩きのめしてやる! だから、お前は胸を張って自分の正義を貫けよ。あんな曲がりくねった正義なんざにお前の正義は負けやしねぇんだ!】
【・・・・・・】

 番の言葉にイインチョウは胸を打たれる思いだった。同胞を裏切り、大悪党と称されたバンチョウ星人と地球星人を助け、今正に倒れようとしている自分が勇者だと、自分の正義が本物だと、そう言ってくれたのだ。
 
(僕もそう思うよ。君の正義は決して間違ってはいない)
【守―――】
(だから、今度は僕にも手伝わせてくれ。君の信じる正義を貫く為の戦いを―――)
【あぁ、共に戦おう。例え、私の歩む道が茨の道だとしても、私は歩み続ける! それこそが、私の信じた正義なのだから!】

 覚悟は決まった。
 もう迷いはしない。己が信じる正義を貫く為に、正義の名を汚さぬ為に、自分の正義を信じてくれた友と共に戦う事をイインチョウは固く決意した。

【0号機よ、私の行いを全宇宙の者達が悪と呼ぶのならそれで構わない。私の信じる正義を貫く為、幼き命の住まう青き星「地球」を守る為、お前の力を私に貸してくれ! フォームアップ!!】

 イインチョウの号令を受け、0号機が形を変える。大型トレーラー状態だったそれは瞬く間に巨大な人型へと姿を変える。
 其処へイインチョウが合わさり、巨人に命が吹き込まれた。

【正義合体、ウラバンチョウ、推参!!】

 イインチョウと0号機が合わさり、合体したその姿は正しく正義を体現する姿と言えた。
 その全長はおよそ50メートルはあるだろうその巨体にイインチョウと地球人、峰守。二人の正義が合わさった姿がそれだったのだ。

「ぜ、0号機が・・・レオンと合体した―――」
「どう言う事だ。正義は我らにあるんじゃなかったのか?」
「奴こそが、真の正義だと言うのか?」

 目の前で起こった信じられない出来事にキングジャスティス軍団は騒然となった。

【正義を信じる者が居るならば、この場を去れ! 私は己の正義の為に戦う。それを遮ると言うのであれば、同胞とて容赦はしない!】

 ウラバンチョウの激が飛び、一気にキングジャスティス軍団が浮足立つ。彼らも迷っていたのだ。己が胸に抱く正義と目の前にちらついている偽りの正義に―――

「何をしている! 奴こそ偽りの正義。我らの正義こそが真の正義だと言うのを思い知らせてやれ!」

 そんな彼らの迷いを断ち切るかの如く、ジェネラルが吠える。
 そうだ、ジェネラルこそが真の正義。ジェネラルを信じる事こそが正義なのだ。
 彼らは正義と言う言葉に酔い痴れる余り、真実から目を背けていた。どちらが正義でどちらが悪なのか。今の彼らにそれを判別する事は最早不可能であった。

(無駄だよイインチョウ。彼らは正義を見失っている。僕達の言葉は届かない)
【ならば仕方ない・・・この私の手でその間違った正義を打ち砕く! ジャスティスキャノン、セット!!】

 ウラバンチョウにのみ搭載されている武装。それは単騎でも惑星を破壊出来る程の超兵器であった。
 その兵器こそがジャスティスキャノンである。
 1発撃つ度にキングジャスティス10機分に相当するエネルギーを必要とする難点があるが、その威力は絶大であり、月クラスの星ならば跡形もなく吹き飛ばす事が出来る宇宙警察の技術力が込められた試作型決戦兵器であった。

【ほぉ、でっけぇ大砲だなぁ】
【ジャスティスキャノンはこの0号機にのみ搭載されている試作兵器だ。余りに威力が高すぎるのと発射の度に膨大なエネルギーを必要とする為に正式採用されなかった曰く付きの代物だがな】
【へっ、良いじゃねぇか。気に入ったぜ。曰く付きを扱うなんざぁ俺達にぴったりじゃねぇか!】
(番、君の力を貸してくれないか?)
【???】
(残念だけど、ウラバンチョウ1機だけじゃこれを発射する分のエネルギーは確保出来ないんだ。だから君とダイバンチョウのエネルギーを合わせれば―――)
【成程、俺達の残ったエネルギーを叩きつけるってこったな。乗ったぜ!】

 番は守の提案に承諾し、ジャスティスキャノンの砲塔を肩に担いだ。

【ダイバンチョウ。エネルギーバイパスを接続してくれ。その後にチャージを開始する】
【面倒だ、接続なんざこうすりゃ良いだろ!】

 そう言い、ダイバンチョウはフェイスマスクを開き、伸びて来たバイパスを口に咥え込んだ。

【そ、そうやって接続するのは初めて見たぞ】
【ふぁんふぁっふぇいいふぁふぉ。ふぉふぇふぇふぇふぇふふぃーふぁふぉふふぇふふぁふぁふぉぉ(何だって良いだろ。これでエネルギーが送れるからよぉ)】
【何言ってるのか分からんぞ。まぁ良い。チャージ開始!】

 ウラバンチョウとダイバンチョウのエネルギーがジャスティスキャノンへと集まっていく。砲塔に凄まじいまでのエネルギーが収束しだしていくのが見て取れた。

「何て奴らだ。あれを発射する為にはキングジャスティスが少なくとも10機は必要だと言うのに!」
「幾ら0号機でもたった2体であれを放てるのか?」
「攻撃だ、攻撃をしろ!」

 慌てだし、急いで攻撃を再開したが既に手遅れだった。二体のエネルギーは既にジャスティスキャノンへと集められ、後は撃鉄を引くだけになっていた。

【ジェネラル! これが私の信じる正義と―――】
【俺が貫く悪の力だ!】

 両者の瞳が激しく輝く、ウラバンチョウが信じる正義と、ダイバンチョウが貫く悪。本来交わる筈のない正義と悪が交わった時、その力は誰も止める事の出来ない凄まじい力となるのだった。

【行くぞ、正義と―――】
【悪の―――】
【【ダブル、コラボ、バスタァァァァ!!!】】

 撃鉄が引き絞られ、巨大な砲塔から放たれる正義と悪のエネルギーが混ざり合い放たれる一撃。
 その一撃の威力は凄まじいまでの一言であり、前方に居た殆どのキングジャスティス軍団を吹き飛ばしてしまった。
 更にその威力は留まる所を知らず、ついには宇宙警察本部すらも破壊する程の戦果を叩き出すに至ったのだ。
 だが、その威力故に反動も絶大な物となってしまったのは言うまでもなかった。

【んがががぁぁぁ!! ど、何処まで吹き飛ぶんだよ俺達はよぉぉ!】
【お、恐らくだが・・・これだけのエネルギーなら、地球まで行けるかも知れない・・・しっかりしがみついてろよダイバンチョウ!】
【言われるまでもねぇ。こんな所で置き去りになんざなる気はねぇってんだよ! 地球に帰って腹いっぱい銀シャリを食うって目的があるんだからよぉ!】
(そう言えば、僕もお腹空いたなぁ。早く地球に帰りたいよ)
【地球人と言うのは不便なのだな。だが、そんな不便さこそが生きていると言う証なのかもしれないな】

 ダブルコラボバスターを放った為に殆どのエネルギーを使い果たしてしまっていたダイバンチョウもウラバンチョウも、今はただ吹き飛ばされる進路が地球だと信じるしかなかった。確信こそなかったが、番も守も、バンチョウもイインチョウも、皆この進路が地球へ向かっているとそう信じていた。




     ***




「ひ、被害甚大・・・キングジャスティス軍団・・・全滅しました」

 虎の子であったキングジャスティス軍団は全滅し、本部までもが破壊された宇宙警察内に居た僅かな手勢がジェネラルの元へと集っていく。

「ジェネラル・・・最早、我々にはこの宇宙を守る力は残されていません」
「うろたえるな! まだ他にも宇宙を守る者は居るのだ! 宇宙警備隊に至急打電を送れ! 援軍をこちらに寄越すんだ!」

 ジェネラルの焦りは周りの者からも伝わってき来ていた。最早、かつての威厳は微塵も感じられなかった。

「駄目です、殆どの宇宙警備隊員は皆他の惑星での任務でこちらに迎える者は殆どおりません!」
「えぇい、肝心な時に仕えぬ奴らよ。エクスカイザーやファイバードはどうだ?」
「駄目です、彼らは今ガイスターズとドライアスの追跡中でこちらに援護として来る余裕がありません!」
「くっ、何たる事だ!」

 悔しさにジェネラルは拳を打ち付ける事しか出来なかった。戦力と呼べる物は最早残っておらず、また辺境の地と言う事もあり援軍の期待もなかった。

「これはこれは、また随分と派手にやられたものですなぁ」
「誰だ!!」

 そんなジェネラルを嘲笑うかの様に、まるで煙の如くそれは姿を現した。

「貴様、ゴクアク星王!!」
「ご機嫌よう、調子はどうかな? 最も、今の状態でそれを聞いても返答は一つしかないか」
「何の用だ? 今は貴様と話をしている暇などは―――」
「なぁに、そろそろお前さんとは手を切ろうと思ってな」
「な、何だと!?」

 唐突に言われたそれにジェネラルは仰天する。

「もう、今のあんたには力がない。そんなあんたと何時までも手を組んでても仕方がないんでねぇ。こちらもビジネスなのだよ。悪く思わないでくれたまえ」
「ま、待ってくれ! お前の兵力を私に貸し与えてくれ! そうすれば、今度こそ、今度こそ私の正義を知らしめて―――」
「ジェネラル! 貴方は一体何を考えているのですか?」

 ジェネラルの行いは生き残っていたジャスティス星人達の動揺を招いていた。
 正義を司る者が悪に媚びへつらう。そんな事あって良い筈がないのだ。

「我らは正義を重んじる者です。それが悪に頭を下げるなどと」
「黙れ! 最早正義を貫く為には選り好みなど出来ん。私の信じる正義の為ならば、私は悪にでも頭を下げるつもりだ!」
「はっはっはっ、世の中ってのは何が起こるか分からんものだなぁ。さっきまで肩で風を切っていた宇宙警察のボスが、今はこの俺の前に頭を下げるか・・・愉快愉快。実に気分が良いわぃ」

 平身低頭し、ひざまずくジェネラルに対し、ゴクアク星王は満足げに大笑いを浮かべていた。
 その光景は、他のジャスティス星人達の心を打ち砕くには十分過ぎる光景であった。

「良かろう、兵力を貸してやろう。ただし、この俺の命令には絶対服従して貰うぞ」
「・・・分かった・・・お前の言う通りにする」
「では最初の仕事だ。其処に居る生き残りのジャスティス星人ともを始末しろ。お前の手でな!」
「なっ!!」

 ゴクアク星王が命じた命令は余りにもな命令だった。自分の部下を自分の手で殺せと言うのだ。

「ま、待ってくれ! それは余りにも―――」
「言った筈だぞ。俺の命令には絶対服従だとな」
「――――――!!!」

 腹の底が煮えくり返る思いだった。だが、従うしかない。ジェネラルは、言われるがままに、ビームサーバーを手に取り、そして・・・同胞達を次々と切り捨てて行った。
 辺りには同胞達の断末魔の叫び。飛び散るオイル。そして、ジェネラルを恨む声が響き渡っていた。それを聞きながら、ゴクアク星王は大層ご満悦の様子だった。

(これで良い。この俺に逆らう奴や利用しようとする奴は許しはしない。次にこうなるのはお前達だぞ、憎き番長共め!)

 先ほどの邪悪な笑みとは打って変わって、地球を睨んだ時のゴクアク星王の表情は凍り付く程の憎しみに満ち溢れていた。
 それは、この先に待ち受ける番長たちの過酷な戦いと、ゴクアク組との最終決戦を匂わせるかの様な雰囲気すら漂ってきていたのだった。




     つづく 
 

 
後書き

「新しい味方も増えて気分は上場。後は地球に帰って美味い銀シャリ飯を腹一杯食うだけだぜ。ま、地球までは時間が掛かるみたいだし、久しぶりに昔の話でもしあうとするかな」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【友と語る、セピア色の懐かしき出会い話】

次回も、宜しくぅ! 
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